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学校ボーカロイド
 
   文:gatsutaka
 
(1)
 
 教室の中はざわついていた。
 朝から職員室に用事があって行った子の情報で、どうもうちのクラスに転校生が来るらしいという話でもちきりだった。最近はよその町に移るために転出していくのがほとんどで、転入してくるのは珍しかったのだ。
 
 始業のチャイムが鳴って朝のホームルームが始まるとき、メイコ先生に付いて一人の女の子が入ってきた。普通なら大騒ぎになるところだろうが、うちのクラスは担任のメイコ先生が厳しいのでみんな静かにしていた。
「起立」「礼」「お早うございます」「着席」
 僕の号令で朝の挨拶を行なう。
「はい。皆さんお早うございます。今日は新しいクラスメイトを紹介します。カガミネリンさんです」
 メイコ先生は黒板に「鏡音リン」と板書し、「鏡音さん、挨拶と自己紹介をして下さい」と言った。
「東京から来ました、鏡音リンです。学校は初めてです。よろしくお願いします」
 クラスのみんなが驚いた。六年生なのに学校が初めてってどういうことだろう。それに鏡音さんの話し方はどこか変だった。下を向いて小さな声でぼそぼそと喋るのでよく聞き取れないのだが、イントネーションが違うだけという感じでもなかった。鏡音さんの挨拶をメイコ先生が引き取った。
「はい。皆さん驚いたと思います。これから説明しますので、よく聞いて下さい。その前に鏡音さん、あそこの空いた席に座って下さい」
 メイコ先生は僕の隣の先月クラスメイトが転校していって空いたままになっている席を指差した。鏡音さんは少し俯き加減で歩いてきて席に着いた。そのまま前を向いて座っている。ランドセルを持ってきていないのも不思議だった。それから説明が始まった。
 
 メイコ先生の説明は衝撃的だった。僕達の学校は去年から県のパソコン教育強化指定校に選ばれている。パソコンルームだけでなく、各教室にも数台のパソコンが設置されていて、授業に活用されている。それはみんな知っていることだ。国語、算数、理科、社会といった科目の授業に使うだけでなく、パソコンの操作そのもの、ネットの使い方、検索の仕方といった内容の授業も行なわれている。今度はその一環として音楽の授業に使うソフトとしてボーカロイドが導入されることになったのだそうだ。
「ボーカロイドを知っている人いますか?」
 先生が質問すると、何人かが手を上げた。
「はい、山田さん」
「えーと」
「『えーと』はいりません」
「はい、えーと、歌を唄うソフトです」
「まあ、いいでしょう。パソコンに歌のデータを入力すると、その通りに歌を唄うソフトです。去年『初音ミク』という名前で発売されたものがあります。それが有名だから知っている人も多いと思います。今度同じソフトで新しいボーカロイドが作られました。学校で使うために特別に作られたものです」
 つまり、その新しいボーカロイドが僕達のクラスのパソコンにインストールされ、それを使って音楽の授業や、パソコン操作の授業が行なわれるということだ。でもそこまでの説明と、鏡音さんが学校は初めてということがどう結びつくのか分からなかった。メイコ先生の説明が続いた。
 
「その新しいボーカロイドの名前は『鏡音リン』と言います」
 クラス中が驚いて、みんなの視線が鏡音さんに集まった。鏡音さんはさっきと変わらす、静かに座っているだけだった。
「先生、どういうことですか?」
 一人が代表してみんなの疑問をメイコ先生にぶつけた。
「まだ説明は終わっていません。静かにして下さい」
 静かにしろと言われても、ざわめきは収まらなかった。
「静かに!」
 メイコ先生の小カミナリが落ちて、ようやく静かになった。
「ボーカロイドを開発した会社は、『鏡音リン』を作ると同時に、それと同じ機能を持ったアンドロイドを作りました。元々ボーカロイドという言葉は、唄うことを意味するボーカルという言葉と、アンドロイドという言葉を合成して作られたものです。つまり、本来の意味での唄うアンドロイドが作られたということです。そのアンドロイドは、唄うだけでなく、歩いたり走ったりする普通の動きができるようになっていて、その上で日本語を理解して話ができますし、普通の人間のように生活をすることができます」
「先生」
「はい、何ですか?
「あの、アンドロイドってどういう意味ですか?」
「分かりやすく言えば、人間と同じ形をしたロボットということです」
 
 それから起きた騒ぎをここに書くのは面倒というくらいの大騒ぎになった。メイコ先生の大カミナリが何度落ちても収まらなかった。それから随分経ってようやくみんなが落ち着いた頃、メイコ先生の説明が続いた。
 つまり、僕の横に座っている鏡音さんはボーカロイドで、アンドロイドで、ロボットということだ。鏡音さんはとてもロボットには見えなかった。普通の小学六年生程度の知識と、生活能力があるそうだ。但し、性格はまだはっきりとはしていない。性格というのは人間が生まれてから育っていく中で段々に出来上がってくるものだから、短い時間で簡単に作ることができないのだそうだ。但し、危険なことが起きないようにいくつもの仕組みが取り付けられている。異常事態が起きると緊急停止することもある。運動能力は小六の女の子並みだから、一般にロボットと聞いてイメージするような力はない。
 
「ボーカロイドを開発した会社が、学校にボーカロイドソフトを無償、つまり只で提供する代わりに、アンドロイドを普通の子供と同じように学校のクラスに入れるという条件を出しました。文部科学省がその条件を受け入れたので、鏡音さんがうちの学校のこのクラスに入ることになりました。鏡音さんはこれから皆さんと一緒にこのクラスで生活していきます。普通のクラスメイトとして友達になってあげて下さい。それから六年生全員にソフトとしての鏡音リンが配布されます。家にパソコンを持っている人はインストールして下さい。今日は一時間目の授業は中止して、これから校庭で全員に鏡音さんを紹介しますので、九時には全校朝礼と同じように整列して下さい。2時間目の音楽は音楽室ではなくこの教室で行います。それから、先週お知らせしたように、午後には皆さんのお父さんお母さんへの説明会がありますので、今日の授業は午前中だけです。では、鏡音さんは私に付いてきて下さい」
 
(2)
 
 鏡音さんをクラスに連れて行って紹介はしたものの、私はまだ納得できないでいた。今回のことははっきり言って子供達を材料にした実験である。アンドロイドの心の成長の実験であるし、それを取り巻く子供達の反応を見ることも実験の大きな要素の一つである。
 都会の学校ではなく、ここのような田舎の学校を選んだことについて、文科省の役人は色々理由を並べていたが、彼らの本音は都会の口うるさい保護者が多い学校ではなく、なんとなく受け入れてしまう田舎のほうが都合が良かっただけなのだろう。
 アンドロイドの開発、ましてやまだ完全とは言えないまでも心を持ったアンドロイドが完成したということは、世界的な大ニュースのはずだ。そんなことは素人の私にも分かる。でも新聞やテレビで報道された気配がない。ということは、まだ発表できない何かがあるのだろう。ボーカロイドソフトの無償化の引き換えとは言っているが、恐らくメーカーと文科省はグルだ。
 そうは言っても、校長から業務命令として受け入れを指示されれば拒否することはできない。校長にしても教育委員会やその上の文科省から命令されれば受け入れざるを得ない。こうなった以上、直接現場に携わる私が子供達を守るしかない。肉体的に傷つくことはあまり考えられないだろうが、心理的にはどうなのか。まだ始まったばかりだ。注意深く見守るしかあるまい。
 
 職員室の隣の空き教室には、メーカーと文科省の担当者が先月から常駐している。私は中に入ることができない。さっき鏡音さんを連れ帰ったとき、担当者が待ち構えていたような気配があった。もしかすると、教室、いや学校全体が監視されているのかもしれない。
 私がこの話を聞いたのは彼らがやってきた直後のことだ。そのときは、ソフトとしてのボーカロイドを授業で使うというだけの説明で、それからソフトの操作方法の習得が課せられた。それだけのことなのになぜ4人もの人が来ているのか理解できなかった。鏡音さんのことを聞かされたのは昨日だ。会ったのは今朝だ。「普通の子供と同じように接して下さい」と言われたが、考える暇を与えられなかったという印象だった。
 
 校庭での紹介は校長が行なった。低学年は意味が飲み込めていない様子だったが、ロボットという言葉には強く反応していた。
 パソコン教育強化指定校だけあって、この学校にはブログや自分のサイトを持っている子供が沢山いる。校長は「鏡音さんはロボットとしてではなく、普通のお友達としてこの学校に来ました。だから、ブログやホームページに『ロボットが来た』といった内容の書き込みは行なわないで下さい。そんなことをしたら鏡音さんが悲しみます」とも言った。これは体のいい緘口令だ。ネットの監視も行なっているのかもしれない。午後の保護者への説明会でも恐らく同じようなことを言うのだろう。
 
(3)
 
 メイコ先生と鏡音さんが出て行ったあと、教室は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「ロボットだって、すげえ」
「でも、ちょっと可愛い顔をしてたね」
「そうかあ、下向いてたからよく分かんなかったけど」
「レン、隣でどうだったんだよ」
「僕もまだよくわかんないよ」
 そのうちに九時が迫ってきて、みんなで校庭に出た。校長先生の説明のあと、教室に戻るとき、鏡音さんもみんなに付いてきて、一人で席に座った。
 みんな興味あるんだけど、どう接していいのか分からなくて遠巻きにしているという感じだった。僕は席が隣なので何か話をしなければならないと思い、話しかけてみることにした。
 
「鏡音さん、家はどこなの?」
 鏡音さんはフッと顔を上げ、僕の方を見て「学校」とだけ言った。
「学校? 学校に住んでいるの?」
「はい」
「学校のどこ?」
「職員室の隣」
「ああ、あの教室。一人で?」
「いいえ」
 返事はしてくれるのだが、なんとなく取り付く島がないという感じだった。でも僕の方を見たその顔は、誰かが言ってたように確かに可愛かった。これでニッコリ笑えば、多分クラスで一番可愛いだろう。
「他に誰かいるの?」
「大人が4人」
「大人が4人? あ、君を作った会社の人?」
「はい」
 そのときメイコ先生が教室に入ってきた。
「起立」「礼」「着席」
 鏡音さんも僕の号令に従った。
 
「今日の音楽はさっそくボーカロイドを使ってみます。パソコンには昨日のうちにもうインストールされています。では係の人、電源を入れてください」
 係の何人かが立ち上がって、教室の後ろに並べてあるパソコンの電源を入れた。
「パソコンが立ち上がるまでの間、鏡音さんに歌を唄ってもらいます。鏡音さんは沢山の歌を覚えています。では、鏡音さん前に出てください」
 鏡音さんは僕達が今音楽で習っている歌と、学校の校歌を唄った。その声は、喋っているときと比べ物にならないくらい綺麗だった。その歌を聞くことで、鏡音さんに対するみんなの印象は随分変わったようだった。唄い終わると、大きな拍手が起きた。でも鏡音さんは何でもないという感じで、また俯いて席に戻った。
 その後の授業は、パソコンでのボーカロイドの使い方の基本的なところの説明で終わった。次の国語と、その次の算数では鏡音さんは黙って座っているだけで、何もしなかった。休み時間もずっと座っていた。
 その休み時間に「教科書はどうしたの?」と聞いてみたら、鏡音さんは「全部覚えています」と答えた。
「え、全部。すごいね。あ、だからランドセルを持ってきていないんだ。でもノートはどうするの?」
「いりません」
 ふう、困ったなあ。可愛くて歌が上手いんだけど、これじゃあどうしたらいいのか分からない。クラスのみんなも同じだった。結局、今日鏡音さんと話をしたのは僕だけだった。
 
(4)
 
 午前中の授業が終わって子供達が下校したあと、鏡音さんを引き渡しに行ったときに、メーカーの担当者は上機嫌だった。「初日としてはまずまずです」と言っていたが、何がまずまずなのか。
 今日は給食がないので、家から持ってきたお弁当を食べているとき、そう言えば鏡音さんは食事をするのだろうかと気になった。食べ終わってから校長に聞いてみたら、「飲み食いはできるそうです。でもあの子にとって食事は意味がありません。動力は電気ですから」と言われた。ではトイレは、と聞こうと思ったが止めた。あまりいい想像はできそうにない。
 午後の保護者説明会には多くの父兄が集まった。元々は「本校でのパソコン教育に関する説明会」という触れ込みで案内が出されていた。それだけなら、平日の午後に来る人はあまりいなかっただろう。昨日になって電話連絡網で「重要な説明がありますので、できるだけ参加して下さい」とのお触れが回ったのだ。
 
 説明会で鏡音さんが紹介され、会場はどよめいた。
「…ということでありまして、子供達と一緒に生活することで、アンドロイドの心の成長を期待しているのであります。アンドロイドではありますが、あくまで普通の子供として受け入れます。ですから、皆さんも特別なこととは認識しないでおいて下さい。子供達にとっても、とてもよい刺激になるものと確信しております」
 
 校長の説明のあと、「安全」に関する質問が集中した。それには文科省の担当者が逐一答えた。「元々普通の子供並みの力しか発揮できないように作ってあるので、万が一故障しても子供に危害を加えることは有り得ない」という趣旨の回答を繰り返していた。
「子供でも本気になればかなりの力を出すことができる。故障して制御できなくなったとき、その力が子供に向かったらどうなるのか」との質問には、「制御が働いているかどうかは何重ものチェック機能で相互チェックをしています。異常が生じた場合は緊急停止しますので、ご心配ありません」と答えた。
 
「先ほど、そのアンドロイドには心があると仰いました。人間には心の病気があります。アンドロイドにそれは起きないのでしょうか?」
 文科省とメーカーの担当者に緊張が走った。この質問は想定していなかったようで、メーカーの担当者が回答した。
「はい、えー、心があると申しましたが、勿論それは人間の心とは違いまして、プログラムで制御されたシステムということであります。ですから、まあ例えば人間ですとストレスなどに対する心の防御機能が働いて病気になったりすることがありますが、アンドロイドの場合はそもそもそのストレスを感じることがありませんので、えー、人間と同じ意味での心の病気も有り得ないということになります。システムそのものが何らかの原因で異常を起こすことが100%ないとは申せませんが、先ほど申しましたように複数の相互チェック機能がありますので、即時にそれを検知して緊急停止するということであります」
 
「もう一つ。なぜ子供なのですか? それと、なぜ歌を唄う機能に特化したのですか?」
「はい、アンドロイドの用途としましては、危険な場所での作業ですとか、ま、将来的には介護の場面、各家庭に入り込んでの労働などを想定しております。特に介護の場面などになりますと、介護する相手との心の通い合いと申しますか、機械的にやってはいけない面が御座いますので、どうしても心を持ったアンドロイドが必要となります。ですが、この心を持たせるというのが非常に難しい、簡単に作ることはできません。ご質問のなぜ子供なのかという点でございますが、私どもと致しましてもいきなり最初から大人の姿をして大人の心を持ったアンドロイドを作ることは困難であろうと判断致しまして、先ずは子供のアンドロイドを作り、その心の成長を記録していくことで、今後大人のアンドロイドを作る際の参考にしたいと考えております。音楽の件でございますが、私どもは人間を作っているのではなく、あくまで人間をサポートするパートナーとしてのアンドロイドを作ろうとしているのでありますから、なんらかの特徴を与えなければならないと考えております。物作りですとか、そういったものです。それで子供となりますと、運動能力でしたら、それはロボットですからスポーツ万能にすることは可能であるにしてもそれは意味がないと。子供達に受け入れられる能力とは何だろうと考えた上で、歌を唄う能力を選択した訳でございます。以上の説明でよろしいでしょうか」
「はい、分かりました。結構です」
 
 担当者側に安堵の空気が流れた。
「すいませ~ん。もう一つ質問いいですか?」
「はい、どうぞ」
「えーと。心を持ったアンドロイドが出来たって話と、それを学校に入れるって話は、相当なニュースだと思うんですが、新聞でもテレビでも全く出てきませんよね。今日は取材も来てんのかと思ったらいないみたいだし、これ、どういうことですか? もしかして極秘プロジェクトとか」
「あ、いえ。そういうわけではございません。ございませんが、あの、これは最後にお話しようと考えておったのですが、アンドロイドの心の成長のために学校に入れるということはですね、できるだけ普通の環境で行ないたいと。つまりマスコミで報道しますと野次馬と言いますか、関係ない方が殺到する恐れがありまして、それで環境が変わるといいますか、子供達に悪い影響を与えてはかえってマイナスだと考えております。ですから、マスコミ各社にもご協力頂いて、ある程度の結果といいますか成果が出るまで報道、それから取材は自粛して頂きたいと、こうお願いしております。ですから、お集まりの皆さんも、この町以外ではあまりこの件についてお話なさらないで頂きたいとこう考えております。勿論それを話したから何か罰則があるとかそういうことではございませんが、一つ、ご協力頂きたいと、こう考えている次第です」
「それじゃ、それはいつまで続くんですか?」
「まずは半年、今の六年生が卒業するまでを最初の目処にしたいと考えております。その結果によっては、もう少し、14歳頃まで延長することも考えております」
「アンドロイドの身体は成長するんですか?」
「あ、いえ。勿論機械ですから、身体は成長しません。延長が決まりましたら、周りの子供達とのバランスがありますから、パーツを交換することで背を伸ばすなどの措置が必要になるかもしれませんが、今のところそこまでは考えておりません」
「分かりました」
 
「えー、では。他にご質問がございませんようでしたら、本日の説明会はこれで終わりにしたいと思います。最後にですが、このアンドロイド型ボーカロイド、鏡音リンさんの歌をお聞きいただきたいと思います」
 時計を見ながら校長が質問を打ち切った。それまでずっと椅子に座っていた鏡音さんが立ち上がり、舞台の中央に向かった。
 鏡音さんは文部省唱歌の「もみじ」を唄った。それは合成された声とはとても思えない美しい歌声だった。会場全体が聞きほれて、歌が終わったときには大きな拍手が起きた。鏡音さんはおじぎもせずにそのまま椅子に戻って座った。
「では、これで本日の説明会を終わります。みなさん今後ともご協力よろしくお願い致します。ありがとうございました」
 
(5)
 
 翌日、僕が登校したときには鏡音さんはもう席に座っていた。相変わらず俯き加減で、何を考えているのか分からないような態度だった。
「鏡音さん、おはよう」
 僕が挨拶すると鏡音さんは僕の方を向いて、「おはようございます」と挨拶を返してきた。あれ、少し話し方が違うかな、という印象があった。それを聞いて、後ろの席の山田が、「へえ、昨日より聞き取りやすいじゃん」と言った。それから周りの女の子も集まってきて、鏡音さんに話しかけるようになった。
「ねえ、学校に住んでるんですって?」
「はい、そうです」
「ご飯は食べるの?」
「いいえ。食べられますけど食べません」
「ふーん。お腹空かないんだ」
「はい。お腹空きません」
 やはりみんな興味があるので、話しかけるきっかけを待っていたようだ。僕は黙って聞いていたけど、少しずつ会話が成り立っている。
「ねえ、普段は何してるの?」
「普段って、ここにいる以外のときのことですか?」
「そうそう。遊んだりとかする?」
「いいえ、まだ遊んだことはありません。部屋に帰ったら担当者さん達が私を調べます」
「ああ、それじゃつまんないよね。昼休みには一緒に遊ぼう」
「はい、分かりました」
 顔は無表情だけど、鏡音さんはそう言ったとき頭を少しうなずくように動かした。そのときチャイムが鳴り、メイコ先生が入ってきた。
「起立」「礼」「お早うございます」「着席」
「はい、お早うございます。黒板の日付が昨日のままですよ。今日の日直さんは誰ですか?」
 しまった、今日の日直は僕だ。鏡音さんに気を取られて忘れていた。
「はい、僕です。すぐ変えます」
「急いで下さい。あ、それじゃあ席が隣の鏡音さんも日直ですね。加賀美さん、休み時間に日直の仕事を教えて上げて下さい」
 
 僕は黒板の日付と日直の名前を書き換えながら「はい」と返事をした。日直名欄に自分の名前と鏡音さんの名前を書く。それから連絡事項などがあって、授業が始まった。
 国語、算数のあと、3時間目は体育だった。鏡音さんは体操服を持っているのだろうかと思ったら、教室の後ろのランドセル置き場にちゃんと用意してあった。体育の授業は男女別、背の高い順に整列する。鏡音さんは女子の中でちょうど真ん中だった。
 体育委員が前に出て行なう準備体操もちゃんと周りに合わせてやっているようだった。ようだったと言うのは、僕の位置からはよく見えなかったからだ。
 今の時期の体育は、運動会に向けての練習をしている。特に6年生は組体操があるので、その練習をすることが多かった。鏡音さんはしばらく見学をしたあと、女子のほうに参加することになった。僕の見た印象では、上手くもなく、下手でもないという感じだった。
 4時間目の図工では、鏡音さんは何もしなかった。メイコ先生の説明によると、鏡音さんは音楽を専門とするボーカロイドだから、絵を描いたり工作をしたりするような創作はできないのだそうだ。音楽に関しても、歌を唄ったり、楽器を演奏したりすることはできるが、作曲することはできない。でも小学校で作曲を習うことはないから、見学になるのは図工だけということだ。他の教科はどれもずば抜けていた。知らないこと、分からないことは全くないという感じで、算数の計算間違いもなかった。
 
(6)
 
 私は週に一回、担当者と打ち合わせをする機会を与えられていた。教室での様子を報告し、逆に色々な質問をすることができる。
 鏡音さんがクラスに溶け込むのは、思ったよりも早かった。さすがに、どの子も興味があるので少しずつではあるが話しかけるようになり、それに対応することで鏡音さん自身も徐々に会話が進むようになっていた。
 まだ冗談を言い合ったり、ふざけたりするようなことはしていない。それは「創作」に近い作業であるから、不得手なのかもしれない。担当者によれば、「そういうことも心が成長するにつれてできるようになるはずです」とのことだった。
 人間と対立して喧嘩になったりすることはないのかと問うた。
「『対立』は両者の『欲求』が一致しないことで発生します。アンドロイドには自らの欲求はありません。唯一与えているのは自己保存に関する欲求だけです。ロボット三原則というのをご存知ですか?」
「一応知っています」
「そうですか。私どものアンドロイドにもそれは取り込んでいます。人間とロボットの関係は見た目では支配と服従ということになるのですが、ロボットが自分の欲求を押し殺して服従しているわけではありません。ただ、リンの場合は遊びの場面などでもっと楽しみたいという欲求が発生するような要素を持たせています。それがなければ他の子も楽しむことができないでしょうから」
 
 私にはもう一つ懸念があった。12歳ともなれば思春期の入り口で、お互いに異性を意識するようになってくる。女の子の中には初潮を迎える子もいる。表立ってはないが、「誰々が好き」とか「付き合ってる」とかいうようなことも起きてくる。鏡音さんの心の成長にそういう要素は含まれるのだろうか。
 これもまた担当者によれば、「恋愛とかそういったことは突き詰めれば生殖にたどりつく本能です。アンドロイドに生殖機能はありませんから、恋愛に関する衝動も起こりえません。ただ、歌の中には恋愛をテーマとしたものが多いので、理解はできるように作っているつもりです。情念とかそういうことを表現するまでになれるかどうかはまだ分かりません。いまのところ、ボーカロイドソフトに入力する音楽データのパラメーターなどであたかも気持ちを表現しているように唄わせることが精一杯です」とのことだった。
 恋愛を「理解する」ロボットか。無関係な場所で見ている分には面白い話かもしれないが、そのロボットを他の子供達と一緒に面倒見ている私の立場では、できれば避けて通りたいテーマである。
 
(7)
 
 鏡音さんは少しずつ明るくなってきた。喋り方も随分はっきりしてきて、普通に話しをしていて違和感がない。なにより。ときどき表情を見せるようになったのが大きかった。
 まだ微かなものだが、クラスの誰かが面白いことを言ったときに、笑っているのかなと思うような顔になることがある。休み時間には女子が取り囲むことが多いから、最近は僕が直接話す機会はあまりなかった。僕がちょっと気になっている羽津(はねつ)さんが鏡音さんと話しているのを見たときは、その話の中に入りたいななんて思ったりもしたけれどその勇気はなかった。
 一度だけ、「土日は何をしているの?」と聞いたことがある。鏡音さんは「土日は部屋で座っているだけです」と答えた。
「何もすることがないの?」
「はい。担当者さん達が私の身体をメンテしていますが、私はすることがありません」
「退屈しない?」
「退屈はわかりません」
 僕は休みの日に遊びに行っていいか聞いてみた。鏡音さんは「遊びは休み時間にしています」なんて言ってたけど、学校が休みの日にも遊ぶんだよと教えたら「いいかもしれない」と答えた。
 でもそれからしばらく、色々用事があったりして行く機会がなかった。
 
 運動会は盛り上がった。僕の学校は一学年二クラスしかないので、組別といった対抗戦はない。それでも個人競技やリレーなどもあるから、それなりに楽しむことができる。鏡音さんも他の子と同じように参加した。外見からはアンドロイドには見えないから、目立つということもなかった。100m短距離走は6人中2番だった。無表情で走っているのはちょっと不気味(こう言っちゃ悪いかな)だったけど、ゴールしたときホッとしたような表情を見せたような気がした。組体操は問題なくこなしたようだ。表現種目のフォークダンスでは手をつなぐ機会があった。練習のときは見ているだけだったので、参加しないのかなと思っていたから、入場門で列に並んでいるのを見たときは意外だった。初めて触れたその手の感触は、他の子と少し違っていた。柔らかさや温度はそれほど変わらない。強く握るわけではないから、骨がどうなっているなんて感触までは分からなかった。一番違うのは湿り気だろう。乾燥していてサラサラという感じだった。あれ、僕なぜここまでこだわるのかな?
 閉会式のあと、会場の片付けが済んでグラウンドで解散となった。家が同じ方向の同級生たちと帰るとき、一人で校舎に向かう鏡音さんの後姿が見えた。鏡音さんはこれから担当者さんたちのところに帰るのだろう。僕はあの部屋に何があるのかとても興味がある。でも、鏡音さんはなんだか少しかわいそうな気がした。
 
(8)
 
 運動会前の打ち合わせのとき、担当者は「リンの心の成長は順調です。むしろ期待以上の成果が出ています。人間に近い感情の萌芽が生まれてきているようです」と言っていた。
「ただ、休み時間など女子としか接する機会がないようですので、もう少し男子と接する機会ができないでしょうか」
「男子と女子で違うんですか?」
「大きな違いはないと思いますが、会話する際の話題ですとか、遊びの内容なども異なるでしょうから、新たな効果が出るのではと期待しています」
「普通の子供として受け入れているのですから、そこらへんを操作することは難しいと思いますが」
「先生のクラスの男女は仲がよくないのですか?」
「特別仲がいいってことはないでしょうけど、それこそ普通だと思います」
 
 私は、この実験に積極的に協力するつもりはなかった。確かに、教室で観察している限りにおいては、鏡音さんは女の子として作られているので、日常として接触するのも女子に限られているようだ。男子は興味はあるけれど、どう接したらいいかまだ測りかねているか、敢て接触するのを避けるかしているようだ。隣の席にしたクラス委員の加賀美(かがみ)君は、それなりに面倒を見ているようではある。そういうことを考えていたら、まるでそれを読んだように担当者が切り出した。
「ところで、先生のクラスの加賀美君ですが」
「はい、加賀美君がどうかしましたか?」
「ええ、この前ですが、リンに『休みの日に遊びに行っていいか』と話していましたので、他の男子よりはリンに興味を示してくれているのかと思いまして」
「そうでしたか。それ何か問題ありますか?」
「いえいえ。問題ではなくて、むしろこちらとしては好ましいことだと思っています」
「あの、くれぐれも言っておきますが、鏡音さんと接することで私のクラスの子が傷つくようなことは絶対にしないで下さい」
「それはもう、十分に注意をしています。一応これでも児童心理学を専攻していましたので」
「ああ、そうでしたね。でもなぜ児童心理学者さんがロボットメーカーに入社されたのですか?」
「リンのプロジェクトが始まるときに、前の社長に誘われましてね」
 
 最初に担当者に引き合わされたとき、四人それぞれの紹介を受けた。メーカーから派遣されている三人はそれぞれ、システム工学、ロボット工学、心理学のドクターだった。もう一人は文科省の技官である。そうそうたるメンバーでモニターとメンテをしている訳だ。
「私達はここの子供達と直接接触するのは避けていますが、向こうから来てくれるのを拒むつもりはありません。あの部屋の中も、もし望むなら可能な範囲で見せたいと思っています。大人数では困りますけど」
「そうですか。では加賀美君が来たときはよろしくお願いします」
 
(9)
 
 運動会は日曜日だったので、翌日の月曜は振り替えで休みになった。朝から強い雨が降ったけれど、朝食が終わる頃には一応止んだので、僕は一人で学校に行ってみた。
 校舎に鍵はかかっていなかった。職員室は無人のようだ。隣の鏡音さんがいる部屋の扉をノックすると、中から「どうぞ」と声がした。中には二人の担当者さんがいた。これまでちらっと見たときはスーツを着ていたような気がしたが、今日は二人ともリラックスした服装だった。入ってすぐのところにテーブルと椅子があり、そこに座らされた。
「やあ、いらっしゃい。加賀美君だよね。僕は海渡(かいと)と言います。よろしく」
 担当者さんのうちの一人が応対してくれた。大人から名刺を貰うのは初めてだった。「心理学博士」と書いてある。もう一人、空田(そらた)さんの名刺には「工学博士」と書いてあった。
「はい、加賀美です。あの、今日は」
「うん、分かってる。リンに会いに来てくれたんだろう。今ね、筐体の、あ、じゃなくて身体のメンテがまだ終わらないからもう少し待っててくれるかな」
 メンテは何をするのかと聞いたら、身体の汚れを拭いたり、中の動く部分の様子を見たりしているとのことだった。僕らが毎日お風呂に入っているのと同じらしい。でも動く部分のメンテは週に一回くらいだそうだ。
 海渡さんは後ろを振り向くと、「まだ終わりませんか?」と聞いた。奥から「昨日ちょっと動き過ぎましたからねえ、もう少しかかります。何だったら加賀美君に見せても構いませんよ」と声が聞こえてきた。
「見てもいいってさ。あ、でも肢体を外しているから直接見るとちょっとショックかもしれないな。身体にカバーかけてくるから待ってて」
「シタイって何ですか?」
「手と足のことだよ」
 
 それからカーテンで仕切られた部屋の奥に入っていった海渡さんは「どうぞ」と僕に声をかけた。
 僕がカーテンの奥に入ると、ベッドのような台に鏡音さんが横になっていた。身体にはシーツのようなカバーがかけてある。手と足に当る部分の膨らみがなくて不思議な感じがした。カバーから何本かのケーブルが見えていて、壁際のパソコンのような装置につながっていた。壁にはラック類がずらりと並んでいて、色々な装置が乗っていた。何に使うのか想像もできないような装置が多かった。中に、歯医者さんにあるような椅子があった。多分鏡音さんがここに座るのだろう。鏡音さんは顔をこちらに向け目を開けていた。僕を見ると、ニッコリと笑った。
「ほう、リンが笑った」
 そこにいたもう一人の担当者さんが驚いたような声を出した。
「ああ、そうですね。とうとう笑いましたね。あ、加賀美君。彼は山路(やまじ)さん。ロボット工学専門だよ。さっきの空田さんはシステム工学で専門が違うからね」
 海渡さんが山路さんを紹介してくれた。声をききつけて空田さんもやって来て、側にあるパソコンのモニターを覗き込んだ。でもそのときにはもう鏡音さんは笑っていなかった。
 海渡さんは僕を見ると、「加賀美君、リンが初めて笑ったよ。君が来てくれたおかげだ」と言った。鏡音さんはさっきと違う表情で海渡さんを見ていた。
「じゃあ、手足を付けるからもう一度向こうに行っててくれるかな」
 僕が元いた所に戻るとき、鏡音さんが僕のほうを見た。僕は少し手を振って、カーテンをくぐった。
 
 待っている間に、海渡さんと話をした。
「今日はすごい日だ。リンが初めて笑った」
「今までも教室で笑ったことがあるような気がしますけど」
「うん。そう見えたことがあるかもしれないけれど、モニターしているデータではまだ笑うってとこまでいっていなかったんだ。さっきの反応は明らかに笑ってたよね。これから空田さんがその分析で忙しくなるぞう」
 もう一人担当者さんが見えなかったのでどこにいるのか訊ねたら、川添(かわぞえ)さんという文科省の人で、今日は東京に出張してるそうだ。
「鏡音さんのデータって、ずっと調べているんですか」
「まあそうだね。僕達がここにいる目的はそれだから。でね、リンの頭脳ってのはじつはあの身体って言うか頭に入ってるんじゃなくて、この部屋にあるんだ。まだそこまで小型化できていないんでね。身体とは無線で通信してる。その無線は一応この町全体で通信できるような強さになってるから、今日はこれからリンを学校の外に連れ出して欲しいんだけど」
「いいんですか」
「ああ、ぜひ頼むよ。あまり遠くに行っては困るけど」
 そのときカーテンが開いて、鏡音さんが出てきた。僕の顔を見るとまたニッコリと笑った。僕は嬉しいような切ないような、何とも説明しようのない気分になった。
 
(10)
 
 運動会の次の週の打ち合わせで、担当者が「加賀美君来てくれましたよ」と言った。
「部屋の中を見せたら興味津々という感じでしたね。その後リンを外に連れ出してもらいました」
「どこに行ったんですか?」
「裏山のため池みたいです。あそこ見晴らしがいいようですね。でも土手を降りるとき加賀美君がすべって転んで、手を引いてもらっていたリンも巻き込まれて泥だらけで帰ってきました」
「そんなことがあったんですか」
「ええ、彼はいい子ですね。リンが転ばないようにってわざわざ手を引いてくれて、まあそれが仇になったんですけど、ここに連れて帰ってからもしきりに謝ってました。リンは痛みを感じないからそんなに謝らなくてもいいって言ったんですけどね」
「それで鏡音さんは?」
「あ、そうそう。加賀美君が来たときにですね、リンが笑ったんですよ。これはすごいことです。今そのときのデータの分析をやってます」
 
 私はそれが技術的にどうすごいのかに関しては興味ない。しかし、鏡音さんが笑ったということは、今後クラスの中で何か影響があるかもしれない。
「つまり、心の成長が進んだということですか?」
「そういうことになります。これまでも笑っているような表情は出ていたようですが、おかしいからとか嬉しいからとかいった湧いてくる感情の表現ではなく、状況を分析してここは笑うべきと判断してのものでした。今回のはそうではなくて、まず嬉しいという感情があってそれを表現したものと分析しています」
 
「では今後、悲しいとか悔しいとかいった感情も出てくるのでしょうか」
「それは何とも言えません。以前お話したかと思いますが、感情の元になるのは欲求です。リンには自己保存の欲求は入れ込んでいますが、それ以外は持たせていません。今回の嬉しいは加賀美君が来てくれたことに起因します。つまりリンに加賀美君に来て欲しいという欲求が生まれたということです。ただ、これが人間でいうところの快不快と同じ性質のものなのかどうかはまだ分析を進めなければ分かりません。もしそうなのだとしたら、加賀美君が来ないことによる不快、つまり悲しみや悔しさという感情に発展する可能性はあります」
「何だか最初のお話から変わってきていませんか? 欲求がないから喧嘩も起きないということではなかったですか?」
「いやまあ、あのときはリンの心がここまで来るとは考えていませんでしたので」
「前提が変わったということですね」
「そういうことです」
 
 最初から仕組まれていたような気もするが、今回はそれ以上追及しなかった。
 
(11)
 
 僕はその次の日曜にも学校に行った。今回は文科省の川添さんもいた。この人たちに休みはないのだろうか。
「みなさんはどこに泊まっているのですか?」
「ああ、この町の旅館を取ってはいるけど、滅多に行かないね。ここで寝てる」
「そうそう、風呂に入りたいときだけだよなあ。飯は交代で買いに行っているし」
「疲れないんですか?」
「仕事が楽しいからねえ」
 それから、部屋の中の設備を細かく説明してくれた。半分は分からなかったけど、とても面白そうに思えた。
 鏡音さんはあの椅子に座っていた。その椅子に座ることで、鏡音さんの身体の中にあるシステムのデータの収集を行なうのだそうだ。
「リンはこの前君が来てくれたことがとても嬉しかったみたいだよ。今日もずっと待ってた」
「待ってた?」
「うん。朝から『加賀美君はまだ来ませんか』って何度も言ってたから」
 そのとき鏡音さんが話し出した。
「私、退屈が分かった」
「ほう。どう分かった?」
「ここで、担当者さん達だけといるのが退屈」
「まいったなあ」
 海渡さんは頭を掻いた。でもその顔は笑っていなかった。
 
「今日はどうする?」
「はい、この前転んでみっともなかったのでまた裏山に行こうと思います。でもその前にボーカロイドの使い方を教わりたいんですけど」
「ああ、それは空田さんが専門だよ。完全に使いこなしているから」
 僕は空田さんのに話しかけた。
「あの、データの、調教って言うんですか、調整方法を教わりたいんですけど」
「へえ、そこまで行ってるのか。うん、いいよ」
「鏡音さんは同じデータを使ってもきれいに唄うのに、パソコンではなぜうまくいかないのですか?」
「ああ、リンはね、データを読み込んだら自分の中で歌にしてみて、それを元にして自然な声に聞こえるように調整してるんだよ。人間が自分の声を耳で聞いて調整しているのと同じなんだけどね。パソコンにはそんなことできないから、入れたデータのまましか唄えないってことだ。どれ、何かデータ持ってきた?」
「はい、これです」
 
 僕はメモリースティックを取り出した。空田さんはそれをパソコンに入れて、調整の仕方を色々教えてくれた。
「この部分はね、アタックをあまりかけないほうがいいな。それから、ここで言葉が切れてしまうから、えーっと、どうしようかな」
 僕が空田さんに教わっている間、鏡音さんは僕達の後ろをうろうろ歩き回っていた。30分もしないうちに僕をつついて、「ねえ、退屈」と言った。
「リン、もうちょっとだから待ってて。加賀美君、実は裏技があってね、このデータをリンに読み込ませたら、あっと言う間にきれいに調整したデータに変換して出してくれるんだよ。でも、まだ一家に一台アンドロイドってわけにはいかないから、当面は人手て調整するしかないんだけどね」
「うん。私、調整するよ」
「だから、それじゃ駄目だって。加賀美君が調整の仕方を覚えなきゃ」
「加賀美君のデータは全部私が調整してあげる」
「鏡音さん。もうすぐ終わるから待っててね」
「分かった」
 鏡音さんは椅子に戻って座った。それから間もなく、僕が持ってきたデータの調整が一通り終わった。パソコンで聞いてみると、最初のデータよりも遥かにいい仕上がりになっていた。
「それじゃこれ、リンに唄わせてみよう」
 空田さんはそう言うと、メモリースティックを鏡音さんの頭脳と言っていた装置に差し込んだ。
「リン、ちょっと唄ってみてくれ。ファイルはタイムスタンプが一番新しいやつだから」
「いいよ」
 鏡音さんが唄いだした。それはさっきパソコンに唄わせたものと比べ物にならないくらいきれいな歌だった。
「すごい。鏡音さんすごいよ」
「はい、お粗末様」
 
「空田さんすごいですね」
「リンはボーカロイドと言っても特別だからねえ。それからね、人間って声帯を震わせて声を出してるだろう。他にも舌の位置とか、口の形とか色々あるけど、元は声帯だよね。リンの場合は、それらしく口を動かしているけど、声は電子的に作っている音だから、基本的にはパソコンで出している音と同じなんだ。だから、必要ならリンは一人で何人ものパートを同時に唄えるんだよ」
「一人で合唱できるってことですか」
「あ、ちょっと違うな。何人かでやる合唱は一人ひとりの声を微妙に変えたりしないといけないからそれはできない。リンの声は一種類だからね。リン、ちょっとやってみて、花がいいかな」
 鏡音さんは滝廉太郎の「花」を二重唱で唄った。うっとりするようなハーモニーだった。
「一人で唄っているから広がりがでないけど、まあそれは贅沢ってもんだよね。で、今日も裏山に行くって?」
 空田さんはメモリースティクを抜き取って僕に返しながらそう言った。
「はい、今日は天気もいいし、町がよく見えると思いますから」
「いこいこ」
 鏡音さんが僕の手を引っ張った。
「じゃ、行って来ます。空田さん、どうもありがとうございました」
 
 土手の上からの見晴らしはとてもよかった。前回は曇りで霧雨っぽかったのであまり景色が見えなかったのだ。
「鏡音さん。あっちのほうに青い屋根の家が見える?」
「うん、見えるよ」
「あれが、僕んち」
「ボクンチ?」
「ああ、僕の家ってこと。こっちの空き地の隣が羽津さんち、あそこの大きな家が山田くんち」
「ふーん」
 僕らは池の周りを一周する競争をしてみた。僕が少し早くゴールした。僕ははあはあ息を切らしていたけど、鏡音さんは当然ながら疲れた様子を見せなかった。
「今ので全力なの?」
「うん。これ以上速くは走れない。走るのは面白いの?」
「うーん。まあ疲れるけど気持ちいいからね」
「それわかんない。でも加賀美君より速く走りたい」
「お、それって負けて悔しいってこと?」
「これが悔しいか。わかった」
 
 今回は転ばずに土手を降りることができた。ちゃんとした道もあるけど、随分遠回りになるから行きも帰りも土手を通るほうがはるかに早いのだ。地面が濡れてないから鏡音さんも大丈夫だろうと思って手を引かないで降りようとしたら、鏡音さんのほうから僕の手をつかんできた。どうなんだろう。これが普通のクラスメイトの女の子だったら、例えば羽津さんだったら、恥ずかしくて手をつないで歩くことなんてできそうにない。
 
(12)
 
 鏡音さんは今週とても明るかった。授業中も休み時間も、最初に来た頃とは別人のようによく喋り、よく笑った。クラスの子供達はその変化を歓迎してるようだ。体育の時間に走っているのを見たら、以前より少し速くなっていた。
「先生。私、学校が楽しい」
 これは火曜日のセリフだ。今日の授業が終わったときは「みんな、また来週ねえ」と帰っていく他の子供達を見送っていた。
 加賀美君はあの部屋に行っていることを誰にも話していないようだ。プリントを集めて職員室に持ってきてくれたときに、「この前の日曜にも行ったの?」と聞くと、なぜ知っているのだろうという顔をしながらも「はい、ボーカロイドデータの調整の仕方を教わりました」と答えた。
 週末の打ち合わせのとき、担当者達の表情は意外だった。鏡音さんの心の成長を喜んでいるのかと思っていたら、どうもそうではないらしい。
「今週鏡音さんはとても明るかったです。何かあったのですか?」
「実はそのことでちょっと。この前の週末日曜にまた加賀美君が来てくれました。ここでボーカロイドデータの調整方法を空田が説明してあげて、その後またリンと裏山に行ってくれました」
「それが何か」
「いえ、そのこと自体はいいのです。ただリンの反応がですね。まず、加賀美君が来るのを待ち望むようになりました。それで彼が来てくれたときに『担当者さん達とここにいるのは退屈』と言ったのです」
「あら」
「いえ、そう言われることもまあいいのです。『退屈』という概念がリンなりに分かったということでそれは喜ばしいことです」
「そうですか」
「裏山の池でですね、加賀美君と競争、いわゆるかけっこをしたらしいのです。それでリンが負けて、こんどは『悔しい』ということが分かったと。帰ってきてから、運動のリミッターを緩めてくれって言いましてね、今週のリンは走るの少し速くなっていませんでしたか?」
「確かに、体育の時間に走っているのを見て、以前より速くなったのは感じました」
「リンは元々小六のトップレベルの運動能力は発揮できるように作ってあるのですが、リミッター、ああ、つまり動きにブレーキをかけてましてね、平均よりちょっと上程度でしか動けないように設定してあったのです。リンがどうしてもというので、そのブレーキを少し緩めてやりました」
「あの程度でしたら問題ないんじゃないですか」
「ええ、一応私達の裁量の範囲内でもありますから。問題はうちの会社の上層部、それと文科省の方なんです」
「どういうことですか」
「今、文科省の川添さんが東京に報告に行っています。で、報告会議での上の反応がですね、リンの成長が早すぎると」
 つまり、メーカー上層部と文科省は鏡音さんの心の成長が想定以上に早すぎるので危惧を持っているというのだ。
「来週私達も報告に呼ばれています。その報告を受けて何らかの決定が出るかもしれません。つまり、現在のやり方を方向転換するとか、一時停止するとかですね」
「一時停止ってどういうことですか。鏡音さんがいなくなるということですか?」
「いや、まだ具体的に決まったわけではありませんので」
「あの、そういったことまで私に伝えて大丈夫なんですか?」
「ちょっと出しすぎかなとも思います。でも、私達、特にメーカーの三人はリンを娘のように思っているんです。何とかリンをこのままここで成長させてやりたいと。それには先生のご協力が欠かせないんです」
「つまり、文科省あたりから何かご下問があったら、いい方向の回答をして欲しいと」
「いえ、ああ、まあそういうことです。現時点でそこまで行くことはないと思いますが」
「技術的なことは分かりませんが、鏡音さんはクラスに溶け込んでいます。こんなに早い中途半端な段階で鏡音さんがいなくなってしまうのは他の子供達にとってもいいことではないと思います。もしなにか聞かれたらそう答えることにします」
「ありがとうございます」
 私も鏡音さんを可愛いと思い始めていた。クラスの中でトラブルはないし、子供達にもいい影響を与えているように思う。それにずっと打ち合わせをしてきて、この担当者さん達の姿勢も好ましいものと感じてきていた。
 
(13)
 
 僕は鏡音さんと約束していたので今度は土曜日に学校に行った。部屋に入ると、驚いたことにメイコ先生がいた。
「加賀美君と鏡音さんがどうやって遊んでいるのか見てみたいと思ってね」
「えー。普通ですよ」
「先週はかけっこしたんでしょう」
 鏡音さんが話しに割り込んできた。
「うん。私が負けたんだ。今日は勝つよ」
 そこに山路さんがやってきた。
「加賀美君ね、リンの運動能力をちょっと上げといたから、今日はいい勝負になると思うよ」
「ええー。それじゃ全力で走らなきゃ」
「そうそう。人間代表として頑張ってね」
 裏山にはメイコ先生だけでなく、三人の担当者さんもやってきた。池の周りの競争は四人の大人の応援もあって賑やかになった。最初は僅差で僕が勝った。
「もう一回」
 鏡音さんがそう言うので、もう一回走ることになった。今度は山路さんも一緒に走ることになった。
 今度は鏡音さんが勝った。ちょっと遅れて僕。山路さんはだいぶ遅れた。
「いやあきつい。運動不足だ」
「山路さんが私に負けちゃだめじゃない」
「こら、そんなこと言うとまたリミッターを強くするぞ」
 山路さんが鏡音さんを捕まえようと手を広げて追いかけた。鏡音さんは「いやあ」と言いながら逃げ回っていた。僕達はそれを見て大笑いした。
 部屋に戻ったら、海渡さんが「月曜から僕達、ちょっと東京に行かなきゃならないんだ。だから、月曜の夜はリンをメイコ先生の家に泊めてもらうからね」と言った。
「へえ、そうなんですか」
「うん。まあこの部屋に一人でいさせてもいいんだけど、『退屈』ってうるさいもんだから」
「どうする? 加賀美君遊びに来る?」
「え、先生、いいんですか?」
「うん。鏡音さんはご飯食べないから、張り合いがないのよ。加賀美君が来るって言うならおうちに電話しとくよ」
「はい、行きます」
「一度家に帰ってからね」
 
 僕は月曜日の六時半に先生のアパートに行った。お母さんから手土産に果物を持たされていた。先生は夕食の準備中だった。鏡音さんはテレビを見ていた。
「鏡音さんテレビ面白い?」
「うん。面白いよ」
「ニュース見て分かるの?」
「ううん。でも面白い」
 そのときメイコ先生が「出来たあ。運んでくれる?」と言った。
 夕食はハンバーグだった。ちゃんと三人分作ってあったけど、鏡音さんは食べなかった。
「だって、私のお腹の中で腐ったらよくないって山路さんに言われたんだもん。加賀美君、私の分も食べて」
 ハンバーグは美味しかった。鏡音さんの分は先生と分けて食べた。食べ終わって、洗い物の手伝いをして、それが終わってから鏡音さんの歌を聞いた。僕とメイコ先生も一緒に歌ったけれど、とてもかなわない。でも楽しかった。
 九時になって先生が僕の家に電話してくれて、迎えに来たお母さんの車で帰った。
 
(14)
 
 加賀美君が帰ったあと、鏡音さんと少し話をした。
「先生、私、加賀美君のこと好きなのかな」
「どうしてそう思うの?」
「いつも加賀美君が帰っちゃうととても寂しい。歌の歌詞によくそういうのがあるよね」
「そうだね。クラスの女の子達とそういう話はする?」
「ううん。私、加賀美君が好きなのかなって思うようになったのは最近のことだし、女の子達と話しててもそんな話題になったことないから」
「みんなね、恥ずかしいんだよ」
「恥ずかしい?」
「うん。だって自分が誰かを好きだとして、相手がそうじゃなかったら恥ずかしいでしょう」
「でも、それって聞いてみないと分からないよね。相手も好きだったら恥ずかしくないでしょう」
「そう簡単にはいかないよ。男の子なんて照れ屋さんだから、好きと思ってもその通り言うとは限らないしね」
「テレヤサン?」
「恥ずかしがりってこと。好きでもそれを言うことが恥ずかしいの」
「ふーん。人間って難しいね」
 ちょっと前の私だったら、自分はロボット相手に何の話をしているのかと思っただろう。でも今の鏡音さんは普通の女の子そのものだ。それにしてもこの告白は予想外だった。
「加賀美君も恥ずかしがると思うから、鏡音さんが好きっていうのはまだしばらく言わないほうがいいかもね。他の人にもね」
「加賀美君はどうかなあ」
「それは先生にも分からない。でも嫌いじゃないと思うよ。毎週来てくれるんでしょう。今日もここに来てくれたし」
「うん。そうだね」
「それじゃ、ちょっと早いけど先生もう寝るから。鏡音さんどうする?」
「私は寝なくてもいいから。でも先生の隣で横になっていい?」
「ええ、いいわよ」
 
 布団に横になってさっきの話を考えていた。ついつい鏡音さんの話に乗ってしまったが、これは単純な問題ではない。「恋を理解する」ロボットが「恋する」ロボットになってしまったらこれは大事だ。加賀美君の受け止め方もとても難しいだろう。あす海渡さんに相談してみよう。それに東京での報告の結果がどうなったかも気になる。
 
 翌日、海渡さん達は夕方遅くに学校に帰ってきた。
「ま、とりあえず今のまま継続することで上層部を説得してきました」
「それはよかったです」
「リンはご迷惑おかけしませんでしたか?」
「いえいえ。楽しかったですよ。加賀美君も来てくれましたし」
「そうですか」
「ただそのときにですね」
 私は海渡さんに鏡音さんの話をした。海渡さんは「うーん」という感じで考え込んでいた。
「いよいよそこまで来ましたか」
「ええ。これで鏡音さんが普通の人間だったら年齢からいってもどうこうなることではないんですけど、ロボットですからねえ。加賀美君にとってもどちらに転んでもいい結果にはならないと思いますので」
「そうですね。少し検討してみます」
「どうにかできるんですか?」
「これはできればやりやくないし、技術的にもかなり難しいことなのですが」
 海渡さんによると、鏡音さんの頭脳の中から最近発達してきた加賀美君への思いの部分を削除することを検討してみるということだった。
「できるんですか」
「かなり難しいです。他の要素も複雑にからみあっていますから、それだけ抽出してというのは不可能かもしれません。空田と相談してみます」
「削除した場合、鏡音さんの加賀美君への態度に変化はあるのですか?」
「それは当然変わります。でも加賀美君にとってもまだ今のうちのほうが影響が少ないと思います」
 ある意味、私が当初恐れていたことが現実になってきたということだ。ただ、鏡音さんも私の大事な受持ちの一人であるという点は揺るぎない事実である。鏡音さんが泊まるときに加賀美君を誘ったのは特に深い意味はなかった。仮にそれがなかったとしても鏡音さんの気持ちはもう加賀美君に傾いていたのだろうし、それを早く把握できたということはかえってよかったのかもしれない。
 
(15)
 
 今週は鏡音さんの様子が変だった。僕を見てニッコリ笑ったかと思うと急に目を逸らしたりする。もともと学校があっている間はあまり話をしなかったし、別段気にするほどのことではないのだけど、それにしても妙だなと思った。
 僕以外、いつも話をしている女の子との間はこれまで通りのようだった。お喋りの内容が横で聞こえたが、月曜に先生の家に泊まったことも話していて、羽津さんが「ええー、いいなあ。私も行きたかった」なんて言っていた。僕が行ったことは黙っているようだった。
 木曜にちょっとした事件が起きた。算数の授業のときに指名された子が何人か前に出て黒板にそれぞれ計算式と答を書いた。書いた人達が席に戻って、先生が答の確認をしたところ、山田君の答が間違っていた。それはちょっと難しい問題だった。
「この問題できる人」
 何人かが手を挙げた。珍しく先生が鏡音さんを当てた。鏡音さんは前に出てすらすらと正解を書いた。
「はい、正解です」
 すると山田君が立ち上がった。真っ赤な顔をしていた。
「何だい。鏡音なんてロボットで頭はコンピューターなんだからできて当たり前だ!」
「山田君、この問題は確かにちょっと難しいけど、よく落ち着いて考えれば解ける問題ですよ」
 山田君は席に着いたが、納得していない様子だった。
 
 金曜日の休み時間に、僕は鏡音さんに「明日行っていい?」と聞いた。
「うん。来て来て、待ってるから。この前のときねえ…」
 僕が話しかけたのはたまたま僕らの周りに誰もいないときだったけれど、鏡音さんが話し続けたので次の授業の時間が近づいて、皆が席に戻ってきた。それでも鏡音さんは話続けて、結局チャイムが鳴るまで終わらなかった。
 
 土曜日は雨だった。降ったり止んだりで、僕は傘を持って出かけた。鏡音さんは「また裏山に行こう」と言ったけれど、今日は土手を登るのは止めたほうがいいと思ったので、「別のとこに行こうか」と提案した。それでも鏡音さんは「ううん。あそこがいい」と言い張ったので、土手ではなく道を歩いてため池まで行くことにした。
 部屋を出たとき雨は降っていなかった。鏡音さんは元々傘を持っていなかったので、僕だけ傘を持って行くことにした。裏山をぐるりと一周する道を辿るとため池に行くことができる。道の周囲は雑木林か耕作されていない畑ばかりで人影はなかった。ただ、その道は途中までは隣町に抜ける峠につながっていて、山を半周回ったところでY字型に分かれている。僕らはため池の方に向かう道を進んだ。
 
 ようやく着いたため池の周りの土はぬかるんでいて、とても走ることなどできそうになかった。結局僕達は霧に煙る景色を眺めただけで帰ることにした。
「ちょっとつまんなかったね」
「ううん、そんなことないよ。加賀美君と歩けるだけで楽しいもん」
 歩いているうちに雨が降り出した。山路さんから「リンは濡れても大丈夫だから」と聞かされていたけれど、いくらなんでも僕だけ傘を差して歩くことはできない。二人で一つの傘に入って歩くことにした。峠道との合流点を過ぎてしばらく行ったところで、後ろから車が走ってきた。僕達の横を通るときにその車が水をはね、車道側を歩いていた僕の足と靴にかかった。車はそれに気付かなかったようで、そのまま走り去っていった。
「ああ、濡れちゃった。靴の中びしゃびしゃだ。鏡音さん大丈夫だった?」
「うん。私全然かからなかった。私がそっちを歩いてたらよかったね」
「そういう訳にはいかないよ。車の通るほうは危ないからね。それにしてもひどい車だなあ」
「うふふ」
「どうしたの?」
「ううん。何でもない」
 
 僕はこの前とは別のボーカロイドデータの調整方法を空田さんに教わるつもりでいたけれど、足が濡れて気持ち悪かったので教わるのは次の機会にしようと思った。鏡音さんを学校に届けてからそのまま家に帰った。雨はもう止んでいた。
 
 月曜日、ちょっと寝坊した僕は、遅刻ぎりぎりで学校に着いた。教室の扉を開けようとしたときに、廊下の向こうからメイコ先生がやってくるのが見えた。
「セーフ」
 そう言いながら教室に入った僕は足が止まった。黒板に大きな相合傘の絵が描いてあり、その下には僕と鏡音さんの名前が書いてあった。ヒューヒューと囃し立てる声が上がる。山田君は立ち上がっていた。そしてすぐ、メイコ先生が教室に入ってきた。
 
(16)
 
 今週の鏡音さんはより明るく活発になっていた。昼休みにクラスメイトと校庭を走り回っている姿もあった。
 木曜の算数の時間は私の配慮不足だった。鏡音さんはどんな問題でも解いてしまうので、誰も手を挙げない場合だけ当てるようにしていたが、最近鏡音さんを当てる機会がなかったので、つい山田君の解けなかった問題を当ててしまったのだ。山田君の反応も予想外だった。鏡音さんが明るくなってクラスの中で普通の子として目立つようになってきたのが遠因かもしれない。山田君はクラスの一部でボス的な存在であるから、今後の彼の様子に注意する必要がある。
 加賀美君との関係は、クラスの中では特段目立つということはなさそうである。海渡さん達がどのような結論を出すかまだ分からないが、データ削除といった無茶なことではなく解決できないだろうか。
 
 金曜の打ち合わせのとき、海渡さんから結論を伝えられた。
「今週、ずっと議論してきました。技術的なあらゆる可能性を検討して、そして結論に至りました。リンの記憶の一部を削除します」
「やはりそれしかないのですか」
「はい。リンの心の成長が我々の想定よりも早すぎることで社や文科省の上層部に危惧を抱かれている現状では、そうせざるを得ません。今回の研究そのものが中止になってしまっては元も子もありませんから」
「それで、削除したとしてもまた繰り返すということはないのですか?」
「以前お話しましたが、リンには歌に情感を持たせるために恋愛を理解する機能を付けていました。これも学校にいる間は不要であると判断して一緒に削除します。今回のリンの気持ちはこの機能の発展として現れたと見ていますので、それを削除することで再発は有り得ないと思われます」
「そうですか。で、その作業はいつ行なうのですか?」
「日曜日に一日かけてやります。明日の土曜は加賀美君がまた来ることになってまして、できれば断りたいところなんですが、彼に対しても申し訳ないという思いがありますから、最後ということでもう一度会わせようと思っています」
「加賀美君に話はするのですか?」
「ええ、先にリンと出かけさせて、帰ってきたときに一応話しとこうと思います」
 
 土曜の午後に海渡さんから電話があった。
「リンが戻ったんですけど、加賀美君はここに寄らずに帰っちゃったみたいなんです。電話で話すにはちょっと重い事柄なので、月曜日に説明しようと思います。でですね。こうなったのが幸いという訳ではないのですが、データを削除したではなく、システムに不具合があって消えたということにしとこうと思います。彼の気持ちを考えれば、どちもよくないことではありますが、まだましかなと思いまして」
「騙すんですね」
「心苦しいのですが、私達の都合で記憶を消したと言うと、彼が大人への不信感を持ってしまうかもしれませんので」
「分かりました。それを了解することで、私もその片棒を担ぐことにします」
「ありがとうございます」
 日曜日の夜にまた海渡さんから電話があった。
「作業が終わりました」
「分かりました」
 
 月曜の朝、私は気が重かった。職員室から教室に向かっているとき、加賀美君が教室に駆け込んで行くのが見えた。教室が近づくと、何か賑やかな声が聞こえてきた。
 私は教室に入って驚いた。加賀美君が黒板の前で立ちすくんでいる。黒板には相合傘の落書きが書いてあった。私が教室に入ると同時に声は消えたが、どうやら加賀美君を囃し立てていたようだ。
「加賀美君、席に着きなさい」
 加賀美君が席に着き、私は持っていた教科書などを教卓に置いた。
「さて、黒板への落書きは禁止しているはずですが、これを書いたのは誰ですか?」
 誰も名乗りを上げなかった。
「誰もいないということはないでしょう。別のクラスの人がわざわざこれを書きに来たというのですか?」
「先生」
「はい、塩田さん」
「私は今日一番に教室に入りましたが、私が来たときにはもう書いてありました」
「そうですか。分かりました。であるとすれば、誰かが土日か今日の朝早くにここに来て書いたということですね。金曜の夕方に私がここに来たときはありませんでしたから。これはもう消すことにします。でも、字を見れば誰が書いたか先生には分かります。後でいいですから、書いた人は先生のところに来てください」
 最後の部分ははったりだった。ある程度は字で分かるが、チョークを横に使って字を大きくしたこの落書きは誰が書いたか分かりようがなかった。大方、男の子の誰かが書いたのだろうと思っていた。内容についてとがめる気はなかった。あの二人が対象というのは少し考え物だが、こういうことはよくあることだ。あくまでも、禁止されている黒板への落書きだけを問題にするつもりだった。私は落書きを消し始めた。そのとき、泣き声が聞こえてきた。
 
 振り向くと、羽津さんが泣いていた。「羽津さんどうしたの?」と聞くと、羽津さんは顔を机にうずめて泣き続けた。黒板を消し終えた私は羽津さんの側に行った。
「羽津さんどうしたの?」
「だって、私見たんです。加賀美君と鏡音さんが二人で一つの傘に入って歩いているのを」
 そういうと羽津さんは立ち上がり、教室を飛び出して行った。なるほど、そういうことか。私は羽津さんと仲のいい女子クラス委員の塩田さんに羽津さんを追うようお願いした。
「見つけたら図書室に連れてきて」
 それから、一時間目の授業に用意していた問題プリントを配って各自その問題を解くよう指示を出して教室を出た。
 あちこちに目をやりながら図書室に行ったら、ちょうど塩田さんが羽津さんを連れてきたところだった。
「塩田さんありがとう。教室に戻ってプリントをやっててね」
「はい」
 
 羽津さんを促して図書室に入り、誰もいないその部屋で向かい合わせで席に座ったあと、考え直して羽津さんの横の椅子に腰掛けた。
「落ち着いた?」
「いえ、あ、はい」
「いいのよ。気持ちが落ち着くまで待つから」
「はい、大丈夫です」
「あれはいつ書いたの?」
「土曜のお昼頃です。朝から親戚の家に行って、帰りに車から加賀美君達を見かけて、それで学校で車を降りて教室に行って書きました」
「ああ、なるほどね」
「私、加賀美君が学校に来たら消そうと思ってたんです。でも加賀美君来るのが遅かったし、山田君がみんなに消すなって言うし、それで消せなくて」
「運が悪かったってことか。先生が怒ったのは、落書きの内容じゃなくて、黒板に落書きするのを禁止しているのに書いたっていうことだからね」
「はい。すみませんでした」
「うん、もうしないでね。それで、内容のことだけど、どういう気持ちであれを書いたの?」
「あの」
 
 羽津さんはしばらく黙り込んだ。私は辛抱強く待つことにした。五分ほどして羽津さんが話し始めた。
「最近、加賀美君は鏡音さんとよく話をしているんです。最近と言っても金曜に見ただけですけど。でも鏡音さんの様子からそれは分かります」
「それって言うのは?」
「多分鏡音さんは加賀美君が好きなんです。そして、加賀美君も」
「でも鏡音さんはロボットだよ」
「それは分かってるんですけど、でも、今の鏡音さんは普通の子と変わらないし、頭はいいし、かわいいし、私…」
「あのね、一つ教えといてあげるけど、加賀美君は土日のどっちかに鏡音さんの所に行ってるの。それはね、鏡音さんに会いに行くというのもあるんだけど、あの部屋にいるメーカーの人と話をするのが目的みたいなの。あそこには色々な装置があって、興味ある子にはとても面白いんですって」
「そうだったんですか。でも鏡音さんと一緒に歩いてて」
「それはね、ほら、鏡音さんがこの学校に来た理由を思い出して。みんなには直接は言わなかったけど、保護者への説明会で言ってあるから聞いてるかな、鏡音さんの心を学校に入れることで成長させるのが目的なわけ。鏡音さんの心は段々成長してきたけれど、クラスでは割と女の子としか接してないでしょう。だからメーカーの担当者さん達が、できれば男の子とも話す機会が欲しいと考えて、部屋に来た加賀美君に頼んだわけよ」
「何を頼んだのですか?」
「鏡音さんと外でしばらく遊んで欲しいって。ほら、裏山のため池があるでしょう。あそこに行って景色を眺めたり、かけっこしたり、お話をしたりしているの。この前は先生も一緒に行ったんだよ。先週は雨だったから、いつも登っている土手が滑りやすいと思って、遠回りしたんじゃないかなあ」
「そういうことだったんですか」
 羽津さんはホッとしたような、自分のしたことが気恥ずかしいような複雑な表情を見せた。
 
「ここからは先生としてではなくて女の先輩として話をするね。言いたくなかったらいわなくてもいいけど、羽津さんは加賀美君のことが好きなの?」
「はい」
「いつ頃から?」
「ずーっと前から、でも私なんて」
「そうかあ。私も加賀美君がどう思っているのか分からないけれど、はっきり言えるのは、羽津さんはまだ諦める必要なんかないってこと」
「どうしてですか」
「詳しくは話せないけれど、少なくとも鏡音さんはあなたのライバルにはならないよ」
 話ながら私には迷いがあった。ごく普通の恋の鞘当であればここまで踏み込んだ話はしないだろう。しかし一方の当事者が鏡音さんであるし、その鏡音さんは既に記憶が削除されているのだ。クラスを落ち着かせるためにも、羽津さんをある意味安心させる必要があると思った。
「どうしてですか。鏡音さんがロボットだからですか」
「そういうこと。羽津さんは心を持ったロボットだけど、ロボットに人の好き嫌いがあっていいと思う? 好きならまだしも、嫌いがあったら人間の方が困るでしょう。だから、メーカーの担当者さん達と話してても、鏡音さんにそういう感情は起きないようにしてるって言ってたの。つまり、羽津さんが心配することはないんだよ」
 羽津さんの表情が明るくなった。
「あの、私、何だか恥ずかしいです」
「さて、そろそろ一時間目が終わるから教室に帰ろう」
「はい。ありがとうございました」
 
(17)
 
 羽津さんは一時間目の休み時間に教室に帰ってきた。恥ずかしそうにちょっと笑いながら、でも何もなかったかのように振舞っていた。
 一時間目のプリントはすぐに終わってしまったので、あとは自習のはずだけどみんな騒いでいるだけだった。さすがに席を立ってうろうろするのはいなかったが、今朝の落書きをもとにして僕と鏡音さんの周りで冷やかしの声が飛んだ。
 僕はそんな声は無視していた。でも鏡音さんの様子は変だった。僕を見ても笑いかけてこない。あまり表情のない顔で、冷やかしの声は勿論、僕のことが全く気にならないような態度で席に座っている。そしてときどき、顔をしかめた。
 僕は「鏡音さん、どうかしたの? 具合でも悪いの?」と聞いてみた。ロボットの具合が悪くなるなんてことはないと思ったが、そうとでも言わないと話すきっかけすらなかったのだ。
「いいえ。具合悪くありません」
「そう」
「でも、私、何かを思い出せない。何かを忘れている」
「そんなことあるの?」
「そんなことはないはずだけど忘れている」
「また、土曜日に遊びに行っていい?」
「土曜日。 何のことですか?」
「え? ほら、裏山に行ったよね。帰りに雨が降って」
「いいえ」
「その前は山路さんと競争したよね。忘れちゃったの?」
「忘れた?」
 そう言うと鏡音さんはまた顔をしかめた。鏡音さんどうしちゃったんだろう。午前中ずっとそんな感じだった。あの落書きが気に障ったのだろうか。僕は昼休みに海渡さんに会いに行った。
 
「海渡さん、鏡音さんの様子が変なんです。この前の土曜のことも忘れてるみたいで」
「ああ、ごめん。君にも言うつもりだったんだけど、その土曜の夜にね、リンのシステムに不具合が発生して、そのときにリンの記憶のいくつかが消えてしまったみたいなんだ」
「でもバックアップがあるんじゃないですか?」
「うーん。……。リンのバックアップはね、全体を戻すことしかできないだ。だから、それをやると何日分かの記憶が丸ごとなくなっちゃうんだ。だから」
「じゃあ、消えた記憶は戻らないんですか?」
「うん。仕方がないんだ」
「それじゃあ鏡音さんがかわいそうです。この前競争したとき二回目で鏡音さんが勝って、それから山路さんとおっかけっこして楽しかったじゃないですか。おとといも雨の中を一緒に歩いて、車に水を跳ねられたりして」
「君にも悪いと思っている。でもどうしようもないんだ。それとね、これから週末は不具合の発生原因を探るために色々な調査をやらないといけないから、しばらくは遊びに来てくれても相手することができないんだ。ごめんね」
 そう言われると僕は何も言い返すことができなかった。
 
 昼休み時間はまだ残っていたが僕は外に出る気がせず、そのまま教室に帰った。教室の窓から校庭を見ると、鏡音さんがクラスの女子と遊んでいた。
「加賀美君」
 急に声をかけられ、振り向くと羽津さんがいた。気付かなかったけれど、一人だけ教室に残っていたようだ。
「加賀美君。あの落書きごめんなさい。私すぐに消そうと思ってたんだけど、消せなくて」
「ううん、いいよ。鏡音さんも気にしてないみたいだし。ときどきあるよね、急に噂になって、でもしばらくしたらみんな忘れちゃうから」
「あの、それでお詫びっていう訳じゃないんだけど、今度の土曜日に私の家に遊びに来てもらえないかなあと思って」
「え、僕が?」
「うん。だめかな」
 
 羽津さんとは小一からずっと同じクラスだ。一学年二クラスしかないからそうなる確率は結構あるけれど、羽津さんとずっと一緒だったということだけでも僕は嬉しく思っていた。家が少し離れていて子供会も違うから直接羽津さんの家に遊びに行ったことは今までない。
「いや、だめってことないけど、何かあるの?」
「あー、特別なことはないけど、加賀美君が遊びに来てくれたら嬉しいなと思って」
「それじゃ、他に誰か」
「ううん、加賀美君だけ。あの、駄目かな」
 これは僕にとって思いもよらない申し出だった。夢のようだと言ってもいい。
「うん。行く」
「ほんと? よかったあ。あのね、この前新しいゲーム買ってもらったんだけど、私兄弟がいないから一人モードでしかできなくて対戦型をやってみたかったの」
「えー。何のゲーム?」
「それは来てのお楽しみ」
 そう言って羽津さんは笑った。その時、午後の予鈴チャイムが鳴った。
 
(18)
 
 月曜は授業が終わってすぐ海渡さんに会いに行った。昼休みは雑用に追われて時間が取れなかったのだ。鏡音さんはまだ教室に残っているらしく、戻っていなかった。
「どうですか。今日のリンの様子は」
「はい、ときどき妙な表情を浮かべますが、それ以外は以前と変わらないようです」
「加賀美君とは」
「まあ、普段の授業のときは特別どうこうということはわかりませんでした」
「加賀美君は昼休みにここに来ました。この前電話でお話した線で説明をしておきました」
「そうですか。それでどういう反応でしたか?」
「リンがかわいそうだと言っていました」
「加賀美君らしいですね」
「ええ。追い討ちをかけるようにこれから週末は不具合調査をやるからしばらく相手ができないと言いました」
 加賀美君がここに来ていたのは、鏡音さんに会うこともだが、ここの担当者さん達に色々教えてもらうのが楽しみだったはずだ。
 
「来るなということですか。そこまでする必要はありますか?」
「調査をするのは本当です。記憶の削除はしましたが、リンには記憶が無くなった部分があることが分かっているようで、削除がまだ完全ではないのです」
「それは難しいと仰ってましたよね」
「ええ、記憶は独立してあるわけではなく全てつながりがありますから、残っている部分を辿ると消えた部分があることが分かってしまいます。それをなるべく感じさせないようにしておきたいのです」
「それはいつ頃までかかりそうなのですか?」
「見当がつきません。無理なのかもしれませんし」
 では当面加賀美君はここに来られないということだ。
「そうですか。一つお伝えしておきます。鏡音さんの今日の記憶をモニターすれば分かることでしょうが、今朝教室の黒板に相合傘の落書きがありました。書かれていたのは鏡音さんと加賀美君です。書いたのは女の子で、土曜日に二人が雨の中を歩いているのを見たようです」
「それはどういう動機なんですか?」
 海渡さんの目が光った。
「単純に言えば嫉妬です。その子は前から加賀美君が好きだったようです」
「つまり、その子はリンを恋のライバルと捉えてそのようなことをしたということですね」
「そう思います」
 海渡さんはしばらく考え込んだ。かなり長い時間だった。
 
「不謹慎な言い方になりますが、これは大きな成果です。学校の子がリンをロボットではなく人間扱いしているということですよね。そう感じさせるまでにリンが成長したと。残念ながらその対象が恋愛という想定していなかったカテゴリーではありますが、それは別にして、我々が到達したかった領域にリンが入ってきたと見なせると思います」
「でも海渡さん達は人間を作ろうとしているのではないでしょう」
「勿論です。将来量産するアンドロイドはそこまでする必要はありません。しかし、技術的にはその上を行く部分に達していないと量産型に反映させることができないのです」
 
 その後の一週間、鏡音さんはときどき不安を感じさせるような表情を見せるものの、クラスでの様子は以前と変わりなかった。加賀美君も鏡音さんの記憶がなくなったことについて表面的には気にしていないような素振りを見せていた。羽津さんは落ち着いているようだ。
 金曜日、羽津さんが私のところにやってきて、「先生。加賀美君が明日うちに遊びに来てくれるんです」と嬉しそうに話した。
「そう、よかったね。何して遊ぶの?」
「新しいゲームをします」
「頑張りなさい」
 最後の一言はとりわけ小さな声で言った。
 羽津さんはほんの少しだけど我侭なところがあるから、おとなし目の加賀美君は付き合いだすと振り回されないかなとも思ったが、それは大きなお世話だろう。
 
(19)
 
 土曜日。僕はちょっと、本当にちょっとだけどおめかししてお昼から出かけた。羽津さんちには羽津さんのお母さんがいた。玄関で挨拶して家に上げてもらい、羽津さんに連れられて二階の部屋に行った。羽津さんの部屋にはゲーム機と小さなテレビがあった。
「ゲーム始めたらお茶なんか飲んでる暇なくなるから、今持ってきてもらうね」
 羽津さんはそう言うと、一度下に下りていってまたすぐに上がってきた。
「お母さんがお茶とケーキを持ってきてくれるから、それまでちょっと待っててね」
 羽津さんの部屋はピンクのカーペットが敷いてあっていかにも女の子の部屋って感じで、比べるのはおかしいけれど鏡音さんのいる部屋とは全然違っていた。
「かわいいのが沢山あるね」
「うん。私こういうの好きだから色々買ってもらってるの」
 本棚には少女マンガと縫いぐるみ類がずらりと並んでいた。
 ドアがノックされた。
「クミ、お茶を持ってきたわよ」
「は~い」
 羽津さんがドアを開け、トレイを受け取った。
「お母さん、もういいから下に降りて」
「はいはい。それじゃ加賀美君、ごゆっくりどうぞ」
「はい、ありがとうございます。いただきます」
「いいから、降りて。そいじゃ加賀美君、食べて」
「うん。おいしそう」
 
 僕達は主にテレビの話をしながらケーキを食べ、お茶を飲んだ。見ている番組は大体同じだったので、話が盛り上がった。その後、部屋の中を見回したら、この部屋にパソコンは無いようだった。
「パソコンは持ってるの?」
「ううん、私は持ってない。学校の宿題はお父さんのを借りてやってる。加賀美君はパソコン得意だよね」
「得意ってほどじゃあないけど、僕はお父さんの古いノート型を貰ってて、ネットにもつながってるから結構やってる」
「ふ~ん。ブログとかもやってるの?」
「いや、それはまだ。見てるだけ。ときどき小学生っぽい人のにはコメントするけど、自分のブログが無いから書きにくいってことはあるね」
「じゃあ始めればいいのに」
「そうだね。羽津さんがそう言うならやってみようかな」
「加賀美君始めたら、やり方教えてね。私もやってみるから」
「うん。いいよ」
 それから僕達はゲームを始めた。最初は羽津さんがやってみせてくれて、その後、僕がやってみた。ゲームと言ってもシューティングとか格闘系ではない女の子向けのパズルのようなものだった。何度かやってみて慣れたところで対戦してみた。2,3回は負けたけど、段々コツが分かってきて、後では僕が勝つほうが多くなった。
「加賀美君すごいなあ。もう私かなわなくなってきちゃった」
「このゲーム面白いよ。コツが分かったらそんなに難しくないし。時間制限で焦っちゃうけどね」
 気付いたらもう5時を回っていた。
「それじゃ僕もう帰るね。今日は楽しかった」
「えー、もう帰るの。晩御飯食べていけばいいのに。ちょっと待ってて」
 そう言うと、羽津さんは僕が止める間もなく下に降りて行った。
 
 結局その晩、僕は羽津さんちで夕食を頂くことになった。帰るとは言ったのだが、羽津さんのお母さんが僕の家に電話して半ば強引に決めてしまったのだ。食事が始まる直前に羽津さんのお父さんが帰ってきて、僕はかなりな緊張の中で食べることになった。ご両親からは色々なことを聞かれた。家族構成、兄弟、好きな学科、将来の志望、等々。
 将来のことを聞かれて僕は言いよどんだ。小さい頃は単純にお父さんと同じようにこの町で務める(父は役場の職員だ)のだと思っていた。しかし具体的にそれがどういうものかは分かっていなかった。学校で海渡さん達と話をしていて、あの人達の仕事に対する姿勢に打たれていた。僕もあんな仕事をやってみたいと思うようになっていた。でもまだその気持ちを言葉としてうまく表すことはできない。それに、海渡さん達はみんな博士だ。あんな風になりたいと思うことと、なれることは違うのだろうとも思っていて、口にするのは恥ずかしいような気もしていたのだ。
 だから、無難にという訳ではないのだが、「コンピューターを使う仕事がしたいです」と答えておいた。
 食事が終わって、羽津さんのお母さんが僕の家まで車で送ってくれることになった。羽津さんも「私も行く」と言ってついてきた。玄関横のガレージに行くと、そこにあったのは以前僕に水しぶきをかけた車だった。
 
(20)
 
 月曜日、羽津さんが報告に来た。加賀美君が週末に遊びに行ったそうだ。
「晩御飯も食べていったんです」
「へえ。楽しかった?」
「そりゃあもう」
 
 先週は定例打ち合わせが中止になった。それを伝えに来た海渡さんはかなり疲れた顔をしていた。状況を聞いたが、記憶の連鎖のつなぎ直しの範囲をどの程度までするかで結論が出ず、ある意味泥沼にはまったようだと言っていた。
「こうなると、対症療法しかないかなあと思っています」
「どういうことですか?」
「記憶を遡ることで削除されている部分があることに気付く訳ですから、この記憶の反芻を抑制することで少しは今よりよくなるのではないかと」
 
 今週の鏡音さんは不安げな表情を殆ど見せなくなり、明るく元気に振舞っていた。対症療法の効果があったということだろう。加賀美君との接触はあまりなく、他の男子との関係と同じような感じだった。
 それとは逆に、加賀美君と羽津さんの間は急速に親しくなっているようだった。どちらかというと羽津さんの一方的な主導のようだが、クラスの中で大っぴらに仲のいいところを見せている。加賀美君は恥ずかしいのか、あまりなれなれしい素振りを見せようとしない。
 
 金曜の打合せでその様子を海渡さんに伝えた。
「そうですか。まあ、収まるべきところに収まったという感じでしょうか。加賀美君には何か埋め合わせをしないといけないと思っています」
「もうあまり余計なことはしないほうがいいのではないですか?」
「先生がそう仰るのであればそうします」
「もうすぐ二学期も終わります。今年のうちはこのままそっとしておいたほうがいいでしょう」
 
(21)
 
 僕はブログを書き始めた。羽津さんも自分用のパソコンを買ってもらい、僕が設定をしてあげて同じサイトでブログを始めた。
 僕が何か書くたびにすぐ羽津さんがコメントを付ける。他の人がコメントしてくれることは殆どなかった。学校の他の友達にアドレスを教えていないせいだろう。しばらくやったあと、閲覧をパスワード制にした。これで、僕と羽津さんしか見ることができない。羽津さんのブログも同じ設定にした。
 そのうちに僕は物足りなくなってきて、羽津さんには内緒で別のブログを立ち上げた。そちらは完全に匿名にして、好きなことを書く。他のブログさんにコメントするときも、そっちのハンドルを使い、URLを記載した。でも、書いている内容は大したものではない。学校のこと、テレビのこと、本のこと、他の人が読んでもあまり面白くないとは思うが、僕が積極的に他のブログにコメントを付けたので、結構来てくれる人がいた。
 他には、ボーカロイドソフト鏡音リンに自分で作った歌を打ち込むことを始めた。歌自体は初めて作ったへたくそなものだけど、曲作りは楽しかった。空田さんに調教の仕方を教わりたかったが、部屋に来ていいと言われていないので行くことはできないでいた。
 
 クリスマスには羽津さんの家のパーティーに呼ばれた。とは言え、ゲームをやって夕食をごちそうになっただけだ。正月の初詣には羽津さんと二人で近所の神社に行った。
「何をお願いしたの?」
「これからもずーっと加賀美君と仲良くできますようにって。加賀美君は?」
「あ、ああ。僕もそうだよ」
 午後から家族でおじいちゃんち(父の実家)に行くことになっていたので、羽津さんを送ってから家に戻った。お父さんの実家は隣町にある。車で学校の横を抜けて峠への道を通る。僕は鏡音さんと歩いたあの日のことを思い出していた。鏡音さんは正月はどう過ごしているのだろう。今も学校にいるのだろうか。鏡音さんの記憶が消えてから、海渡さん達ともゆっくり話をする機会はなかった。
 
(22)
 
 今年の冬休みはアパートで過ごした。いつもの年は実家に帰省するのだが、今年は両親が年末年始を利用して海外旅行に出かけたのだ。
「もう引退してるんだから、何も年末年始に行くことないじゃない」
「ウイーンフィルのニューイヤーコンサートを聞きに行くんだ」
「あら、そうでしたか」
 
 学校が冬休みに入ってから、海渡さんたちは鏡音さんを連れて東京に戻った。鏡音さんは荷物扱いで運ばれた。
「新幹線に乗りたいと言ってたんですけど、移動中ここにある頭脳との通信が切れてしまいますからね。仕方ないんです」
「東京ではどう過ごされるのですか」
「仕事ですよ」
「え、正月も休み無しですか」
「リンの筐体のオーバーホールです。この時期しかできませんから」
「大変ですねえ」
「実際の作業は東京にいる別の技術者達がやります。まあ、私達を含めてみんな独身ですし。あ、それからここの頭脳の保守のために交代で三人のうち誰か一人は学校にいます。当番日はくじで決めました」
「大晦日から元旦にかけてここにいる不運な人は誰ですか?」
「私です」
 
 私は元旦に自分で作った雑煮と、買っておいた出来合いの御節料理を持って学校に行った。海渡さんはかなり恐縮していたが、喜んでくれた。仕事とは言っても鏡音さんの頭脳に異常が出ない限り特にすることもないそうなので、お酒も飲むことにした。
 鏡音さんの身体は東京にあって、オーバーホールのために分解されているが、学校にある頭脳に目、耳に相当するセンサーとスピーカーが取り付けてあるので、会話だけならすることができる。ちょっと変わった三人で正月を祝うことになった。
「先生、来てくれてありがとう。私動けないから退屈で退屈で」
「東京の身体はどうなの?」
「今分解してあるから、どうなっているか自分で分からないの」
「そうかあ。あ、海渡さん、この目と耳は持ち運ぶことはできないのですか?」
「できますよ。無線装置につなぐことができますから。目と耳は小さなセンサーだから私の服にでも着ければ目立ちませんし、リンの声はイアフォンで聞けます。でも、それやって外でリンと喋ってると、傍から見たら独り言言ってる変なやつになっちゃうんです」
「あはは、そうでしょうね。でも外に出られるのなら三人で初詣に行きませんか?」
「行く行く」
「いいんですか? この町で私なんかと歩いてるとこ見られて」
「大丈夫ですよ。じゃ、行きましょう」
 鏡音さんのセンサーは私のコートに着けることにした。無線装置は携帯電話並みで重くはない。海渡さんもサブの無線装置でイアフォンだけ着けた。
 二人ともお酒を飲んだので、車の運転をすることができない。歩いて神社まで行くことにした。
 神社に差し掛かったところで、加賀美君と羽津さんが神社から出てきて向こうに歩いて行く後姿が見えた。二人はこちらに気付いていないようだった。
「あ、加賀美君と羽津さんだ。二人仲いいんだね」
 鏡音さんがそう言った。私は胸が少し痛んだ。
 
(23)
 
 三学期になったある日の放課後、思い切ってあの部屋に行った。僕が作った曲の調教を空田さんに教わりたかったのだ。担当者さん達は歓迎してくれたけれど、以前とは雰囲気が少し違っていた。どこがどうとは言えないのだけど。鏡音さんの姿は見えなかった。奥にいたのだろうか。
 空田さんは僕の曲を聞いて褒めてくれた。
「へえ、結構面白いね。調教もうまいよ。あと少し直せば公開しても構わないくらいだね」
「でも、伴奏が作れないから」
「ああ、だったら僕が作ってやろうか?」
「できるんですか?」
「編曲については素人だけどね。適当って言っちゃ悪いけど、何とかやってみるよ。DTMソフトで音にして、君が作ったこの歌と重ねてみるから」
「ありがとうございます」
 
 翌週の放課後、空田さんが僕の教室まで来て、「あの曲完成したよ、家で聞いてみて」とメモリーを渡してくれた。
 家のパソコンで聞いてみたら、これが僕の作った歌だとは思えないくらいいい出来に仕上がっていた。伴奏は楽しいリズムになっていた。でもそれよりも歌の調教のほうがすごい。学校に走って行って空田さんに会った。
「空田さんすごいです。あんなに良くなるなんて」
「いやあ、元々の君の作った歌が良かったんだよ。それとね。内緒だけど最後の調教はリンにやらせたから」
「そうだったんですか」
「君が作った曲だとはリンには言わなかったけどね。でも、調教が終わったとき変なこと言ってたな」
「何て言ったんですか?」
「初めての曲だけど懐かしい感じがするって。で、どうする? ネットで公開する?」
「はい、そうしたいです。作詞作曲は僕で、編曲は空田さんにします」
「うーん。それはどうしようかなあ。じゃあ、ハンドルはMEETにでもしておいて」
「どういう意味ですか?」
「僕の実家が肉屋でね。そのままMEATじゃ嫌だろうから、同じ発音の別の単語にと思って。あ、最後にSを付けといて」
「それは?」
「空田のSだよ」
 
 家に帰ってからピアプロに投稿した。僕のハンドルはLENにした。歌はRIN。
 すぐに感想を幾つか付けてもらえた。「曲はともかく、調教がすごい」というのが多かった。
 
(24)
 
 海渡さんに教えられて加賀美君が投稿したという曲を聞いてみた。特別に音楽を習っているわけでもない小学生が初めて作ったにしてはいい曲だと思う。投稿者コメント欄に
 作詞・作曲  LEN
     編曲  MEETS
      歌  RIN
とあって何だろうと思っていたら、「MEETSは編曲した空田のハンドルですよ。Len meets Rinか。並べてみると意味深になっちゃいましたね」と言われた。
 
 三学期はあっという間に過ぎる。気付けばもう3月になっていた。鏡音さんは他の子と同じように卒業することになった。
「中学校にはどうするのですか?」
「先週本社から指示が来まして、小学校卒業時点で学校での研究は終了となりました。当初の予定通りということです。それも、成果が上がってのということですから、まあ、いい結果と言えます」
 そう言いながら海渡さんはあまり嬉しそうになかった。
「海渡さんはまだ続けたかったのですか?」
「ええ、個人的にはね。でも仕方ないです。それから、文科省から教育委員会を通して校長先生に通達が出ていますが、卒業式にはマスコミの取材が来ます。『大きな成果を上げて研究終了』ということで発表することになりましたから」
「そうですか」
 
(25)
 
 3月に入ってしばらくしてから、卒業式の練習が始まった。起立したり着席したり忙しい式次第を覚えこまなければならない。卒業生答辞は僕が読むことになった。その答辞作りも大変だった。
 卒業式の前日になって校長先生が、「卒業生は、入場するときと退場するときに二列になっていますが、それぞれ手をつないで下さい」と言い出した。その二列は男女で並んでいるからみんなブーブーいってたけれど、結局そうすることになった。練習ではみんな照れくさがっていたけれど、平気な顔で入退場できるまで何度も繰り返して練習する羽目になった。僕は偶然だけど羽津さんと手をつなぐことになっていた。
「それから、明日の式にはテレビや新聞の取材が来ます。皆さんはそれに気を取れれず、これまで練習したように立派な卒業式にしましょう」
 
 卒業式当日、女の子の一人が熱を出して欠席したので一人ずれてしまい、僕は鏡音さんと手をつないで入場することになった。会場の体育館の入り口で手をつないだら、鏡音さんがびくっとして手を引っ込めた。
「どうしたの?」
「ううん。何でもない。ごめんなさい」
 手をつなぎなおして会場に入ったら、テレビカメラが沢山並んでいた。特に僕と鏡音さんのときはカメラが寄ってきた。
 
 入場が終わって席に着き、卒業式が始まった。鏡音さんに卒業証書が渡されるときは、またテレビカメラが舞台に集まった。僕の答辞はなんとかつかえることなく読むことができた。
 式が終わって卒業生が退場するときは、入場とは逆に後ろの席から立ち上がることになっていた。一人ずれた影響で僕は退場のときは羽津さんと手をつなぐことになった。もう少しで会場を出るというときに事件が起きた。
 僕達の前を歩いていた鏡音さんが振り向いて、僕の方に向かって両手を伸ばした。それから急に前のめりになって倒れ、羽津さんにぶつかり、羽津さんを突き飛ばした形になったのだ。羽津さんは尻餅をついた。その横に転がった鏡音さんは動かない。
「鏡音さん。鏡音さん」
 僕は鏡音さんをゆすってみたけど目を開けなかった。その間に僕らの周りにテレビカメラが殺到して会場は大混乱になった。会場にいた海渡さんと山路さんが駆け寄ってきて、鏡音さんを抱き上げると外に出て行った。
 
(26)
 
 午後のニュースから卒業式の事件が大きく取り上げられた。文科省が小学校で秘密裏に行なっていた実験(報道では「研究」とは言われなかった)で、ロボットが女子児童を突き飛ばしたということだけが何度も繰り返し伝えられた。
 卒業式のあと開かれた記者会見で、校長はしどろもどろだった。この記者会見は研究の成功を伝えるために開かれるはずだったのだ。記者の質問には文科省の川添さんが対応した。とにかく原因は不明、現在調査中ということだけを繰り返した。式に出席していたメーカーの社長もひたすら謝罪するだけだった。
 羽津さんは尻餅をついただけで、怪我をした訳ではない。むしろ殺到したカメラや記者のほうに驚いていたようだった。羽津さんのご両親はテレビのインタビューで激昂し、「文科省に謝罪と賠償を求めます」と答えていた。
 
 私は海渡さんに会いたかったが、とても会えるような雰囲気ではなかった。夕方になって、待機していたマスコミに対して、「原因は現在も調査中。明日午後1時から記者会見を開きます」という連絡が出された。
 勿論マスコミはただ待機していたのではない。取材自粛解禁として大々的に取材を始めた。鏡音さんの担任である私にも取材が殺到した。
 インタビューには丁寧に答えたつもりだ。鏡音さんはこれまで問題を起こしたことがないこと、普通の子供と同じように成長し、心が育っていたこと、学校が楽しいと言っていたことなどを説明した。今回の事件の原因には思い当たるところが無いとした。これはある意味嘘を含んでいる。鏡音さんが結果として加賀美君と手をつないでいた羽津さんを突き飛ばしたのには、鏡音さんの心が影響しているのかもしれない。しかし全く偶然に何か異常が起きたこともまた否定できない。分からないとしか言いようがなかった。インタビューの最後に子供への取材はご遠慮下さいとお願いしたが、それは無視された。
 マスコミの論調は鏡音さんが羽津さんを突き飛ばしたことを前提に組み立てられていた。私は近くにいなかったので直接見たわけではないが、テレビのVTRを見る限りにおいては、それは微妙だった。加賀美君に向かって手を差し出しているときは目を開けている。顔は笑っているようにも見える。それから急に目を閉じ、その後で倒れている。であるならば、意図的に羽津さんを突き飛ばした訳ではないことになる。
 
 私は羽津家に行って、羽津さんに会った。ご両親が念のためにと病院に連れて行ったが、何の異常もなかったそうだ。
「どう、落ち着いた?」
「はい」
「あのときどう思った?」
「急だったので、びっくりしただけです」
「怖くはなかった?」
「そんなこと思う暇もありませんでしたから」
「鏡音さんのことをどう思う?」
「やっぱりロボットなんだなあと思います。でも加賀美君が…。あ、いえ、何でもありません」
「テレビの取材なんかあった?」
「はい。でも全部おとうさんとおかあさんが返事しましたから」
 
 羽津さんが落ち着いていたので私も安心した。それから加賀美君の家に行った。加賀美君は羽津さんと違って不安げな顔をしていた。
「先生。鏡音さんはどうなるんでしょうか」
「それは私にも分からない。今、海渡さん達が原因を調べているから」
「鏡音さんは羽津さんを突き飛ばそうとしたんじゃありません。僕の方に手を差し出して、そのときは笑ってました。どうしたんだろうと思ってたら急に目を閉じて倒れたんです。だから絶対わざとじゃありません」
「うん。私もそう思うよ」
「ても、テレビじゃ」
「そうだね。鏡音さんが羽津さんをわざと突き飛ばしたみたいに言ってるね」
「僕、取材の人たちにもそう言ったんですけど」
「マスコミにとってはわざとのほうがいいみたいね」
「どうしてですか」
「そのほうがニュースとして面白いからよ」
「そんな」
「理不尽だとは思うけれど、わざとじゃないという意見もちょっとだけ紹介して、中立ですって顔をするんでしょうね。仮にわざとじゃなかったとしても、それはそれで事故になるから、どっちに転んでもマスコミとしてはいいのよ」
「僕、海渡さんに会いに行きます」
「今行っても会えないよ。原因調査で忙しいだろうから」
「でも、行きたいんです。鏡音さんがわざとやったんじゃないって言いたいんです」
 
 時刻は午後7時だった。私は加賀美君のご両親に断ってから学校に連れて行った。正門から入ったらまたマスコミにつかまる可能性があるので、裏に回ってから入った。
 あの部屋の前に行ったら、ドア越しに声が聞こえた。
「まだ原因は分からないのかね」
「はい、皆目分かりません」
「もういい、内部的に不具合があって緊急停止した。問題のロボットは廃棄するということにしよう」
「社長、それじゃあマスコミが納得しませんよ」
「じゃあ、どうしろと言うのかね」
 加賀美君が急にドアを開けた。
「社長さん、待って下さい、鏡音さんを廃棄なんかしないで下さい」
「君は誰だね」
「加賀美君」
 社長と海渡さんが同時に声を出した。私は社長に向かって軽く会釈してから部屋に入った。
 海渡さんが社長に私と加賀美君を紹介した。それすらもどかしいように加賀美君が喋り出した。
「海渡さん。鏡音さんは羽津さんをわざと突き飛ばしたんじゃありません。僕が一番近くにいたんだからよく分かります。僕、それが言いたくて」
「加賀美君ありがとう。わざわざそれを言うために来てくれたんだね。うん。それは分かってるよ。リンの記録でリンが緊急停止したのは羽津さんにぶつかる前のことだってはっきりしているから」
「じゃあ、鏡音さんは悪くないんでしょう」
「うーん。問題は緊急停止の原因なんだ。それが分からない。それとね、運が悪かったというか、緊急停止の結果羽津さんにぶつかってしまったというのも問題なんだ。一人で勝手に倒れたんならまだよかったんだけどね」
「鏡音さんに会うことはできませんか?」
「リンの筐体は山路が調べている。頭脳のほうは空田が調べている」
「話ができませんか」
「頭脳のほうも、あれからずっと意識が止まっているんだ。人間で言えば気絶している状態だね」
 
 そのとき奥のほうから声が聞こえた。
「リンの意識が戻りました」
 声の主は空田さんだった。誰よりも早く、加賀美君が奥に向かって走り出した。みんながそれに続いた。
「今、スピーカーをつなぎます」
 空田さんが鏡音さんの頭脳にスピーカーを接続した。
「たい。加賀美君に会いたい。加賀美君に会いたい」
 スピーカーから鏡音さんの声が聞こえてきた。
「鏡音さん、僕ここにいるよ」
「あ、ちょっとまって、センサーもつなぐから」
 空田さんがセンサーを接続した。
「鏡音さん、僕ここにいるよ」
「加賀美君。ううん、レン君。私、レン君のことが好き」
 
(27)
 
「鏡音さん。ううん、リンちゃん。僕もリンちゃんのことが好きだよ」
 
(28)
 
 社長が怒鳴った。
「どういうことだ。リンの記憶は削除したのではなかったのかね」
「社長、ちょっとお待ち下さい。考えをまとめます」
 海渡さんはそう言うと、その後も怒鳴り続けている社長を無視して目を閉じ、何かを考えていた。
 
「先生。記憶を削除したってどういうことですか?」
 加賀美君が私に尋ねた。私は海渡さんを見たが、まだ目を閉じたままだった。私は「片棒を担ぐ」と言った自分の言葉を思い出していた。
「加賀美君、ごめんなさい。みんなで加賀美君を騙していたの。鏡音さんの記憶が消えたと言ってたけど、本当は消えたのではなくて、消したの」
「消した?」
「ええ、鏡音さんは加賀美君のことが好きになったの。でも、ロボットが恋をしてはいけないの。元々そうならないように作ってあったのに、鏡音さんは加賀美君が好きになってしまった。そのままではこの学校でやっている研究が駄目になってしまう。だから、鏡音さんの記憶の中から、加賀美君を好きだ思う部分を削除したの。先生もそれに賛成したの」
「そんな」
「でも、記憶というのは簡単に全部削除することができなくて、海渡さん達もとても苦労していたの。鏡音さんがしばらく様子がおかしいときがあったでしょう。今、鏡音さんが加賀美君を好きと言ったのは、記憶が残っていたのか、思い出したのかどうか分からないけれど、鏡音さんの思いがとても強かったんだと思う」
 加賀美君は私の顔をじっと見つめていた。それからちらっと海渡さんの顔を見て、社長のほうを向いた。
 
「社長さん、お願いがあります。僕、これから沢山勉強して社長さんの会社に入ります。そして、一生懸命働きます。だから、それまで、鏡音さんを廃棄なんかしないで下さい。お願いします」
 加賀美君が頭を下げた。社長は戸惑っていた。
「私からもお願いします。リンは今回事件を起こしましたが、それは別にして、私達が考えてもいなかったレベルで成長しました。これは素晴らしいことです。会社だけでなくて、全人類の成果だと言っても過言ではありません」
 空田さんがそう言った。山路さんも頷いていた。海渡さんが目を開けた。
 
「思いというものは私達が考えていたよりも遥かに強いということが分かりました。確かに私達はリンの記憶を削除しました。それは記憶の細部に至るまで徹底的に調査して行いました。でも、リンには記憶が残っていたのです。多分それは細部ではなくて、全体としてリンの心に残っていたのだと思います。今日調べたリンの記録で、卒業式の入場で加賀美君と手をつないだとき、リンの心に何かが現れたことは分かっていました。いえ、実際にはさっきのリンの言葉を聞くまでそれが何なのか分からなかったのですが、間違いありません。そして、式の間にリンの中で記憶が具体的になってきて、退場のときに全てを思い出したのでしょう。だから振り向いて加賀美君にそれを伝えようとしたのです。そのとき、頭脳の安全装置が急激な感情の発露を認識して筐体に対して緊急停止をかけたのだと思います」
 
 海渡さんはそこまで一気に話すと、鏡音さんの方を向いた。
「リン。裏のため池で競争したこと覚えているか?」
「うん。加賀美君と何度も競争した。山路さんが私を追いかけたことも覚えてる」
「この前、空田から頼まれたデータの調教をしてどうだった」
「なんだか懐かしかった。この歌誰が作ったんだろうと思っていた」
「加賀美君はボーカロイドソフトのリンを使って歌を作りました。それは淡い恋心を唄ったものでした。リンが記憶を取り戻した最初のトリガーはあの歌だったのでしょう。社長」
「何だね」
「リンで得られた成果は、これから開発する量産型アンドロイドに役立てることができます。ですから、これから本社に戻って研究を続けたいと思います」
「君、そうは言うが、今度の事件でリンは世間にかなり悪いイメージを植えつけてしまった。リンを参考にして作ったアンドロイドが受け入れられると思うかね」
「まだ間に合います。明日の記者会見次第です」
「どうするというのかね」
「記者会見は私が対応します。社長は堂々とした態度で横に座っていてください」
「大丈夫かね」
「はい。それから加賀美君、リンを庇ってくれてどうもありがとう。リンはこれから本社に連れて行く。しばらく会うことはできないが、さっきの君の言葉を信じて待っているから」
「海渡さん、僕頑張ります」
 
 翌日の記者会見で海渡さんの対応は見事だった。鏡音さんの緊急停止は卒業式で感極まったので、それを抑制するために安全装置が働いた結果だとした。羽津さんについては社として謝罪するとともに、誠意をもって対応するとした。その上で、鏡音さんの学校での研究は当初の想定以上の成果が得られたこと、量産型アンドロイドの開発に取りかかることを告げた。
 川添さんも文科省としての見解を改めて表明した。それは海渡さんの姿勢に触発されたように、一般的に官僚が行なう釈明とは全く違う気持ちのこもった受け答えとなり、研究の成果を謳い、これからの人類の福祉に大いに役立てることができるとした。
 その会見が功を奏したのか、昨日までの報道のトーンが一気に変わった。
 
(29)
 
 僕の家は引越しをすることになった。お父さんはこの四月から県のほうに出向することになっていた。県庁はちょっと遠いけれど、車で通うつもりだった。でも、勤務先が急に県の東京事務所に変更になり、そのため一家で東京に行くことになったのだ。僕が入学する中学校も東京になった。それを伝えにいったとき、羽津さんの態度はそっけなかった。
「ふ~ん。そう」
「あの、向こうからメール出すから」
「いいよ。どうせもう会えないんだし」
 引越しの日に見送りに来てくれたクラスメイトの女の子が、あのあとで羽津さんが泣いていたと教えてくれた。卒業式で倒れたとき、僕がリンちゃんのことだけを心配していたのもショックだったらしい。僕は自分がそんなことも分からない鈍感なんだと思った。だけど、リンちゃんに好きだよと言ったときから、いや、もしかするとその前から、羽津さんへの思いが小さくなっていたことは分かっていた。東京からアクセスした羽津さんのブログは閉じられていた。
 
 うちの引越しの数日前のこと、海渡さん達が学校を出て行く前日、僕はメイコ先生と一緒に会いに行った。設備の撤去が始まっていたが、リンちゃんの頭脳はまだ動いていた。みんなでため池に行った。春の日差しの中で競争をした。小学生時代が終わったなと感じた。
 
 故郷の僕の家は、引っ越したあとしばらくたって取り壊された。元々古い家でだったし、過疎化で借り手もいなかったから空き家になっていた。その年の台風で一部壊れたので更地にすることになったのだ。だから、盆暮れの帰省は隣町の父の実家に行き、僕が生まれ育った町に足を踏み入れることはなかった。
 僕が高校生になったとき、父が仕事を辞め、友人と事業を起こした。公務員を辞めての独立に家族親戚は大反対だったけれど、家を取り壊した頃から父は決意していたのだろう。事業は順調に行っている。おかげで、僕も心配なく学業に励むことができた。
 父からは「跡を継げなんて言わないから、好きなことをしなさい」と言われている。東京の官舎を出たあと郊外に父が家を建てたから、僕の帰省先はそちらになってしまった。
 結局、小学校卒業以来、僕は故郷に帰っていない。
 
 僕は東京の中学から高校、大学に進んだ。大学ではその頃できたばかりのデジタル心理学講座に入った。海渡さんたちが書いたリンちゃんに関する論文を読むこともあった。大学院の卒業年度になったとき、指導教官から大学に残らないかと勧められた。僕はそれを断ってクリプトン社の面接を受けた。面接で会った社長さんはは知らない人だったが、「君のことは海渡から聞いている」と言っていた。
 クリプトン社は普及型アンドロイドの製造で大きく成長していた。競合他社のアンドロイドに比べて「人の心が分かる」ロボットとして、福祉の現場などでひっぱりだこだ。
 
 その年、小学校の同窓会の案内が来たが、僕は論文書きが忙しかったので欠席した。その連絡で幹事に電話したときに、羽津さんがアメリカ人と結婚して向こうに住んでいると聞いた。メイコ先生も僕達が卒業した次の年に結婚して学校を辞めたと教えられた。
 
 四月一日の入社式で挨拶に立った社長は海渡さんだった。その日付けで社長に就任したそうだ。入社式のあとで、人事部の担当者からメモを渡された。「夜7時に来るように」と書いてあり、日本料理店の名前と地図が載っていた。
 
 同期入社の飲み会を断ってその店に行き、座敷に通された。そこには海渡さんと、山路さん、空田さんがいた。僕は上座に座らされた。
「入社おめでとう。三人とも君をずっと待っていたよ。新入社員の歓迎会をこれだけのメンバーでやるなんて異例なんだけど、君は特別だからね」
 海渡社長がそう言ったて笑った。空田さんは研究所所長、山路さんはアンドロイド事業本部長になっていて、三人とも役員だった。僕は研究所に配属されることになっているから、空田さんが上司になる。
「加賀美君、上司として期待しているからね」
「はい、頑張ります」
「社長としてもそうだよ。それから、君に会わせたい人がいるんだ」
 
 海渡さんは悪戯っぽくそう言うと、後ろのふすまを開けた。そこには二人の女性がいた。
「メイコ先生」
「加賀美君、お久しぶり、海渡メイコです」
「え、海渡さんと結婚されたんですか?」
「ええ、もうかれこれ十年ちょっとになるかな。海渡が忙しくて式を挙げなかったし、それにいつか来る今日という日に君を驚かそうと思ってたから連絡もしなかったの」
「10年越しのサプライズですか。成功ですね。ほんと驚いた。あの、それでこちらは?」
「こっちは私達の娘」
「え、でもこんな大きな娘さんって」
 先生の隣にいた若い女性が立ち上がって僕の横に座った。
「レン君、私だよ。分かんない?」
「リンちゃん」
 それはリンちゃんだった。二十代の姿をしていた。
「あの後ね、リンに今度は家庭での生活をさせようということになって、僕らの娘として育てることになったんだ。僕の親も同居して老人介護とか、生まれた子供の世話とかね。何より家庭の温かさを教えたかった。うちの社のアンドロイドにはリンの心が反映されてるんだ」
「そうだったんですか」
「で、研究は終わったけどそのままうちで暮してる。リンは会社の資産だから公私混同も甚だしいんだけどね。今リンは会社で研究助手として働いているんだ。ところで、加賀美君、彼女いるの?」
「あ、いえ…。何人か付き合ったことはありますが、長続きしなくて」
「リンを忘れられなかったってことかな。こうしてうちの会社に入ってくれたことでも分かるよ。それでね、加賀美君が本格的に仕事を始めたらリンを君専用の助手にするから」
「ほんとですか? それは楽しみです。あの、この身体はどうしたんですか?」
「山路さんとこで作ってもらったの。この身体は普通に食事もできるんだ。前の身体は研究室に置いてあって、そっちでも動くことができるよ。今は頭脳の大部分が頭の中に入っているから入れ替えないといけないけどね。その代わりどこにでも行けるよ。高校生バージョンの身体もあるし、加賀美君のお好みで選んで」
「加賀美君は、最初のリンがいいかな?」
 山路さんがそう言って、みんなが笑った。
「加賀美君を空田さんに取られたのは痛かったなあ。まあ、ローテーションもあるし、そのうち一緒に仕事しよう。それとね、僕もあれからトレーニングして速くなったよ。今度会社のグラウンドで競争しようか」
「はい、ぜひお願いします」
 
 僕はそう言いながら、遠い故郷のため池を思い出していた。
 休みが取れたら、リンちゃんと二人で行ってみよう。
 

 
 
(あとがき)
 
 投稿5作目です。
 書き始めたのは2008年9月中旬でした。その下旬から10月にかけて事情があって中断してしまい、11月になってやっと仕上がりました。
 
 「カガミネットです」より長くなるなんて思っていませんでした。
 それでも、終わり方がちょっと駆け足になりました。やはり中断があるとその分だけ書いていての気持ちの乗りが持続できないのかもしれません。
 
 ため池でレンがリンに家を教える部分は伏線にするつもりだったのに、結局スルーになってしまいました。
 レンの中高大学時代にはそれなりの青春ドラマがあるはずですが、それは別のお話ということで。
 
 メイコは相変わらず先生役です。今回は若いし、死んでいないし、まあいい役どころだと思います。次回は別の役をやらせようかなあ。
 メイコ先生の気持ちの変化は書き始めた頃には考えていませんでした。むしろ担当者達との対立を深める方向に話を持っていくつもりでした。やっぱり私は甘いのかなあ。
 羽津(はねつ)クミちゃんはちょっとかわいそうでしたね。まあ、彼女は自分で幸せをつかむと思います。
 担当者さん達の性格をもう少し明確に分けたかったです。川添さんは最後まで影が薄かったですね。
 
 本作品ではアンドロイドの心をメインに扱っています。このテーマの場合、どうしてもトラボルタPさん、ジュンPさんの「ココロ」「ココロ・キセキ」を意識せざるを得ませんが、できるだけこの二作とは異なるものにしたつもりです。
 「~したい」という欲求と、心の存在との関係など、いくら考えてもなかなかすっきりしません。心理学の専門の方が読むと、なに変なこと書いてるんだと思われるかもしれないです。
 本作品はこれで終わりで続きを書くつもりはありません。でも、レンとリンのその後の物語を想像すると、結局「ココロ」「ココロ・キセキ」に行き着いてしまうのでしょう。
 
 4作目は小説が公認されたピアプロに投稿しています。本作品と同様にレンが主役で、リン、メイコ、カイトも登場しますが、全て人間(一部例外あり)でボーカロイドは一切出てこないので、こちらの投稿規約に合わないと判断しました。
       
興味がありましたら読んでみて下さい。冬至のパレード

  
 そう判断した時点で、それならばと書き始めたのが本作品です。
 ボーカロイドであることを意識してできるだけその要素を織り込んだつもりですが、心のほうに重点を置いたために、少し薄まったようにも感じます。
 リンが記憶を取り戻す最初のトリガー(ひきがね)としたレンが作った歌の歌詞を書けていたらもっと強調できたのかもしれません。実際には書こうともしないで諦めました。
 また、本投稿所の感想ページで頂いたアドバイスはイメージを作る上で役に立ちました。どうもありがとうございました。
 
 1から3作目は
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          作者:gatsutaka
 
          履歴:2008/11/18 投稿