さよなら兄さん

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 さよなら兄さん
 
           文:gatsutaka

          注意:ボーカロイドは出てきません
 
 両親が交通事故で死んだ。
 葬儀を終えて遺品を整理していたら、兄の遺した物が大量に保管されていた。
 
 兄は勉強もスポーツも万能で、楽器を奏で、絵を描き、詩を作り、歌を作り、およそ創造に関する全てのことで人より秀でていた。
 その上で、兄は科学者を目指していた。
 
 兄は15才で死んだ。両親の悲しみは深く、その2年後に僕が生まれた。
 両親は僕に兄と字が違うだけの同じ名前を付けようとしたが、それは祖父が止めてくれた。でも両親はよく、特に母は頻繁に、僕を兄の名で呼んだ。
 兄が死ななければ僕は生まれなかったとも言われた。
 
 僕はピアノを習い、バイオリンを習い、絵画教室、作文教室にまで通った。
 僕は凡庸で、両親の過重な期待はいつも僕を苦しめた。
 
 15才を前にして、両親が諦めた。
 僕は兄の呪縛から解放され、僕自身の人生はそこから始まった。
 怖かった未来が、僕の手の届く範囲に降りてきたような気がした。
 
     -----
 
 兄の遺品は年齢毎に整理されていた。小さい頃の絵から、作文、学校のテストも全て。それらを辿ることで、兄の才がいかに優れていたかが改めて分かった。
 
 一番底に手書きの楽譜が添えられた歌詞があり、日付は兄の死の前日だった。僕はその歌詞を読んでその内容に驚愕した。15才の兄は何を見ていたのだろう。
 
 余白にメモが記されていた。
「僕らはアトムの歌を聞き、アポロが飛ぶのを見て育った。遠い先、次の世紀、大人になった僕らは、今想像している未来の自分とのギャップに苦しむのかもしれない。それとも」
 
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 兄さんは「それとも」に続けて何を書くつもりだったの?
 ありがちではない未来をつかむつもりでいたの?
 兄さんだったら今頃スペースシャトルに乗っていたかもしれないね。
 それとも、兄さんも本当は未来が怖かったの?
 
 兄さん。僕は兄さんの倍の時間を生きてきたよ。
 人並みの恋をして、家庭を作り、家族も増えたよ。
 ネットも携帯もパソコンも。
 兄さんの知らないことを知り、兄さんが経験しなかったことを経験したよ。
 でも兄さんが見ていたものを、僕は今、やっと見ているのかもしれないね。
 
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 最後の歌だけを残して、兄の遺品も全て処分した。
 さよならアストロノーツ。
 僕はこの歌をボーカロイドに歌わせて、サイハテにいる兄さんに届けよう。
 
 了
 
(あとがき)
 

 投稿二作目です。
 畏れ多くも、小林オニキスさんの「さよならアストロノーツ」をイメージして書きました。この曲は、今10代の人の10年後に向けて作られたそうです。でも、10代は勿論、20代よりも30代、40代の、今の大人のほうがよりじんと来る内容だと思います。こう書くと歳を想像されそうですね。
 
 設定はありがちです(かな?)。その上、「僕」の意識の変化を十分には表現しきれていません。
 尚、「兄」の死因は意図的に明示しませんでした。
 
 タイトルから、「兄さん=カイト」と勘違いして読みに来られた方、ごめんなさい。「兄=カイト」「僕=レン」としてもよかったのですが、今の内容でもここへの投稿要件を満たしていますし、そうすることにあまり意味がないと思ったので、やめておきました。
 
          作者:gatsutaka
 
          履歴:2008/09/05 投稿

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