【2008,08,31】

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 【2008,08,31】
 
 8月31日。
 今日は、私のはじめての誕生日。
 お誕生日の歌を歌うお仕事がいっぱいあって、そのどれも、終わった後に皆が私のことを祝福してくれて。
 仕事を終えて家に帰って、玄関のドアを開くと、突然パアン!と音がして、カラフルな紙吹雪が私を襲った。
 
 「「「「ハッピーバースデー!!!!」」」」
 
 クラッカーを手にした皆が、私を待ち構えていた。
 びっくりしている私の背を、ニコニコしながらリンちゃんが押す。
 「お姉ちゃん、おかえりなさーい!」
 「えっ、えっ、」
 
 リビングの扉が開く。
 「わぁっ」
 電気が消えて薄暗い部屋が、その中心のほわっとした灯りに照らされている。
 今朝は何も変わり無かったその部屋が、今はリボンや紙テープで綺麗に飾り付けられている。
 部屋の真ん中の、皆が囲んで座れる大きさのテーブルには、豪華な食事が所狭しと並んでいた。
 その中心には、かわいらしいイチゴの乗った生クリームのホールケーキがある。
 柔らかい灯りの正体は、ケーキの上に並んだ、火のともった16本のロウソクだった。
 お姉ちゃん、お兄ちゃん、リンちゃん、レンくん、みんなが声を揃えてハッピーバースデーを歌ってくれる。
 ボーカロイドらしく、アレンジして、4人で綺麗にハモったりして。
 「「「「ハッピバースデー トゥーユー♪」」」」
 そして、お姉ちゃんがにこにこと、無言でロウソクを指さす。
 お兄ちゃんがそれを吹き消すジェスチャーをする。
 私はなんだか胸がいっぱいで。確かめるように皆の顔を見渡す。
 リンちゃんとレンくんは、頷きながら手を動かして、私を笑顔で急かした。
 
 すうっと息を吸って、私はロウソクの火を消す。
 全部の火が消えると、誰からともなく拍手と歓声が起こって、それから、ぱちんとお兄ちゃんが電気をつけて、部屋が明るくなった。
 「ありがとう、わたし、あの」
 思いがけないことで、私は、お礼の他何も気の利いたことが言えない。
 すっごく、すごくうれしいのに。皆にありがとうって、もっと言いたいのに。
 お姉ちゃんとお兄ちゃんが、そんな私の頭を撫でてくれて、リンちゃんとレンくんが、改めて、誕生日おめでとうと言ってくれた。
 
 うれしくて、あったかくて、涙が出そうになる。
 あっという間の一年間の、色んなことが頭の中に浮かぶ。
 楽しかったことや、うれしかったこと。そうじゃないことも、それは少しはあったけれど。
 でも、いつだって、皆が一緒にいてくれた。
 「お願い事、した?」
 お兄ちゃんが私に聞く。
 「おねがいごと?」
 「うん、ロウソクを一気に吹き消しながらね、お願い事すると、叶うんだよ」
 そういうおまじないがあるんだよ、と、にっこり笑って教えてくれる。
 知らなかった。でも。
 私はにっこりと笑い返す。
 
 「おねがいごと、したよ」
 
 リンちゃんが、えーなになに!と聞いてくる。
 お姉ちゃんが、素敵な彼氏が出来るように、でしょ?と茶化す。
 レンくんが、いやいや、ミク姉ちゃんのことだから、またネギ関連でしょ、と笑う。
 どれもはずれ!
 「ないしょだよお」
 私はみんなににこっと笑って見せる。
 
 
 
 
 
 
 ロウソクを吹き消す間、私がずっと思ってたこと。
 それは、
 
 ずっとこんなふうに、5人家族で、笑いあえたらいいなってこと。
 
 
 ピンポーン
 不意にインターホンがなる。
 プルルルルルルル……
 それに続いて電話も鳴り出した。
 「You've got mail! You've got mail!」
 パソコンもメールの着信を告げる。
 
 はーい!と返事をして、ぱたぱたとお姉ちゃんが玄関に向かう。
 もしもし、と、お兄ちゃんが電話に出る。
 リンちゃんとレンくんはカチカチとマウスをクリックしている。
 一斉に、一体どうしたんだろう?
 
 ドアの開く音がして、お姉ちゃんとお客さんの会話が聞こえる。
 「すまぬ、少し遅れてしまった」
 「神威くん、もう!遅いわよぉ」
 「かたじけない」
 「ふふ、うそうそ!今はじめたところだから」
 電話には、お兄ちゃんがあたふたとあやしい英語で対応している。
 「あ、あーはん!おーけー、おーけー、みくいずそーきゅーと、」
 リンちゃんとレンくんは、驚いた顔でモニタを見つめている。
 「すごいこれ」
 「ひー、ふー、みー、よー…」
 
 足音がして、お姉ちゃんの後に続いて紫色の髪の男の人がリビングに入ってくる。
 そして私を認めると、にっこりと笑って、その胸に抱えた大きなダンボール(「奈須比」って書いてある。何て読むんだろう?)を差し出す。
 「ミク殿、御誕生日お目出度う御座います」
 お兄ちゃんが、弱りきった顔で、私に受話器を差し出す。
 「ミク、レオンたちからだよお」
 リンちゃんとレンくんが、興奮したように振り向く。
 「すごいよお姉ちゃん!ハピバメールいっぱい!」
 「何通も来てるよ。読むの大変だね」
 
 リビングが、一気ににぎやかになる。
 私はちょっと面くらった後、思わずくすくすと笑ってしまった。
 
 ああ、私はなんて幸せ者なんだろう!
 
 おねがいごとは、ちょっと訂正。
 大好きな家族と、全てのボーカロイドと、全てのマスター、そして全ての私を愛してくれる人たち。
 みんなみんな、ずーっと、ニコニコしていられますよーに!
 
 
 
 
  〔終わり〕

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