VOCALOID2 GACKPOID -がくっぽいど- (3)居候

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マスターと暮らし初めて早七日。
どうやらマスター…ハルナ殿は、おなごにしては些か不精な性情の持ち主のようである。
炊事洗濯など一応こなしてはおるが、どこか「ずぼら」なところがあり、味噌汁の味も毎回違う。
“ばらえてぃー”豊富というわけではなく、ただ毎回出汁(だし)の取り方や味噌の量、焜炉(こんろ)の火加減や手順にばらつきがあるだけの話で、同じく白米の炊き方もいい加減らしく、日によって米が固かったり、逆に水っぽかったりと、誠に“ばらえてぃー”に富んでおる…。
居候の分際で出される食事にけちはつけられないが、随分と大雑把なおなごであることよ…
扇子で口許を隠し、溜息をついた。

「ちょっとがくぽ、食事の後に溜息つかないでくれる?」
「扇子で隠したではないか」
「隠れてないじゃない。私にはバレバレなんだから意味ないでしょ、そんなの」
おなごとはここまで口さがないものであったかのう…。
また溜息をつくと、ハルナ殿が卓器(テーブルと呼ぶらしい)をばんと両手の平で叩いた。
不精なだけではなく粗暴なのか?と慄いて思わず身体を後ろに引くと、その叩き下ろした左手はそのまま右手を挙げて後ずさった我を指差した。
「あのね、アンタ自分で作ってごらんなさいよ。コンロの使い方は教えてあげるからさ。毎日食事作るのって大変なのよ?」
「お、おのこが厨房なぞ入るものではないっ!そ、それに…マスター…ハルナ殿は我が世話になる前から毎日食事を作っていたのではないか?」
今度はハルナ殿が溜息をつき目を伏せた。
「あー、アナクロい男って嫌いじゃないけどそーいうとこアナクロいと嫌ね」
「あ…あなくろい?」
「時代錯誤ってこと」と言いながらハルナ殿はテーブルの上に肩肘をついて、横向きながら湯呑みの中の冷めた煎茶を啜った。
煎りもしない煎茶とは珍妙であるが、現代はお茶ぶーむと言っていいほど様々なお茶が道端の自動販売機や、“こんびにえんす・すとあ”や“すーぱーまーけっと”で売られており、逆に驚いたほどである。
ハルナ殿はあまり酒を飲まぬようだが、昨今のおなごときたら酒は酒呑童子の如く浴びるように飲み、洋袴を腰まで落としたおのこと肩を抱き合い煙管(煙草というらしい)を咥えて公道を歩いたりと、昔ながらのしとやかな大和撫子はハルナ殿に言わせれば「絶滅危惧種」であるらしい。
「渋谷」なるところに行けば、なんと化粧で顔を炭のように真っ黒に塗りたくったおなごがいるとか。
なんと嘆かわしい時代に生まれてしまったことか…。
「私ね、結構古風な女なのよ」
唐突なハルナ殿の言葉に顔を上げると、頬杖をついたままハルナ殿がくすりと笑った。
「元カレと別れた時にね、ウザイって言われたの。女房気取りでいろいろして気持ち悪いって」
「も…もとかれ?うざい?」
「前付き合ってた男と別れた時、お前は女房気取りでいろいろ世話焼きすぎて鬱陶しいって言われたの」
なんと…ハルナ殿は後家であったか。
しかも夫に離縁されたとな…。
「ちょっと、アンタ何か勘違いしていない?元カレって単に付き合ってただけよ」
「め…夫婦の仲ではなかったのか?」
「今時最初から結婚前提で付き合う若い連中なんか奇特よ。気が合ったから付き合っていただけ」
「は…はあ…」
よくわからぬが、婚前に親の許しも得ず若いおのことおなごが男女の仲になったりするということか…。
「あたしはただ彼に美味しいご飯を作ってあげたくてさ…料理の本買っていろいろ勉強したの。洗濯も掃除も彼の身の周りの世話だと思えば楽しかったわ。…だけどウザイって言われちゃったのよねぇ…」
「それは腑に落ちぬのう…。おなごの心がけとしては立派ではないか」
ハルナ殿の作る食事の大雑把さは兎も角、心がけだけは見事なものであると思うのだが…。
「ねぇ、がくぽ、どうしてあたしが彼のためにいろいろしてあげたかったかわかる?」
「それは…おなごたるものの心がけであるからして…」
「バカ」とハルナ殿は俯いて笑った。
何度言われても聞き慣れない言葉である、この「馬鹿」という言葉は。
「うつけ」や「たわけ」と同じ意味だが現代では軽々しく使われ過ぎではないのか。
「田舎侍」と侮辱された浅野公が殿中で抜刀したという話は毎年なぜか年の瀬にてれびどらま化されるということだが、ハルナ殿の年の頃では詳細を知らぬ者も多いという話で驚く。
「がくぽにその理由がわかればあたしもイラつくことなくがくぽのためにご飯作ってあげられるのにね」
「わ、我は…ハルナ殿をイラつかせておるのか?」
「さあね?あたしは別にがくぽのこと嫌いじゃないよ」とハルナ殿は狐のように目を細めて笑った。
「さ、おつかいに行こうか。今夜はご馳走よ」とハルナ殿が立ち上がった。
「カツオのお刺身に海老の酒蒸し、メインディッシュはホタテと野菜のカレースパイスソテー。海の幸で行くわよ」
「それは鏑木殿の好物でござるか?」
「そ、たーくん海育ちだから海鮮料理好きなのよ」とハルナ殿が“ういんく”する。
今日は鏑木殿が様子見にやってくるのである。
「では着替えを…」
「あのびらびらした服はやめてよね。あたしが買ってあげた服を着てね」
ハルナ殿が我のために用意してくれた衣装は“じゃーじ”という舶来素材の仕事着である。
「オシャレ着よ」とハルナ殿は言うが、どう見ても大工の仕事着にしか見えないし、元は作業着だという。
しかし我の衣装が往来では目立ちすぎるということはもっともな指摘なので、それを着るしかない。
姿見で見ても我に似合っているとは思えないのだが、マスターの意向には逆らえない。
また扇子で口元を隠して溜息をついた我を見て「さっさと着替えてらっしゃーい」とハルナ殿は笑った。


鰹か…我は鰤という魚を食してみたいが、季節外れだという。
ともあれ肉よりも魚のほうが我の口には合うので助かる。
ハルナ殿に連れて行ってもらった築地魚河岸の鮨は誠に美味かった。

…それにしても、ハルナ殿の言う「理由」とはなんであろう?
我があなくろい…時代錯誤なのは、“い○たー○っと”社がそう作った、いわば仕様である。
だが、我は何か気付かぬところでハルナ殿にマスター以上の負担をかけているのであろうか?
世話になる身、できればハルナ殿に余計な負担は与えたくない。


茄子紺色の“じゃーじ”を着て行くと、「やだ、すごい似合ってる」とハルナ殿は笑った。

 

 

 

 

 

 

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短いですが、がくぽとマスターの共同生活の始まり。

ナッスナスは外せなかろうと思って茄子紺色のジャージにしました!笑

がくぽの話し言葉を書くのがすごく楽しいです。

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