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vol.3-1⑤Nakadashi

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taka18r

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vol.3-1⑤Nakadashi


 ひとりでは間がもたない。ぼくはテレビの存在に気が付いて、リモコンをつかみスイッチを入れる。チャンネルを次々変えていくと、突然アダルト映像が映しだされる。
 思わず見入ってしまう。股間のムスコも元気を取り戻してきた。が、晶良が出てきたときにこれを見ていたのでは、さすがにバツが悪い。すぐにチャンネルを変えてしまう。
 シャワーの音がやみ、ドライヤーがうなっている。音が聞こえなくなってから少し間を置いて、バスタオルを体に巻いた晶良がドアを開けた。
 晶良は窓に近寄り、カーテンを開ける。
「ねぇ、こっちきて。とってもきれい」
 ぼくはテレビを消して、晶良に引き寄せられる。そっと肩に手を置き、
「ほんとだ。東京の夜景もいいもんだね。でも…」
「? でも、何?」
「晶良さんのほうがきれい」
 いつもなら頬を赤く染めて、ばか、と言う晶良が押し黙っている。
「晶良さん?」
「…ねぇ。アタシ、もっとアンタと愛し合いたい…。アタシ、いやらしい女かな?」
「そんなことないよっ! ぼくだって気持ちは同じだよっ」
「嫌いにならない?」
「ならない! もっと好きになったよ」
 そう言うと、晶良はいたずらっぽい笑みを浮かべ、上目遣いにぼくを見て、
「へぇ~、アンタって、いやらしい女のほうが好きなんだぁ」
「晶良さん、ずるいっ。自分から話振っといてぇ」
「フフフ。ごめんごめん」
「ぼくはね…」
「ん?」
「いやらしい晶良さん、大好きっ」
 晶良が何か言う前に唇をふさぐ。晶良はすんなりキスを受け入れ、つま先立ちして腕をぼくの首にまわしてくるぼくは晶良の腰に手をまわし体を密着させる。キスしたまま少しずつ移動し、ベッドに座る。
 さあ、まずはどこに攻撃目標を定めようか、と思った瞬間、あることに気が付いた。
(いっけないっ!)


(スキン、補充してない。さっきのが最後の、だった…)
 焦りが動きを止めたのがわかったのか、晶良が何かを察して聞いてくる。
「どしたの?」
「えっと…、スキン、ないんだ…」
 晶良は目を伏せて考え込んでから、
「…いい、よ。つけないでも。たぶん、だいじょうぶ、だと思う」
 考えてもみなかった展開に、うれしさよりも心配が先にたつ。
「ほんと? ほんとに、いいの? だいじょぶ、なの?」
「うん…。生理、終わったとこだから…」
 したくて、やりたくて、どうしようもないのだけれど、
「無理してない? ほんとにいいの?」
 と晶良を気づかって聞いてしまう。
「アンタとね、こういうことするようになってから、生理の周期が少し早くなったんだ。アタシ、アンタに変えられちゃったみたい」
「晶良さん…」
「いいの。アタシ、もう、アンタのいない人生なんて考えらんないもん」
「子供、できちゃったら、…ぼく、働くよ…」
「ばか。だいじょうぶ、よ。きっと…」
 ぼくは返事をする代わりに晶良を抱きしめた。まだ濡れている髪の毛を撫で、頬と頬をすり寄せる。
 いったん体を離し、バスタオル越しに胸に触る。晶良から力が抜けたのがわかった。ゆっくりとバスタオルを外し、乳首にキスをする。唇ではさみ舌で舐めあげると、
「はぁ~ん」
 たまらず晶良が漏らす。手を肩にかけて、そっと押し倒す。右足を晶良の足の間に入れた体勢で覆いかぶさる。
「んん…んっ!」
 桜色の乳首を口でもてあそびつつ、右手でもうひとつの乳房をソフトに揉みしだくと、晶良は快感の波に身を任せ、声を押し殺して吐息を漏らす。
 ぼくは体を少しずつ下げていく。それにつれて、手も、口も、攻撃目標を変えていく。脇腹を掌でさするように愛撫し、唇と舌は滑らかな肌をくまなく這いまわる。
「はぁ…ぁん…あぅ…んんっ…あっ…いいっ! あっ、あっ、あぁっ」
 絶え間なく響く晶良の喘ぎ。


 黒い柔毛が形づくる逆三角形を見ていた。晶良の両太腿を肩に乗せているため、そこは無防備に全体を、そしてかすかに内部をのぞかせている。
 晶良は両手を伸ばして、そこを隠そうとし、
「だめぇ…、あんまり見ちゃ…、恥ずかしぃ…」
 上ずった声が聞こえる。それを無視して、ぼくは晶良の足を広げていく。
「いやぁ…」
 晶良の手首をつかみ指を絡めて左右に広げ、秘所をあらわにしていく。それから舌で割れ目をなぞった。
「ひっ!」
 ビクっとして上体をのけぞらせ、短く鋭い声をあげる晶良。間髪を置かず舌はクリトリスを舐め、そこに唇が攻撃参加する。
「あっ! あぅっ! あっ! あ──っ! んあっ!」
 声が左右にぶれている。きっと快感に耐えきれず、顔を振っているのだろう。晶良の背中は浮き上がりっぱなしだ。
「あぁ───っ! んあっ!」
 ぶるっと体を震わせてから、晶良の背中がベッドに戻った。唇と舌を離し、顔を上げる。
「はぁっ、はぁっ、はぁぁぁ、…あふっ、はぁっ」
 晶良の荒い息遣いが聞こえる。それが少し落ち着いてきたところで、ぼくはさらに大胆な行動に移る。晶良の足を持ち上げ、二つ折りにする。ぼくの唾液と晶良の愛液で濡れた秘所がてらてらと鈍く光を反射する。
「あぁ…、やぁ…、だめぇ」
 晶良は顔を横に向けて、本当に恥ずかしそうに声をこぼしている。
 ぼくは大きくチュっと音をたてて、そこにキスをする。続いて肉襞を左右に押し広げるように舌を動かしていく。さらに、えぐるように舐め、深みを目指した。
「───っ! んぐぅっ! あぁぁぁ、あんっ!」
 いままで聞いたことのない晶良の声。とても興奮しているのを自覚する。
 指を攻め手に加える。止めどなく染み出てくる愛液の泉に侵入した指に、晶良は声と体で反応する。
「あひぃ…、ぃやぁぁぁ…、んあぁあぁっ!」
 ぼくの指はクリトリスをこすりあげ、晶良を快楽の淵に追い込んでいく。


「んんん───っ、んあぁ──っ!」
 晶良の体がビクビクっと震え、声にならない声が絞り出される。それから、ふっと力が抜け落ちた。
「ぁぁぁ…、はぁぁ…、はぁぁぁ…」
 今度は意識をなくしてはいないみたいだ。ぼくは中腰になって前かがみになり、急角度で天を仰ぐムスコを右手で押し下げて、晶良の秘所に押し当てる。
「晶良さん、入れるよ」
「あぁ、あぁぁ…」
 腰をゆっくり下げる。ずぶずぶと音をたてそうな光景だ。晶良は潤んだ目でじっと見ている。亀頭が埋没する。
「あっ!」
 さらに腰を下げていく。晶良の声が部屋に響く。
「あぁぁ…、は…入って…くる、アンタがアタシに…入ってくるよぉ…あぐぅ、んあぁっ!」
 晶良との距離がゼロになる。全部、入った。
「あぁ…、好き…、愛して…、アタシのこと、い…っぱい…、愛してぇ」
 無理な角度で挿入しているムスコは、晶良の中で反り返ろうとして脈動する。そのたびに晶良が声をあげる。
「あっ! んあっ! あぅっ! あっ!」
 そろりと腰を上下させる。あまり速くは動かせない。ベッドも、晶良も、そしてムスコも軋んでいるからだ。それでも晶良にはかなりの刺激のようで、
「あぐっ、ひっ! あぐぅっ、だめっ、ぃやぁっ、変に…なっちゃうぅぅ」
(入ってるところがまる見えで、すごくいやらしい…。でも、ぼくの、折れちゃいそう…)
 たまらず膝をベッドにつき、体を前に投げだす。しがみついてくる晶良。ぼくは快感をむさぼるべく晶良をえぐる。深く浅く、浅く深く、ときにはこねまわすように晶良を犯す。
「あっ、あぅっ、あ───っ! んぐぅ、んあっ! あっ、あっ、あっ、…あっ!」
 しばらく正常位で晶良を楽しんだ後、ぼくは動きを止め、ムスコを引き抜いた。
「あっ…、えっ? どしたのぉ?」
 突然の行動に不安そうな晶良。ぼくは晶良の腰をやさしくつかみ、じりじりと裏返していく。
「晶良さん、後ろ向きになって」
 ぼくのしたいことを理解して、黙ってうつぶせになる晶良。


 まず首筋に軽く歯を立て、鎖骨、肩甲骨のあたりに舌を這わす。背骨に沿って舌を小刻みに震わせながら舐め下りていく。左手は脇腹からお尻を触るか触らないか、微妙な感覚で撫でている。
「あふぅ、ああん、あんっ! あっ」
「お尻、上げて」
 ウエストをつかみ、ぐいっと引く。
「あぁ…、いやっ」
 恥じらう晶良だが、抵抗はない。というより、力が入らないようで、膝はがくがくと震え不安定だ。
 ぼくはかわいいお尻にキスしながら、右手の人差し指を秘所に差し入れた。晶良は頭を上げ、
「あんっ!」
 と、かわいい声を聞かせてくれる。それだけで、ぼくはもう我慢できなくなっていた。晶良の足の間に膝を割り込ませて押し広げる。そうして再びムスコを挿入。今度は一気に貫いた。
「あ──────っ!」
 休まずに出し入れを繰り返す。ストロークは大きい。
「あっ、あんっ、あぁんっ、あっ、んあっ、あっ」
 ムスコが奥に当たるたび、晶良が声をこぼす。その声に興奮して、腰のスピードが上がっていく。
 パンっ、パンっ、パンっ、ずちゅ…、パンっ、ぢゅっ…、パンっ、パンっ
 晶良の喘ぎに混じって、いやらしい音が部屋の壁に反響する。ぼくは直線的に動くのをやめ、深く挿入したまま腰を回転させる。
「んっ! んあっ! あんっ!」
 絞り出すように喘ぎ、ビクっと震えてから、晶良はゆっくりと崩れ落ちた。右の頬をシーツにつけ、半分だけ開いた目はうつろだ。
 ぼくは快感をむさぼるのにすっかり夢中だった。腰の回転に加えて、抜き差しする。
「はっ、はっ、はぁっ、はっ、はぁぁっ」
 晶良は酸欠になったように、口を開いて息をしている。その苦しげな表情を見て、我に帰った。ムスコをそろりと引き抜き、晶良を仰向けに寝かせる。
「ねぇ…、やさしく…、やさしくして」
「うん。ごめんね、晶良さん」
 再び正常位になり、気持ちを込めて挿入。晶良の唇に柔らかくキスした。


 やさしくして、と言われても、行為自体に手加減を加えるつもりはないし、男の下半身に理性なんかない。ひとたび動きだせば、やさしくなどとはとてもいえないほど荒々しく攻めたてる。
 だからといって、晶良がそれを拒絶しているかというと、全然そんなことはなかった。これまで知らなかった快楽の波がとめどなく押し寄せ、それに身を任せるかどうか躊躇しているかのようなのだ。
 ぼくは晶良の反応を見つつ、腰の動きに緩急を加える。
 そうこうしているうちに限界がそこまで迫ってきた。ムスコは晶良の奥へ奥へ入り込もうとして、いっそう激しい腰の動きを要求する。
「熱いっ、熱いよっ、晶良さんの中…。溶けちゃいそうだよっ」
 うめくように言い、目を閉じてこらえようとするが、もう、無理だった。
 急激に立ち上がる射精の欲求。
「あぐっ、あぅっ! あぁぁっ、あっ! あっ! あ────っ!」
「いくよっ! 晶良っ…、いくっ!」
 大きく口を開き絶叫する晶良の声を聞きながら、ぼくは大量の精液を勢いよく晶良の中に放った。
 体をのけぞらせ、ぼくの背中に強く爪をたてていた晶良からフーっと力が抜ける。
「晶良さん?」
 呼びかけるが反応はない。目を閉じた晶良の横顔に、ぼくの額から汗が数滴落ちた。
 荒く息をしながら、晶良を見下ろす。その、なんともいえない事後の表情を見ていたら、
「あ~、SEXって、こんなに気持ちのいいものなんだぁ…」
 と声に出していた。しばらくじっとして息が整うのを待つ。
 数分の後、晶良が
「う…うぅ…」
 と、うめくように声を発して、うっすらと目を開けた。
「あぁ…、アタシ…」
「晶良さん、愛してるよ」
 そう言って唇を重ねる。それからまぶたにキスし、
「よかった?」
 と聞いてみる。晶良はこくんとうなずいて、また目を閉じてしまった。
 しばらくして、晶良が、
「まだ…入ってる、ね」
「うん、ずっと晶良さんの中にいたい」


「意識が…飛んでっちゃった…みたい…」
「気持ちよかったの?」
「ん~、よく…わかんない…けど、たぶん…」
「ぼくは…、ぼくはね。すっごく気持ちよかったよ」
「うん。よかったぁ」
 ニコっとして、すぐに目を閉じてしまう晶良。ぼくは右手を伸ばして肩をつかみ、それに気づいて目を開けた晶良の唇を求めた。半分だけ目を閉じて応じる晶良。
「ん…んん…ぅん」
 舌を入れると、自分の舌を絡みつけてくる。射精したとはいえ硬度を保っているムスコを少しだけ動かしてみる。
「ぅん…、ぁ…ん」
 右手で胸を軽く揉む。
「はぁ~ん…だめぇ」
 キスから逃げて、ちょっぴり抗議の色をにじませて晶良がぼくを見る。
「だって…かわいいんだもん」
 晶良の目線をかわして横を向いてつぶやく。
「もぉ~。ばか」
「えへへ。でも、ほんとだもん」
「あぁ…。好き、大好き」
 と言って強くしがみついてくる晶良。ぼくもきつく抱きしめる。と、思い出したように晶良が
「シャワー、ねぇ、シャワー浴びなきゃ」
「…あっ、そうだっ。晶良さんの中に出しちゃったんだっ」
 慌ててムスコを引き抜く。
「あぁん」
 と晶良が漏らす。ぼくはティッシュを箱ごとつかんで3回引っ張り、それを精液が流れ出してきた晶良の秘所に押し当てた。
「自分でやるよぉ」
 と恥ずかしげに言う晶良に一瞬ためらったが、自分用に2回引っ張ってからティッシュの箱を手渡した。


 晶良に背を向けてムスコを拭う。晶良が
「ねぇ。シャワー、一緒にいこ?」
 と誘う。ぼくは晶良のほうに向き直り、上半身を起こした晶良に腕を伸ばして抱き上げた。
「アンタって…意外と力、あるね」
 感心したように、うれしそうに晶良が言う。
「見直した?」
「うん。あっちばっかり大人じゃないんだなって」
「え? あっち、って?」
「エッチ」
 意味を理解して赤面してしまう。照れ隠しに
「あ、晶良さん、ドア、開けて」
「ウフフ、はいはい」
 いたずらっぽく笑む晶良が、このときばかりは年上だと感じた。
 バスタブの中に晶良を降ろす。晶良の太腿には拭いきれなかった精液がしたたっている。晶良はシャワーからお湯を出して、
「アンタもこっちきなさいよ」
 と、ぼくを呼ぶ。バスタブに入ると晶良はムスコに手を伸ばし、シャワーを浴びせて
「熱くない?」
 と聞いてくる。
「うん。でも、晶良さん、先に洗って」
「いいの。いま洗ったって、子供できちゃうんなら、手遅れだって」
(怖いこと、言うなぁ。ほんと、女のほうが度胸ある…)
 さすがに2回出しただけあって、晶良の愛撫、じゃなくて丁寧な指使いを受けてもムスコは元気にはならない。
「へぇ~。こんなにフニャフニャしてるんだぁ」
 興味津々といった様子で晶良は熱心にお湯を浴びせる。
「男はみんな、こうだよ。その、たぶん…」
「あのときは、あんなに硬くて大きくなるのに…。なんか不思議」


 シャワーを終え、備えつけの寝間着を身につけて、2人でひとつのベッドに入る。
「あっちのベッド、部屋に入ったときのまんまだね」
 ぼくが話しかけると、
「何してたか、まるわかりだよね」
 晶良はおかしそうに言う。なんとなく照れてしまい、
「そ、そうだね」
 と口ごもってしまう。なにげなく足を動かすと、そこだけ冷たくなっていることに気付く。
「あれ? 足元のところ、なんかこぼしたっけ」
 そうつぶやきながら体を起こして見てみると、シーツが直径30㎝ほど濡れている。
「?」
 首をかしげていると、晶良が赤面して
「い、いいからっ。気になるならバスタオル持ってきて敷きなさいよ」
 と早口で強く言う。
「あ、うん」
 ぼくは自分の体を拭いたバスタオルを濡れた部分が隠れるように敷く。そこで、
「あっ」
 気が付いた。晶良は知らんぷりしてる。
(晶良さんの…だったんだ、これ)
「さ、寝ましょ」
「うん。ねぇ、晶良さん。あした…って、もう、きょうか。何時に起きる?」
「う~ん。お昼には家に帰ってたいし…、8時に起きて朝食、食べよ」
「そだね。バイキングだっけ、朝食。ちょっと楽しみ」
「ふぁ~。眠たくなってきちゃったぁ。きょうはよ~く眠れそう」
「じゃあ、晶良さん。おやすみ」
「ん。おやすみなさい、…ん、ぅぅん」
 おやすみのあいさつにしてはちょっぴり濃厚なキスをして、明かりを消した。いろいろなことがあった1日の疲れがどっと出て、2人ともすぐに眠りに落ちた。


 翌朝8時。けたたましいアラームの音で目覚め、飛び起きる。
「おわっとぉ」
(あれ…、ここ、どこ?)
 アラームにはびくともしなかった晶良が、ぼくの声に反応し、
「ん~。なに大きな声出してるのよ」
 と聞いてくる。
(あっ、そうか。晶良さんと赤坂プリンセスホテルに泊まったんだっけ)
 ようやく意識が覚醒し、見慣れぬ光景と記憶が一致した。晶良が上半身を起こし、
「ん~、よく眠ったぁ」
 と伸びをしながら声に出す。それから、目をパッチリと開き、ぼくに向かって言う。
「おはよ」
「あっ、おはよー」
 少し寝乱れた寝間着が色っぽい。そんな視線を感じ取った晶良はさっと乱れを直し、
「すけべ。…ね、おはようのあいさつは?」
「えっ? いま言ったけど…」
「んもぉ。全部、言わせないの!」
 そういって晶良は目を閉じて少し顔を持ち上げる。やっと気付いて、唇を重ねた。舌を入れようとするが、晶良は唇を閉ざしている。顔を離し、
「なんで?」
「だぁめ。歯磨きしてから、ね」
 2人、並んで歯を磨く。顔を洗って飛沫を飛ばし、また怒られる。逃げるように洗面所を出て、さっさと着替えをすませた。さすがに浴衣は着られないので、きのう家を出てきたときの格好だ。
 晶良も出てきて、イエローのワンピースに着替える。向き直った晶良を抱きすくめ、濃厚なキスをした。
「晶良さん、かわいいね、そのワンピース…」
「ん? なに?」
「脱がしちゃ、ダメ?」
「ダメっ! 朝からなんて、できません!」
「ちぇ~っ」
 がっかり、だ。ムスコは準備OKとばかりに勃起しかけているというのに…。


 先にチェックアウトを済ませてからレストランに入る。入り口で朝食のクーポンを女の人に渡しテーブルに着いた。
「さあ、食べましょ」
「そうだね。バイキングって初めて。何食べよっかな」
 席を立ち、いろいろな食べ物が乗った大皿がずらりと並ぶテーブルに向かう。
「う~ん。パンもいいけど…、やっぱり朝はご飯に味噌汁、それに納豆、焼魚にハムとウインナーだな」
「アタシは…洋食! クロワッサン、サラダ、スクランブルエッグにベーコンと、…もう1回、取りにこよっと」
 テーブルに戻って、いっぱいに料理を乗せたトレイを置き、再び料理を取りに行く。
「何人できてるんだか、わかんない量と種類だね」
 と言って笑う晶良。
 前夜のセックスのせいか、かなりお腹がすいていた。おしゃべりもせずにひたすら食べる。ご飯を2度おかわりしたのを見て晶良は目を丸くして驚く。
「よく食べるね~」
「だって、育ち盛りだもん」
 そう言って、フルーツを山盛りもってくると、
「見てるだけでお腹いっぱい。ごちそうさま」
 と晶良は呆れたように言う。デザートを平らげ、
「晶良さん、なんか飲む?」
 と聞くと、
「あ、アタシ、アイスティ飲みたい」
「ん。取ってくるね」
 自分用のアイスコーヒーも取ってテーブルに戻ると、ウエイターさんがテーブルを片付けてくれていた。落ち着いたところで、晶良が表情を曇らせて切り出した。
「ねぇ。しばらくアンタと会うの、よそうと思うの」
「えっ、どうして? ぼくのこと、嫌いになったの」
「ううん、違う。そうじゃなくて、アンタと会ってると受験勉強なんて、どうでもよくなっちゃいそうだから…」
「うん」
「だから、とってもつらいけど、当分の間、勉強に集中しようと思うの」


 ほんの少しの時間の中で、ぼくの脳は急激に動く。
(年下なんだから、泣きそうな顔してイヤだって言おうか。いやいや、やっぱりここは男らしくしなきゃ)
「わかったよ、晶良さん。会えなくなるのは、すっごくつらくて我慢できないことだけど、晶良さんのためだもん、仕方ないよね」
「ごめんね。アタシも我慢できるかどうかわかんないけど、頑張るって決めたんだ」
「そうだよね。でも、晶良さん。電話しちゃダメ? メールは? どれくらい会えないのかな?」
「う~ん。アタシのほうが先に電話しちゃいそう…。でも、声聞いちゃうと、絶対会いたくなっちゃうだろうし…」
「じゃあ、週末だけ。土曜日には声聞かせて」
「ん。いいよ、わかった。メールも毎日だと困るけど、時々はほしいな」
「うん。できるだけ我慢する。だって、愛する晶良さんのためだもん」
「ありがと。あのね…、夏休みが終わったら…」
「終わったら?」
「また、デートしよ」
「うん! あ~っ、早く夏休み、終わんないかなぁ」
「ばか」
「えっ…、あは、あはははは。まだ夏休みになったばかりだったよね」
「9月かぁ、待ち遠しいなぁ。ねっ、来年はさ、2人で海行こうよ」
「いいね。…って、晶良さん。ちゃんと女子大生になっててよ。浪人してて、暗~い海なんてヤだかんね」
「あっ、こいつぅ、生意気言うな。アタシ、やるときはやるんだかんね」
「信じてる」
 手をつないでホテルを出る。とたんに真夏の暑さが襲ってきた。晶良はつないでいた手を振りほどいて、
「あっつ~い! ごめんね、手に汗かいちゃうから…」
 申し訳なさそうに言う。
「晶良さん、帽子持ってたよね?」
「あっ、そうだ」
 と言って、紙袋から麦藁帽子を取り出す晶良。
(ほんとにかわいいなぁ、晶良さん。あ~あ、とってもつらい1か月半になりそう。はぁ~)
 さよならをした駅で、ぼくは晶良の後ろ姿が小さくなっても、じっと見送っていた。

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