あちゃぞうさんから「狙われた女教師」というタイトルで回ってきたので、まだまだ在庫(在庫?)に余裕のあるメフィスト賞作家の中から、男一匹古処誠二の「少年たちの密室」をチョイスしてみた。
ところで、この感想を書いている本日は七夕である。であれば、筆者の作品で同じく「し」で始まる「七月七日」を選んだ方が趣きもあるってものではないだろうか?
それを選ばなかったのには理由がある。その理由というのは、いや、講談社ノベルスじゃないからとかじゃなくて・・・・・・、本当はあちゃぞうさんからは「しょ」で回ってきたから。いくらなんでも「狙われた女教師」はないだろう。というか、適当にでっち上げた。こんなタイトルの作品があるかも定かではない。(調べてみたらあった)(調べるなよ)(あと、あちゃぞうさんごめんなさい)。
・・・・・・さて
本書は、講談社との契約3冊できっちりミステリから離れてしまった(どころか講談社自体から離れてしまった)筆者の、戦争も自衛隊も絡まない唯一の作品で、今となっては貴重とも言える1冊である。
実際に起こった東海大地震をベースに、高校のクラスメート5人と教師が、マンションの地下駐車場の閉じ込められるという極限状態の中で起こる密室殺人が描かれている。
本書では、極限状態とその中で発生する殺人事件、その両者が作用した人間の心理が巧みに描かれている。このあたりはの巧さは、現在書いている戦争物においても垣間見ることが出来るが、実際に戦争を体験している世代からみると、どうもリアリティがないらしい。先に名前を挙げた「七月七日」が直木賞を逃した理由がそこにある。
僕は青春物3割増のタイプなので、筆者のベストには迷わず本書を挙げるのだが、トリックの良し悪しは別としても、あまりの口当たりの苦さに読み手によってはだいぶ評価が分かれる作品であろうとは思う。まぁ後味は相当悪い。同じタイプの作品であれば、谺健二の「未明の悪夢」(こちらは阪神大震災がベース)があり、この作品も後味は悪い方ではあるが、本書と比べれば、まだ受け容れられやすいのではないだろうか。
ただ、ともすれば生理的な嫌悪感すら呼びかねない後味の悪さに勝るとも劣らない感動が潜んでいることも事実だと思う。読後の感情がどちらに転ぶかはわからない。だが、一読の価値がある作品であることは間違いないだろう。
あなたが本書を読んだ際には、その「感動」が後味の悪さを超えるものとなることを祈らずにはいられない。
ところで、先に発表された直木賞の候補に、筆者の「遮断」がノミネートされた。今度こそメフィスト賞出身の直木賞作家が誕生するかもしれない。そう、今日は七夕だ。短冊にはこう書こうじゃないか。
「伊坂幸太郎が直木賞を取りますように」