佐々木丸美さんの書籍は実に探しにくい。図書館によって全然違う分類をされているからだ。殺人事件だトリックだ言っているという理由で推理小説の棚に入っていたり、超常現象が起きるのでSFの棚に入っていたり。
個人的には、彼女の作品は「恋愛小説」であると思う。トリックだのテレパシーだの前世だの超心理学だのの描写は、全て彼女流の「恋愛」を描くための材料にすぎない。だから、一見して胡散臭いオカルティックなエピソードでも、恋愛を軸にして考えれば不思議なほど自然に受け入れられてしまう。
個人的には、彼女の作品は「恋愛小説」であると思う。トリックだのテレパシーだの前世だの超心理学だのの描写は、全て彼女流の「恋愛」を描くための材料にすぎない。だから、一見して胡散臭いオカルティックなエピソードでも、恋愛を軸にして考えれば不思議なほど自然に受け入れられてしまう。
それにしても、これほどまで読むたびに印象が変わっていく本も珍しい。読み手自身の成長に合わせて、個々のシーンのもつ意味も変わっていく。たとえば恋愛に関しては、中学生の時に初めて読んだときは少女の純粋な恋が大人の汚い策略で汚されていくことを憂いだものだった。高校生で読んだときは、玉虫色の態度で女心をもてあそぶ男のずる賢さに憤慨した。大学生で読んだときは、無邪気を装う女性側にもまた計算高い媚びが見え隠れしていることに気づいた。そして今回読み返したら、双方の小賢しい駆け引きを全て包括して、それでも恋愛とは尊い感情なんだと思えるようになった。私も歳を取ったものである(苦笑)
もう1つ、読み返して気づいたことがある。それは本著に出てくる最大のブラックボックス「遺産」についてである。本著では、その遺産の内容が、恐らく何かすんげー宗教や芸術までもを繋げてしまう物理理論のようなものなんだろうと推察できるものの、その具体的な内容には一切触れていない。昔読んだときは、これが不満だった。伏線を張るだけ張ってフォローなしかよ!と。そして、次回作でこそ遺産の正体が明かされるのではないか、と望みを託しては結局明かされずに失望し、あろうがことに作者が断筆してしまってからは行き場のない怒りに打ち震えたものだった。
しかし、今読んでみると彼女は、遺産の内容を書くつもりどころか、小出しにして読者を引きつけようとさえ考えていなかったのでは、と思う。むしろ、そんなバカらしいブラックボックスに振り回されて人生を狂わせる人間共の滑稽さのほうが書きたいことだったのかもしれない。
答えが知りたくて哲学の本を読みふけった上、そのまま大学院まで行ってしまい、就職口を失い人生が狂ってしまった私は、まさにその滑稽な人間共の一員であったわけだ。ばかばか!死んじゃえ!>当時の自分
答えが知りたくて哲学の本を読みふけった上、そのまま大学院まで行ってしまい、就職口を失い人生が狂ってしまった私は、まさにその滑稽な人間共の一員であったわけだ。ばかばか!死んじゃえ!>当時の自分
ちなみに「橡家の伝説」は一応単体でも読めるものの、実質は「館シリーズ」と俗に言われているシリーズの中の1作なので、興味を持たれた方はできれば順番通りに「崖の館」→「水に描かれた館」→「夢館」→本著、の順で読むことをオススメします。
最後になりましたが、昨年末に56歳の若さで急逝した筆者の佐々木丸美さんに、心より追悼の意をささげます。私に読書の歓びを教えてくれて、本当にありがとうございました。自分もどうにか天国に行けるように頑張りたいと思いますので、それまでに新作を書いて待っていてください。断筆とかツレないことを言わないで、ひとつよろしくお願いします。