●「リアルワールド」桐野夏生
本作を読んで、なんとなく思い出したのが、綿矢りさの「蹴りたい背中」である。
「蹴りたい背中」の主人公ハツは、クラスメイトたちの上辺だけの友達ごっこにウンザリして、端からクラスに馴染もうとしないオタク少年の生き方に救いを見出そうとしていたが、本作の主人王であるトシやキラリンたちが救いを見出そうとした少年は、オタクどころの話じゃない。下着ドロボウの覗き犯の親殺しという、正真正銘の犯罪者である。彼の逃亡を手助けすることで、社会に対する優越感を抱いていたキラリンたちは、「蹴りたい背中」のハツに比べるとまた一段と男の趣味が悪い(w
「蹴りたい背中」の主人公ハツは、クラスメイトたちの上辺だけの友達ごっこにウンザリして、端からクラスに馴染もうとしないオタク少年の生き方に救いを見出そうとしていたが、本作の主人王であるトシやキラリンたちが救いを見出そうとした少年は、オタクどころの話じゃない。下着ドロボウの覗き犯の親殺しという、正真正銘の犯罪者である。彼の逃亡を手助けすることで、社会に対する優越感を抱いていたキラリンたちは、「蹴りたい背中」のハツに比べるとまた一段と男の趣味が悪い(w
物語の前半では、友達と遊んだり勉強したりという「リアルワールド」と、フィクションの如き少年の逃走劇という対比の構造があったはずなのに、話が進むにつれ、普段の生活のほうが幾層もの欺瞞で固められたフィクションだったことが露見してくる。そして、主人公たちの価値観の揺らぎとともに、少年の地位も「英雄」になったり「ただの非モテ童貞」になったり、決してその変化は直線的ではなく、二転三転する。この揺らぎにとても説得力があり、実際にあった事件のような錯覚すら覚えてくる。
「非モテ童貞」の少年は、びっくりするくらい醜くて頭が悪い。そして、醜くて頭が悪いが故に、それなりの現実感がある。我々が普段守ろうとしているリアルは、こんな安っぽい現実感に駕されてしまう程度のものではないはずだ。しかしティーンエイジャー特有の世界の狭さ故に、そのことに気づけなかったのが、彼女たちの悲劇である。