ファンタジー小説、というのが苦手なのです。
どうも、自分と関わりのない世界の話だと感情移入が出来ないみたいで。現世とつながってない世界の歴史とかを語られても興味を抱くことは少ないし、そんな世界で国盗りしようがどうでもいいし、剣とか魔法とか自分が使えないアイテムでどうにかされてもどうにもならないし、みたいな。
で、本作なんですけど、簡単に説明しますと、架空の世界に迷い込んだ主人公が、剣や魔法を使って国盗りをするお話です。これ以上ないくらいビンゴで駄目な点を突いているのに、なぜか読んでいて全然退屈しないで、むしろ大変面白く一気に読んでしまいました。
それは、どこまでもミクロな視点で描かれているからなのだと思います。あくまで1人1人の登場人物が何を思い、どう考えて行動し、個人的な問題にどのように立ち向かって解決していくか、ということをベースにして語られているのです。物語の舞台が架空の世界だろうと、現代の日本だろうと、あるいは過去や未来であろうと変わらない、人間の絆やコンプレックスなどに焦点が当てられています。
だから、世界設定や歴史が語られることも殆どありません。主人公たちは「中の国」で行動しているため、その周りにあるはずの「西の国」「南の国」「東の国」等々は、「西の国」だけは少しだけ描写があるものの(交戦するので)、残りは名前が1、2回出てくるだけで、そこがどんな文化でどんな人々が生活しているのかはブラックボックスのままです。新井素子さんの作品はそういうパターンが多くて、ある意味「元祖セカイ系」と言えるかもしれません。
他の部隊との戦争は割とあっさり勝ってしまうのに、唯一ヒオカの森では自分自身の心の闇にとらわれて沈んでしまったり、全てが個人的な「自分との戦い」に帰着していきます。私が最も「自分捜し」していた中学生の頃にこの本と出会えたのは幸運だったと思います。