【-St.Sera's Temple-】

名も無き南の門

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>*【ランディー 】【ティアナ 】-Intermission-
>
>出会いにはさまざまな種類がある。
>同い年の彼女らにとって、この出会いがどんなものであったか…
>それを窺い知る事は今はできない。
>
>2人の出会いは15の頃にまで遡る。
>
>
>ここは、とある教会に隣接して作られた孤児院。
>「ランディーくん、怪我してるけど大丈夫なの?」
>「うるさいな、僕に構うな!」
>今日もまた、いつもの事がはじまった。
>
>ランディーがここに来てから2ヶ月が経つ。寝床と食事を確保するため、ランディーは様々な施設を渡り歩いていた。この孤児院にもそのつもりでやってきた。
>ランディーが女だと言う事を周囲の人は誰も知らない。名前とその風貌から、誰も疑うことは無かった…。
>
>「でも…せめて治療だけでも…」
>その少女はまだ食い下がってくる。彼女はこの孤児院でも年長の部類に入るためか、何かと世話を焼きたがる。
>「自分でやるからいらない」
>にべもなく断るランディー。少女は目をうるうるさせ無言でランディーを見つめている…。
>「……」
>「…だから構うなってのに…」
>「・・・・・・・・・」
>「……あーもぅ、分かったよ。ほら」
>怪我をした腕を差し出す。とたんに少女の顔がほころぶ。いつも、こんな調子でやり取りが行われる。
>「でも」
>治療をしつつ少女が言う。
>「ランディーくん、最初よりは素直になったよね」
>「…うるさい」
>そっぽを向くランディー。
>「そういうティアナこそ、前よりしつこくなった」
>「わたしは前からずっとこうですよ」
>「嘘つけ、前は『構うな!』って言ったら泣き出したのに…」
>「あれは、誰かさんが鬼の形相で睨んだからです」
>会話をしつつも、作業をする手は休めない。最後に包帯を丁寧に巻いて
>「はい、終了」
>「…まぁ…礼だけは言っとく」
>ぶっきらぼうに返礼し立ち去るランディー。
>ランディーの姿が見えなくなった後、その様子を傍らで見ていた子どもたちがティアナのもとにやって来た。
>「ティアナ姉ちゃん、怖くないの?」
>「そうだよ、あんなにこわーいのに」
>「わたしたちじゃ、ちかよれないよぅ…」
>口々に話し出す子どもたち。だが、ティアナは諭すように話しかける。
>「あのね、世の中には『怖い』人なんていうのは本当はいないの。『怖く』なってしまったのには、必ずその理由があるのよ。その人にはその人なりの事情がね」
>「でも~…」
>「だから、怖がる前にお話をしてみましょ」
>「むぅ…」
>まだ納得できていない子どもたち。その子どもたちに聞こえないようにティアナがつぶやく。
>「…そう…事情がね…」
>
>その頃ランディーは、テラスで足を投げ出して物思いに沈んでいた。
>(まったく…ティアナのやつ…)
>包帯で巻かれた腕を見ながら、ここに来たときのことを思い出していた。
>
>
>「今日からここに来たランディー君です。みんな仲良くしてあげてくださいね」
>院長である修道女からランディーの紹介がなされた。
>(仲良くだって?冗談じゃない!)
>ということはおくびにも出さず
>「ランディーだ、よろしく頼む」
>とだけ言った。
>だが、やはりぶっきらぼうで『愛することも愛されることも知らない』まま育ってきたランディーに、声をかけて来る者はいなかった。ただ1人の例外を除いて。
>「ランディーくん、私ティアナといいます。よろしくお願いします」
>ただ1人声をかけてきたのがティアナであった。
>
>
>「ランディーくん、隣いい?」
>「…またお前か」
>物思いにふけっていたランディーの所にティアナがやってきた。
>最初に話しかけてきた時、煩わしかったので『邪魔だ、あっちにいけ』と言ったにもかかわらず、いまだに会話を試みようとしてくる。
>ティアナはその優しい性格のため、孤児院のみならずこの教会の人々から好かれていた。
>その意味でランディーとは対極に位置していると言ってもよい。
>「なぜ、僕に構おうとする?」
>「隣、座わらせていただきますね」
>「…いやだって言っても座るんだろ」
>「はい」
>この2ヶ月でティアナの性格がつかめた。たしかに優しいが、なよなよとした優しさではない。筋の通った優しさであり、それゆえ頑固な側面も持っていた。だからこそ皆に好かれているのだろう…。
>「子どもたちが怖がってましたよ」
>「…だからどうした?」
>「もう少し優しく接してあげてもよろしいのではないですか?」
>「くだらん」
>「あの子達が欲しいのは、恐怖ではなくて愛情ですよ」
>「怖いなら戦えばいい」
>互いに話が平行線をたどる。ふと、ティアナは思いついたことがあった。
>「…そう言うあなたも、ほんとうは愛して欲しいのでは無いですか?」
>それを言われた瞬間、ランディーの思考が一瞬停止した。
>「な、何を言ってる!そんなものを僕は望んじゃいない!」
>(そうなんだろうか?)
>「だいたい誰にでも優しくできるほうがおかしいだろう!」
>(ほんとうにそう思ってる?)
>「おもてっつらでは優しい顔をしてたって、裏では何考えているかわからないじゃないか!」
>(でも、だからこそ、彼女をうらやましいと思ってるんじゃないか?)
>語彙を強めて話すランディーに耳を傾けながらティアナは言う。
>「だから、お互いに話をすることが大切なのじゃありませんか?」
>「…筋金入りのお人よしかよ」
>そう言ってランディーは立ち上がり
>「もう部屋に戻る」
>と、テラスを後にした。
>
>自室に戻って服を替える。が、いつもここで手が止まる。
>「…はぁ…さらしを巻いておくのもそろそろ限界か…」
>いくら男だと言っていても、体はやはり女である。日々成長していく体だけは止めようが無い。
>「その前に力を身につけるしか無い、か」
>(素性を晒しても、自分の身を守れる力を)
>
>夜中の2時。さすがに誰も起きてはいない。ランディーはそっと自室を抜け出して中庭に向かった。
>この孤児院は少々複雑なつくりをしている。ちょうど中庭だけ、どの部屋からも死角になっているのだ(それ故に、子どもたちが中庭で遊ぶ際には、修道女たちが中庭まで視に来る)。
>ちょうど良い修練の場として、ランディーは毎夜利用していた。汗を流すための噴水もある。
>(まずは…腕立てからやるか…)
>
>「ん…何だろう…水の音がする…」
>寝付けずに、寝床で月明かりを頼りに聖書を読んでいたティアナは、遠くから聞こえてくる音に気付いた。
>音は中庭の噴水のほうから聞こえてくるようだ。
>「泥棒かしら…」
>聖書をもって中庭に向かった。
>
>「ふぅ…やっぱり水浴びはすっきりするねぇ…」
>(ランディーくんの声?)
>今日のノルマを達成し、ランディーは水浴びに興じていた。その心地よさにすっかり油断しているようだ…。
>(ど、どうしよう…一声かけるべきなのかな…で、でもそうすると見ちゃうことになるし…)
>葛藤の後
>ティアナはその姿をこっそりと見てみた。
>(とりあえず様子見…様子見なんだってば)
>
>実を言えば、ティアナはランディーに惹かれていた。同年代の男子に会うことが少なかったというのもあるが、それでもやはり違うものを持つランディーに興味があった。
>
>月光の下、ランディーの銀の髪がますます映えて見える。
>(…綺麗…)
>その美しさに感嘆の息が出る。
>そのまま視線を下ろしいこうと…胸がある。
>(…?)
>錯覚では無いかと思って、目を凝らしてみてみる。胸がある。
>(!?)
>驚きのあまり、手に持っていた聖書を落としてしまった。
>バサッ、と音を立てて床に落ちた。
>「誰だ!」
>さすがに気付いたランディーは、急いで服を着て音の所に向かう
>(しまった…すっかり油断していた…!)
>己の不甲斐無さを戒めながら。
>
>音がしたと思われる場所には誰もいなかった。が、聖書が1冊落ちていた。裏表紙に名前がある。
>「…ティアナ、か」
>
>コンコン、と部屋のドアを叩く。返事は無い。
>「…ティアナ、起きてるんだろ?」
>やはり返事は無い。
>「さっき中庭で見てたろうけど、私は女だ」
>返事は無いが聞いているはずだ。
>「外の世界じゃ、女だってだけで人買いが来るからな。自衛の為だったんだが…」
>カチャっと鍵が開く音がした。
>「…中に入って」
>「あぁ失礼させてもらうよ」
>ティアナの部屋は、性格がそのまま滲み出ている様な、質素ながらも殺風景ではない居心地のいい感じだった。
>「ところで」
>顔を伏せ、ベッドでうずくまっているティアナを見て
>「なんでそんなに落ち込んでるの?」
>と、聞かずにはいられなかった。
>「………から」
>「え?」
>「……たから」
>「はっきり言ってくれないと聞き取れないよ」
>とたんに、伏せていた顔をあげ真っ赤にして言った。
>「だって、好きだったから!」
>涙目になっている。突然の告白にランディーも戸惑う。
>「私が初めて『好き』だと思った『男の子』だったのに…」
>「……私が女でがっかりした?」
>「…ショックではあるよ…」
>「嫌いになった?」
>「…嫌いじゃない」
>「なら問題は無いんじゃないの?」
>それを聞き、笑い出すティアナ。
>「なぜ笑う」
>「……ランディーくんにそんなこと言われるなんて、私もまだまだだね」
>「…それは微妙に馬鹿にされてるような気がするんだけど」
>「だって『構うな』とか言ってたのに」
>「柄じゃないのはわかってるけど、他に言いようが無かったからね…」
>そんな事を話しているうちに空が明るくなってきた。
>「さて…ここともおさらばだね」
>「え…なんで」
>「ティアナにばれるようじゃ、この先他の奴にいつばれるかわからないからね」
>「でも、だからって…」
>「お人好しさんに忠告、世の中には、良い人ばかりじゃないんだからね」
>「でも…」
>「『根』が良くても、幹や葉や花がいいとは限らないんだよ…」
>しばしの沈黙、口火を切ったのはティアナであった。
>「なら…せめてこれを持っていってくれる?」
>そういって衣装箱から取り出したのは[修道女のベール]であった。
>「私はPriestになるつもりなの。その時にこれをかぶるつもりだったんだけど…ランディーくんにあげるね」
>「でも…良いのかい?」
>「これを見て、ランディーくんを好きになったお人好しがいた事でも思い出してね」
>「…売り払おうかな」
>小さくつぶやいたが聞き逃さなかったようだ。
>「何か言った?」
>「何も言ってません」
>「よしよし、素直でよろしい」
>大分、外が明るくなってきた。
>「…じゃ、行くね」
>「うん…気をつけてね」
>「それなりには注意してみるよ…」
>そう言って立ち去ろうとするランディーを
>「あ、最後にひとつだけ」
>引き止めた。
>「なに?」
>「少しは優しくする事・される事にも慣れた方がいいと思います」
>「……一応は聞いておくよ」
>「それじゃあ…お元気で」
>「…あぁ」
>それだけ言って、ランディーは孤児院を去っていった。
>
>
>
>数年後、ティアナは修道女として転職を果たしていた。孤児院の責任者も兼ねている。
>「ティアナさん、また孤児院宛に寄付金がきました」
>後輩の修道女が報告に来た。
>「そうですか…では、いつものようにしておきましょう」
>そう言って衣装箱に寄付金をしまう。
>「でも、不思議ですね。満月の夜の翌日には必ず寄付金が来るというのは…」
>「そんな事もあるものなのですよ」
>「ティアナさんは何かご存知では無いのですか?」
>「いいえ、さっぱりわかりません。ですが…」
>「ですが?」
>「『優しさ』というものに気付いた方がいるのでしょうね、という事ですわ」
>「…はぁ」
>何だか狐につままれたような顔をしてその修道女は部屋を出て行った。
>ティアナは、衣装箱に収められた寄付金を見ながら
>「…あなたも、元気でいるのですね」
>とそっと呟いた。
>

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