Royal Guard

第20話 ロイガ戦隊そるれんじゃー(前編)

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 物事には必然と偶然がある。
 彼女がこのようなことになってしまったのは、必然なのだろうか。それとも偶然だったのであろうか。
 ここに、ある一人の少女のがんばりの物語を記そう。


 アクアリース聖堂。
 ここはゴーストブルーの首都であるアクアリースに位置する聖堂である。
 普段はなんの変哲のない巫女がいるだけの聖堂なのだが、それは表の顔。
 裏では『助手』と呼ばれるフォックスが集う秘密基地となっていた。
 そう、’なっていた’のだ。
 聖堂はその性質上訪れるものが限られている。
 さらに、このカバリア島において宗教というものは広まっていなかった。
 そのため、このアクアリース聖堂に訪れるものなど皆無だったのだ。
 助手たちにとってそれは好都合であり、すぐさまその長である助手Aはアクアリース聖堂を乗っ取り、『助手連盟』を名乗った。
 助手連盟の目的は、さびれつつあるカバリア島の復興と、助手の増大である。
 腕のたつフォックスを集め、最強の部隊を結成するための礎とするのだ。
 しかし、それを『天翔獅子(あまかけるしし)』は許さなかった。
 天翔獅子はその名の通り、獅子のみで構成される秘密結社である。
 その天翔獅子の目的とは、カバリア島を獅子でうめつくすこと。他の種族の絶滅である。
 ここで他の種族というのは、バニー、バッファロー、シープ、ドラゴン、フォックス、ラクーンそしてキャットである。
 その目的ゆえに、助手連盟は邪魔だったのだ。
 助手連盟が大きくなる前に潰す。
 それが天翔獅子の首領、雪華の媛帝と呼ばれる+真珠+のたてた作戦だった。
 助手たちはちょうど、助手Bが隠したというへそくりを探すのにやっきになっており、そこをつかれる形となった。
 天翔獅子はそのこともあり、助手を壊滅させるのにさほど苦労はしなかったという。
 しかし、奇妙なことがあった。
 助手のなかから、明らかに魔法攻撃で死んだと思われる者がいたのだ。
 獅子に魔法は使えないはず…魔法が使えるのはシープとドラゴンだけなのだ。
 では、これらの死体は一体だれによるものなのか。
 それが、二日前のできごとである。


 スワンプの首都、カルバイガルの一角に喫茶店があるのは知られている。
 サラという看板娘が一人できりもみしている人気の高い喫茶店なのだが、最近では有志が集いメイド喫茶を営んでいるという噂だ。
 そんな喫茶店をもう少し奥に行くと開けた場所が見える。
 普段はそこには何もないのだが、今はっきりと、そびえるものがあった。
 移動要塞そるとハウスである。
 そるとハウスの外観は至って普通のキャンプなのだが、その中は持ち主の心情をあらわすようにカオスであった。
 宇宙空間の中に、長い廊下が浮かんでおり、そのつきあたりには水洗式トイレが設置されているのみである。
 そんなカオスな空間こそ、そるれんじゃーの本拠地なのだ。
「えるー。またあまししがやらかしたみたいだよ」
 髪の長い少女は、帰ってくるなりそう言った。
 少女の名前は、*そると。
 ピンクの長髪が自慢の自称16才の美少女キャット。
「ふぅん」
 えると呼ばれた黒髪を三つ編みでとめたシープの少女は、ねそべっていた。
「また寝てたんでしょ。しょうがないなぁ」
 ガズエル、通称えるの趣味は昼寝だった。
「ふぁ~あ…いいでしぃ。眠いんじゃから……」
「びょう」
 そこでそるとはさっきの話題が流されていたことに気がついた。
「じゃなくて!」
「ださいだー?」
「じゃなくて!」
「みるく?」
「じゃなくて!」
『ラムネだー!』
 結局。このままカラオケになだれこみ、本題に入ることはなかった。


「もう…ダメかも…」
 一方、そるぶらっくこと、イーノ・ドゥーエは絶体絶命のピンチにおちいっていた。
「ふふふ。ここがあなたの墓場ですよ」
 全身黒ずくめの、悪の女魔導士ルックに身をつつんだ少女が冷たく言い放った。
「くっ…なんで…あまししに羊がいるんだっ!」
 そるぶらっくを襲っている少女は、たしかに『天翔獅子』と名乗っていた。
「あなたこそ、獅子でありながら真珠さまにはむかうなんて…あきれてものも言えません。
 それに、残念ながらわたし、冥土の土産って嫌いなのですよ」
 そう言うと、少女は右手を正面につきだした。
「とどめです」
 これで、ぼくももう終わりか…。
 こんなことになるなら、やっぱりあまかけとけばよかったのかな…。
 ぶらっくは目を瞑り、覚悟を完了した。
 しかし、そこに聞きなれた声がした。
「諦めるのは勝手だが、右に避けたらどうだ」
 ぶらっくは考えるよりも先に声にしたがい、右に転がった。
 すると、シュッと耳元をなにかがかすめる音がした。
「きゃっ」
 黒い少女は悲鳴をあげた。
 ぶらっくが目を移すと、少女がふっとんでいるのが見えた。
「待たせたな。よく一人でもっていてくれた」
 頼もしい声がすぐ後ろからし、ぶらっくがふりむくと期待していた男がそこに立っていた。
「ほわいと!」
 白装束に身を包んだサングラスのバッファローは口元を歪ませた。
 彼こそ、そるれんじゃー攻撃の要、そるほわいとこと漁夫のLee。
「とりあえずは、あれを倒してからにしようか」
 ほわいとは少女を見据えながら言った。
「…お気に入りの洋服だったのですが…もう許しませんよ」
 少女はいつの間にか立ち上がっており、服についたほこりをはらっていた。
 泪月はふっとばされたことよりも、自分の服が汚されたことを怒るタイプ!
「あましし遊撃部隊隊長泪月」
 少女はそう名乗り、ほわいとをみつめた。
 ほわいとは視線の意味に気がつき、答えた。
「風のシンボル、そるほわいと」
 ほわいとが名乗りを挙げると、泪月は満足そうにうなずいた。
 そして、二人は相手の出方をうかがった。
 泪月は魔法型で、ほわいとは攻撃型。
 距離は充分離れている。
 たとえ、詠唱に時間がかかるとは言え泪月が魔法を使えばほわいとをセンメツすることはたやすいだろう。
 しかし、泪月は気になっていた。
 自分を襲った初撃を。
 あれは明らかに遠距離攻撃だった。
 正面の相手は、遠距離への攻撃手段をもっているということだ。
 ぶらっくは考えていた。
 加勢をすべきか否か。
 いつのまにか一騎討ち的な流れになっているが、そんなのに付き合う義理はないんじゃないかと。
 ほわいとに手を出すなと言われたわけでも、泪月が名指しで勝負と言ったわけでもない。
 しかし、二人の雰囲気がそうさせないのだ。
「きゃあああああああ」
 遠くで声がした。
 ぶらっくは声の方を見た。
 な、なんだ? 誰の悲鳴?
 次の瞬間、すぐ近くでバコン、と何かが割れる音がした。
 自分の足元の地面が割れているのが目に移った。
「しまっ」
 ほわいとの声がした。
 ほわいともぶらっく同様に地割れに呑まれていた。
「くっ…そうきたかっ」
 そして、割れた地面が元に戻ろうとしていた。
 このままでは、きっと地面に足が挟まれてぺしゃんこになるだろう。
「ふふふ。油断大敵ですよ」
 泪月は上機嫌に言う。
 今のは、泪月の仕業だった。
 土魔法、アースクェイク。
 地割れを起こし、対象を奈落の底へ突き落とす大禁呪。
「いつのまに詠唱を…」
 ぶらっくは気がついていなかった。
 アースクェイクの威力にしては規模が小さいということを。
 泪月は呪文をアレンジしたのだ。
 地割れを起こし、足止めする程度にすることによって詠唱時間を大幅にカットした。
「…ふっ。これで勝ったつもりかな」
 しかし、ほわいとは不敵に笑う。
「…私、強がりって嫌いなんですよ」
 泪月はそう言うと、指をならすと、その背後に人一人が通れそうな闇の空間が出来上がった。
 そこからベレー帽をかぶったラクーンが現れた。
「これで二対二ですよ? まだ強がっていられるのですか? くすくすくす」
 泪月は、くるりと反転していった。
「でも残念ながらこれから他の所へ行かなくてはいけませんのでお暇します。レヴィさん。あとは頼みますよ」
 泪月は闇に消えていき、その姿を完全に飲み込むと、闇の空間は閉じられた。
「くっくっくっ、手負いの獅子と牛など、物の数には入りませんよ」
 ほわいとはすっと手をぶらっくに差し出した。
 ぶらっくはほわいとの意図に気がつき、その手を握り、二人の手は堅く結ばれた。
「ぶらっくさんだーーー」
 ぶらっくは空いている右手を前に差し出した。
「ほわいとさんだーーー」
 ほわいとは左手を天に掲げる。
「なっ…その技はっ!!」
 ラクーンはきょがくの声を挙げた。
 黒い稲妻と白い稲妻がそれぞれを撃つ。
 その稲妻を受けた衝撃で、二人の体は地割れから脱出した。
「プリキュアの美しき魂が」
「邪悪な心を討ち砕く」
 ぶらっくとほわいとの繋いだ手に力が入る。
 そうすることで稲妻を体内でプラズマイオンパワーに変換しやすくするのだ。
「プリキュア…マーブル」
 やっぱりそうだ。
 これは伝説の戦士の最強の技、マーブルスクリューだ。
 くっ、なんでこんなやつらがそんな大技を…。
 ラクーンは焦っていた。
 こんなのくらったらひとたまりもないんじゃないか、と。
「スクリューーーーーーーー」
 ぶらっくのプラスエネルギーとほわいとのマイナスエネルギーが混ざり合いながらラクーンへと向かっていく。
 黒と白の光の螺旋が暴力的な音をあげ、ラクーンを飲み込んだ。
 刹那、爆発がおこった。
「………!!!」
 ラクーンの叫びは爆発音にかきけされ、衝撃波があたりの空間を襲う。
 砂煙が徐々にはれていき、その中心に人影が移った。
「まさか…」
 ぶらっくは驚きを隠せなかった。
「薄紅の姫君を倒した技なのに……」
 薄紅の姫君のんたっく。天翔獅子の元老院の一人。
 元老院・朱色の長老とよばれるすなめりの片腕の獅子を葬り去ったのはつい先日のことだ。
「くっ、良かった…この技をくらったのが泪月様ではなく私で…」
 砂煙がはれると、ラクーンは無数の盾をただよわせ、跪いていた。
「ハードシールド…か」
 ラクーンやキャットのような魅力系は防御力を一時的に飛躍させるスキルを持っている。
 それがこのハードシールドだ。
「勝負はあずけるぞ、そるれんじゃー!」
 ラクーンは泪月同様に闇の空間を自分の背後に出現させ、その中へと消えようとした。
「逃がすかっ!!」
 ほわいとが追いかけようと、一歩前へ踏み出した。
 しかし、ほわいとはそこから動かなくなってしまった。
 その間にラクーンはその場を去っており、空間も元通りになっていた。
「ほわいと…?」
 ぶらっくがほわいとの様子をうかがうと、ほわいとは口を開いた。
「うっ…油断…した……さすがはあましし…ということか……」
 ほわいとの意識はそこで途絶えた。
「ほわいと!」
 ぶらっくはほわいとの体を抱き抱えて、見てしまった。
 ほわいとの左胸に、深くカードが刺さっているのを。
 そして、そこを中心に赤い模様が広がっていた。
「ほわいとーーーーー!!」


「スンスンスーーン」
 安全帽をかぶったバニーの声が、バンパイヤキャッスル月光の調べに木霊する。
 うさぎの名前は熱暴走。
 攻撃型でありながら、感覚に特化した魔術回路。
 熱暴走は調査のためにこの月光の調べに来ていた。
 完全電球でしらみつぶしに掘り続ける様はまさに感覚型のそれであろう。
 ついた二つ名が、狐の皮をかぶった兎。
「見つけたぞ。そるいえろー」
 カツーン、カツーンとカカトのなる音が熱暴走の方へと近づいて来る。
「…なんのことかな? かな?」
 まだ見ぬ声の主にそう答えると、主はおかしそうに笑う。
「ふっふっふ。しらを切ってもムダだよ。熱暴走ことそるいえろー…もうすでに調査済みだ」
 熱暴走が掘っている部屋の入り口に白い人影が現れた。
「……」
 熱暴走はそれをじっと見つめていた。
 人影の正体は、白い服に身をつつみ、頭に花飾りをつけたドラゴンであった。
 ドラゴンは紳士的な微笑みを浮かべると言った。
「はじめまして。ワタクシ、あましし遊撃部隊首領のお華さまと申します。以後、お身知りおきを…と言っても貴方はもうここで死ぬわけですが」
 言うと、ぺこりとお辞儀をした。
 熱暴走はひっかかっていた。
 あまししとは、獅子だけではなかったのか。
 そして、遊撃部隊首領。部隊なのになぜ首領なのかと。
 ぱちん。
 お華さまが指をならすと、熱暴走のまわりに、アイアンナイトがあらわれた。
「おしゃべりはこのくらいで…そろそろ始めましょうか」
 その声を合図に、アイアンナイトの大剣が熱暴走に襲いかかる。
「あまいっ」
 ドゴーーーン。
 大剣は、熱暴走に当たる瞬間に、軌道がそれ、そのまま地面を直撃した。
「なっ…当たったはずなのに!?」
 お華さまは思わず声に出してしまった。
 もう一度言おう。熱暴走は攻撃型でありながら、感覚に特化した魔術回路。
 すなわち、感知のみならず、幸運も高いのだ。
 熱暴走が魅力2でもやっていけるのはこの幸運ブロックがあるからなのだ。
「そるあくせす!!!」
 熱暴走が闘魂の指輪を天高くかかげ、そう叫ぶと、指輪から黄色い光が広がり、熱暴走を包んだ。
「ぱんちらろーりんぐ!!」
 光の中心からそう叫ぶ声が聞こえたと思うと、どぐしゃーーーーっと派手な音をたててアイアンナイトがふっ飛んでいった。
 光がはれると、現れたのは黄色の戦士、そるいえろーがアッパーをきめた格好でポーズをとっていた。
 その姿はさながら、ホールドニースメルチを放ったキグナス氷河のようであった。
「太陽のシンボル、そるいえろー。この日輪の輝きを恐れぬのならかかってこい!!」



 場所は戻って、そるとハウス。
「…てなかんじなんだわさ」
 そるとがえるに助手連盟壊滅のニュースを話せたのはあれから三時間立った後だった。
「ふーん」
 しかし、えるは無関心だった。
「…それだけですか」
 えるの反応にそるとは不満たらたらだった。
「だって、多分その最後の魔法がどーのこーのってさ。推理するところじゃないと思うんだよね」
 随所にちりばめられた複線と思えるところをそう言って切り捨てた某同人作家のようなことをえるは言った。
「…える。ひぐらしやりすぎ」
 と、そるとがツッコミをいれたところで、ドタドタと物音がした。
「える! そるたん! ほわいと…りーやが!!」
 えるとそるとは、イーノのただなる声を聞くと、急いで入り口の方へと向かった。
 そるとハウスの入り口であるエントランス…といってもなにもおいていないのだが…そこに、イーノがLeeを寝かせていた。
「りーやっ!」
 えるは、イーノをつき飛ばすようにどかすと、Leeをその場に寝かせ、すぐに呪文詠唱に入りながらLeeの傷を見た。
 傷口は、左胸。
 心臓のちょうど真上であった。
 そこに、カードが深く刺さっており、あと数cm深ければ心臓まで到達していただろう。
 血は、いまだにどくどくとそこから流れていた。
 このまま放っておけば、確実に漁夫のLeeは死に至るであろう。
「リカバリィ!」
 呪文詠唱が終了し、えるは自分の両手が光っているのを確認すると、Leeの胸にささっているカードを抜くと、傷口の上に手をかざした。
 カードを抜いた瞬間、血がさらに溢れ出したが、徐々に傷がふさがっていった。
 リカバリィ…回復魔法の中で最もポピュラーなものである。
 治癒能力を最大限まで引き出し、回復をさせるというものである。
 術の性能上、もちろん死んだ者には効かない。
 Leeの傷は完全にふさがり、呼吸も整ってきていた。
 それをみて、えるは一息つくと、イーノに振り返った。
「いのくん! 血止めくらいしてから運んでよ!」
 普段のおちゃらけているえるとはあまりもちがうのでイーノは面を食らってしまった。
「それに…」
 えるはゆっくりとイーノに近づき、すぐそばまで来ると、手を振り上げた。
 イーノは殴られる、と思い目をつむった。
 しかし、衝撃はこず、体がぽかぽかとしてきた。
「いのくんだって、ぼろぼろじゃない…」
 目をゆっくりとあけると、イーノの両肩にえるが手をのっけて、リカバリィをかけていた。
「える…ごめん」
 イーノがそうあやまると、えるはにっこりと微笑んだ。
「なにがあったの?」
 ここいらで自分の存在をアピールしておかないと忘れられそうだとばかりに、そるとは無理やり切り出した。
「あ…うん」
 イーノはざっと起きたことをありのままに伝えると、そるとは興奮気味に言った。
「ほら。える、言った通りでしょ!
 あまししの獅子以外の存在のこと!」
 そるとは先ほどえるがスルーしたことを根に持っていたらしい。
「はいはい、わたしがわるぅござんした」
 と、その時だった。
『たすけてーーーーーくださいです』
 その時、えるの頭の中に直接声が響いた。
 説明しよう!
 ガズエルはロリショタゆえに、少年少女の助けを呼ぶ声がどこにいても聞こえる異常聴覚の持ち主なのだ!!
 しかも、居場所までわかるというGPSつき。
 今回は、ローズガーデンからだった。
「ごめん、そるたん! わたし行かなきゃっ!!」
 りーやといのくんをよろしくーというと、えるはすごい勢いで出ていってしまった。
 その様はまさに、AGITΩの翔一くんだった。



 えるが現場につくと、いいところだった。
「おっぱいおっぱい!」
「おっぱいおっぱい!」
 幼女二人を大の大人二人が今まさにくいつこうというところだった。
「ちょっとまったああああーーー!!」
 えるは駆け付けたままの勢いで、大人の片方…ミラ帽子をかぶったバニーに真空飛びひざ蹴りをお見舞いした。
「ぎゃうっ」
 うさぎがおもしろいほどよくふっ飛んだ。
 たとえるならば、ゴンズ様ばりに。
「咲来ちゃん!」
 それをみた相方は声をかけたが、返事は帰ってこなかった。
 気を失ったか、命を失ったのだろう。
「わたしをさしおいて幼女を食おうなんて、一億と二千年早いわっ」
 八千年過ぎたあたりからこき使われそうである。
「ガズエルおねぇちゃん…きてくれたんだぁ」
 その声に振り向くと、幼女はえるのよく知っている子であった。
「あ…しょーたろーくん…と、はるちゃんじゃない」
 メイドカチューシャをつけた幼女がとてとてとえるのそばによった。
「はるちゃんさんも早く助けてあげて下さい…です」
 しょーたろーくんはつぶらな瞳でえるを見上げた。
「もちろん。だから、しょーたろーくんも早くここから離れてね」
 えるは発狂しだす寸前で理性をとどめて言った。
「はいです」
 しょーたろーくんが逃げたのを見届け、視線を戻すと、はるちゃんと呼ばれた羊の少女が、いかにも乳が好きそうなキャットに抱きつかれていたのだった。
「いやあぁぁ。さわらないでくださいっ」
「ええのんか? ええのんか?」
 はるちゃん、絶体絶命。貞操のぴんちである。
「ぷっちーーーーん」
 えるはそれを見て、激怒した。
「あんた、なに勝手にわたしのはるちゃんをだっこしてんのよ!!」
 そして、びしぃっと指をさした。
「大変なこと? この深卯が大変なことにあうの?」
 深卯と名乗ったネコは、くっくっくと笑い出した。
「変身もしていないお前がなにをいう…くっく」
 その言葉を聞いて、えるは少しだけ驚いた。
 変身のことを知っているということは、そるれんじゃーそのものの存在を知っているということ。
「…そっかぁ。アレか」
 えるには心あたりがあった。
 そるとが先ほど話していた内容だ。
「その様子なら、私が何者なのか言わなくてもよさそうですね」
「…はぁ。まぁ言いたいって言ってももう無理だけどね」
「は?」
 それが、深卯の最期の言葉だった。
 深卯の額から角が生えていた。
 いや、角ではない。それは、えるが放ったアローだった。
 深卯がしゃべっている間に、その背後にアローを生み出し、放ったのだった。
「雑魚戦闘員のくせに口上なんかたれてるから…」
 深卯から力がぬけると、はるちゃんと呼ばれていた少女は礼を言うと、その場から逃げ出した。
 はるちゃんは第六感を超えた、セブンセンシズで感じ取っていたのだ。
 さらなる脅威の影を。
 そして、えるも感じ取っていた。
 大きな力を持った者がすぐそばにいることを。
「いるんでしょ? 出てきたらどう?」
 えるは何もない空間をみつめて言ったが、すぐに反応があった。
「…よくわかりましたね」
 おちつきのある声がした。
「そんだけばかでっかい力をかくそうともしないで、よく言ったものね。
 それに、あんな雑魚戦闘員だけで行動してるはずないでしょ。
 必ずリーダー各が一緒にいるもんだし」
 そう指摘すると、えるが見つめていた空間が裂け、おなじみの黒い空間が生まれた。
 そこから、ベレー帽をかぶったラクーンが現れた。
 えるは感じ取った。
 こいつが、Leeに傷を負わせたラクーンだと。
 イーノが言っていた特徴にぴったり当てはまっていたのだ。
「そっか。貴方がりーやに…」
 それを聞くと、にやついていたラクーンの顔がさらに歪んだ。
「はっはっは、だったらどうだと言うんです?
 カタキでも討ちますか?」 
 大笑いするラクーンとは対象的にえるは静かにかまえていた。
「不気味ですね…何をたくらんでいるんでしょうか」
 ラクーンは、危機を感じ取り、周囲に気を配った。
 深卯がやられたところを一部始終見ていたのだ。
 奇襲にそなえるのも無理はないだろう。
「…変身はしないのですか?」
 そう。何が不気味かというと、えるはラクーンの実力を認めながらもまだ変身していないのだった。
 それを聞いて、今度は笑い出すのはえるの番だった。
「ふふっ。ばかね」
 えるは何がおかしいのか笑い続け、ラクーンをさらに不安にさせた。



 場所はまたもどってそるとハウス。
 イーノもLeeほどではないがダメージが残っていたらしく、えるが出ていった後にその場で倒れ、残されたそるとは一人で二人を観るはめになってしまった。
「えるめ…自分だけ目立とうとして…」
 そるとはぶつぶつといいながらも、二人の看病をちゃんとやっていた。
 その甲斐もあって、二人の顔色はだいぶよくなってきていた。
「さて、おなかもすいたし、なんか買ってこようかな」
 そるとハウスにはキッチンといったしゃれたものはついていないので、食事はいつも出来和えの弁当か、外食に頼るしかないのだ。
 そるとは、Leeとイーノの額にのっけたタオルを水につけて、しぼって、またのっけると外に出た。
「う~ん、なにたべようかなぁ。昨日はお花見弁当だったからなぁ…同じのとか似たようなやつだとえるがうるさいし」
 独り言をぶつぶつとオープンで言っているそるとはただの怪しい人物にしか見えなかった。
 ドグォォォン。
 その怪しい人物の背後で爆発音が轟いた。
「ほへ?」
 なんて気の抜けた声を上げて振り向くと、そるとハウスの周りのみ地震がおき、地割れが発生してまさにいま飲み込まれようとしていた。
「うそ…」
 思わず手を伸ばすが、届いたとしても引き上げられるはずもない。
 しかしそるとは反射的にかけよっていた。
 中には、まだ仲間がいるのだ。
「いのくん、りーーやーーーー」



「なにがおかしいかって?
 うふふっ…なら教えてあげる」
 えるはひときしり笑い終わると、口を開いた。
「Aパートで変身するヒーローがいる?」
 ラクーンはぽかーんと口をあけた。
「いたとしても、それって負けフラグじゃない」
 と言い切ったのだ。
「それだけ…ですか。
 それだけの理由でこのレヴィットを相手に変身なしで闘おうというのですか!!!」
 レヴィット(やっと名前が出てきた)は激怒し、いつのまにか持っていたカードを投げようと構えた。
「………」
 さきほどまで高笑いをしていたえるは、それをみて一歩後ろへ下がった。
「カードフリング!」
 カードはレヴィットの手からはなれると、まっすぐえるのほうに飛んでいく。
 そしてえるは微動だにしなかった。
 このままでは直撃は必至であるのは明らかだ。
 しかし、えるにはわかっていたのだ。
 このカードが自分には当たらないと。
 カードはえるの心臓にくらいつこうと左胸を……。



「それで、次はどうするのかな? そるいえろー」
 お華さまは上機嫌で言う。
 きっと、手元にワインの入ったグラスがあるなら転がしているであろう。
 そるいえろーのまわりには、アイアンナイトとブラスナイトがひしめきあっていた。
 お華さまはフィールド上のナイトをすべてこの部屋に集めたのだ。
 そして、倒しても倒してもまた沸いてくるという無限地獄にいえろーは陥っていた。
 倒したナイトの数はすでに50を超えている。
 しかし、数メートル先にいるお華さまには髪の毛一本もふれていないのだ。
 幸運ブロックでいくら攻撃をはじけるとはいえ、それも確率論だ。
 当たる時は当たる。
 今はまだ一撃ももらっていないが、くらったら魅力2のイエローはアウトだ。
「くっ、こんなときにえるが…れっどがいってくれたら!」
 とつい愚痴をこぼしてしまうが、それで事態が好転するはずもない。
「…もう飽きたな」
 そう言うと、お華さまは立ち上がり、呪文を紡ぐ。
 ナイトにかこまれているいえろーの方からはそれが見えていない。
 印を結ぶお華さまの両手を黒い霧が覆いはじめ、呪文が完成した。
「ダークミスト」
 お華さまの手に集まっていた霧が一瞬でいえろーのもとへ瞬間移動し、いえろーの両手を包みこむ。
「しまっ」
 いえろーはその霧を知っていた。
 いや、バニーやバッファローのような攻撃型で知らない者はいないだろう。
 これこそが、攻撃型最大の弱点。
 この黒い霧こそが最強の敵なのだ。
 ダークミスト――――効果は、対象の攻撃力を低下させるというものだ。
 さきほどまで、いえろーの攻撃がとおっていたナイトたちであるが、今はごらんの通りまったく効いていなかった。
「くっ、くそっ!」
 しかし、いえろーは攻撃の手を休めなかった。
 その時こそが、本当の終わりなのだから……。



「あらら…これはちょっとやりすぎてしまったかもしれませんね」
 森の奥から黒い服を着た少女―――泪月が現れた。
「…あんたが…これを……?」
 そるとは現れた少女を睨みつけた。
 泪月はにやりと笑った。
 そうか、こいつがいのくんやりーやを……。
「…絶対許さない!」
 そういうと、そるとは泪月がいる方向とは逆へかけだした。
 魔法の射程から逃れるためだ。
 そして、もう一つ…。
「え?」
 そるとが視界から消えたところで泪月は気がついた。
 逃げられた、のだと。
 そるとはえると合流しようと、えるのいるローズガーデンへと急いだ。
 怒りで逆上しながらも、そるとは冷静だった。
 自分たちのところに刺客が来たのなら、えるのところにも…いや、えるは自ら行ったのだが、きっと幹部クラスの何者かがいるのではないかと。



 えるは無傷だった。
 レヴィットの投げたカードは、えるの左胸を貫くことはなく、その脇を通っていった。
「なっ」
 レヴィットはそれを見て驚きを隠せなかった。
 いままでカードフリングを外したことがなかった。
 避ける者もいなかった。
 それを、微動だにせずにやりすごしたのだ。
「ひとつだけ教えてあげる」
 えるは静かに口を開いた。
「聖闘士に一度見た技は通用しない」
 クールにそう言う様は、後ろに不死鳥の小宇宙が見えそうだ。
「そんなはず…れっどにはこの技を見せていないっ」
「ふっ…ほわいとの傷を見ればどのような技かなど見破るのはたやすいさ」
 えるの中でまだフェニックスごっこはまだつづいているようだ。
 本当は、過去にカードフリング使いのラクーンと闘ったことがあったからなのだが、そんなことレヴィットは知るよしもない。
 その言葉を間に受け、えるのことを過大評価してしまっている。
「そるれっどことガズエル…そるれんじゃー最強の戦士…その本体はお花見公園に在り続け、いまある実体はその一部の魔力で編み出したエーテルの塊…」
 レヴィットはそう絞りだすような声で言った。
 今レヴィットが言ったのは、えるがちょっと前にネット上で流したデマなのだが、いい感じで勘違いをしてくれているようだった。
「そこまでわかっていて、貴方はどうするのかしら? くすくすくす」
 いつもならばによによと笑うのだが、今回は不敵な微笑みをうかべていた。
 レヴィットは流れ出る汗をぬぐおうとはしなかった。
 何が自分の死へのフラグとなるか分からないと思い始めたからだ。
 このまま何もせずに動かないでいることも危険であると感じてはいたが、身動きがとれないのだ。
「レヴィさん。何をサボっているのですか」
 レヴィットの後ろで、聞きなれたほちゃボイスがした。
「お、泪月さま…」
 漆黒の少女は例によって黒い空間からゆっくりと現れた。



 それにいえろーが気がついたのは、頭上から空気を切り裂く音が聞こえたからだ。
 ひゅんひゅんとなにかが舞っている音が聞こえ、いえろーは、ナイトたちの攻撃をよけつつ、自分の真上をのぞきみた。
 それを見たいえろーは思わずかたまってしまった。
 なぜならば、光の矢が頭上でくるくると獲物をさがすようにとどまっており、その数が増えていっているのだ。
 シャワーオブアロー。
 その名のごとく、アローを雨のようにふらす大魔法である。
 最大でその数は七本までに達するという。
 そして、いえろーの頭上にあるアローの数は…七本であった。
 魔法の命中は幸運に左右される。
 しかし、いくらいえろーといえども、あの七本のアローをすべて避けられるかというと、自信がなかった。
 アローを七本放てるということは、すでに相手は高位の魔術使いであるということだ。
 過去、えるにくらったことがあるが、あの時は七本中、一本しか避けることはできなかった。
 お華さまもえると同等と考えると……。
 いえろーは打開策を考えようとしたが、それは許されなかった。
 七本のアローはぴたりと、いえろーの方を向いて止まり、止まったのもつかの間。
 一気に加速をつけて、襲いかかってくる。
 いえろーはそれを茫然とみつめていた。
 この場に、えるさえ…れっどさえいてくれれば……。
 その想いが届いたのか、すぐ目の前で、光の矢ははじけ散った。
 シャワーが飛んできた方向とは別の方向からシャワーが飛んできて、撃ち砕いたのだ。
 いえろーの知っている中で、シャワーを使える仲間は一人しかいなかった。
「えるっ!!」
 その名を呼ぶが、返ってきたのは知らない男の声であった。
「残念ですけど、私はれっどではありません」
 その男は、いえろーの方からでは見えないが、お華さまからは見えていた。
 右手にはバットを携え、青いオーラをまとっているドラゴンが。
「神秘の戦士、そるぱーぷる。ここに見参」
 いえろーは、その名にまったく聞き覚えがなかった。



「えるーーーーっ」
 そるとは必死で仲間の名前を叫んだ。
 それで助けられるわけじゃない。
 そう頭でわかっていても、叫ばずにはいられなかった。
 仲間が、親友がいままさに殺されようとしているのだ。
 いや、もう遅かったのかもしれない…。
 えるのお気に入りのロゼ帽子がそばに落ちてて、自慢の三つ編みもほどけて、死んだように倒れていた。
 その周りには先ほどの漆黒の少女と、身知らぬラクーンがいた。
 二人は、そるとに気がつくとにやりと笑い、闇に消えていった。
 そるとは二人の存在が気になったが、それよりもえるのほうが気になっていた。
「えるっ、えるーーー」
 そるとは泣きじゃくりながらえるのそばへよった。
 もちろん、BGMはムーンライト伝説のオルゴールだ。
 えるを抱きおこすそうとすると、背中にまわした手にぬめりとした感触がした。
 見ると、えるのお気に入りの白いワンピースが、赤いマントをはおったように、赤く……。
「いやあああぁぁぁぁぁぁ」
 そるとはその意味の先にある答えを必死で否定するようにイヤだと繰り返す。
「そ・・る・・・」
 その声が届いたのか、えるが口を開いた。
「えるっ! 生きていたのね!」
 そるとは服が血で汚れるのも気に止めずに、えるを抱きしめた。
「そるたん…ごめんね……」
 えるの声が、すぐ耳元でし、そして、そるとのおなかが急激に熱くなった。
「え…?」
 なにか、鋭利なものが、どんどんと、そるとのおなかを……。
 ちらりと自分のおなかを見てみると、ナイフが刺さっていた。
 そして、そのナイフを持っているのは…そるとが抱いている人物、えるだった。
 えるはずっと、ごめんなさいと謝り続けている。
 そこにいたってそるとは、『ああ、えるに刺されてるんだぁ』と認識した。
 なぜだとか、どうしてだとか、そういった理由は気にならなかった。
 ただ、そるとは…。
「える、ダメだよ…人を殺めるならもっと深く刺さなくっちゃ……」
 それだけ言うと、体重をえるに預けた。
「ごめんね…そるたん」
 そるとが薄れゆく意識の中で見たえるの顔は、声とはうらはらに笑っていた。

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