飛車を捌こう


「振り飛車で捌こう」もいよいよ後半。今回は攻撃部隊の主役・飛車を捌いていきます。


まずは小手調べから。


第1図は後手が△3一角の引き角から△7五歩と仕掛けてきたところです。振り飛車側はどう対応するのがいいでしょうか。
3手先まで考えてみてください。

…あれー分からないぞ、という方は、基本講座をもう一度見ていただけばヒントが書いてあります。



正解は▲7五同歩△同角▲7八飛(第2図)。振り飛車の基本は「攻められた筋に飛車」でしたね。


第1図では▲6六角(△7六歩なら飛車がタダ)という手も部分的には手筋ですが、ここでは△8六歩で先手失敗です。なのでいったんは▲7五同歩。
△同角となった時、手拍子で▲7六歩と打つのは悪手とまではいきませんが、せっかくの捌きのチャンスを逃してしまうという意味では大きく減点です。

▲7八飛が、「相手が攻めてきた瞬間にカウンターを狙う」振り飛車らしい一手。次に▲3三角成△同桂▲7五飛を狙っています。後手は色々な防ぎ方が考えられますが…

△5三角は▲3三角成△同桂▲7三飛成。

△7四飛は▲6六角△同角▲7四飛。

△7六歩は▲5九角△6六角▲7六飛。

いずれも先手が良くなります。結局、一番被害の少ない受け方は△7四歩ですが、これも先手大満足です。後手から△7五歩と仕掛けたのに、後手は交換した歩を△7四歩と打たされ、先手だけが一歩を手持ちにした格好ですからね。

相手が動いてきたところを迎え撃って反撃する▲7八飛の呼吸は、ぜひ覚えていただきたいと思います。



基本は「相手が攻めてきた瞬間にカウンターを狙う」ですが、場合によっては自分から相手陣の隙を突いて動いていくこともできます。


第3図は中飛車対居飛車穴熊の序盤戦。先手陣はこれ以上ないくらいの理想形なので、うまく手を作って捌くことを考えたいところです。ここでは巧妙な手順の動き方があります。

第3図以下▲6八飛△7三桂▲7八飛(第4図)


まずは▲6八飛と振り直します。次に▲6五歩△同歩▲同銀となれば先手大成功なので、後手は△7三桂の一手。

一見、これ以上は手が続かなそうですが、そこでさらに▲7八飛と振り直すのがうまい手順。わざと△7三桂を跳ねさせ、桂頭の弱点を狙って攻めようということです。

第4図から後手がのんびり構えていると、あっというまに後手陣は崩壊してしまいます。

一例は、第4図以下△3一金▲5九角△4二金引▲7五歩△同歩▲同飛△7四歩▲7六飛△3二金寄▲7七桂△8一飛▲6五歩△同歩▲6四歩△同銀▲7四飛(第5図)。長手数ですので、ぜひ盤に並べてみてください。


第5図からは△6一飛に▲8四飛で先手必勝形です。


ここまでの内容をまとめると、飛車を捌くときは、

・相手に攻められている場所、もしくはこれから攻められそうな場所

・(たいていは相手に攻められた結果)自分の歩がなくなった場所

・角頭や桂頭など、相手の弱点になっている場所

をひとつの目安にして飛車を持ってくるのがいいでしょう。基本講座でも少し書きましたが、飛車は最初に振った場所に固定するというようなものではなく、状況に応じて色んな場所に動かしてあげるべき駒です。第3図からの▲6八飛~▲7八飛のように、手損というものもそれほど気にする必要はありません(もちろん、何の意味もないただの手損は良くないですが)。


最後の例として第6図をご覧ください。


実戦で出てきた局面です(あやふやな記憶を頼りに再現したので、細かい部分は違っていると思います)。とりあえずは3手先まで、もし可能なら7手先まで予想してみてください。


実戦の進行は第6図以下▲8八飛△8五歩▲8六飛△同歩▲6四歩△同銀▲7四歩(第7図)


第6図からは▲7六飛で飛車を捌くこともできますが、△5九角成▲同金△8九飛成が金に当たるので面白くありません。
まずは「攻められた筋に飛車」の基本通りに▲8八飛。△8六歩▲同歩△同角に▲8八飛と迎え撃つのは振り飛車党必修の手筋ですので、初めて知ったという方はぜひ今覚えてしまってください。

▲8八飛△8五歩には軽く▲4八角と当たりを避けるのが形ですが、ここでは△7七歩成があるのでそれはできません。そこでバッサリ▲8六飛と切ってしまうのが強手。同じ取るのでも、▲8六角としてはいけないのです。

・▲8六角△同歩は、次の△8七歩成がすぐ飛車当たりになってしまいます。▲8六飛△同歩なら、次の△8七歩成、△7八と、をいずれも無視して攻め合うことができます。

・飛車は自陣の奥深くに追いやられてしまうと、そこから捌くことはほぼ不可能になります。角は自陣の奥深くにいても、すぐ捌けることも多いのです(この場合は例えば▲4八角~▲7五角の要領)。

上のような理由で、角よりも先に飛車を捌いてしまうのが得になるというわけです。美濃は横からの攻めに強い囲いですから、飛車を渡すのを必要以上に怖がることはありません。後手は味方の8六歩が邪魔していて、8二の飛車を捌くのが難しくなっているのも大きなマイナスポイントです。

飛車を捌いた後は▲6四歩△同銀▲7四歩と、歩の手筋を駆使して桂頭の弱点を攻めます。これからの終盤戦が本当の勝負どころではありますが、ひとまずは振り飛車ペースの戦いになったと言えそうです。



飛車は自陣の奥深くに追いやられると捌きにくくなる、と書きました。もちろん捌けないよりなら捌けた方がいいに決まっているのですが、相手が強くなるといつも簡単に捌けるとも限りません。

そんなときは、飛車を守り駒として使う、という考え方も覚えておくといいでしょう。本来、玉の守りを固めるのは金銀の仕事ですが、遠くにいる飛車の横利きが終盤で自玉のピンチを救ってくれる、ということも珍しくありません。

ただし、角は自陣に閉じ込められると悲惨なことになります。角は守り駒には最も向いていませんから(遠くから自陣に利かせる、ということであれば役立ちますが)。

飛車と角のどちらを優先して捌くのがいいかは、状況によって違ってきます。そのあたりの感覚は実戦を通して掴んでください。


次回はいよいよ最後の攻め駒、角を捌いていきます。


最終更新:2009年10月25日 18:37