銀を捌こう


まずは左の銀から捌いてみましょう。とは言っても、銀は万能型の選手。必ずしも攻め駒として捌く場合だけではなく、状況によっては囲いの一部として使うこともあります。

左銀の役割は、だいたい以下の4つに分類できます。

(1)7七の角を支え、角交換に強い形にする

(2)角頭の弱点をカバーする

(3)切り込み隊長として攻撃に参加する

(4)囲いにくっつけて玉の守りを堅くする



第1図は四間飛車から美濃に囲った状態ですが、左銀は7九の地点から動いていません。このままでは「遊び駒」となってしまうので、この銀を活用していきます。

まず▲7八銀と1つ上がった形が、(1)の役割を果たしている状態です。実戦の局面で具体的に見てみましょう。


第2図は後手が△7五歩と仕掛けてきた瞬間に▲6五歩と反発した局面。ここから△7七角成▲同銀と進み、7筋や8筋の守りはしっかりしています。
もしも左銀が7九のままだと△7七角成には▲同桂と取る形になってしまい、後で△7六歩や△8六歩のような攻めを狙われて困ってしまうのです。

7七の角を下から銀が支えてあげることで、「振り飛車の切り札」▲6五歩が突きやすくなっているというわけです。


7八からさらにもう1つ▲6七銀と上がると、今度は(2)の役割を果たしている状態。


第3図。角頭を狙う棒銀戦法も、6七の銀がいれば怖くありません。

この形は▲6五歩のような強い反発にはあまり向いていませんが、相手の攻めをガッチリ手堅く受け止められる形です。第3図からは▲6八角と攻撃目標の角をかわしておけば、飛車も利いてきますから7筋はもう安心です。


▲6五歩から角交換を目指す7八銀型と角頭をカバーする6七銀型は、相手が角頭を目標にして攻撃を仕掛けてきたときのことを想定しています。
相手がすぐには角頭を目がけて攻撃してくる可能性が低そうな場合などは、7八→6七と上がった銀をさらに活用することもできます。
6七の銀を▲5六銀と活用したのが第4図。


第4図の後手は居飛車穴熊に囲おうとしています。つまりすぐには攻めて来ない形ですので、角頭の守りを放棄して▲5六銀と上がれるわけです。
ここから後手が△1一玉とすれば、弱点の角頭目がけて▲4五銀と出て行って先手成功。これは(3)の使い方ですね。

後手が▲4五銀を嫌って△4四歩と突いた場合、あくまでも(3)の使い方を貫き通す▲4五歩も一つの考え方としてありますが、個人的にはあまりオススメしません。

振り飛車における捌きというのは、基本的に相手の攻めを利用して捌くものなんです(基本講座の表現を借りると「カウンター」)。

巨大なバネのようなものを想像してみてください。バネは自分の力だけで敵をやっつけることはできませんが、敵が全体重をかけて押し潰そうとしているその瞬間に反発してやれば、敵ははるか彼方まで吹っ飛んでいきます。振り飛車というのもそれに近い思想の戦法なんです。

ですから、振り飛車側が自分から先に攻撃していくのは、相手がよほど隙だらけの駒組みをしている時か、自分の陣形がこれ以上良くならないというほどいい形になった時くらいです。

よって第4図から△4四歩とされた時は、▲4七銀引のような使い方するのがオススメです。これは(4)の役割ですね。


最後にちょっと応用編。


第5図では左銀が6六に出ています。これは居飛車の棒銀のような要領で、飛車と銀を協力させて攻撃できる1つの好形ですが、攻めようとしている5筋や6筋のほうは後手もガッチリとガードを固めています。
こんな時はどうするのが良いでしょうか。

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第5図から▲5七銀△2四歩▲5六銀と進んで第6図になります。


先手の6六銀型が好形というのは、▲5五歩△同歩▲同銀の後に▲6四歩や▲4四銀のように銀を活躍させられることを前提とした話です。活躍できずに6六の地点に居座ったままでは、飛車と角の利きを遮るだけの邪魔駒となってしまいます。

そこで▲5七銀、▲5六銀と動かして、6六の地点から横に1つずらすのが「銀の立て直し」と呼ばれる上手い順。
第5図と第6図を見比べてみれば、どちらがいい形かは一目瞭然ですね。

第5図で▲7五歩を予想された方は、銀を捌こうという考え方自体は間違っていませんがやや筋悪。将棋の駒は中央に向かって進むほど働きが良くなり、中央から離れていくほど遊び駒になる可能性が高くなるんです。その意味でも、銀を中央に近付ける▲5七銀~▲5六銀が「筋」と言えるでしょう。



こんな具合に、状況に応じて色んな役割を果たしてくれるのが銀のいいところ。

飛車・角・桂・香のいわゆる「飛び道具」に比べると銀は少し地味な存在ですが、終盤になってポツンと取り残されたりしないように、一歩一歩地道に捌いていくことが大切です。
お互いに対等な戦力で戦う将棋では、全ての戦力(駒)を有効に使うことが勝利への近道ですから。


最終更新:2009年10月12日 21:26