美濃囲いの豆知識
振り飛車の考え方や指しこなすコツ、なんとなくでもお分かり頂けたでしょうか。
いよいよ最後の講座、ここでは振り飛車党の頼れる相棒「美濃囲い」に関する、ちょっとした豆知識を紹介します。
(1)どこの歩を突く?
上の図が美濃囲いの基本図です。相手が早めに攻めてくれば▲5六歩とか▲4六歩と突いたあたりで戦いに突入しますし、じっくり玉を固め合う展開なら、基本図から▲5六歩▲4六歩▲3六歩▲4七金(高美濃)▲2六歩▲2七銀▲3八金(銀冠)といったふうに囲いを発展させることになります。
ここでちょっとだけ大切なのが3~5筋の歩。何も考えず適当に突いてしまいたくなるところですが、実はどこの歩を突くかで色々と違いが出てくるんです。
あまり神経質になりすぎる必要もありませんが、頭の片隅にでも留めておいて頂ければと思います。
メリットは「歩を消す手筋▲5五歩」が狙えるようになるという点。
デメリットは第1図のような角の睨みが急所になるところです。先手から▲6六角と打てるのなら、当然それは大きなメリットになります。
経験上、相手が早めに攻めてくる「急戦」のときはここの歩を突いておくとプラスになることが比較的多いです(難しい定跡なんかも関係してくるので詳しいことは省略)。
メリットは第2図のようなとき。歩が4七だと次に△3六桂が激痛ですが、この歩を突いていることでその筋が緩和されています。
ごくまれに相手から4七に駒を打たれるような攻め筋がありますが、△5五角~△3六桂の筋に比べると厳しさも登場頻度もかなり下がります。
ここの歩は、突けるならぜひ突いておきたいところです。
メリットは玉が広くなることや、▲3七桂~▲4五桂のような攻め筋が生じるといった点。
デメリットは第3図のようなとき。次の△3六桂や端攻めを狙うこの桂打ちは、しばしば振り飛車党を苦しめます。
以上のことをふまえると、純粋に囲いの堅さだけを考えた時に一番堅いのは「▲5七歩、▲4六歩、▲3七歩型」ということになります。
もちろん、いつでもこの形にしておけばいいというものでもありません。色々試してみて、臨機応変に歩の突く突かないを判断できるようになるのが理想です(例えば、桂を渡しやすいような将棋なら▲3六歩は突かないでおく、など)。
(2)「崩され方」も知っておくべし
振り飛車党が相手にする居飛車の囲いといえば、船囲いや穴熊などがあります。もちろん、これらの囲いの崩し方を知らなければなかなか勝てません。
しかしそれだけでは足りないのです。自分で使う美濃囲いの崩し方(崩され方?)も知っておかなければいけません。
美濃囲いを崩すのは相手なんだから、自分は知らなくたっていい、なんてことは決してありません。「崩され方」を知らなければ、自分の玉が現在安全なのか危険なのかが分からないんですから。
例えば第4図。見た感じで先手玉は安全、なんて考えていると、△4八金(失敗図)で痛い目に遭います(▲同金は△3九銀)。
4九の金を上ずらせて△3九銀や△3九角、というのは有名な美濃崩しの必殺技です。この「崩され方」を知ってさえいれば、第4図で▲5九香(第5図)と打ってピンチを脱することができます。
△4八金の攻めを消しながら▲5三歩成も狙っている一石二鳥の手です。
堅い堅い美濃囲いですが、意外と「崩され方」はたくさんあります(まとめサイトの講座や他のサイトなどを参照してみてください)。それらを1つでも多く知って、「崩される前に受ける」のが大切なのです。
(3)端歩の関係、金銀の枚数
美濃囲いの端歩は、金銀の城壁を突破されたときに玉の脱出路となる重要な要素です。
この端歩、攻めたり攻められたりすると相手との関係が色々変化します。相手から圧迫されると玉の逃げ道が減って捕まりやすくなりますし、逆に相手の端を圧迫できれば逃げ道が広がって捕まりにくくなります。
…と、説明だけしてもピンと来ないかもしれません。実際に図をご覧頂くと分かりやすくなります。
まずA図。金銀の城壁は突破されてしまい、玉を脱出路から逃がしたいところです。ところが、その脱出路は後手に圧迫されて塞がってしまっています。
後手には銀の持ち駒がありますから、次に△3九銀の一発で詰まされてしまうのです。
続いてB図。A図に比べると少しは圧迫感が軽減されましたが、やはり脱出路は塞がれてしまっています。
後手の手番なら△3九銀▲1八玉△2八金までの詰み。金銀2枚で捕まってしまいます。
C図になると脱出路が開いています。後手が金と銀だけで先手玉を詰ますには「金金銀銀」の4枚が必要で、△3九銀▲1八玉△1七金▲同玉△2八銀打▲1八玉△1九銀成▲1七玉△2八銀不成▲同玉△1八金まで。
D図は逆に後手の端を圧迫している状態で、先手玉の逃げ道はとっても広々としていますね。
後手がこの玉を金と銀だけで詰ますのには「金金金銀銀銀」という、実に6枚もの駒が必要です。△3九銀▲1八玉△1七金▲同玉△2八銀打▲1六玉△2五銀▲同玉△3五金▲1六玉△2五金打まで。
こんなふうに、端の関係は終盤の詰む詰まないで大きな違いを生みます。上記の内容を知っていれば、例えばC図のような局面で「金銀3枚なら渡してもセーフ、4枚渡すとアウト」ということを一瞬で見切れるわけです。
居飛車側から△1五歩と端を攻められたとき、堂々と取って大丈夫なのに萎縮してしまってA図のような状況にしてしまう方が結構います。その瞬間は安心できても、必ず終盤でツケがまわってきてしまうんです。
もちろん、端を取ると厳しい攻めをくらってしまうこともあるので一概には言えませんが、取っても受け止められそうなら堂々と取るのを心がけてみてはいかがでしょう。
以上で振り飛車基本講座は終了です。ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました。
偉そうに講義しておいてアレですが、自分が振り飛車のコツを100%掴んでいるかと言えば答えは「ノー」です。
100%言い切れるのは、振り飛車は待つだけの戦法、受け一方の戦法なんかではなく、渋く受けたり鮮やかな捌きでカウンターを決めたりできる楽しい戦法だということ。
この講座がきっかけで、たったの1人でも振り飛車党が増えたのならこの上ない幸せです。
最終更新:2008年04月16日 00:30