【 1日目 】
閑散としていた。
「…なにもないね」
「うん」
政庁前の広場に「お祭り会場」という横断幕だけが、強い風に煽られている。風向きが悪く砂っぽい。
唯一の催し物である、カラーリングコンテスト用のI=D「黒曜」が一機、見本として立てられている。
しかし、人影は無い。
金髪の少女は広場の中央で、ぽつんとしゃがみ込み、ぼんやりと横断幕を見上げている。その傍らには夫らしき男性が立っている。
気が付けば、お祭り=で語られる二人ではある。数々の酒を友とし夜の伝説として語られる存在と同様に、いつか彼らもそれらの伝説の仲間入りする日も近いのだろうか。
(お祭りだったらなんでもいいのかよ?)
(ち、ちがうもん、そんなんじゃないもん)
……この過疎ったお祭り会場に現われてしまう辺り、伝説となる日も遠くないのかも知れない。
ふと、金髪の少女は視線を動かした。
政庁の向こうに何かを見つけて、よっこいしょと歩き始める。その後ろを夫がついていく。…そういえば浴衣、浴衣はどこにあるんだろ…
少女が見つけたのは、レイメイ湖畔に設営された観光地…ぬこサーカスの本陣だった。
お祭り会場より断然お祭りっぽい光景に目を輝かせ、しかしそれは一瞬で落胆の色に変わった。
建物やおみやげ物屋は残っていたが、メンテナンスが行き届いているとは言い難い。色褪せた看板。棚に空きが目立つみやげ物。そして「本日休業日」の札が、剥がれかかっている。
「……」
夫は足元に落ちていた雑誌を拾った。表紙には「NameLess」と書いてある。創刊号とあり、相当古い。周りを見回したが、次の号は無い様だった。
二人の横を、I=Dを搭載した輸送車が列をなして通り過ぎていく。また戦争が始まる気配があった。
「今日は、とりあえず帰ろうか」
「……うん」
とぼとぼと、逗留先の宿へと戻る二人。
明日は、お祭りになっていることを少し期待しながら。
(続く)
文責:沙崎絢市