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買い食い紀行


『さあて、勝者投票の締め切りまでは残り30分、30分だ。
 投票してないそこの兄さん姉さんお嬢ちゃんお坊ちゃん、おじちゃんおばちゃんおとっつぁんにおっかさん、みんなまとめて投票、投票! 各選手への応援メッセージも一緒に受け付けてるよ―――』

 癖のある濁声が空に響く。

 無名騎士藩国の大部分を占める砂の海。
 その一角には小さなテントの「町」が生まれつつあった。
 集うのは、間もなくこの地で行われるレース――題して『熱砂を奔る風となれ!無名騎士藩国藩王杯・砂帆船最速王決定戦』をここから見物しようという観光客たちと、その観光客たちを目当てとした、いくつもの屋台の主たち。
 そして――それらに引かれてやってきた者たちである。


「はいよ、お待ちどう!」
「ありがとー」
 やや砂に汚れ、「串焼き」「唐揚げ」「野菜串あります」などと書かれたポップを内壁にべたべたと張られた屋台。
 その店主と思しき色黒の男性から紙コップを受け取ったノーマ・リーは、ごきげんな様子で中に入れられた長い串を手に取った。そこには八切れほどの味付き羊肉とさっと炙ったか揚げたかしたらしい数種類の野菜とが、ぎゅうぎゅう詰めで刺さっている。
 下味で付いているらしいスパイスの薫りと焼き物独特の香ばしさに目を細めつつ、囓る。ちょっと舌にピリリと来るが、極端な辛みではない為、全体的には心地良い刺激だ。難は子供が食べる事を考えると、ちと刺激がきつすぎることか。
「んー……」
 串の中程を口でくわえつつ、ノーマは着ていた服――浴衣の袂に手を入れた。
 中から取り出したのは、ちいさなパンフレット。有志が作ったのか、薄い紙に立地と店名リストが入っているだけの簡素なものだが、書き込みをするにはちょうどいい。
 ―――『名物、贅沢串焼き』○(マル)、ただし年少者には△(サンカク)
 やはり袂から取り出したペンで書き込んで――再び彼は串を頬張った。

 ノーマ・リー。
 ごくごく平凡な彼の、やや平凡でない趣味を「買い食い」という。
 買い食いそれ自体は平凡だったが、なにせ規模が違う――なにせ、せっかくのお祭りだというのに、行われる各種イベントではなく、それの観光客目当てで出る屋台を目当てに来るというのだから、相当なものだ。
 最終日の今日も、今日ここに屋台が出揃うと聞いてわざわざ訪れている。何処かで聞いた言い回しを使うなら「気合いの入った」変人といえよう。
 極めれば道。
 常人に理解できなくとも、それは確かに何かに通じるものなのだ。
 そしてその変人はというと――ひとつめの出店を堪能しつつ、パンフレットを眺めていた。先程のものではなく、純粋に地図用に使用しているものだ。
「つーぎは何処にするかな、っと」
 添えられたリストには、それぞれ料理屋台の分類がなされてる。
 コナ物系が11。鉄板系が4。揚げ系が5。煮物系ゼロ。冷やし系が17。
 ちなみにコナ物とは各種穀類粉を水に溶いたものをタネとして現場で調理する物全般を指す。鉄板・揚げ・煮物はそれぞれ調理に鉄板、揚げ油、煮込み鍋を使って調理し、できたてを出すもの。冷やし系は逆に冷やした材料を用いて客の前で仕上げる物のことで、アイスクリームやかき氷。ここには出店していないようだが、カップ売りの冷やし麺などもこれに含まれる。
 ついでに言えばカウントこそしてないが、飲料系の屋台も多かった。
 かき氷に併設されているであろうお祭り特有の身体に悪そうな色つきジュースの類から始まって、果物漬けシロップの屋台、冷茶の試飲販売、珍しい果物を使って目の前で作るフルーツジュースまで多種多様。更に。
「やっぱりお酒かなー。ここはワインがおいしいって言うし」
 酔っ払いの隔離に場所をやや離しているものの、各国の商人がバックについていそうなお酒の試飲・販売所やサーバーと座席、更には店員のお姉さんまで準備したビアガーデンもどきまであるのだ。酒好きにはたまらない空間であった。

「あとはー、ヤキソバとタコヤキとクレープとっ、カップパスタに揚げ栗もあったし、なんか綿アメあったよね! まんじゅうとか! やーもうお祭りサイコー!」

 買い食い人、ノーマ・リーの蛇行は、まだまだ続く。