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華風 【投稿日 2005/12/29】

カテゴリー-笹荻


関東地方の桜の花の満開の時期が終わりを告げた翌週末、笹原と荻上は冬に
一度訪れた自然公園を再び訪ねた。花の散るのは早く、もう所々の木々にし
か花びらは残っていない。散った花のあとからはもう新緑が芽吹いている。

笹「すっかり、花見頃の時期をはずしちゃったねえ」
荻「いいデス、花見の時期の騒がしいのは嫌いですから」
笹「でもなあ・・・。散り終わった見苦しい時期の桜なんて・・・」
荻「酔っ払いの姿も見るのは嫌ですから・・・」
笹「ははっ、見苦しいといえば俺達もだったね・・・(汗)」

荻上のその言葉に笹原は合宿での出来事を思い出した。荻上も同様に合宿で
の出来事を思い出しているらしく、顔を赤らめている。あの時の出来事はお
世辞にもかっこいいと呼べるものではなかった。

あの時・・・。

周囲の林からヒグラシの鳴く音が鳴り響く中、笹原は荻上に追いついた。
笹「・・・やっと追いついた!」
荻「・・・どうして追っかけてくるんです!?」
笹「どうしてって・・・、心配だから・・・」
(違うだろ!春日部さんと大野さんにせかされて追いかけただけなの
に・・・俺は・・・不甲斐ない・・・)
荻「・・・かまわないでください!やさしくしないでください・・・お願いだから・・・」
そう言って荻上は肩を震わし、泣き崩れてしゃがみこんだ。

笹原はこの後に自分に起こった変化について、言葉で説明する事が出来なか
った。というか夢の中の出来事のようで、現実感の無い出来事のようにも思
えた。目の前にいとおしいと思っている女の子が泣き崩れている。苦しみの
声をあげている。なぜ苦しんでいるのか分かっている訳ではない。だがその
心からの苦痛の叫びは笹原の心に直接響いていた。
(ずっと側にいて何故気付いてあげられなかったのだろう・・・)
己の無神経、無理解、不甲斐なさが口惜しく感じられ、その心からの真実の
苦しみを和らげる手だての無い自分の無力さに腹を立てた。

笹「あ・・・」
言葉が続かなかった。光陰が交差し、その変化は一瞬に訪れた。笹原の両の
目からは涙がこぼれ落ち、目の前を見ることが出来なかった。この肩を震わ
せ泣き崩れる、この世で最も小さき存在が実はこの地上で最も力強い力を持
っていることを初めて知り、その力は地上のどんな堅固なものも破壊できる
力を持っており、その力によって自分の心が打ち砕かれた事を知った。

(たぶん、二人ともその時しゃべった事も聞いた事もよく覚えていないと思
う。とてもゲームやドラマで語られる気のきいたセリフは一言も出てこなか
ったはずである。支離滅裂で、意味不明な事を泣きながら、無様にしゃべっ
てたんだと思う・・・)

荻「・・・離して下さい・・・わたし汗臭いです・・・」
荻上もやはり泣きじゃくって言葉になってない。
笹「ごめん、気付いてやれなくて・・・」

どのくらい時間がたっていたかも覚えていない。思い出すのも恥ずかしい格
好の悪さだった。荻上がようやく安堵の表情を取り戻して、笹原にもたれか
かった後でも、ぐすぐすと泣いて鼻水まで出て、くしゃくしゃな有様だった。

二人で連れ添って、別荘まで戻り、荻上が女性陣に引き取られてた後でも、
笹原はぼんやりしていた。惠子からは「かっこ悪るすぎ!」と笑われる始末。
斑目からも気楽に「まあ、これでハッピーエンドか?」と慰められた。

(エンドなもんか!)
その後二人でこうして会っていても、不安はよぎる。彼女は本当に苦しみか
ら解放されたのか?幸せなのか?もっと自分に色々要望してくれた方がど
んなに安心できるだろう。甘えてわがまま言ってくれたほうがどれほど楽
か・・・。

笹「約束通りじゃなかったね・・・」
荻「何故そんな事を言うんです?とても楽しいですよ!」
荻上は笑ってそう言った。
笹「君に十分な事をしてあげていると思えないんだ・・・」
荻「そんなことはありません。この季節を清明って言うんだそうですね。す
べてが生まれ変わって、洗い清められる季節です!わたし好きですね!」
笹「ならいいんだけど・・・」
荻「じゃあ・・・じゃあ一つだけ約束してもらえますか?」
笹「なに?」
荻「・・・わたしの前から姿を消さないでください!いなくならないでくだ
さい!もう・・・もう失うのは嫌なんです・・・。失うくらいなら最初から・・・。
わたしももう逃げませんから!泣きませんから!」
体を震わせて荻上は言った。
笹「ん・・・約束するよ」

笹原はグッと泣けるのをこらえた。それしか言えなかった。彼女が泣かない
と言うのに泣いては情けない。それに彼女にとって自分がどうであるかを考
えるのはどうでもいいことだ。先の事は誰にもわからないのだ。自分の心は
決まっている。それだけで十分だ。

ただ彼女は心では泣いていたと思う。だって春の風が桜の花びらを舞い上げ
た時、その花びらがまるで彼女の涙のように見えたのだから・・・。