遠い海からきたスー 【投稿日 2005/12/27】

カテゴリー-斑目せつねえ


こんな事を考えるのは自分だけだと思っていた。
世界中で一人だけ。私だけの、誰にも言えない秘密。
女の子なのに、男同士の恋愛に心躍らせるなんて――

カナコには感謝している。その妄想が、私だけのものではないと教えてくれたから。
私は突然変異の怪物じゃない、仲間は世界中にいる。
トウキョウでは年二回、仲間達が集まってお祭りを楽しんでいる――。

スーは夏コミ以来、荻上の同人誌を何回も何回も読み返していた。

すごい。自分の考えるYaoiなど児戯に等しかった。
オギウエはきっと狂気に近い才能を持った天才に違いない。

近くの図書館で、アンジェラと一緒に日本語を必死に調べた。
原本を手に入れた時の、いつもの作業だ。
わからない単語は、図書館のパソコンで何日もかけて検索した。
全てのセリフを記憶し、そらで言えるようになった。

手持ちの同人誌を堪能しつくした時、彼女の中に人生の悩みが一つ生まれた。
日本に住みたい。でも、今すぐ行けるはずもないし、どうしたらいいのかもわからない。
親友のテディベアを抱きながら、毎日考えた。
そのせいで宿題を忘れて怒られたが、それでもずっと考えた。

日本の男性と結婚すれば、ずっと日本にいられるだろうか?
でも、日本ではOtakuは迫害されていると言う話を聞いた。カナコもいやな経験をたくさんしたらしい。
女の子の恥ずかしい写真を撮って喜ぶような悪い男性もいるという。
あてもなく探すというのはあまりにも分の悪い賭けだ。

…ゲンシケンの仲間なら、どうだろう。少しは…いや、だいぶリスクを回避できるのではないか。

一番感じが良かったのはササハラだけど、彼はオギウエのものだという。自分も二人はお似合いだと思った。
カナコはタナカサンに夢中だけど、自分には何がそんなにいいのか全く理解できない。
コーサカはハンサムだけど、サキを毎晩のようにいじめるらしい。そんな怖い男性は嫌いだ。
あとは…Sou-Ukeの彼。私がアニメのセリフを言ったら、すごく緊張して真っ赤な顔をしてた。
よくわからないが、自分に好意を持ってくれたのだろうか?悪い気分ではない。候補に入れておこう。
他には…思い出せない。誰か気持ち悪い人が視界の隅をうろうろしてたような気がするけど。

どうしようか。おそらく、今は人生の分岐点だ。
日本に行ってOtaku生活を満喫するか、それとも故郷で生涯を過ごし、
遅れた情報と限定された作品との出会いで我慢するか――

行動しなくては。
彼女はベアを放すと、両親のいるリビングに向かう。
決断は早い方がいい。

「あなた、スーは日本語を学びたいんですって!」
「おお、そいつはいいアイディアだ。本人のやる気は上達への近道だからな。」
これでいい。障害を1つ1つとりのぞき、日本の大学に入るのだ。
今から周到に準備すれば、計画は必ず成就するに違いない。
「ソシテ タンキュウノタビハ ハジマッター!!」
「まあ!もう日本語を憶えてるのね、スー!」
「ははは、これは将来が楽しみだな!」
地球の裏側で、スーの物語…もう一つの「ゲンシケン」が幕を開けたのだった――
最終更新:2006年01月01日 00:27