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雪の華 【投稿日 2005/12/25】

カテゴリー-笹荻


笹原と荻上は冬コミが始まる前の週、東京近郊の自然公園に足を運んだ。
今年は例年にない寒波で関東一帯に大雪が降った。交通網がマヒし、慣れな
い大雪に歩行者が足を取られて転ぶありさまの中を二人は、自然公園へ向か
った。

そこは山桜の名所で有名な場所であったが、季節が季節だけに人はまばらで
寂しげであった。

笹「寒くは無い?」
荻「わたしは大丈夫です。笹原さんは?」
笹「俺は大丈夫・・・」

しかし寒気は思いのほか厳しく、二人が会話すると、二人の吐く息は白くな
り、少し風が吹くと地面の粉雪が舞い散り、顔に吹きかかった。アスファル
トで舗装された道を外れると、霜柱が土を盛り上げ、踏むとシャリシャリと
音を立てた。

荻「面白いですよ!土を踏んづけると、バリバリ、シャリシャリ音を立てて、靴が沈んでいくんです!」

荻上は何ということも無い事に、普段とは違って笑顔でキャッキャッとはし
ゃいで駆け回っていた。笹原は普段通りの表情で微笑み、目を細めてそれを
眺めていた。

荻「こっちです!先に行きますよ!」
荻上は小走りにタッタと小高い丘に駆けていった。
笹原はゆっくりとした足取りで荻上の後を追った。今日は荻上が雪の華を見
たいと言うので、この公園に来ていた。笹原の卒業までに二人で会える時間
は少ない。出来るだけ可能な限り出かけられる所に二人で出かけてみたかっ
た。
(あまり外に出歩きたがらず、自分の希望は極力口にしない彼女にしてはめ
ずらしい願いなのだ。かなえてあげなければ・・・でも運動不足で息が切れ
る。だらしないなあ・・・)
笹原はふうふう言いながら、どんどん先に進む荻上の後を追っかけていった。
すると丘の上を先に歩いていた荻上が急によろめいて、倒れそうになった。

笹「ととっ」
笹原は慌てて荻上の腕を支えた。
荻「すっすいません!思わずはしゃいで馬鹿しちゃいましたね!」
笹「ははっ、でも全然元気だよ!俺なんか息切れだよ!」
荻「わたしもですよ、この辺なら雪景色や雪の華がきれいでしょうね!」
笹「じゃあ、この辺に腰掛けようか」
荻「そうですね!」

二人は小高い丘の中腹に腰掛け、まわりの景色に目を見やった。あたり一面
うっすらと真っ白な雪化粧でおおわれていた。木々の枝は網の目のようにな
っており、その上に白い雪が枝を覆っている。風が吹いて、枝が揺れると小
雪がまるで白い花びらのように舞い降りる。その様子はまるで雪の華のよう
であった。

荻「きれいですね!」
荻上は目を輝かせて言った。
笹「そうだね・・・」
笹原は雪の華よりも、それを見つめる荻上の大きな深い透明な黒色をたたえ
た瞳に見つめていた。その瞳は雪の乱反射にキラキラ輝き、希望と歓びに満
ち溢れた色をたたえていた。
かつてその瞳は深い絶望と虚無の深い漆黒の色を帯びて、笹原を見つめてい
たのだ。そしてその瞳が涙に濡れるのを、笹原は胸が引き裂かれる思いで見
たのだった。
(彼女は普段は気丈で弱いところを見せようとはしない。でも時々、瞳が憂
いの色に沈む時がある。そんな時俺は何をしてやれるのか・・・)

荻「きれいですね!この雪景色のように清らかなままでいられたら、どんな
に素晴らしいでしょうね・・・」
笹「(自分はそうでは無いと言いたいの?)・・・そうだね・・・。あっほら、
山桜の冬芽だ!」
荻「こんなに寒いのに生きてるんですね!」
笹「そう、この赤い芽は堅い殻に覆われているけども、きれいな花をさかせようと懸命に生きてるんだね。でも根本がとても脆くて、触ると壊れてしまいそうだ・・・(まるで君のようだ・・・)」
荻「動物に食べられちゃうんでしょうか?」
笹「そんなことは無いさ!食べられてもその後から新しい芽が出るしね!」
荻「かっこ悪いですね・・・食べられちゃうなんて・・・」

笹「いっ生きる事自体、こんな風にかっこ悪くて、無様でなさけない姿さら
していくようなもんだよ!俺みたいに・・・。でも春になったらきっと、き
れいな花を咲かせると思うよ!一緒にまた見に行こう!」
荻「かっかっこ悪くて、無様なのはわたしも一緒です・・・。また一緒に見に行きましょうね」
自然と二人は手を握り合っていた。

笹「俺・・・何も君にしてやれてないな・・・。漫画描けるわけでも無いし・・・田中さんみたいな特技があるわけでもないし・・・」
荻上は微笑んで笹原に言った。
荻「一緒にいてくれるだけでいいです。それだけで十分です」

そうして二人は寄り添って、丘を降りていった。