※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

鬼上がくる! 【投稿日 2005/12/21】

カテゴリー-荻ちゅ関連


管理人注:この話を読む上で作者からの注が必須だと思ったので記入しときます

テーマは荻上さんのトラウマ克服です。
なお、次のような前提条件で話を進めます。
①合宿で笹原が告白し、笹荻付き合い始めてます
②時期的には秋の連休(どの連休かはあえて特定しません)直前から連休までの数日間です
③以前にどなたかが書いたSSの、笹原が荻上さんで抜いたことを全員の前でカミングアウトした設定をお借りしました
④あと東北弁には自信ないので、基本言語は標準語でお送りします


大講義室の片隅。
荻上さんの耳には講義の内容は殆ど入っていなかった。
その代わりに、先程から一枚の葉書を見つめていた。
昨日届いた往復葉書。
差出人は中学の同級生で、巻田君との仲を取り持った、あの坊主君(仮名、以下本作中ではこう呼称する)だった。
葉書は中学の同窓会の案内(出欠確認の返信用葉書付き)だった。
以前なら無視して欠席するところだが、パソコンで書いたらしい無機質な文字の日時・場所・会費等の下に書かれた、坊主君の肉筆の文字が彼女の心を揺らした。
「いろいろあって出づらいのは分かるけど、いっぺん帰って来い。俺はもう気にしてないし、みんなももう忘れてるよ。あとそれから、この間巻田に会った。元気そうだった。連絡先聞いたから書いとく」
そして巻田君の住所と電話番号が記されていた。

合宿で笹原から告白され、荻上さんは彼と付き合い始めた。
中学生のように、ぎこちない不器用な、だけど初々しいデート。
(下手すれば今時の中学生の方がスレてるかもしれない)
そんなデートを繰り返してきた甲斐あって、荻上さんは以前に比べ落ち着いた穏やかな顔を見せることが多くなった。
だが当然、それでトラウマが全て解消した訳ではない。
いつかは彼女自身がトラウマと向き合い、対決し、克服しなければならない。
笹原に出来るのは、それを支え見守ることだけだ。

「時が来たのかもしんねえな・・・」
講義中なことも忘れて、荻上さんは呟いた。

講義が終わり、荻上さんは部室に寄ることにした。
部室の前まで来ると、中から咲ちゃんの怒号が聞こえた。
「このド変態!!!」
それに続いて、漫画なら擬音で「ドンガラガッシャン」とでも書かれそうな騒がしい物音。
荻上「何やってんだか」
ドアを開けて室内を見ると、咲ちゃん・大野さん・恵子が肩で息をしつつ立っていた。
そしてその足元には、ボロボロになったクッチーが転がっていた。
傍らには笹原・斑目・高坂が冷や汗を流しつつ固まっていた。
荻上「何かあったんすか?」

咲ちゃんの説明は、以下の通りだった。
荻上さんの来る数分前。
久々に7人も集まったせいか会話が弾み、話題はいつしか合宿の話になった。
合宿で、笹原が全員の前で荻上さん(のコス姿)をオカズにしてしまったことをカミングアウトしたことについて、例によってクッチーが問題発言をやらかした。
朽木「失礼ですが、笹原先輩はまだまだ修練が足りませんな」
笹原「と言うと?」
朽木「笹原先輩がオカズにしたのは荻チンだけでしょ?わたくしなんぞ、げんしけんの全メンバーをオカズにして毎晩美味しくいただいておりますぞ」
部室沈黙。
だが次の瞬間には、話題は別の話に移行し始めた。

この反応に、クッチーは慌てた。
オカズ云々は事実だが、このネタで思い切りツッコミ喰らってドッカンと大受け、そういう狙いでの発言だったのに反応が静かだったからだ。
朽木「あの・・・みなさん、何でそんなに冷静なんですか?」
咲「いや、お前のこったから、それぐらいは有り得ると思って」
大野「今さら驚きませんよ」
恵子「まあ面と向かって言われると、さすがにキモイけどね」
朽木「にょにょにょ、ショボーン」
その時、斑目の脳裏にある疑問が浮かんだ。
斑目「あの朽木君、念の為に聞くけど、全メンバーって全女子会員っていう意味だよね?」
朽木「何をおっしゃる!見損なってもらっては困ります!わたくし朽木学は、そんな器の小さい男ではありませんぞ!」
部室内に「ザワッ」という音が響き渡った。
斑目と笹原は、青ざめて冷や汗をかいている。
高坂は相変わらず笑みを浮かべているが、冷や汗はかいていた。
笹原「それってひょっとして・・・」
朽木「もちろん男女不問!クッチーの前に差別無しであります!」
高坂「それじゃあ僕も?」
朽木「高坂先輩は3日前に美味しくいただきました!わたくしの中では、げんしけんメンバーは全員穴兄弟の竿兄弟の総攻めの総受け、これぞ真のジェンダーフリー、フォー!」
某お笑い芸人のように、腰を動かしつつ絶叫するクッチー。
ここで女子3人がキレて、前述の咲ちゃんの怒号と共にクッチーをタコ殴りにしたという訳である。

溜め息をつく荻上さん。
荻上「そんなこったろうと思いました」
咲「あれっ?荻上、どうしたんだ?」
荻上「何がです?」
咲「だってお前、クッチーのオカズには当然お前も入ってるんだぞ。怒んないの?」
荻上「もう慣れましたから」
それは本当だった。
以前は毛嫌いして露骨に拒絶反応を示していたが、最近ではそうでも無くなった。
人間の環境への適応力は凄いものだと思う。
1年半近くも一緒のサークルに居る内に、彼のウザさが段々気にならなくなってきた。
笹原と付き合い始めていろいろ話をする内に、クッチーもまたオタの一形態だと理解したのも大きかった。
斑目「荻上さんも丸くなったもんだ」
咲「(ニヤリと笑い)やっぱ男が出来ると女は変るねえ」
荻上「(赤面し)そっ、それは関係無いっす!」
笹原「ハハっ、(クッチーに)朽木くーん、大丈夫?」

クッチーは気絶してなかった。
倒れているのは、実はダメージのせいではなかった。
朽木「おー、集団SMで総受けー、いー、にょにょにょー・・・」
実は女子3人に殴られた快感に浸っていたのだ。
さすがに青ざめる女性陣。
恵子「うわー、さすがに引くなこりゃ」
大野「最低ですね」
咲「もうほっとこう」
朽木「おー、放置プレイ!」
咲「やめんか!」
そんな騒動を無表情に見つめている荻上さん、やがて目を閉じて動きを停止する。
荻上(ほんと慣れちゃったんだな。こんな状況でも何とも思わないな。それにしても朽木先輩、ジェンダーフリーって・・・それ意味違うでしょうが。待てよ、男女不問で総受けで総攻めか・・・)
大野「あの、荻上さん?」
笹原「あっ大丈夫だよ。多分今ワープ中だよ」
一同「わーぷ?」
笹原「彼女って何か1つの考えに捕われると、こうなっちゃうんだよ」
恵子「へー、さすがは彼氏」
笹原「うるせえ」
やがて荻上さんのワープが解除された。
荻上「帰ります」
笹原「もう帰るの?」
荻上「ちょっとやっちゃいたいことが出来たんで、失礼します」

それから3日間、荻上さんは部室に姿を見せなかった。
さすがに気になった笹原、その間何度か携帯に電話してみたが、ずっと電源が入ってない。
そこで荻上宅へやって来た。
チャイムを押してみたが、しばらく待っても出てこない。
留守かなと思い引き上げようとしたその時、ドアが開いた。
トレーナーを着て髪を下ろしてメガネをかけた、合宿の風呂上りの時と同じスタイルの荻上さんが出てきた。
荻上「あっ、笹原先輩・・・」
笹原「荻上さん・・・どっか具合悪いの?」
分厚いレンズ越しにでも分かる目の下の隈、少し痩せこけた頬、ガミラス星人のように青白い皮膚、笹原がそう訊くのも無理は無かった。
そんな荻上さんが、突然倒れた。
笹原「(慌てて抱き起こし)荻上さん!しっかりしてっ!」

意識を取り戻した時、荻上さんは自室のベッドの上に寝ていた。
そして傍らに笹原が座っていた。
笹原「気が付いた?」
荻上「先輩が運んで下さったんですか?」
笹原「急に倒れたからびっくりしたよ」
荻上「すいません・・・3日ぶりにお日様見たもんで眩暈がして・・・それにここんところくに食事してなかったし・・・」
笹原「そう言えば部屋の中、机のスタンド以外点いてなかったね。電気のスイッチ捜すのに苦労したよ」
荻上「原稿に集中したかったんで、カーテンも雨戸も閉めて、スタンドだけにしたんです」
笹原「まるで江戸川乱歩だね」
(注、江戸川乱歩は原稿を書く時、土蔵にこもってロウソクを灯りにして執筆した)

荻上「(ハッとして)原稿!」
部屋を見渡す荻上さん。
アフタヌーン1冊分にも及ぶ、膨大な枚数の原稿が机の上に積まれ、その上に重しのようにアフタヌーンが置かれていた。
荻上「(ギロリと睨み)見ましたね?」
笹原は、荻上さんの背後に「メラメラメラ」という擬音の文字が見えたような気がした。
笹原「(慌てて)だっ、大丈夫!見てないから!」
荻上「(積まれた原稿を見て)でも・・・」
笹原「いや確かに、部屋の電気点けた時に、原稿らしきものが部屋中に並べてあったのは見えたよ。でも、多分見たら荻上さん嫌がると思って、天井見ながら手探りで集めたんだ」
荻上「(ほっとして)よかったー」
笹原「随分たくさん描いたみたいだけど、どっかに投稿でもするの?それとも冬コミ用?」
荻上「・・・今はまだ訊かないで下さい。全ての決着がついたら話します」
笹原「決着って・・・まさか中学の時のあのこと?」
コクリと頷く荻上さん。
その瞳には、何かを確信した光が見えた。
笹原はそれを見て、荻上さんのやり方に口出ししないことにした。
笹原「分かった。でも、俺にも何か手伝えないかな?せめて荻上さんがやることを見守りたいんだ」
しばし考え込む荻上さん。
荻上「・・・次の連休って、空いてますか?」

そして連休初日、笹原と荻上さんは東北新幹線の車中に居た。
傍らには、田中から借りた大型のリュックサックと、荻上さんの小さな可愛らしいリュックが置かれていた。
荻上「すいません、付いて来てもらった上に荷物持ちまでさせちゃって」
笹原「いいよいいよ、これ荻上さんには重過ぎるし、荷物持ちでも役に立てるのは嬉しいから・・・」
笑顔でそう言ったものの、凄く気障なこと言った気がして赤面する笹原。
一方荻上さんも、彼の笑顔に赤面している。

2人は昼過ぎに同窓会の会場である居酒屋の最寄の駅に着いた。
取り立てて特徴の無い、ごく普通の地方都市だった。
笹原「実家には寄って行かないの?」
荻上「今回はやめときます。こっから5駅も先だし、駅から遠いから時間が無いです」
笹原「5駅ぐらいなら、そんなに遠くは無いんじゃ・・・」
荻上「山3つ越えますよ。それに駅から歩いて30分はあるし」
笹原「(冷や汗)分かった」
荻上さんの中学校の卒業生の多くは、農家を継ぐ者や都会で進学や就職する者を除いて、この町に働きに出るか、この町にある大学に進学する。
だから今ではこの町に引っ越した者も多い。
幹事の坊主君がこの町の居酒屋を会場に選んだのは、そういう理由かららしい。
とりあえず2人は荷物をコインロッカーに預け、時間まで荻上さんの案内であちこち回ることにした。

そして夜。
荻上さんと笹原は、同窓会の会場である居酒屋にやって来た。
入る前に、荻上さんは自分のリュックから小さな瓶を取り出した。
笹原「荻上さん?」
それはアルコール濃度50パーセントを超えるバーボンウイスキー、ワイルドターキーのミニボトルだった。
「バキ」の花山薫のように、荻上さんはそれを一気に飲む。
(注、瓶は普通に開けた。決して瓶の首を折ったりはしてない)
笹原「ちょっ、ちょっと荻上さん!」
真っ赤になった荻上さん。
荻上「(不敵な笑いを浮かべ)さあ、行きましょう」

座敷に入ると、同窓会はもう始まっていた。
一瞬会場が静まり返る。
「もしかして・・・荻上?」
「何か変な髪型してるな」
「隣の男って彼氏?」
「来たばっかりなのに、何で顔赤いんだ?」
そんなひそひそ話が聞こえる。
部屋の片隅に、中島たち文芸部の連中も居た。
「あれ荻上?」
「今さら何しに来たのよ」
中島を中心に、冷ややかな視線を向ける。
それらを無視して入ってくる荻上さん。
笹原も付き人のように続く。

坊主「荻上・・・だよな?」
髪型は相変わらずの坊主君が声をかける。
荻上「久しぶり」
荻上さんと笹原は空いた席に座り、黙々と料理を食べ始めた。
(出席の返事の葉書を出す時、もう1人分席と料理を頼んでおいた)
それは宴会で料理を楽しむというより、単に腹ごしらえをするという感じの食べ方だった。
周囲の者たちは。彼女の発散する異様な気配に話し掛けることも出来ずに眺めていた。
やがて気まずい雰囲気に気を使ったのか、禿の面積が5年前よりも広くなった担任の先生が声を掛けた。
先生「元気そうじゃないか荻上、そっちの彼は彼氏か?」
荻上「まあ・・・そんなとこです」
笹原「ハハッ・・・荻上さんと同じサークルの笹原と言います」
先生「おおそうか、あん時はもう彼氏が出来んかと気をもんどったが、よかったよかった(田中リュックを見て)えらい荷物だな」
荻上「みんなへのお土産ですよ(ニヤリと笑う)」
たじろぐ先生。
先生「おうそうか。それは楽しみだな」
荻上さんは田中リュックを開けて、その中からA4サイズの黒い封筒の束を出す。
封筒には一枚一枚、名前の書かれた白いラベルが貼ってあった。
荻上「(ニヤリと笑い)それはもう、楽しみにしてて下さい。これ先生の分です(封筒を渡す)」

たじろぐ先生を尻目に、荻上さんは立ち上がって声を上げる。
荻上「みんな久しぶり、今日はみんなにプレゼントあるから持って帰って」
そして封筒を配り始める。
笹原もアシスタントのように手伝う。
黒い封筒に不吉なものを感じて、怪訝な顔で受け取る元クラスメートたち。
中島「ねえ、なにくれるのよ?」
荻上「(ニヤリと笑い)開けてからの、お・た・の・し・み!」
やはりたじろぐ中島。
何人かが「荻上、開けていい?」と尋ねる。
荻上「(ニヤリと笑い)家に帰ってから開けた方がいいと思うよ」
それに不吉なものを感じて凍りつく一同。
最後に坊主君にも封筒を渡した荻上さん、耳元で小声で囁く。
荻上「特にあんたは絶対家まで開けちゃダメだよ」
坊主「(ドキッとして)うっ、うん」
荻上「そんじゃ私たちは帰ります」
中島「あら、もう帰るの?」
先生「もちっとゆっくりしてったらどうだ?」
荻上「すいません、寄るとこがあるんで。みんな、くれぐれも家帰るまで開けないでね」

荻上さんと笹原は、タクシーで巻田君の家にやって来た。
タクシーを降りると、荻上さんは自分のリュックからA4サイズの白い封筒を出した。
そして呼び鈴を押す。
笹原はそれを後方で見ていた。
巻田君本人が出てきた。
巻田「はいどなた?・・・荻上・・・さん?」
荻上「お久しぶり・・・(ガバッと頭を下げ)あの時はほんと、ごめんなさい!」
巻田「あの時?・・・(笑い)ああ、あれね」
荻上「(顔を上げて)あれねって・・・怒ってないの?」
巻田「そりゃあの時はショックだったさ。好きな子にあんな絵描かれちゃね」
再び顔を伏せる荻上さん。
巻田「でもあれからいろいろ分かったんだ。あれは中島たちが仕組んだらしいってことも坊主から聞いた。あん時は頭ん中真っ白で、荻上さんが人を傷つけるためにあんな絵を描くはずないってことまで頭が回んなかったけど・・・」

巻田「それに、漫画描く女の子にとっては、あーいう絵を描くのは一種の愛情表現だってのを、彼女に教わったんだ」
荻上「(顔を上げ)彼女?」
巻田「大検取る為に通ってたフリースクールで知り合ったんだ。彼女も絵描きでね、ヤオイってもんについていろいろ講釈を聞かされ、君とのこと話したら怒られたよ」
荻上「そりゃまた、何で?」
巻田「彼女言ってたよ。それはむしろ好きだからこそ描いたんだ、言わば荻上さんからのラブレターだ、それを見て登校拒否してどうすんだ、今度会ったら謝れって」
荻上「ハハッ・・・えらく過激な人みたいだね」
巻田「そんな訳で、(頭下げて)ゴメン、あん時は分かって上げられなくて」
荻上「(慌てて)ちょっ、ちょっと頭上げてよ。それじゃ逆じゃない」
巻田「(頭上げ)そんなことより、ずっと気になってたんだ。漫画は続けてるの?」
荻上「えっ?」
巻田「もしあのことが原因で君が漫画描くのやめてたらと、それだけは気にしてたんだ。あんなに好きだったのに・・・」
荻上「優しいね・・・相変わらず」
持っていた白い封筒を差し出す荻上さん。
荻上「お詫びのしるしの積りで持って来たんだけど、それに答えが入ってるよ」
巻田「(受け取り)分かった(後方の笹原を見て)彼氏?」
荻上「うん」
巻田「(笑って)そう(笹原に頭を下げる)」
釣られて頭を下げる笹原。

荻上さんたちが帰りの新幹線に乗った頃、居酒屋の空気は凍り付いていた。
家に帰るまで開けるなという荻上さんの忠告を無視して、出席者の何人かが封筒を開けてしまったのだ。
封筒の中身は、今日の出席者1人1人の総受け本だった。
その内容は、「~総受け化計画」と題に挙げられた者が①同性にやられる②異性にやられる③男女両方からやられる、という3部構成だった。
最初に悲鳴を上げたのは中島だった。
思わず「中島総受け化計画」と題されたコピー本を放り出し、それに回りの目が集中すると今度は本に覆い被さって「いやー、見ないでー!!!」と叫んで泣き出した。
他の元文芸部女子も泣いたり青ざめたりしていた。
そして他の出席者たちも同様の反応をし、口々に怒りや恐怖を訴えた。
「あのホモ上、まるで懲りてねえじゃねえか」
「あの頭の筆みたいなの、角だったんじゃねえか?」
「顔も赤かったし、荻上が鬼上になって帰ってきたんだ」
「東京は恐ろしい所だ」


笹原「クラスメート全員の総受け本?!!!」
居酒屋がパニックになっていたちょうどその頃、帰りの最終の新幹線の車内で思わず笹原は大声を上げたが、まばらな乗客たちに一斉に睨まれて縮こまる。
笹原「そりゃまたえらい過激なものを。でもどうして?」

先生「まあみんな落ち着け」
居酒屋では、先生がみんなを鎮めた。
先生「わしが思うに、この漫画は多分わしらに対する仕置きだと思うんだ」
一同「仕置き?」
先生「お前ら散々荻上のこと、からかったりいじめたりしただろう?」
出席者の大半が下を向く。
先生「おいおい、言っとくがあいつは自分にされたことを怒ってるんじゃないぞ。あいつはいつも言ってたよ。自分は何を言われても仕方ない。ただ、巻田が物笑いの種になってることがつらいって。あいつが怒ってるとしたら、多分そのことにだよ」
一斉に先生の方を見る出席者たち。
先生「みんな1度同じことをやられてみないと、巻田の気持ちが分からんと思ったんだろうな。あいつらしいやり方だな」


同じ頃、新幹線では荻上さんが笹原に、居酒屋で先生が言ってることと同じ内容の説明をしていた。
笹原「漫画が発端で起きたことだから、漫画で決着をつけるか。なるほど確かに荻上さんらしいやり方かもしれないね」
荻上「でもそれだけじゃないんです」
笹原「と言うと?」

同じ頃、居酒屋では先生がもう1つの理由を説明していた。
先生「おそらくあいつは、あえて漫画を描き続けることで罪の十字架を背負い続ける積りなのかもしれない」
「やめることが出来れば1番楽なんだろうが、それも出来んのだろうな。あの漫画好きの漫画馬鹿は」

同じ頃、新幹線でも荻上さんが先生の言葉と同じ趣旨の説明を笹原にしていた。
そしてさらに続けた。
荻上「それにこれで漫画をやめたら、ただ巻田君を傷付けただけで終わっちゃうわけですよね。でもそれじゃあ、お互いに嫌な思い出しか残らない」
「せめて彼を傷つけてしまった分、出来れば彼も含めていろんな人に私の漫画でちょっとでも、笑ったり元気が出たり萌えたりして欲しい」
「だから私はまんが道を行く。そんな私の決意表明なんです、あの総受け本は」
(注、長台詞であることを強調する為に、あえて不自然なカギカッコで切りました)


同じ頃、居酒屋でも先生が荻上さんの意図を説明し終えていた。
シーンとなった座敷に「くっくっくっ」と低い笑い声が響いた。
中島だ。
自身の総受け本に覆い被さった体勢から、ようやく起き上がる。
中島「どうやら私は、とんでもない大馬鹿をからかってしまったみたいね。賢い奴をからかうのは知的なケームかもしれないけど、馬鹿が相手ならからかう方も馬鹿よ」
「荻上は私らとはスケールの違う本物の漫画馬鹿よ。そしてそれを分かってなかった私もまた大馬鹿だわ」っ
呆気に取られる一同。
中島「みんなごめん。(頭を下げる)あの時荻上にあれ描かせたのも、本にして巻田に渡したのも、みんな私なんだ」
周囲から彼女を庇う声がした。
「もういいよ。済んだことだ」
「俺たちだって面白半分に荻上からかったんだから同罪だ」
「謝るなら今度会った時に荻上に謝ってやれよ」
涙を流す中島。元文芸部員たちも泣き出す。
先生「よしよし。お前らほんとに荻上に謝りたいんなら、あいつの漫画を応援してやろうや」
「今日はあいつの門出だ。よーし改めて乾杯やるぞ。あれ?坊主はどこ行った?誰か呼んで来いや」

再び新幹線の車内。
笹原「そう言えば、巻田君にも何か渡してたね。あと幹事の彼も他のと微妙に違ってたみたいだけど・・・」
やや酔いの覚めかけていた荻上さんが、再び真っ赤になった。
笹原「・・・もし嫌なら言わなくていいよ」
荻上「いえ、大丈夫です。聞いて下さい」
笹原の耳元に口を寄せる荻上さん。
少しビクッと反応し、赤くなる笹原。
だが次の瞬間、荻上さんの小声の告白に再び大声を上げ、再び乗客たちに睨まれる破目になった。

同じ頃、巻田君は自室で固まっていた。
荻上さんから渡された封筒の中身、それは『荻上さん総受け化計画』と題されたエロパロコピー本だった。
中身はやはり3パートに分かれていて、中学時代の荻上さんが①巻田君にやられる②文芸部の女子たちにやられる③巻田君と坊主君に3Pでやられる、といった内容だった。
不意に巻田君は笑い出した。
「荻上さんらしいお詫びと意思表示だな」


さらに同じ頃、居酒屋のトイレの個室では坊主君が固まっていた。
彼に渡されたのは、巻田君に渡した分を一部修正したコピー本だった。
「巻田君総受け化計画」に攻め側とは言え参加させてしまったことへのお詫びだった。
巻田君にやられてたパートが坊主君にやられてる絵に変り、巻田君の分には露骨に描き込まれていたピーがボカされていた。
そのことで1番の被害者の巻田君との差別化を図ったらしい。
巻田君の場合と違い、坊主君はすぐにピーが反応してしまい、どうしていいか分からない状態になってしまった。
そこへ外から声がかかった。
出席者の1人「おーい坊主いるかー。今から乾杯もう1回やるって先生が呼んでるぞー」
慌ててコピー本を封筒に仕舞い、さらにシャツの下に入れる坊主君。
坊主「わっ、わかった!すぐ行くから!(小声で手を合わせつつ)荻上、ありがとう」


再び新幹線の車内。
笹原「しかしお詫びのしるしに自分の総受け本かー。思い切ったことやったもんだね」
笹原の表情に、かすかに嫉妬の色を見た荻上さんが弁解する。
荻上「(赤面し)で、でも顔は中学ん時のメガネ面だし、かっ、体のボリュームは・・・その・・・サービスで実物の3割増しぐらいになってるから・・・今の私自身とは・・・全然違います」
荻上さんの意図を理解して微笑む笹原。
笹原「ハハッ、でもちょっと見たかったな、その本(赤面する)」
荻上「(赤味増して)絶対ダメです!!!」
またまた周囲の乗客に睨まれて小さくなる2人。
笹原「分かってるよ、ハハッ」
荻上「(そっぽを向いて小声で)その内本物見せたげますから・・・」
笹原「えっ?」
荻上「(赤面し)何でもねっす!!」
こうして笹荻の距離は、また少し近くなった。