めぐりあい、アキバ 【投稿日 2005/12/05】

カテゴリー-笹荻


「あれ?」
「あ・・・。」
休日の昼、アキバのメイン通り。
ばったり、といった表現が似合いすぎる状況で出会った二人。
笹原と荻上。
「こんにちは。」
「こ・・・、こんにちは。」
少しぎこちなく挨拶を交わす。
「買い物?」
「ええ・・・、まあ、そんなところです。」
「お昼食べた?俺これから行くんだけど、一緒に行かない?」
笹原にしては勇気を出した発言であった。
「へ?・・・私もこれから食べようと思ってたんでかまいませんけど・・・。」
荻上としても断る理由がなかった。そう思っていた。
いや、断りたくなかったのかもしれない。
「じゃ、行こうか。どこか希望とかある?」
「いえ、特には・・・。」
「そう?」

アキバといえどもマックぐらいはある。
二人はそこで食事をすることにした。
「いつもマックで食べるんですか?」
「いやー。うどん屋とか定食屋とかね。色々あるけど。」
少し話がしたかった笹原は、落ち着ける場所を選んだのである。
笹原、今日はがんばってます。
「そうですか。」
「そういえば、買い物っていってたでしょ?何買いに来たの?」
「えっと・・・。パソコンのパーツなんですけど・・・。」
話によると、この前買ったPCの動きが多少悪くなったようなのである。
「フォトショ使ってるときに特に良くなくて・・・。
ネットとかで色々読んだんですけど・・・。訳わかんなくて・・・。
CPUとか、換えればいいのかなって思ってきたんですけど・・・。」
まだまだPC初心者である荻上には、わからないことが多い。
「いやー。たぶんメモリが足りてないんだよ。容量の問題もあるかな?」
「メモリ?」
「うーん、この前あのPCの形とかは見てるから、どうすればいいか分かるよ。」
「本当ですか!?」
「うん。それじゃ、ご飯食べた後に一緒に見に行こうか。」
「え・・・。笹原先輩も何か用があってきたんじゃ・・・。」
「いやいや。いつもの巡回。気にしないでいいよ。」
「はあ・・・。じゃあ、お言葉に甘えて・・・。」

さて、到着したのはパーツショップ。
「中古でも出回ってないわけじゃないんだけどね、値段そう変わんないからさ、
新品買った方がいいだろうねえ。穴の数も分かってるし・・・。」
「はあ・・・。」
この二年間でそれなりのPC知識が笹原にはついていた。
ああいうものを持つと色々いじりたくなるのは男の性である。
「他になんか欲しいものとかないの?」
「タブレット使ってみようかなって思うことはあります・・・。」
「ああ、そういうのあると便利そうだよね。」
会話をしながら笹原は必要なメモリを店員に訪ねていた。
「えっと、1万ぐらいだね。」
「え、そんなもんでいいんすか?」
CPUの値段を見てきた荻上にはすごく安く感じた。
「まあ、メモリでもおっつかなくなったらCPU換えた方がいいけど・・・。
多分、当面はそれですむと思うよ。」
「はあ・・・。それじゃ、タブレットも見てみようかな・・・。」
「うん、それがいいんじゃない?」
タブレットに関してはたいした知識がない笹原だったが、
店員に話を聞きにいったり、色々と手助けをしてまわった。
購入して、外に出る。
「結局、二つあわせても予算より安く済みました・・・。」
「うん、良かったね。」

パーツショップからの帰り道。同人ショップの目の前に差し掛かる。
「ちょっと寄ってく?」
「え・・・。あ、はい・・・。」
荻上ははじめ寄って帰るつもりだったが、笹原と一緒に行動しだして諦めていた。
しかし、店の前に差し掛かったとき、顔に出てしまったのだろう。
気を利かした笹原が声をかけたのである。
「じゃ、買い物終わったら店の前で待ち合わせね。」
おそらく、買い物風景を見られたくないだろう荻上を思い、
店内では別行動にすることを提案した笹原。
まあ、見られたくないのは笹原も一緒だろう。
「わかりました・・・。」
そういって別れ、それぞれ買い物をする。
(何かさっきの約束、恋人みたいだったなあ・・・。)
買い物をしながらもそんなことを考えて顔が真っ赤になる荻上。
しかし、すぐに顔を振って、その考えを打ち払おうとする。
(いやいや・・・。そんなんじゃねえって。笹原さんは別にそんなんじゃ・・・。)
しかし、先ほどの言葉が頭でリフレインしては同じ問答の繰り返しである。

買い物が終わって、階段を下りていくと、入り口にはすでに笹原がいた。
「あ、すいません!」
思わず出た謝罪の言葉に気付いて、笹原はこっちを振り向く。
笑顔で手を軽く振って、気にしてないよ、の合図を送る。
しかし、あせって駆け下りていく荻上は、後二段のところでつまずいてしまう。
「きゃ・・・。」
階段から転げ落ちそうなところを笹原が抱きかかえた。
「・・・大丈夫?」
「え・・・。あ、はい・・・。」
抱きかかえられた状況に、少ししてから恥ずかしくなる荻上。
「あ、あ、も、もう大丈夫ですから・・・。」
「あ、ご、ごめん・・・。」
しっかりと荻上を立たせて手を離す笹原。
「いえ・・・。迷惑おかけしました・・・。」
「いやいや・・・。」
お互い、妙な緊張感が走っていた。
「じ、じゃあ、いこうか・・・。」
「は、はい・・・。」

駅に向かう途中で、次に寄ったのはゲームショップ。
歩いているうちに徐々に緊張感はほぐれていた。
「最近のゲームって面白いのあります?」
「ワンダ、面白かったよ。」
「へえ。イコのチームが作ってるんですよね。」
「そうそう。やって損はないよ。今度貸してあげるよ。」
「じゃあ、お願いします・・・。」
ふと、荻上がショップの二階に向かう階段の張り紙を見る。
あるソフトのタイトルが書いてあった後にこうあった。
『本日13時より限定版販売します!』
二階はいわゆるパソゲー、もっと端的に言うとエロゲーなのだが、
それが今日発売してるのがあったようなのである。
(あ、もしかして・・・。)
前、そのゲームのタイトルを斑目と話しているのを聞いたことがあった。
「あの、先輩、もしかして、あのゲーム買いに来てたんじゃ・・・。」
ん?と言われてそっちの方を向く笹原。
「あはは。まあ、目的のひとつじゃないって言えば嘘になるけどね。」
今はすでに15時。限定版はもうないだろう。
「す、すいませんでした。」
「え、え、別にいいよ。時間通り来ても買えるとは限らないしさ。」
「で、でも。」
「それじゃ、これからそれ通常版で買ってくるよ。ちょっと待ってて。」
「は、はあ・・・。」
笹原の気遣いにまた少しどきどきする荻上であった。
笹原の目的がエロゲーであるという事実は、どうでもいいようだ。

二人は近くに住んでいるので、降りる駅も一緒である。
電車の中でも色々話をした。
ゲームのこと、漫画のことから、取り留めのない日常のことまで。
駅の改札から下りて、二人の家への分かれ道。
「今日は、本当にありがとうございました。」
「いやいや。今度からは何かあったら先に相談してよ。
今日俺にあわなかったら大損してたよ?」
「本当、そうですね・・・。反省しました。」
「あはは。まあ、それつけるのに分からないことがあったらメールでもしてよ。」
そういって、買ったメモリに視線を送る。
「はい・・・。何から何まですいません。」
「いや、でも、今日は楽しかったよ。」
「そうですか?・・・そうですね。楽しかったです。」
にっこり笑う笹原の言葉に、
最初疑問で返したのは迷惑だったんじゃないだろうかという気持ちがあったから。
でも、その笑顔に、また今日を振り返って、楽しかったと思った。
「それじゃ、また大学でね。」
「はい。また。」
そして、二人はそれぞれの帰途についた。

荻上は思った。
(今思うと、ああやって二人で歩いたのって二回目だけど・・・。
周りから見たらそういう関係って思われてたのかな?
うわー。スゲーハズカシー・・・。でも、本当楽しかったな・・・。)
顔を赤くしながら、歩く。
笹原は思った。
(よし、今日は頑張った。頑張ったよな?
最後、楽しいって言ってくれたし。俺も楽しかったし。
限定版捨てて良かった。本当に、良かった。)
ガッツポーズを決めながら、歩く。

「こにょにょちは~。」
「こんちは。」
「・・・・こんちは。」
「こんにちは。・・・何かご機嫌ですね?」
「いやいや、昨日アキバへ行きましたらこんなシーンを撮りまして・・・。」
「ま、まさか・・・!」
「あら!笹原さんと荻上さんじゃないですか!」
「あちゃー・・・。」
「あらあらあら・・・。こんな風にデートする中だったんですねえ・・・。」
「違います!たまたま会って、買い物手伝ってもらっただけで・・・!」
「いずれにせよ、朽木くん、GJですよ!」
「いや~、褒められると嬉しいですにょ~。」
「あはは・・・。」
最終更新:2005年12月31日 22:00