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その六 夢を見た【投稿日 2005/12/04】

カテゴリー-2月号予想


皆が寝てしまった深夜のロッジだが、荻上は一人起きていた。
過去を語って泣いてしまったあと、他の者には気丈に振る舞い、
男性メンバーも交えて談笑したあと就寝となったのだが、やはり眠れないのだ。
ノートを取り出し、過去の友人や今の仲間の絵を描いている。
といっても泥酔近いのでぐちゃぐちゃだ。それを直して…という事を繰り返している。

荻上「私が駄目だったんだァ…。でももう引き返せね…。」

独り言まで出ているが、ワインをかなりのスピードで飲み
トイレに行ってはリバース。なんという飲み方だろう。
今時の体育会系でもそんな技を実践している所は少ない。
小柄な割りにリセットを多用したこともあり、また肝臓が強いのだろう、
明け方に咲がトイレに起きた時、まだ荻上は飲んでいた。

咲 「うわ、オギーまだ飲んでたんだ(汗)」
荻上「あー、ろうも…なんふぁ眠れなふて…」
咲 「ついててやるから、もう寝なよ」
荻上「すみあへん…」

ろれつが回っていない。そして表情はとても暗かった。
ぐにゃぐにゃになっている荻上に水を飲ませ、ベッドまで荻上を
連れていくと、嘔吐窒息予防で横向けに寝かせた。

咲 「大丈夫かい、飲みすぎだよ」よしよし…

荻上の頭をしばらく撫でている咲だが、

荻上「すいあせん…もうらいじょぶですから…ひとりで…」

と繰り返す荻上に、逆に落ち着かないか…と思って一旦離れた。
荻上はその後、独り涙を流しながら眠りに落ちていったのだった―――。


翌朝、というか1時間後。
田中が始発近い新幹線に乗ってやってきた。
皆が起きても、荻上は眠りについてすぐだ。しかも在庫の酒を
空にしてしまっている。
今日は起きれないことは明白だったし、起きたら介抱が必要だろう。

大野は、昨夜の話と、泣きながら眠る荻上を見て、今すぐ
笹原に荻上を救出させねば!と決意を固くして、笹原を
ロッジの外へ連れ出した。

大野「笹原さん、荻上さんはこのままじゃ幸せになれません!」
   「そんな訳にはいかないんですよ!」
笹原「え、ちょっとどうしたの…?まあ介抱は必要だけどさ」
大野「もう、何を呑気な…。いいですか、笹原さん…」

過去のいきさつを説明する大野。

笹原「なるほどね…」
笹原『そうか…避けられてたのは、そういう事か…』
   『性格だと思ってたなんて、俺は―――。』
大野「どうなんですか、笹原さん。荻上さんの事が」

今まで淡々と語っていた大野だが、抑えていたものが溢れる。

大野「荻上さんの事が、好きなんでしょう?」

真剣な眼差しが笹原を射る。

笹原「うん、好きだよ。何があっても。」

笹原の方も真っ直ぐな視線で…いや、より強い意志が瞳に宿っている。
大野は安心と同時に、弱すぎると思っていた
笹原の強い瞳に少し驚き、後ろを向いてロッジに帰り始めた。

大野「じゃあ今日は、荻上さんの事、任せましたよ」

笹原『何があっても…。そう、荻上さんが幸せになるには、望んでいるのは何なのか。』
   『初恋と、自分の業、そして傷つけた罪の意識、か―――。』

森を見やる笹原。夏空がその上に広がる

その後、田中と大野、高坂と咲と恵子、斑目とクッチーが
それぞれ出かける姿があった。
見送っているのは笹原が一人。
3人で出かける咲を見て、心なしか斑目は気が楽になった表情だが
それは一瞬のことで誰も見る者は無かった。
いや、見られる斑目では無いだろう。

皆を見送った笹原は、荻上の傍に座っていた。
眠りが浅いのか、寝返りをうったり何やら寝言が漏れたりしている。
夢でも見ているのだろうか。
手持ち無沙汰になった笹原は、ふと荻上の眼鏡を掛けてみた。

笹原『うわ、クラクラするな(汗)!これはかなり度がきつい』

そんな事を思いつつも、荻上の眼鏡は少し嬉しい笹原だった。
真剣に悩んでいても、嬉しいものは仕方ない。
経験が無いぶん、未だに思春期真っ盛りか。
いや、触れられる事だけで嬉しい、これが原動力でも有るだろう。


その頃、荻上は夢の中に居た………。
801コピー誌事件のあと、荻上は家族内でも一度叱られたあとは
責められ続けはしなかったが、家庭も居心地の悪いものだった。
そして全校生から「ホモ上」。かつての文芸部仲間とも
表面的には親しくしていても、しこりは消えるものでは無い。

そんな時、転校した巻田が何故か学校に戻って来た。
夢の中なので整合性は取れてないが、転校した立場だがここに居る。
荻上はとにかく謝りたかった。

荻上「あ…あの、巻田君…。」

話しかけようとすると、巻田は冷たい視線で遠ざかってしまう。
しかも、周りの同級生達も、近づく事を妨害してくる。

男子「ホモ上、お前なにしてんだぁ。」
女子「ホモ上さん、あんた今更ずうずうしいべ。」

悲嘆に暮れる荻上は、階段の踊り場で坊主の同級生に声をかける。

坊主「俺もオメの事、許せないし気持ち悪いと思ってる。
   けんど、謝りたいっていうのはよく解った。
   呼んでくるから待ってろ。」


階段で待ち続ける荻上だが、息苦しさがどんどん増してくる。
誰がどう見ても、倒れる寸前だ。しかし巻田は来ない。
ついに荻上は気が遠くなり、その場に座り込んでしまった。

巻田「あ…!荻上さん、大丈夫・・・!? 保健の先生呼んでくるから」

荻上はその声を遠くに聞いたように感じた。



荻上「あ、巻田くん…。」

不意に発せられた声に笹原は驚いた。
眼鏡をかけたまま、見ると荻上がこちらを見ている。

荻上「巻田くん、運んでくれてありがとう」
笹原『巻田君って、中学の…!しかし寝ぼけてるんだよな…?』
荻上「やっと話を聞いて貰えて良かったぁ。」
笹原「大丈夫?荻上さん。寝ぼけてる?」
荻上「や…私は大丈夫…。それよりも、話を聞いて。」
笹原『どうしよう…。いや、気がすむなら…話を合わせよう。』
笹原「うん、話してよ、荻上さん。」

ぼんやりとしか見えない笹原を巻田と勘違いした荻上は、
夢の中の続きのままに話しかけ続けた。酒も抜けてない。
目はなんとなく笹原に向いているが、ほとんど見えてないだろう。

荻上「ほんと、私のせいで…私の絵で、ひどい事しちゃってごめんね。
   謝って済むもんじゃないし、言い訳も出来ないし。」
笹原「うん…。いいよ。」
笹原『どうする…?夢の続きかも知れないけど、荻上さんは今、
   中学時代に戻ってる。俺は巻田君か。』
荻上「ううん、よくないよ。気持ち悪いよね。でも、あれが私…
   本当の私なの。」
笹原『中学の時の後悔している事を、和らげられたら良いんだけど…。
   せめて今の眠りの中だけでも。』
荻上「こんな事なら、巻田君から付き合ってって言われた時に
   断っておけば良かったね。こんな気持ち悪い子。」
笹原「そんなこと…。」
荻上「今、大丈夫になった?今でも傷ついたままだったらどうしよう…
   そればっかり気になって…。」
笹原『これは、もう大丈夫としか言う他ないな…』
笹原「うん、もう気にしてないから心配しないでよ。」
荻上「良かったぁ…!ほんとごめんね。それでもやっぱり、ありがとう。
   こんな私でも、付き合ってって言われて嬉しかった。」
笹原「うん、そりゃ…好きだから。荻上さんこそ大丈夫?」

笹原は、自分の気持ちと、巻田に対する気持ちが複雑に胸中で渦巻く。
汗が滲んでいるのは冷や汗だろうか。

荻上「うん、ありがとう。私、もう大丈夫だから…。安心したから…。」
笹原『どうなんだ?荻上さんが中学生だとしたら…何を望んでいるんだ?』
笹原「良かったらさ、また仲良くしてよ。一緒に帰ろう。」
荻上「え…!」

しばしの沈黙。

笹原『あれ?どうしたんだ…?目が覚めたか寝ちゃったかな?』

荻上「巻田君は…転校先で幸せになってるんだよね?私は…私も…。」
   「私も、好きな人が出来たんだよ…!まだ憧れてるだけだけど…。」

笹原『ええーーーっ!!』

荻上「私みたいな趣味の子から巻田君は離れられるんだから、幸せになってよ。」
笹原「え、いや…うん。」
荻上「私はどうなるか解らないけど、ひょっとしたらって…。」
   「や…どうにもならなくても…ほんとに好きなものは離れられないし…。」
笹原「荻上さん…。」

どう受け答えしたものか、笹原にはどうしようも無くなってしまった。

荻上「………スー…スー…」

荻上はちょうど、また眠り始めたようだ。
笹原は溜息をついた。汗びっしょりである。
眼鏡を拭いて横に戻した。

笹原『巻田君が今、幸せになってるかどうか俺には解らないけど…。』
   『癒えない傷じゃないと信じたいな。せめてその後一生801に無縁なら…。』

眠る荻上の肌布団をかけ直す。軽井沢なので涼しいし
泥酔していると体温調整もあまりされていない。
荻上の頬に触れると、しっかりと温かい。大丈夫なようだ。

笹原『俺は、彼女の趣味を、全て受け入れられるだろうか…。』
   『俺が会った荻上さんは、801好きで、過去に傷つけた事に傷ついて…。』

荻上の寝顔を見つめる笹原の表情には、決意と少しの自信が覗えた。

笹原『恋愛経験、付き合った経験は無いから、何が不安かすら実感無いけどね。』
   『でも、俺も荻上さんが好きなんだ!これからもずっと…。』

結局、トイレに2回ほど起きただけで、荻上は夕方まで寝っぱなしだった。
荻上は夢のことはぼんやりとしか覚えて居ないし、笹原と会話したとは思ってなかった。

翌日の飲み会では荻上はもちろん禁酒だった。
しかし早朝に咲が見た時のような影はもう無い。

荻上「あー、もう今日はお酒は要りませんよ。」
一同「あたりまえだ!!」

そして大野や咲に、隅の方でひそひそ話しに引き込まれては責められる笹原の姿が有った。

大野「もう、笹原さん、介抱だけって…!弱すぎですよ!」ヒソヒソ
笹原「え、いや、だってずっと寝てたし…!」ヒソヒソ

前日までは笹原を避けていたが、今日も距離は遠い。
いや、今日は笹原を見ている。その眼差しは和らいでいるようにも
何かの決意があるようにも見えることに、咲は気付いた。

咲「ふふ~ん。」
  「ま、じれったいけど、なんとかなるかな…?」

少し微笑むと、咲は高坂傍に座りなおすのだった。