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30人いる!その12 【投稿日 2007/09/30】

・・・いる!シリーズ


結局笹原は、その日はほぼ丸1日寝て休みを潰し、翌日も殆どの時間を荻ルームで過ごした。
その間何度か自室にも戻ったが、恵子は眠ったままだった。
翌々日の朝、出勤の準備の為に自室に戻った。
恵子はまだ眠っていた。
一昨日自室を脱出した際と、状況は殆ど変わっていない。
つまり恵子はあれから丸2日寝ていたようだ。
その寝顔を見ている内に、彼女がここまで頑張って作ろうとする映画がどのように作られているのか、現場に見に行ってみたいと思った。
荻上会長からいろいろと話は聞いていたが、直に見てみたくなったのだ。
幸い今日は午後からC先生宅に行く予定だから、帰りに部室に寄ることにする。

昼過ぎ、笹原はC先生に会ってネームのチェックを終えた後、部室にやって来た。
屋上に来てみると、あちこちに畳ぐらいの大きさのベニヤ板が置かれている。
その1枚に向かって、豪田はしゃがんで鉛筆を走らせている。
長い金属製の定規を片手に線を引き、幾何学的な模様を書き込んでいく。
別の1枚には、沢田がメタリックシルバーのペンキを塗っていた。
ペンキを塗り終わった分には、豪田が鉛筆を一旦置いて細かい手直しを加える。
そして部室のプレハブの壁際では、巴がベニヤ板を並べて立てかけている。
そのベニヤ板には、先程のメタリックシルバーの塗料をベースに、メカニカルなデザインの塗装が施されている。
いくつかの小さな穴(後で豆電球を入れるのだ)の開いたその板のデザインは、異様に精巧でリアルだ。

巴「あら笹原先輩、こんにちは」
最初に笹原の存在に気付いた巴に続き、あとの2人も挨拶する。
笹原「こんちわ、これは?」
沢田「ケロロ小隊の作戦司令室の壁です」
笹原「(心底感心して)上手いね」
豪田「(照れて)こんなのちゃんと撮られたら粗見えまくりですよ。手前の人物に焦点合わせて照明暗めにして、やっとそれらしく見える程度です」
笹原「あれ?豪田さんが美術ってのは聞いてるけど、巴さんと沢田さんは映画に出るんだよね?」
巴「私は夏美役なんですけど、今回は最初と最後にちょこっと出るだけですから、実質的なセカンド助監督なんです。だから忙しいとこ手伝うのは当然ですよ」
笹原「セカンド?あっ、そうか、確か伊藤君がチーフ助監督だったね」
沢田「私はドロロ役なんですが、終盤でちょっと出るだけなんで、サード助監督です」
豪田「私もセット作った後は手空きなんで、照明担当します。そんでこの2人は、交代で録音も担当します」
笹原「録音?」
豪田「8ミリの音はアフレコですけど、音入れる時にライブの音があった方がいいらしいんで、撮影時の音取ることになったんです」
笹原「何か本格的だね…」

その後しばらく、笹原は女子会員3人といろいろ映画について話した後、部室に入ろうとした。
部室のドアに手を掛けようとして、ピタリとその動きを止めた。
ドアの横に貼られた張り紙に気付いたからだ。
縦長のその貼り紙には、毛筆で「G作品制作本部」と書かれていた。
笹原「何だこりゃ?」
巴「あっ、それミッチーが書いたんですよ」
沢田「彼女ペン習字だけでなく毛筆の習字も1級なんです」
笹原「なるほど達筆だね…じゃなくて、G作品て何?」
豪田「今回の映画の仮称ですよ。伊藤君、まだサブタイトル決めてないんです。監督と相談して決めたいからって」
沢田「元々は『ゴジラ』の企画段階での仮称だったらしいんですけど」
笹原「国松さんの提案?」
巴「(にっこり笑って)やっぱ分かります?」
笹原「彼女しか居ないからね、こういうの提案する人は」
豪田「まあ今回は、現視研のGとでも解釈して頂ければいいと思います」
3人に苦笑気味に微笑んで、笹原は部室のドアを開けた。

笹原が部室に入ってみると、2つのテーブルを2グループが各々使っていた。
片方のテーブルは、映画に出る荻上会長、スー、アンジェラ、ニャー子、有吉、そして大野さんが囲んでいた。
全員台本を持っているから、台本の読み合わせをやっているようだ。
もう片方のテーブルは国松と日垣と伊藤と神田が囲み、テーブル上は大量の自動小銃や短機関銃のモデルガンが占領していた。
荻上「あっ笹原さん」
荻上会長が気付いたのをきっかけに他の会員たちも笹原に気付き、互いに挨拶する。
大野「荻上さん、しばらく抜けていいですよ」
荻上「えっ、いいですよ」
大野「まあまあ、照れなくてもいいですよ。それにOBの人ほったらかしってのも何でしょ?スー、あなたしばらく軍曹さん役もお願いね」
スー「(渡辺久美子似の声で敬礼しつつ)了解であります!」
笹原「…似てるね」
荻上「スーちゃんはケロロに出てくる声優さん、全員マネ出来ますよ」
笹原「凄いね。今日はみんなで台本の読み合わせ?」
荻上「まあ、そんなとこです」
アンジェラ「てゆーか演技指導?」
笹原は大野さんの服装に注目した。
この暑いのに上下黒づくめで、上は長袖、下はロングスカートだ。
笹原「もしかしてその格好…」
大野「(顔半分を髪で隠し)さあ、仮面を被るのよ」
笹原「月影千草か…」
荻上「それをやりたかっただけですよ」

しばし笹荻並んで、台本の読み合わせ風景を見つめる。
大野さんが積極的にチェックを入れていく。
「有吉君、声が吹き替えになるからって台詞おろそかにしちゃダメ!」
「アンジェラ!台詞なんだから語尾に『あるね』付けちゃダメ!」
そんな様子に感心する笹原。
「けっこう本格的なんだ、演技指導」
荻上「何でも一夜漬けで演劇関係の本読んで勉強したそうですよ。(少し考え)今日はどうしたんですか?」
笹原「いや、ちょっと現場を見ときたくなったんだ。恵子があそこまで入れ込んでる映画の制作現場をね」
荻上「まあ入れ込んでるというか、何かスイッチ入っちゃったみたいですね。正直私も驚いてるんです、1年の子たちの報告聞いて」
笹原は先日聞いた国松の推測について話した。
荻上「そういうのもあるのかも知れませんね…」

笹原はもう片方のテーブルに目を向けた。
伊藤はテーブルの上にモデルガンの薬莢(カートリッジと呼ばれる)を並べ、火薬(キャップと呼ばれる)を次々と詰めていく。
日垣はモデルガンの銃身や銃口にノギスを当てて何やら測り、手元に置いた図面に数字を書き込んでいく。
国松は次々とテーブルの上の銃を手に取り、肩に付けたり腰だめにしたりして構えていた。
そして神田は、台本や彼女の物らしきシステム手帳を見ながら、何やらノートに書き込んでいる。

笹原「伊藤君それは?」
伊藤「ギロロが使う火器なんですが、今から発火テストをやりますニャー」
日垣「銃そのもののテストはこの間やったんですが、今日は実際に使う国松さんに撃ってもらおうと思って」
笹原「ここで?」
伊藤「まあその時は皆さんに一時避難してもらうことになりますけど、まだまだ掛かりますからニャー」
笹原「まだまだって?」
日垣「この手の銃で30発も撃とうと思ったら、弾の用意だけで1時間近く掛かるんです」
伊藤「それをフルオートで撃ったら10秒かそこらで弾切れ、そして後の分解掃除にさらに1時間、全く不条理な趣味ですニャー」
笹原「何か大変そうだね…」
その時国松が、銃を降ろしながらため息を付きつつ呟く。
「けっこう重いわね。モデルガンにしては」
日垣「金属製だからね。それでも本物よりはやや軽いんだけど、どう振り回せそう?」
国松「(再び銃を持って、いろいろポーズを変えて構え)ただ振り回すだけなら何とかなりそうね。でも問題は発火した時よね」
日垣「まあいざとなれば、発射するシーンと銃持って走るシーンと分けて撮って、撃つシーンを上半身アップにして下から銃引っ張るって手もあるし」
国松「そこまでしなきゃいけないぐらい反動強いの?」
日垣「この手の銃のフルオートって、薬莢吐き出す時に重たい遊底が連続して前後するから、けっこうきついと思うよ。片手撃ちで制御するのは」
国松「そうなんだ。でもまあ、とりあえずどうするか決めるのは、撃ってみてからね」

笹原「何かこっちも大変そうだね」
国松「でも浅田君と岸野君が銃貸してくれたおかげで、ギロロの装備は何とかなりそうです」
笹原「まあ確かにギロロの装備って、ガンダム系のやつか実銃系のやつだから、モデルガン使えば一応格好は付くね」
国松「ほんとはビームライフルぐらい作りたいんですけど…」
日垣「まあビームライフルだと、あとで光線描き込むのが大変ですから」
笹原「日垣君は何してるの?」
日垣「試射してみたんですが、煙と薬莢はしっかり出るけど銃口は塞がってますから、銃口から火が出るようにしようと思いまして」
笹原「銃改造するの?」
日垣「借り物ですし、それやると法律に引っかかるんで、サイレンサーみたいなのを別に作って銃口にはめて使おうと思うんです」
笹原「(日垣の手元の図面見て)何か本格的だね」
日垣「(笑って)そんな大がかりな仕掛けじゃありませんよ。要はサイレンサー状の筒の中に短く切った花火を何本か仕込み、長さの違う導火線つないで点火するだけですから」
笹原「短く切る?」
日垣「普通の花火なら1分近く火が出るでしょ?それを銃の発射炎みたいに一瞬だけにする為ですよ」
笹原「導火線の長さってのは?」
日垣「もちろん1度に発射するのを防いで、フルオートの連発に見せる為です。まあよく見れば銃口があちこち変わるのが分かるでしょうけど、銃ブラせばバレませんよ、多分」
笹原「いろいろ考えてるんだね」

「銃もいいけど、タイムカプセルの方はどうなってるの?」
神田が口を挟んだ。
日垣「おもちゃ屋やホームセンターを回って、改造して使えそうな物を物色してるとこだけど、急ぐ?」
神田「スケジュールの関係から行くと、多分クランクインしてすぐぐらいに出番があるわ。日向家でのシーンから撮影スタートすると思うから」
日垣「そんじゃあ急ぐよ。最悪プラ板で1から作るし」
「どんなスケジュールになってるの?」
笹原が口を挟んだ。
それに対し神田は、以下のような説明をした。
クッチーの就活(と言うか公務員試験)の関係で、ベム絡みのシーンの殆どの撮影は後回しになる予定だ。
ちなみにこれは、特殊技術の国松からの意見を入れたせいでもあった。
ベム絡みのシーンには、着ぐるみが破損する危険性が高いものが多い。
特にギロロに撃たれるシーンでは、着ぐるみに弾着を仕込む(と言っても、ニクロム線に繋いだ火薬を着ぐるみに貼るだけだが)ので、かなりひどい破損になることが予想される。
ベムの着ぐるみはラテックス製だから、熱には弱いのだ。
日々の撮影で生じる傷や汚れ程度は、修理しつつ撮影続行するが、熱で溶けた破損となると修理にどれぐらいかかるか見当が付かない。
最悪の場合、着ぐるみがオシャカになるかも知れない。
そこでギロロに撃たれるシーンを1番最後に持って来たのだ。

そういった事情により、必然的にその他のシーンからの撮影になる。
撮影現場は主に2つに別れる。
日向家内でのシーン中心の屋内撮影と、クルル時空での着ぐるみバトル中心の屋外撮影だ。
この時点でまだ屋外でのロケ地が決定してないこと。
屋外シーンの方が小道具や仕掛けが多く、準備にまだ時間がかかること。
そして9月前半に外での着ぐるみバトルの撮影は、まだ暑いので初心者にはキツいこと。
それらの理由により、前半は主に屋内撮影、後半は屋外撮影中心で撮ることに決めたのだ。

「なかなか大変だね、撮影スケジュール組むのも」
そんな笹原の感想に、神田は笑顔で答えた。
「いやこれはこれでなかなか楽しいですよ。みんなの日々の生活とか、どんな科目履修してるのかとか分かりますし、それに…」
笹原「それに?」
神田「OBの方々にも頻繁に連絡出来ますしね」
笹原「OB?」
神田「この部室、けっこう皆さんよくいらっしゃるでしょ?でも今後しばらくは留守にすることも多いから、念の為に撮影スケジュールはその都度連絡しようと思うんです」
笹原「まめだね」
神田「特にシゲさんは頻繁にいらっしゃるから、まめに連絡しなきゃいけないですからね」
さらに言い訳するように付け加えた。
神田「あっこれ仕事ですからね。ついでに誘惑しちゃおうなんて考えてないですからね」
一同『それが狙いだったのか…』

「ただ今戻りました!」
そう言いつつ、浅田と岸野が部室に入って来た。
荻上「お疲れ様、どうだった?」
岸野「とりあえず撮影に使えそうな空き地や原っぱ、数ヶ所見繕っときました」
荻上「ご苦労様、ビデオには撮ってあるの?」
今や半ば彼の愛機と化したDVX100を前に差し出しつつ、浅田が答える。
「こいつに収録してありますよ」
岸野もデジカメを差し出しつつ付け加える。
「写真もこいつに撮ってあります」

部室のテレビで、ロケハンして撮ってきた映像が再生された。
台本の読み合わせをしていた組も一時中断し、会員全員でそれを見る。
国松「うわーシナリオのイメージにピッタリじゃない!『仮面ライダー』の撮影に使われてた造成地みたい」
岸野「ここなら住宅地から離れてるから、少々騒いでも問題無いと思うよ。それに何とか近くまで車も入れられるし」
浅田「まあ難点は、トイレと電源が取れそうな施設が近くに無いことかな」
国松「シナリオのイメージ的には夕暮れ時以降だけど、昼間撮影すればいいんじゃない?フィルターか何かで画面暗めにするとかして」
荻上「暗くなってから素人がアクションシーン撮影するのも危険だし、その方がよさそうね」
みんなも賛同し、後で恵子にその線で話してみることになった。
この辺りから、会員たちは自然にミーティングへと移行し始めた。

「屋外はそれでいいとして、屋内の方はやっぱり私んちでいいかな?」
神田の発言で話題は日向家内のロケ地に移った。
岸野「リビングとか台所とかはいいと思うけど…」
神田「何?」
岸野「冬樹の部屋がねえ、何というか神田さんの部屋だとちょっと…」
神田「あっそうか。私の部屋だと、相当模様替えやらないといけないわね」
笹原「神田さんの部屋も、やっぱり俺たち同様オタルームなの?」
神田「オタルームってほどじゃないですよ。そりゃ本棚は殆ど漫画本だし、壁にポスター貼ってるし、抱き枕あるし、フィギュアも飾ってますけど、それぐらいは普通ですよ」
笹原「…いや十分オタルームだと思うよ」
荻上「他の部屋は?」
岸野「他の家族の方の部屋も同様です」
荻上「片付けるの手間そうだし第一神田さんに悪いから、冬樹の部屋はまた別で考えましょう。あと決まってないのは?」
浅田「あとはケロロの部屋とクルルズラボですね。ケロロの部屋って窓の無い地下室だけど、そんな部屋さすがに神田さんちにも無いですし」
荻上「まあ日本の家屋の部屋って、普通は窓あるもんね」
岸野「まあ最悪カメラアングルで上手く誤魔化すって手も無くは無いですけど」

「無ければ作ればいいわ」
話に割り込んできたのは、ひと仕事終えて休憩しに部室に入ってきた豪田だった。
岸野「作るって?」
豪田「窓の上に、周囲の壁と同じ色塗った板貼って隠しちゃうのよ。それで不自然だったら、最悪その窓のある壁ごと大きい板で隠しちゃってもいいし」
荻上「えらく大がかりな方法だけど、やれそう?」
豪田「私がやれば何とかなりますよ。ベニヤ板とペンキだけで」
浅田「それなら場所だけ探せばよさそうだね。あとクルルズラボはどうしよう?」
豪田「このシナリオだと室内全景を映す必要は無さそうだから、クルルの背景だけ作って照明暗めでバストショットで撮影すればいけるわよ」
浅田「そう言や作戦司令室もそれに近かったね」
豪田「背景さえあれば場所はどこだって構わないわよ。例えばこの部室でもいいし」
一同『何て頼もしい美術担当なんだ…』

「うっしゃー!」
気合いと共に台場が部室に来た。
荻上「どうしたの?」
台場「やりましたよ会長!サンライズと交渉して、ケロロの主題歌とBGMの使用許可もらってきました!あとは著作権の方申請したら、サントラから音取り放題です!」
国松「お疲れ、晴海!」
笹原「何か話がどんどん大きくなってるな…」


次回予告

さていよいよ次回、長き眠りから覚めた恵子監督が復活し、撮影準備も佳境に入る。
そして彼女の肉体に、ある異変が…
(て言うか、まだ撮影始まらないのかよ)