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スザンナの消失その4【投稿日 2007/04/07】

カテゴリー-その他


第七幕 救出 スージーと斑目そしてアレック、千佳子

スージー一行は斑目の運転するバンで「潜伏地」に向っていた。

「そんな分かってるんだったら早く助けるなり、さらわれないようにすればよかったのに!」
斑目はスージーに対してぼやいた。
「二人に危害は及びません。準備が整わない内は動くに動けなかったのです。」
「もう準備は万端という事?」
「ええ、携帯でテレビ中継を見て御覧なさい。」

斑目は千佳子に携帯を開いてもらって、車のフォルダーに固定してテレビを観てみた。
テレビは異様な光景を実況中継していた。GX-ガノタックスで使用された国産初号機・・・機動○士ガ○ダムそっくりな機械が街中で暴れまわっていた。もちろん器物を破損するだけの示威行動であったが、マスコミ、ネットで騒然となっている。
「こっこいつは?!」
斑目は驚いてスージーに聞いた。
「敵の目をひきつけてもらうようハルナと双子たちに頼んでます。ついでに潜伏地に自警隊を誘導してもらいます。」

「・・・いやはや・・・。(汗)」
(準備万端というわけか・・・。)
春奈と双子には害は及ぶまい。そんな手抜かりをするようなスージーでもないだろう。そこまでできる人が常人であるはずが無い。
彼女は何者なのか? 誰も彼女の心の内を知る者はいない。だがそれでもなお、スージーは自分たちの・・・げんしけんの仲間なのだと斑目は車を走らせながら思った。

一向はとある場所の排水溝の通気口から潜伏地に向かった。通気口を抜けて潜伏地のある場所に縦に横にとスージーを先頭に斑目、アレック、千佳子が続いて進んでいた。スージーが上に伸びている梯子を昇って、それに斑目が続いて昇っている時、思わず斑目はスージーに尋ねた。

「なあ・・・スージー・・・。大学生活は楽しかったかい?」
それに対してスージーは無言で何も答えなかった。だが僅かに微笑んで頷いた気がした。
スージーはその時、斑目が下からキルト文様の巻きスカート(中にはズボンを穿いていたが)中を覗いていると気付いて斑目の顔に蹴りを入れた。

ゲシ! ゲシ! 

「痛て! 痛て! 見てないって!! やっやめろ、スージー!」
「二人ともふざけてないで進みましょうよ~」
下でアレックが騒いでいた。

 *********************

潜伏地の外で起きている出来事は《藍玉》たちを動揺させた。

「あ、くそ。こっちにゆっくりと誘導してやがる。」
テレビに見入っている《藍玉》は叫んだ。
テレビでは機○戦士ガ○ダム似の機体が自警隊を誘導しながら彼らのアジトに真っ直ぐ進んでいる。
「あ、高射砲の直撃くらった! 所詮対人兵器か・・・。国家の機密兵器を持ち出せるほど今のスザンナのガーディアンは組織力を強化させてるのか・・・。『裏』社会で急造の組織を作った我々とは違うな・・・。せめてガーディアンの正体が分かればな・・・。」
《藍玉》は追い詰められているはずなのにそれを忘れて楽しむようにテレビに見入っている。
テレビでは直撃をくらったその機体の一挙一動に注目が集まっている。レポーターの解説もストップして沈黙が支配している。ネットの書き込みもストップしているとの事だった。
《藍玉》も黙って見ている。
頭と左腕を吹き飛ばされたその機体はヨロヨロと立ち上がり、右腕を高く掲げて(空砲の)ライフルを空に向って撃った。
その瞬間、テレビのレポーターは激しく実況を再開し、ネットの書き込みは過熱した。
「おお、誰かは分からんが、お約束を忘れていないな。うんうん。」と《藍玉》は感心している。

「それどころじゃありません。あの機体がやられたのはこのアジトの真上ですよ。このままだと某国の残党と自警隊との市街戦になります。」
《瑪瑙》は慌てて《藍玉》に訴えかけた。しかし《藍玉》はたいした事でも無いように答えた。
「まあ、失敗しても面白かったから満足だ。組織は壊滅してもまた作ればいい。それに目的は『スザンナ・ホプキンス』だ。奴は必ず来る。」

そのケロッとした言い方にアンジェラは呆れて《瑪瑙》たちに言った。
「あなたたちも大変ね。何でこんな人に仕えているのか分からない。」

《瑪瑙》は微笑んで言った。「ええ、御上は馬鹿ですけどね・・・。でもわたしたちは楽しいんですよ。わたしは不治の病でした。みんなにかわいそう、かわいそうと言われて死を待つだけでした。
その時、御上が現れて言ったんです。『お前には素質がある。この俺に仕えるか皆に看取られて幸福のうちに死ぬか、選べ。』って言ったんです。」
「そんな・・・そんな選択をさせるなんて、あの男はあなたを利用しているだけですよ。」とアンジェラは言った。
「さあどうでしょう。そうかもしれません。でもわたしはみんなに同情されて悲劇のヒロインみたいに死ぬのはまっぴらだと思いました。
わたしは自分の『生』を選び取ったのです。後悔はありません。一人で『天国』に行くくらいならあの人と『地獄』に堕ちたいと思ってるんですよ。」
「・・・・」
アンジェラは押し黙った。
《琥珀》も言った。
「あたしも親父の顔知らなくてさ、お袋が再婚した人はいい人だけど自分の居場所って気がしなくてさ・・・。学校の勉強もわかんねえし、渋谷でタムロしてると、いいカッコしいの『見回り先生』が自分に酔って説教たれんのよ。」
体を左右に揺らしながら嬉しそうに《琥珀》は話し続ける。
「そんな時に御上が爽快にそいつぶっ飛ばして『お前の素質を嗅ぎつけた。お前が必要だ。』って言ってくれたんだ。説教より嬉しかったね。」
その《琥珀》の嬉しそうな表情を見てアンジェラは何も言えなくなった。

「何、お前たち話しているんだ? そろそろ奴が来ると俺の勘が言ってるぞ。予想もしない不意をついてな。」
「こんなふうにな!!」
《藍玉》は叫んだ。
その叫びに皆が驚いていると、天井の通気口が開いてそこからスージーが鉄の棍棒を振りかざして《藍玉》を襲撃した。
鉄の棍棒は《藍玉》の頭部を狙って振り下ろされたが、《藍玉》が右腕でそれを防いだので頭部への直撃は避けられた。だかガードした《藍玉》の右腕は痛々しくえぐれて血を流した。《藍玉》は後方に飛んで退避した。《瑪瑙》と《琥珀》も傍によって守護する態勢を取った。

スージーはくるりと反転して着地した。そして「撲殺天女、撲殺天女」とふざけるように言った。その後からアレックたちがドサドサと通気口から落ちてきた。
「あいたた・・・。チカコ、重いよ。」とアレックが言うと「わたしそんな体重ありません!」と千佳子が怒った。斑目がのそりと立ち上がり、アンジェラと目が合うと照れくさそうに言った。
「やあ、アンジェラ、遅くなりました。」

スージーはその長い髪を三つ編みに編んで、さらにそれを頭部に巻きつけていた。右手には鉄の棍棒を床にコツコツと当てて音を立てながら身構えている。キルト風の巻きスカートの下には拳銃がホルダーに収められている。

《藍玉》は不敵な笑みを浮かべながら言った。
「ほら見ろ。油断してたら怒涛の一手だ。見かけに騙されるなよ。こいつには何度・・・。」
「御上、そう言いながらジリジリ後ろに下がってるっス!! こんなガキに!!」と《琥珀》
「いえ、《琥珀》ちゃん。御上の言う通りです。棍棒は軽い素材で出来ていますが非力でも遠心力で振り回せるように先端は重くトゲで打撃面を雑に破壊するようになってます。所持している拳銃もおそらく弾丸が変形する柔らかい素材で貫通力をわざと落としています。
再生能力を発揮できないように理にかなった選択です。」と《瑪瑙》は興奮しながら続けて言う。
「素敵!! 素敵だわ!! 聖賢と暴虐が微塵のぶれも無く同居してます!! こんな敵を殺せるなんて!!」と《瑪瑙》は半月刀を両手に身構えて言った。

「その敵に何度も負けてるニャ。」
《翡翠》が駆けつけてきた。
「《翡翠》!!警備兵は連れてきましたか?」
「ぬかりないニャ。」
「じゃあ、一斉射撃で一網打尽ですね。」

配下たちの言葉にオロオロしたのは《藍玉》の方だった。
「いや・・・それは卑怯と・・・。」
「御上!! そんな甘い事を言っていたから負け続けてたんじゃないんですか?! それとも・・・」
少し嫉妬を含んだ言葉で《瑪瑙》が《藍玉》を制した。
「わっ分かった・・・。まかせる・・・。」

駆けつけた警備兵たちは銃口をスージーたちに向けた。号令で一斉射撃を待つだけであった。

「やっやばくないか?!」と斑目はうろたえた。
「チェックメイト。」とスージーは静かに懐から奇妙なヘッドホンのような器具を取り出して、ぬぬ子に手渡した。
「ぬぬ子、これをつけて好きな歌を歌いなさい。」
ぬぬ子は戸惑いながら「いいんですか?」と聞き返した。
「いいのよ、これは『バジリコ』って夢探偵のアニメに出てきた器具をモデルに開発されたものなの。」
アンジェラはにっこり笑って言った。

ぬぬ子はその器具を受け取って身につけると歌いだした。

その器具の機能とぬぬ子の歌の効果を斑目はすぐに理解した。それは奇跡の歌だった。歌そのものはありきたりなどこかで聴いたようなありふれたアニソンだった。しかしその声はまるで多重奏で歌われたかのように重層的に鳴り響いた。
その歌は耳ではなく脳に直接伝達されていると理解した。おそらくその伝達は物理的な音の伝達の限界を超えて潜伏地全体に人を介して伝わっているに違いなかった。

警備兵たちは銃を下に下ろしてその歌を聴き入っている。その歌は日々の生活で感じられる悲しみや優しさを想起させ、波打つように心に響いてきた。
これは現実だろうか? 遠くから聴こえてくるようでもあり、近くから聴こえてくるようでもある。良く知っているようでもあり、まったく知らないようでもある。走馬灯のようにあらゆる感情と記憶が押し寄せる。
憎くもあり、愛おしくもある。悲しくもあり、喜ばしくもある。そんな気持ちを想い起こさせてくれるのは『彼女』ではなかった。そう・・・もうすでに『彼女』ではなかったのだ・・・。

我に返って自分の身に起こったことが他の者たちにも起きた事を知った。そして同じような感覚を感じたアンジェラと見つめあった。そして全てが決着したと知ったのだった・・・。


第八幕 最後の闘い アレックと《藍玉》

警備兵たちはがっくり放心状態になっている。彼らはすでに戦意喪失していた。

「なっ何が起きた?」と《藍玉》はうろたえた。
「落ちつくんだ…『素数』を数えて落ちつくんだ…『素数』は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字…わたしに勇気を与えてくれる。2…3…5…7…11…14…17…19・・・。」
「おっ御上、落ち着いてください。14は素数じゃありません!!」と《瑪瑙》。
「まっまだ勝負はついてないって!! 警備兵がいなくてもわたしらだけで勝てるって!!」と《琥珀》は叫んだ。
《瑪瑙》は首を振って言った。「いいえ、まもなく自警隊が無抵抗のこの基地に押し寄せます。それに彼女たちに、特にぬぬ子に危害を加えようものなら、警備兵がわたしたちに押し寄せます。逃げましょう。」

「いや・・・いっ一騎打ちを所望する!!」

《藍玉》の言葉に敵味方一同唖然とした。いまさら一騎打ちを申し出ても劣勢が変わるわけではないのにと誰もが思った。

「いいでしょう。受けましょう!!」とスージーの返事にはさらに敵味方驚いた。

「ただし一騎打ちするのはこのアレックです!!」

「おっ俺?」
意外な指名にアレックは驚いた。
「アレック!! オスワリ!!」
その言葉にアレックはビクッとしてひざまずいた。

(お前・・・どんだけ躾けられてるんだ・・・。不憫な息子よ・・・(涙))
斑目は涙した。

「勝った! 俺は勝った!!」
《藍玉》は叫んだ。配下の女たちも喝采を送っている。「あんなガキ、一ひねりっスよ!!」と《琥珀》も騒いでいる。

その様子にアレックもムッとした表情を浮かべた。これでも格闘技を学んでいるし、なにより強化服を着ている。無様な闘いはしないはずだと思った。
「なめるな!! 受けて立つぞ!!」と叫んだ。

敵側の《琥珀》の姿を見て千佳子が目を細めて首をかしげている。
「チカコ? どうしたの?」とアンジェラが聞いた。
「ムム? いえね、あの子・・・。どっかで見た記憶が・・・。子供の頃かなー。あれー?」

臨戦態勢になった二人は向き合った。
すると《藍玉》の体がみるみる膨れ上がり服が破けた。そしてアングリと口をあけて驚いているアレックをはじめ斑目一行の目の前で《藍玉》は獣人と化した。そして狂獣の咆哮を上げた。

ゴアァァァァァァァァ!!!!!

アレックはプルプル震えてスージーの方を向いて言った。
「いや・・・あれはないでしょう・・・。」
「イケ、ネコヤシャ!!」
「アッアイアイサー(涙)」

ベキ、バキ、ボキ、グシャ ビチャ 
「ゴハァ、貧弱、貧弱ゥゥゥゥ。」
ほとんど一方的な戦闘にすでにぬぬ子はフラフラと倒れそうになり、見てられず目を覆う者もいた。スージーがレフリーになって試合を取り仕切っている。

「はひふへ・・・。」
第一ラウンド終了して這いながらアレックは戻ってきた。「俺、シリアスなキャラだと思ってたんだがなあ・・・。」
セコンドの千佳子が水やタオルを手渡している。

「第二ラウンド カーン。」とスージー。 

グワシャ メキメキ ガン ドクドク

第二ラウンドは杖をついて戻ってきた。「マジ無理! 不可能!」 よろめきながらアレックは言った。
そんなアレックにスージーが囁いた。
「『アレ』をやれば必勝の切り札を授けます。」
「『アレ』? いや、あれは恥ずかしいなあ・・・。」
「あ、そうですか、ヌヌコの前で無様に負けると・・・。」
「ホント、スージー姉さんは汚いなあ・・・。分かった。切り札をください!!」
スージーはニコリと笑って自分の手の甲をナイフで切って血の滴る手をアレックに差し出した。
「先祖より引継がれし契約をここに結ばん。さあ『血の契約』です。接吻しなさい。」
アレックはそれに従って血の滴るスージーの手に接吻した。するとアレックの傷はみるみると癒えた。アレックは驚きながらも目の前の敵を倒す事が優先事項だと思って問うのは後回しにした。

「アレック、『アレ』です。『アレ』。」
スージーはそう言いながらニタニタしている。
「『アレ』ですね、『アレ』。」

襲いかかってくる獣人を前にアレックは顔を赤らめながらラッシュパンチを繰り出した。
「無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄 無駄  無駄ァァァァ!!」

獣人は吹っ飛んでもとの人間の姿に戻った。
「ぐはあ~。よくもぉぉ、おのれこんなあぁぁぁ。」

「テメーノハ敗因ハ・・・タッタヒトツダゼ・・・タッタヒトツノ単純ナ答エダ・・・テメーハオレヲ怒コラセタ・・・。」
スージーは冷淡に言い放った。

《藍玉》はのたうちまわって言った。
「逃げる! 逃げるぞ! お前たち、俺を逃がせ! 俺は生きるぞ!!」
「はい、御上!」
三人は盾になって《藍玉》を逃がした。

アンジェラが「あなたがたを置いて逃げるような卑怯者にどうしてそんなに義理立てするの?」と彼女らに言うと、《瑪瑙》は言った。
「地獄までも一緒と言ったではないですか。人に尽くすのは別に損得からだけではないでしょう。あなただってそうでしょう?」
アンジェラは反論できなかった。
「ただ《琥珀》ちゃんはお返しいたします。まだ道を選ぶには早すぎますものね。」
《瑪瑙》の言葉に驚いて《琥珀》は「ええ、いやだよ、姐姐たちと、御上たちと一緒にいるよ!!」と泣いて叫んだ。

「駄目ですよ。」
そう言って《瑪瑙》と《翡翠》は突入してきた自警隊に投降した。そして《琥珀》をアンジェラたちに預けた。
基地は自警隊に無抵抗で制圧され戦闘員はすべて投降した。斑目一行も自警隊の保護下に置かれた。
そして置き去りにされた《琥珀》はその場に泣き崩れて、慰めるアンジェラの言葉をよそに、ワアワア大声で泣いていた。

その様子を後ろで見ていた斑目はスージーがいないことに気付いた。
「あれ? スージーは?」 

 *********************

《藍玉》は通気口を逃走経路として必死に逃げていた。狭い通気口は這うのが精一杯だったが、逃走経路としてすでに確保してあるのでここを抜ければ安全である事を知っていた。

「くそ! 《瑪瑙》たちは上手く逃げたか? 捕まっても後で助けに行くからな!! リターンマッチだ! 『あの場所だ!! あの場所に行きさえすれば!!』」

入り口に差し掛かってほっとして《藍玉》は通気口の蓋に手を伸ばした。だが通気口は外にいる誰かの手で開けられた。

その瞬間、弾丸が《藍玉》の両目をつぶした。
「目っ目がぁぁ目があぁぁ。」
「バルス!」
「! その声はスザンナか?! 逃走経路まで先回りか!! しかもこんな狭い通路じゃ獣人化もできん! だが銃じゃ俺は殺せんぞ。」
「わたしの血を塗った弾丸なら?」
「・・・お前のその無駄の無い用意周到さが嫌いなんだよ!! ここはもう少しかっこいい必殺技で倒すもんだろうが!」
「ヤレヤレ、命乞イカ? ダガオ前ハ生物トシテノ一線を超エタ。ダメダネ。」
「そのセリフたぶん正確じゃねえぞ。これで倒せたと思うなよ、カリスマ悪役は『復活』するのがセオリーってもんだ。たとえ最後は地獄に落ちるとしてもな。いずれは地獄でまた会おう。」
《藍玉》は閉じられた目から血の涙を流しながら微笑を浮かべ穏やかに言った。

スージーも静かにその言葉に頷いた。

そして引き金を引いた・・・。


終幕 スザンナの消失

改めて斑目はアンジェラの方を見た。もはや迷いは無かった。この答えにたどり着くまでにどれだけの時間を無駄にしたというのだろう?

アンジェラもまた再び生きて斑目に会えた事を喜び、斑目の方に歩み寄っていった。
だがそれでもなお、人の意志を超えた出来事というのは避けられない。破損したパルブが破裂してアンジェラの胸部に破片がぶつかるなど誰が予想できよう。

アンジェラは信じられないという表情を浮かべて、血のにじんできた自分の衣服に視線を落とし、そして斑目の方を見て崩れさった。

慌てて斑目もアンジェラに駆け寄って、必死に傷口を抑えた。
千佳子もぬぬ子も青ざめて立ちすくむ。アレックはただ呆然と目の前の死を無力に見つめる自分を呪うだけだった。
アレックは「誰か・・・誰か・・・助けてください・・・血が・・・血が止まらないんです・・・。」とただ泣き喚くだけの男が自分の父である事をもはや恥じたりはしなかった。

アンジェラは途切れそうな意識の中でか細く呟いた。「うれしい・・・。幸せだわ。こうして私のために泣いてくれるなんて・・・。ああ、でももし助かったなら・・・。」

アンジェラは歌った。胸部に重い損傷を受けていたからちゃんとした歌にはならなかったが・・・。

『わたしと一緒にきて下さい。
輝く海を超えてあの国へ
わたしたちが見知った世界を遥かに超えたところで
夢の世界より遥かな彼方で
これまで味わったどんな喜びより
遥かな彼方で待っているのです。』

「それ、『イノセント』だろ?いいから!!もう歌わなくていいから!!」

『わたしと一緒にきて下さい。
愛する者にしか見えないこの道を
楽しい夜の年月の彼方に
涙を そしてわたしたちが無駄にした年月を超えて
光の中に続いている道です。
わたしと一緒にきて下さい。
この山の奥の彼方の国へ
いつも心に抱いていた音楽の全てが空を満たしています。
沈黙の歪みの中で歌えば
心は開放されます。
そうしている間にも世界は回り続け
そして落ちていきます・・・』

途中でアンジェラは意識を失い、どこまで歌ったのか夢の中で歌ったのか、それとも彼方の国で歌い続けていたのか分からなくなった・・・

 *********************

「で、どうなったわけ?」
と春奈は尋ねた。
春奈とアレックはボクササイズのスパーリングをしている。
「どうしたもこうしたも、破片は深くまで達しなかったらしくて・・・。胸の部分は血管が細かいので出血が派手に見えただけなんだってさ・・・。」とアレックは憮然として答える。
「へえ、九死に一生を得るならわたしもがんばってみようかな、巨乳!」と胸を持ち上げ、春奈はポーズを取ってみせる。
「かっからかってんのか?!」
アレックは顔を真っ赤にして怒り出した。
「冗談、冗談。で、斑目さんは渡米してアンジェラさんと一緒にいると・・・。あんたが斑目さんの息子だなんて意外と言えば意外なような、当然といえば当然なような・・・。」
「・・・・・・。」
「アレックはずっとこっちにいるんでしょ?」
「しょうがないね。大体、『この単語何? ああこれはね?』なんてデレデレしたやり取りそばで聞いてられないね!」
「要するに仲がいいのに当てられて逃げてきたと・・・。」

シシシと笑いながら春奈は言った。
「・・・・・・・。」
「結局、スージー先生は転勤とか言っていなくなるし、斑目さんもいなくなるし、寂しくなるね。」
「ヌヌコがいるから俺は全然。」
その言葉にムッとした春奈は少し意地悪げに言った。
「ところでさー。《琥珀》って言われてた子いたじゃん。」
「ああ、何か他人のような気がしないんだよね。父親を知らないなんて他人事とは思えない。親身になって相談に乗ろうかと思ってるんだ。」
「ふーん、偉いねー。ところで、ところで!! あの子、双子たちの従兄弟だって!! しかもあたしたちの一つ下! アレックとは二つ下になるのかな。」
「え! そうだったの?」
アレックは驚いて聞き返した。
「そうそう。千佳子がどっかで会ってるって感じたのは間違いじゃ無かったんだ。双子の叔母さん、父親の名前絶対明かさなくて双子の父さんたちと揉めたらしいよ。それで疎遠になってたって!」
「・・・・・・・」(何か嫌な予感・・・。)とアレックは思った。
「でさー。その話、斑目さんにしたら顔青ざめちゃって! 必死に指を折って数えているんだよね。」

ピタ

アレックのボクササイズのスパーリングの動きが止まってワナワナと震える。
「まっまさか・・・まさか!! あの野朗!!」

『こっこれでも許せると思いますか!! 皆さん!!』とカメラ目線でアレックは叫んだ。

「? 誰に言ってんの? 話変わるけどさー・・・斑目さんが渡米する日! ぬぬ子ちゃんが『一人前の泥棒さんになるまで待っててください』とか言うんだけど、これ元ネタはアニメ?」←ダメ押し

アレック 卒倒

「あれ? アレック?」

その時、トレーニングルームに双子たちがドヤドヤと入ってきた。
「春奈ちゃん、春奈ちゃん! 大変なの! あれ? アレックどうしたの?」と千里。
「ああ気にしないで。どうしたの?」
「母国に帰国したよねちゃんから送られてきた動画なんだけど、これがびっくり!!」と万理。
「よねちゃんが空港で見かけた人を携帯の動画に収めたのをメールで送ってきたんだけど、これがびっくり! 見て見て!」と千里は興奮して叫ぶ。

春奈は言われた通り、携帯動画プレイヤーに転送された動画のデーターの再生画面を見た。

R国の『東方を制圧し統治せよ』を意味する都市の国際空港で一人の金髪碧眼の少女がクマのぬいぐるみを抱えて空港を歩いている。服装や保護者らしき人と一緒なのを見ても、一見普通の十代の少女のようにしか見えなかった。しかし・・・。
「あれ? スー・・・スージー先生に似ている・・・つーか、どう見ても・・・。」
「でしょでしょ!」と双子は声を合わせた。

三人は体を乗り出して食い入るように動画に見入った。
動画はその場の音声も拾っていた。
「スー先生! スー先生とちゃう?」
米子の存在に気付いたその少女は米子の問いには答えなかったが、米子の方を向き、携帯で撮影されている事に気付くと、無愛想な表情を和らげた。
まるで『カウガール・ビバップ』のラストシーンのように手をピストルのように指を立て、そしてゆっくりとその手を下ろしウインクした。そしてもしスージーであったら滅多に見せたことが無かったであろう笑顔で微笑んだ。
「バーン!」