きゃんでぃ☆デート 【投稿日 2007/02/20】

カテゴリー-笹荻


今こんな気持ちで笹原さんを待ってる、いつもと明らかに違う私。どうしたんだろう、胸が苦しい。

 5年以上も自分を欺いて生きてきて、笹原さんと一緒なら本当の自分のままで生きていけるって思って。それからもうこんなに季節が過ぎた。
 あれからも何かにつけて笹原さんに迷惑かけて、だから今日みたいな日くらいは思いっきり甘えてみようって心に決めて(こんっなに覚悟してるって時点でなんか矛盾してんだけど)、先月末から1週間迷ってわざわざ約束取り付けて、また1週間待ちに待って。
 今日は笹原さんとデートの日。ちょっと早めに着いた待ち合わせ場所は公園の一角。今日はほんとにいい天気。
 朝だってイイ感じに目覚めて、着替えの間つけっぱなしにしていたテレビの占いは中吉。

 ……『CHU☆吉』なんつって。キャー私ナニ言ってんだナニ言ってんだバンバン!!!

 服だって気合が入りまくりで、大学の友達が見たら温暖化でどうかしたくらいに思われそうなオンナノコな服。
 いつものコートの下は今日が快晴じゃなかったら場違いもいいところの、白いセーターにピンクのスカート。さすがにナマ足は無理だったんで白のストッキングを履いているけれど、笹原さんだってコレ見たら逆に心配するんじゃないだろうか。
 お化粧も春日部先輩に教わった成果の集大成。ちかごろ自分で気になりはじめているアゴのラインに軽く影を入れて、チークもわざとらしくならないように(っつかヤリすぎると田舎っぺになんだよなコレが)紅を差して。
 仕上げにとっておきのルージュを入れる段になってテールんトコが決まらなくて、最初っから3回もやり直して。

 胸のドキドキを必死に押しとどめて、彼が来たらどんな顔すればいいかリハーサルしてみた。
『やあ千佳、今日のキミは最高に美しいよ』
『そんなことありません完士さん、完士さんが私をきれいにさせてくれるんです』
 ねえか。ねえよな。

 バッグの中から出してみたり、また戻したりしているコレを早く笹原さんに渡したくて、でも本当はうんと勿体つけたくて、それで手の中で握ったり離したりしてたら中身が溶けちゃうっていうのに。

 あっ。き……来た!

「ごめんごめん、待った?」
「いえっ……!わっ私もいま来たトコで……っ」
「なんか後ろの樹、ばんばん叩いてたけどどうかしたの?」
「あ、あーあー、いえちょっと、虫、そう虫がいたもんですから」
「そか。……あれ?荻上さん」
「はひっ?なななんでスカ?」
「いや、なんか……いつもとイメージ違うな、って。あ、スカートだからかな?可愛いね、その服」
「……アリガトウゴザイマス」
「お化粧とかも変えてるの?なんか、こう……」
「無理してるって言いたいんですか!?」
「いやいや!そんなことないって。荻上さんあんまりそういうイメージなかったからびっくりしてさ」
「普段ダサダサで悪かったですね」
「荻上さぁん、俺そんなこと言ってないでしょ?」
「あ……すみません、ごめんなさい」
「あのさ、今日の荻上さんさ」
「?」
「その……すごいカワイイな、って」
「ナニ言ってんですか、もうっ!」
「そんな怒んなくたってー」

 あー、やっぱり無理だ。いっきなりベタベタに甘えたら笹原さん喜ぶかなって思ったけど、私のレパートリーにそんなキャラありませんでした。
 結局いつもみたいな不機嫌テンションで、いつもみたいに笹原さんが私をなだめながら、そうして二人並んで歩き始めた。

 今の私は――そう、キャンディみたいなもので。まだまだむき出しで置いておけるものじゃなくて。
 中のアマアマな自分を隠したまま、こうして笹原さんと歩くのが精一杯なのだ。
 ただ、その自分を隠すモノは昔みたいなトゲトゲしい固い殻じゃなく、薄くて柔らかくてカラフルな包み紙で。
 今は……こんな人通りの多い公園や街のど真ん中では無理だけれど。
 でも、あとで二人きりになったら、その時こそは私のこの包み紙を解いてもらおう。

 そして大好きな彼に、私の全部を味わってもらうのだ。


おわり

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最終更新:2007年11月01日 21:18