春奈の蒼穹その2【投稿日 2007/02/20】

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第五章 黒い三連弾

[ブルーディスティニー]=【アレック】『こちらホワイトスネイク!! 救援に来た!!』
ブルーディスティニーの蒼い機体の後ろには後援の部隊が後続としてきていた。

[キングクリムゾン]=【春奈】『たっ助かる~。例の「レッドフォックス」らしいのよ!!』
黒ずんだ赤色の機体のキングクリムゾンは機銃を乱射しながら敵の進撃を防いでいる。
[ブラック・ラグーン]=【千里】『こちらサウザンド!! 春・・・アップルシード!! 残弾が残り少ないよ~』
黒色の機体の千里から泣きが入ってきた。
[キングクリムゾン]=【春奈】『すぐに後続隊と交代して!! 破損兵も一緒に連れていって!!』

「何か劣勢だな・・・。救援隊も圧倒しているぞ。噂以上じゃね?レッドフォックス?」
「だな。新型機出す?つっても素人回してもぶっ壊されるだけだしなー。こりゃ負けかー。」
白けた態度で職員たちはその戦闘を眺めている。

騒ぎに気付いてモニタールームに来ていた万理は職員たちの言葉を聞いてグッと唇をかみしめた。
それに気付いた斑目は慌てて取り繕った。
「気にする事無いよ。君は元々ゲストにすぎないんだから。」
「でも・・・でも・・・。」
「ソレデモ男デスカ!軟弱モノ!!」
スージーは無表情で例のアニメのセリフの真似をする。
「スージー!! それにまりちゃんは女の子だって!!」と斑目は怒鳴る。
万理はグッとこぶしを握りしめて言った。
「わたし、行きます!!」  そう言って万理は走り出した。
「ありゃ?!」 

白い機体[スノーホワイト]が出撃した。
「むっ無茶じゃないか? 怪我はする事無いけどあんなリアリティーのある戦闘シーンに出くわしたら
まりちゃんショック受けちゃうよ!! それに一回乗っただけで演習もせずに操縦できるはずない!!」
スージーは平然とした表情で斑目を見て言った。
「過保護ね。」
カッと顔が赤くなった。どうしてこうスージーは俺の弱さを鋭くえぐるのか・・・。

[スノーホワイト]=【万理】『ち・・・サウザンド!! アップルシード!! 今行きます!!』
よたよたとした足取りでスノーホワイトは駆け出す。
[キングクリムゾン]=【春奈】『ミリオン?! 無茶しなくていいって!!』
[ブラック・ラグーン]=【千里】『いまミリオンに出てこられても補助できないよ!!』
[スノーホワイト]=【万理】『大丈夫、大丈夫・・・。見える・・・、私にも見える!!操縦方法が分かる!!』
[ブラック・ラグーン]=【千里】『ああ、なんか・・・ミリオンの見ているものが私にも感じる・・・。』
[キングクリムゾン]=【春奈】『えっ?! うっ、うそーーー。』

「もう何が起きても驚かないよ・・・。ホント(汗)」
驚かないと言いながらも斑目は彼女たちのやり取りを聞きながら冷や汗を流していた。そして続けて言った。
「サイコメトリー? テレパシー? 『事件』の時の力が目覚めた? ニュ・・ニュータイプでつか?」
スージーはさほど驚かずに言った。
「散々『ニュータイプ論』はサブカル系でも論じられてましたね。新人類や進化という概念について真剣に
論じる人もいたようです。でもアンジェラはこうした感応能力はむしろ『原初的』、『プリミティブ』な力と
思ってるみたいです。」
斑目は思った。
スージーがふざけた口調で話さず、しかもドキリとする名を口にした時ほど、スージーの真意を
測りかねる時は無い。何を考えているか分からないキャラがさらに不可解で不思議なものに思えた。

[レッドフォックス]=【ミハイル】『来たか!!来たか!!新型!!【見せてもらおうか、連邦軍のPEE
スーツの性能とやらを】!! わはは、先の戦闘でど素人なのはお見通しよーーーー』
[グリーンラクーン]=【アニー】「うあ、エゲツねー。勝てる相手だとさらに増長しまくりやわ。」

[レッドフォックス]=【ミハイル】『さあ、きなさーい!! あれ? ハペ、フヒ、ヒデブ、タワバ~』
レッドフォックスはスノーホワイトに消し飛ばされた。元々AIには剣術の動作がすでに組み込まれている
が、スノーホワイトの動作は剣の達人が相手の初動動作を先読みする『先の先』を読むような動きを
見せた。
[レッドフォックス]=【ミハイル】『な!! 速すぎる!!』

「これも超能力でしょうか? まりちゃんが剣術を知ってるわけないよね~。」と斑目
「動作はAIの助けでしょう。『達人』は相手の目の動きや筋肉の動きで先を読むと言います。日常生活
でも、人の脳は一秒先を『予測』して行動しています。それが先鋭化されれば達人と呼ばれます。」
「ちさちゃんのスナイパーの狙いも相乗効果でどんどん先鋭化してるみたい・・・。」

[ブルーディスティニー]=【アレック】『すっすごい・・・。チサトはマリの死角になる相手を確実にシュート
ヒムしている・・・。弾道の楕円軌道も読みきっている・・・。』
[キングクリムゾン]=【春奈】『万理も後ろに目があるみたいに後方からの攻撃を回避しているよ・・・。
もうあたしら凡人の出る幕じゃない・・・。』

[レッドフォックス]=【ミハイル】『にっ逃げるぞ!!【ええい!連邦軍の○Sは化け物か!!】』
[グリーンラクーン]=【アニー】『うわ、勝てないと分かると変わり身早や!! せやけどええ判断や。
退避せな~。」

この様子にゼノン社の本部に待機している男、ゼノン社専務のルドルフ・シュタインが慌てた。
「いかん!! 若とお嬢のピンチだ!! お前たち、出番だぞ!!」
その声にロビーでかったるそうに寝転がっていた無頼の男たちがのっそりと起き上がった。
明らかに正統な参加資格を有した少年、少女ではない。職業軍人のようなその風貌からは歴戦の
戦士であることが伺われた。

「いいんですかい? まあ、ガキのお遊びに付き合うのも一興ですか!!」
「そう言うな、イヴァン。雇い主に従うのが傭兵の務めだ。ミカルも行くぞ!!」
「はい、リゲル大佐!!」

「おいおい、あれ、ガゼルバイジャン戦役で実戦装備された奴らじゃねえの? 黒の三連弾?」
「いいのか? 明らかにID認証の不正だよな。」
「高額でゼノン社のキリキア副社長に引き抜かれたらしいぞ。知―らねっと!!」
職員たちはボソボソ噂話をしている。

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深入りした「MANKEN」チームは撤退に苦労していた。『国境線』まで退く事ができず被害を大きく
していた。

[キングクリムゾン]=【春奈】『みんな! 『国境線』まで退けたら無駄追いしないで!!』

春奈は無理に追えば逆に抵抗を激しくしてこちらの被害を大きくすると思って自制を呼びかけた。
しかし双子も感性が先鋭化して周囲の状況が見えずにいた。調子付いた味方も春奈の指示に従わない。
元々、個人プレーのゲーマーたちの集まりで統制が取れないのが明らかになってきた。
[キングクリムゾン]=【春奈】『みんな言う事、聞いてくれない!!』
[ブルーディスティニー]=【アレック】『俺の方も駄目だ!! 双子たちも我を忘れている!!』

そこへ敵の増援部隊が到着した。そして逆に事態はさらに一変した。

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「あれ、グ・・・○フとド・・・」と斑目
キッとした表情で職員が睨む。
「あ、はいスイマセン・・・。クフとトムですね・・・。」

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[クフ]=【ルドルフ】『お嬢!! ご無事で!!』
[グリーンラクーン]=【アニー】『たっ助かったわ~。爺~(涙)』
[レッドフォックス]=【ミハイル】『【やられはせんぞ!やられはせんぞ貴様如き・・・】』
[クフ]=【ルドルフ】『若!! 退いてください!! 後はお任せを!!』

[黒の三連弾①]=【リゲル】『じゃあ、まいりますか!!』
[クフ]=【ルドルフ】『【この風!この肌触りこそ戦争よ!】 開発から携わったワシの力見せてくれん!!』
[黒の三連弾②]=【イヴァン】『【見事だな! しかし小僧、自分の力で勝ったのではないぞ! その○ビル
スーツの性能のおかげだということを忘れるな!】』

[グリーンラクーン]=【アニー】『ああもう、こいつらもコテコテのガノタや。疲れるわ~。』

しかし彼らは口真似だけでは無く、圧倒的な力で巻き返しを図った。しかも黒の三連弾は意図的に相手
の機体を残忍に破壊していった。明らかに威嚇や精神的動揺を狙った作為的な戦術であった。
その効果は絶大だった。味方は恐怖で凍りつき、戦意喪失し始めていた。

[クフ]=【ルドルフ】『わはは、サクとは違うのだよ、サクとは!』
[黒の三連弾①]=【リゲル】『このまま本陣まで攻め込みますか?』
[クフ]=【ルドルフ】『いや、この辺でよかろう。目的は達した。これ以上すると不正がばれる。』

敵が撤退した後も、双子たちを含めて恐怖で凍りついた味方が戦場に取り残された。
春奈は口惜しそうにつぶやいた。
[キングクリムゾン]=【春奈】『負けた・・・。』


第六章 魔王の逆襲

「あれ、絶対、大人だよなー!! 汚ねー。」
「こんなもんじゃね? ゲームっつても政治がらみのプレイだし。つまんねー。」
「こっちも本職の人たちに助け頼めばいいんだって!!」
プレイヤーたちは口々に不平不満を口にしていた。厭戦気分と閉塞感で皆くさくさした気分になっている。

双子たちも消耗が激しく疲れた表情を見せている。先鋭した感性は逆に精神を消耗させるらしい。
双子たちの負担に頼るのも限界のように思われた。

春奈とアレックもヘトヘトな顔でロビーの椅子にへたり込んでいた。そこへ斑目が慰労にきた。
「よう、二人ともごくろうさん。コーヒーでも飲んでさ!」
疲れた春奈は苛立って斑目に当り散らした。
「コーヒーなんか飲んでる場合じゃないよ!! あれ絶対IDの認証の不正しているよ!! 委員会に
通報できないの?」
「うーん、プレイ中は不正のチェックは難しいらしい。巧妙に仕組んでいるらしいからね。」
「みんなは我がままばかりだし、双子はあんな調子だし!!」
くたびれた顔をしたアレックが春奈の金切り声にうんざりしてキョロキョロ周囲の様子を伺った。
「あれ? 今気付いたんだけど、ヌヌコ来てないんだ?」とガッカリした表情を浮かべた。
「・・・・・。あんたホント分かりやすいよね。誰かさんみたい!!」
アレックはムッとしてその場を立ち去った。

「そう、苛立たずに・・・。」と斑目は春奈に言った。
「ごめんなさい・・・。」 春奈はしょんぼりした表情を浮かべた。
しばらく二人は黙りこくっていたが、ふいに春奈が斑目に尋ねた。
「ねえ、斑目さん、母さんと昔何かあった?」
「ブーーーーーーーーー」と斑目はコーヒーを噴出した。
「なっナンデそんな事思うのかな?!」
「いや、ただ何となく・・・。母さんの事話している時の斑目さんの表情が違うから・・・。」
(勘のいい子だよな・・・。)
「何も無いよ。ご両親とうまくいってないのかい?」
「ううん、二人とも出来過ぎなくらいいい人。問題は私自身なの。」
「と言うと?」
「ぬぬ子ちゃんは不思議な存在。双子たちもすごい力がある。私と一緒と思っていた千佳子も最近では
妙に変わった。上手く言えないけど何かが変わった。才能や努力とは違う何かが彼女たちにはある・・・。
私には何も無い・・・。そんな気がするの。」
(ほっホント勘がいいよな、それだけでも才能だと思うが(汗) 俺の事もやっぱり『あの人』は
気付いてたのかな?)
「でも双子たちは君を必要としているよ。二人の力も君がいなければ実現しなかったと思うよ。」
「うん・・・。アレックに謝ってくるね・・・。」
そう言って春奈は駆けていった。
斑目は手を振って彼女を送り出した。
「ははっ、まいったね。『彼女』と何かあったのかなんて・・・。・・・・。そう・・・何も無かったんだよ・・・。
何もね・・・。」
斑目は一人薄暗いロビーにたたずみながら静かにコーヒーをすすっていた。その丸メガネは彼の心を
おおい隠すように薄っすらと曇っていた・・・。

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ミハイルは口惜しそうに言った。
「あの白い悪魔さえいなければお前たちの助け無しに勝てたんだ!!」
ルドルフは彼をたしなめた。「若!! 戦場に『さえ』や『なければ』はありませんぞ!!」
「分かっている!! 次はこうはいかん。完璧な作戦であの白い悪魔を粉砕してくれる!!」
「その意気ですぞ、若。大きな声では言えませんがゼノン家の再興の為に私も尽力いたします!」

「せや、とうちゃんは好きな開発の仕事に夢中やけど、じいちゃんの無念はうちらが果たすんや!!
かあちゃんは『あほらし』とか言ってるけどな!!」とアニーも鼻息を荒くしている。
「あのサザビー家のボンボンもチームから追い出したしなー。謀ったなーとか負け惜しみ言ってたけど。」
「【坊やだからさ】」とミハイルはせせら笑った。

「目立つ行動はつつしまねば!!」とルドルフは言った。
「ご成人されるまでの辛抱です。ご成人されれば遺言でゼノン社の株が相続されます。そうすれば憎っくき
サザビー家から経営権を奪えます!! 幸い副社長のキリキア殿がお味方です。」

遠目で傭兵のリゲルたち三人は三人の様子を見ていた。
「なあ、あの人たちって、ゲオルク・ミハイロヴィチ・ゼノンの親族なんか?あの『温暖化の革新』とか言って
た思想家で経営者の。皇族の血筋とか自称していた。」とイヴァン。
「あれだろ? 温暖化は先進国の退廃の象徴で、新たな人類の新天地は凍土の溶けた極東だとかいう過激思想。選ばれた民の生存圏はR国の極東からN本の東北からC国のM州部、果てはT半島の北部まで
及ぶとか主張してたくさんの国から危険視されたやつ。」とミカル。
「おい、口を慎め。スポンサーが誰であろうと俺たちは金さえもらえばそれでいいんだ。その金で故郷を
復興するのが俺たちの夢だろう。そいつが各国から危険視されて、それを危惧したサザビー家が経営を
乗っ取ったからって俺たちに関係あるまい。もっとも今の経営者がゼノニズムに傾倒しているのは皮肉な
話だがな。」
「ちげえねえ。」と二人は笑った。

施設内放送ではゼノン社長の演説が放映されていた。
「・・・あえて言おう、カスであると!・・・従業員諸君!立て! 悲しみを怒りに変えて! 立てよ諸君!・・」

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「何こそこそしてるわけ?」と春奈はアレックに問いかけた。
「わ!! びっくりした!! ハルナか!! スー姉さんが来ているんだって?」
「? いるけど? 何、あんたスージー先生が怖いわけ?」
「こっ怖くなんかないよ!! ただ少し苦手というか・・・。」とアレックはオドオドして言う。
その様子が少し可笑しくて噴出しそうになったが、それをこらえて春奈はさっきの態度を謝った。

「ああ、いいよ、気にしてないよ。ところで今後の対策なんだけど・・・。」
「うーん、お互い疲弊したから敵が攻めてくるのにも間があるとは思うんだけど奴らの対策が思い浮かば
ない。双子の疲弊も考えないといけないし。みんなの戦意も落ちてるし。」
二人が悩んでいるとスージーがヒョコヒョコ顔を出した。
「わ!!スー姉さん!!」とアレックが驚く。
(プププ、本当に苦手なんだw)と春奈は思った。
スージーは春奈の方を向いて言った。
「戦場ニ神ハイナイ。
生キ延ビルモノト死ニユク者
勝者ト敗者ヲ分カツノハ
  神ノ仕業デハナク
一個人ノ意志ガ敵対スル者ノ意志ヲ
  駆逐・殲滅シタ結果デアル」
そう言ってスージーはプイッと立ち去っていった。
「? これってアニメ? 漫画? スー姉さんもコアなのたまに引用するからなー。」
アレックは首をかしげていた。
春奈はこの引用が何から引かれたか知っていた。春奈の目に光が戻った。
「試してみたい事があるの!! 整備係の職員さんに相談して、みんなに説明するの手伝って!!」

それから二人は慌しく忙しく動いた。整備の人に硬金属の簡易な槍と厚手の盾を作ってもらうように
依頼した。
「いいよー。ここは何でもそろってるし、特注でそういうのも加工できる施設も整ってるからね。」
機体の修理や整備のスケジュールも詰まっていたが、整備担当は快く引き受けてくれた。
そうしたバックアップの優劣も対戦総合評価であったからだ。
そして渋るプレイヤーたちを集めて何度も打ち合わせをした。最初は非協力的であったチームメイトも
具体的な作戦を理解し、閉塞を打開できる道筋が見えてくると次第に協力するようになった。

そして開戦通知が送られてきた。

春奈は叫んだ。「発進!!」

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斑目とスージーは頭にタンポポを生やしてボーとお茶をすすっている。
斑目「お茶が美味いデスナー。出番少ないデスナー。」
スージー「ソウデスナー」
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第七章 心神雷火

隊は三つに分けられた。中央の平地の隊はアレックが指揮し、盾と長槍を構えて密集して前進する隊形
を取った。右翼の丘は春奈が指揮し機動装甲車を使って騎兵隊を組織して進撃した。そして双子は
少数で左翼の森林地帯を抜けて奇襲する作戦を取った。

アレックはこの作戦の結果がどうなるか検討もつかなかったが春奈を信じる気になっていた。
[ブルーディスティニー]=【アレック】『とにかくリーダーを信じて前進!!』

「ニゲチャダメダニゲチャダメダ」 スージーがちゃかすかのように言う。
アレックは自分の不安を見透かされた気がしてカーと赤くなった。

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[レッドフォックス]=【ミハイル】『んー、予想どーり!! 【戦いとはいつも2手3手先を考えて行うものだ】
案の定、あの白い悪魔どもが遊撃隊として森林地帯から攻めてきたな。後は罠に仕掛けた爆薬や
中距離砲の一斉射撃で仕留めればいいだけだ。ゲッゲッゲッゲッ。他の隊は爺たちにまかせりゃいい。」
ミハイルは邪悪な笑みを浮かべて笑った。
[グリーンラクーン]=【アニー】『エゲツねー。我が兄ながらエゲツねー。せやけど勝たなあかんね。闘う
からには勝たなあかんね。ほな爺の隊に合流してるからな!!」

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「あー怖くて見れない。もうこれゲームって言えるのかな。」
個室で斑目はぼやいている。同室のスージーは斑目の事お構い無しに、パンツと薄いネグリジェ姿で
がさごそカバンを漁っている。夜更かしして寝坊したあげく、そのままの姿でウロウロしていた。
(大体なんで同室なんだよ。)と目のやり場に困りながら斑目は思った。
施設側の手違いで何故か同室になっている。双子たちにはイヤラシーとか言われてしまうし、周囲の
職員に説明するのも疲れてきたし、スージーは相変わらずだし・・・。

「マダラメ、ベットの上に上げたカバン取って!!」
「へ? 何で俺が?」
「届かない。」
「じゃあ取るよ! うわっ!!」
斑目はベットの上に乗っかって手を伸ばしたがシーツに足がからまって転倒してしまった。
同時にスージーも巻き込んでベットの下に転倒してしまったのだが、なにやらムニュムニュと生暖かい
ものが自分の顔を押しつぶしている。木綿のような感触で・・・形は・・・あれ?この割れた形の・・・。

ガチャッと扉を開く音が聞こえる。
「斑目さん!! 始まりまし・・・あら、ごめんなさい! お取り込み中だったみたいで!! 
いいんですよ!! 今は自由恋愛の時代ですから互いに合意なら!」
係りの事情を良く知らないというか勘違いしている女性職員が慌てて立ち去った。
「あ!! 待って!! なっ何か勘違いしてませんか!! ワタシは確かにツルペタ・・いや何言ってる
んだ、大体、この女の本当の年齢は・・・ガハッ・・スー・・・ネクタイで首を絞めるな・・・ガクッ」

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中央の隊をルドルフの指揮で攻めていたが密集戦術が思ったより堅固で攻めあぐねていた。
[クフ]=【ルドルフ】『思った以上に堅固だな。あんな戦術、近代戦では見たことないぞ。軍隊経験のある
私でさえ見たことがない。誰だ?あんな戦術考えたのは?」
[グリーンラクーン]=【アニー】『どや?調子は?』
[クフ]=【ルドルフ】『これはお嬢!! 何、今は攻めあぐねてますが左翼を任せている黒い三連弾が
左翼を突破すれば問題ありません。若が白い悪魔を倒してこちらに合流すればさらに万全です。』
(だといいのだが・・・)ルドルフはかすかに不安を覚えた。

左翼を任されているリゲル大佐は前方から機動装甲車で突進してくる一群を確認した。「人型」である
このバトルスーツの利点は人が使用する機体に合わせた機動力を持てるという点であった。
[黒い三連弾①]=【リゲル】『ガキにしては中々考えるな・・・。』
[黒い三連弾③]=【ミカル】『所詮、子供のお遊びですよ。少し脅してやりましょう。』
[黒い三連弾①]=【リゲル】『そうだな。あっと言う間に戦意喪失してしまうだろう。いくぞ!!』

三人は後方の友軍を引き離してホバークラフトで前方の軍団に突進した。そこでリゲルは目を疑う
光景を見た。指揮官と思われる黒っぽい赤の機体が被弾して操縦不能になった味方を銃で撃ち、
隊から弾き飛ばし、隊の侵攻を妨げる障害を無理やり取り除いていた。
[黒い三連弾①]=【リゲル】『なっなんだ?いくらゲームで命の心配は無いとはいえ、あんな非道、軍隊
でもしないぞ!!」
[黒い三連弾②]=【イヴァン】『大佐!!』
[黒い三連弾①]=【リゲル】『ああ、すっすまん。いくぞ!!』

黒い三連弾は春奈たちの一団に突進した。リゲルの機体と前衛の機体が衝突した。前衛機はリゲルを踏み越えていった。
[黒い三連弾①]=【リゲル】『【俺を踏み台にした!?】』
隊に乱れは無かった。リゲルは一太刀指揮官にライトサーベルをくらわせようとしたが、一団として
突進した衝撃でリゲルの機は後方に弾き飛ばされた。そして無我夢中でヒートホークや槍を振り回す
一団の攻撃にずたぼろになった。後方の二人は横に弾き飛ばされた。
[黒い三連弾②]=【イヴァン】『おい!!大佐と通信が途絶えたぞ?!何があった?!』
[黒い三連弾③]=【ミカル】『まさかあんなガキにやられたのか?! おい、あいつらを追え!!』

森林地帯で白い悪魔を待っているミハイルはジリジリと焦燥していた。いつまでたっても敵が罠に
現れないからだった。
[レッドフォックス]=【ミハイル】『何で現れない? 罠に気付いた?』

[グリーンラクーン]=【アニー】『どうなってるん? 後方から火の手があがってるわ!!』
[クフ]=【ルドルフ】『馬鹿な・・・。あそこは武器庫ですぞ・・・。黒の三連弾が蹴散らされたと?』

武器庫にかけつけた黒の三連弾は驚いた。武器庫に火が付けられ次々に誘爆して紅蓮の炎をあげて
いた。
[黒い三連弾③]=【ミカル】『おい!! 大佐の機体の頭部だぞ!!ひでえ、ズタボロだ!!』
そこで彼らは見た。紅蓮の炎の中に超然と立ち、手招いている鮮血の色の『魔王』の姿を・・・。
[黒い三連弾②]=【イヴァン】『魔王が・・・魔王が・・・地獄に我々を手招いている・・・。』

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「いやー、火をつけるの好きだなー。あの子の母親も好きなんデスヨー(汗)」

シリアスな展開についていけない斑目
「マムシ72歳モジョークガ地ニ落チタモノダナ」
「ほっほっとけ!」

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黒い三連弾率いる左翼が中央の隊に逃れてきた。
[クフ]=【ルドルフ】『お前たちどうした?! 黒の三連弾はどうした?!通信が途絶えたぞ!!』

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「うわあああああああああああ」とイヴァンがロックが解除されたコントロールルームから飛び出した。
「イヴァン!! ミカルはどうした?!」と先にコントロールルームから開放されたリゲルが叫んだ。
「ミカルは・・・ミカルの魂よ、故郷に飛んで、永遠に喜びの中に漂い給え…」とイヴァンは息絶え絶えに
答えた。
その時、ミカルのコントロールルームのロックが開いた。
「勝手に殺すな・・・。」とやはり息絶え絶えに答えた。
「大丈夫か!!お前たち!!」
「大佐・・・あんな子供が・・・もういいでしょう・・・あの故郷に一緒に帰りましょう・・・。子供の頃に
無邪気に黄昏まで遊んだあの丘に帰りましょう・・・。」
「おおお、俺が悪かった!!故郷からお前たちを連れ出した俺が悪かった!!一緒に帰ろう!!」
リゲルは号泣して二人を抱きしめた。

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[クフ]=【ルドルフ】『ええい、通信士はどうした?! いくらリアリティーのためとはいえ、各機に長距離
通信機能を持たせないというのは問題だ!!』
[グリーンラクーン]=【アニー】『そんなことより爺・・・、囲まれちゃってるよ・・・。』

「すげえ・・・古代戦でしか実現できないハンニバルの野戦包囲網を現代に復活させた・・・」
軍事オタらしい職員は息をのんでその光景を魅入っていた。
斑目も凍りついた表情でその光景に魅入った。

[クフ]=【ルドルフ】『こっ降伏宣言を!!』
[グリーンラクーン]=【アニー】『降伏宣言はにいちゃんの隊長機からでないとでけへん。それに、
にいちゃんは遊軍で離れていて通信が途絶してるわ・・・。』
[クフ]=【ルドルフ】『・・・・・・・』

沈黙があたりを包んだ。隊長機の春奈が現れた。誰もが春奈の次の言動に注目した。アレックも
静かに「王」の言葉を待った。双子たちも罠を見破った春奈の指令ですでに合流していた。

ここで言うべき言葉は決まっていた。何故と聞かれても答えることはできなかった。
四国志のゲームが好きでたまたま知る事になった漫画のセリフ。女の子が読むには少し恥ずかしい
ので黙っていたが、以前から好きだった漫画のセリフが脳裏に浮かんだ。

[キングクリムゾン]=【春奈】『至純な闘いを穢す邪な思惑の入り乱れた世界・・・。こんな世界が本質的に
変わることを求めぬ者たちにお前たちの心火をたたきつけろ!!』

雷撃や火花が飛び散ったような感覚が全体を襲った。斑目もそれを感じた。さめた職員たちも
言葉を失って少女にすぎない春奈の言葉に心を奪われていた。
「これは・・・カリスマ誕生か・・・。双子たちの能力が媒介になってるのかな・・・」 斑目はかろうじて
「正気」を保ってスージーに聞いた。
「『聖』という文字は王が『天意』を聞いて民に口で伝えるという意味があるそうです。巫女を介して王が
その意志を伝えたんでしょう。」
「ジャンヌかはたまた魔王か・・・、いずれにせよ、俺が春奈ちゃんに『彼女』の面影を求めるのは間違い
だ。春奈ちゃんは春奈ちゃんだよ。」

斑目は目頭を抑えてこみ上げてくるものを抑えようとした。スージーは静かにそんな斑目を見た。
「アナタノソノ愛ガ彼女ノ心ヲトラエタコトナドナイノダヨ」と静かに言った。
「ははっ、プラチネスかい? 分かっているよ。分かっていたさ。」
ああ、堪えきれそうに無い・・・。
その時スージーは不意に斑目にキスをした。斑目は少し驚いたがこれがスージーなりの思いやりだと
思って何も言わなかった。勘違いしている女性職員がオタオタしているが説明する気も起きなかった。
ただ一言、「すまん・・・。」とだけ言った。

「魔王」の命令で黒い森が意志を持つかのように全軍が動き出した。

[クフ]=【ルドルフ】『魔王の意志は我々を殲滅するつもりのようです。お嬢、この緊急避難塹壕に
お逃げなさい。』
[グリーンラクーン]=【アニー】『爺は?』
[クフ]=【ルドルフ】『私は大丈夫です。あなたの参加資格が無くなります。私のは不正入手ですから
惜しくはありません。』
そう言ってルドルフは無理やりアニーを塹壕に押し込んで蓋をした。
(何・・・所詮子供の遊びだ・・・。生命を取られるわけでも無し。ああ、しかし正気を保っていられるか
どうか・・・。どうか・・・どうかもう一度、若とお嬢の笑顔を見られますように・・・。)


第八章 戦争と平和

大急ぎでトラップを仕掛けた森林地帯から中央の隊に戻ったミハイルは目を疑った。通信機は黒い
堕天使に狙撃されて破壊された。本部を介しての戦況の確認は規定の確認以外は禁止されている。
ミハイルは初めて戦況を理解した。

アニーもまた塹壕から這い出してその惨状を目の当たりにした。すでに掃討戦に入っていて、
周りには誰もいない。
ふと見ると敵方の隊長機が一人でいる。護衛はいなかった。

[グリーンラクーン]=【アニー】『魔王? 何様のつもりや!!  なんだっていうんや!! 
倒せないわけがない!! 倒せないわけが!! ただの人間や!!』

アニーはそう叫びながら春奈に突進した。アニーはサクのヒートホークを春奈の機体の頭上に振り
下ろした。あと数センチというところでヒートホークは狙撃されて折れた。
そして突進する白い悪魔に手足を切断されて吹っ飛んだ。

[スノーホワイト]=【万理】『間に合った~』
[ブラック・ラグーン] =【千里】『駄目だって!! 油断してボーとしてちゃ!!』
[キングクリムゾン]=【春奈】『来てくれると思ってたよ。』 春奈は微笑んだ。

転がったアニーの機体をミハイルが拾い上げて逃げた。
[グリーンラクーン]=【アニー】『はっ離せえ~。何で倒せんのや! 勝ったと思うなよ~』
[レッドフォックス] =【ミハイル】『何ダルマみたいにされていきがってるんだ!!降伏だ!!』

[ブラック・ラグーン] =【千里】『あ、赤い狐だ!!撃つ?』
[キングクリムゾン]=【春奈】『ううん、本部で降伏宣言を受理した所。みんなにも通知がいくよ。』

 *************************************
春奈とアンディーと双子たちは本部施設に戻ってきた。
春奈たちは自分たちのした事に確信が持てずに不安な表情で斑目を見た。
もちろん春奈たちの行為は褒められたものではない。しかし斑目は笑って言った。
「大丈夫、大丈夫」
ほっとした表情で春奈たちは斑目に抱きついた。
春奈は言った。
「人って・・・怖くて・・・凄まじくて・・・そしてすごいんだね・・・。」
「うんうん」 斑目はただそれだけ言って春奈の頭を撫でた。

チームメイトと双子たちと祝勝会で少し話してから春奈はアレックの姿を探した。
アレックはロビーのソファーで疲れきって寝ていた。
「アレック、本当にありがとう。あんたがいなかったら勝てなかったよ。」
アレックは疲れた様子でただ頷くだけで返答した。
「私のこと、クラッシャーとか魔王とか呼んでみんなひどいんだよ。」
「それは褒め言葉だよ。みんな、自分たちの声の代弁してくれる人を求めていたんだ。そして俺も・・・。
俺にはやっぱりリーダーには向かないのかな・・・。」
(そう言ってくれるんだ・・・。うわ・・・やば・・・マジでやばいよ・・・)
春奈は顔を赤らめた。アレックは不思議そうに春奈の顔を見た。
「ああ、本当にくたびれた。癒しにヌヌコに会ってから帰国したいな、痛て!何で蹴るんだよ?」


第九章 春奈の蒼穹

こうして私の冬休み最大のイベントは終わりました。
秘守義務にもかかわらず、一部ではネット上に魔王降臨とか、白い悪魔と黒い堕天使とか、伝説誕生
とか風聞が飛び交ってます。
私も調子に乗って漫画の真似をして、祝勝会では皆に
「心火を深奥に蓄えつつ、いつの日か再び集まりて敵を鏖殺するその日を待て!!」
と言ったのを斑目さんにたしなめられました。みんなには受けたんですがね。
私たちのした事は正しかったでしょうか?
いいえ、そうは思いません。そう思うべきでもありません。でも斑目さんがいてくれて本当に
良かった。誰も自分の行動が本当に正しかったかどうか判断する事はできません。
私たちは独善的すぎたのでしょうか?「我が過ち」というべきものだったのでしょうか?

そうかもしれません。

でも私たちは「何かに」勝ちました。これが私たちの生きる世界。
温暖化も過去の過ちでさえも、すべて私たちのもの。誰のものでもありません。
空を見上げればそこにはオゾンが切り裂かれ穿たれた蒼穹があります。
でもその蒼穹の彼方から過酷に容赦無く照りつける裸の太陽でさえも私たちのもの
だという事が今は分かるのです・・・。

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「爺が無事でよかったわー。」
「結局、俺たちのチーム、不正がばれた上、ゼノン社が参加者に人体実験的に投与していた
感情抑制の薬が委員会にばれて失格だもんな。」
「薬の件はうちらも知らなかったし。危なかったわー。わたしらも投与されるかもしれへんかったんやな。
おかげで社長退陣したし、目的に一歩近づいたな!!」
「あの殲滅戦で精神的ショックの後遺症を調査する委員会の査問がきっかけとは皮肉だよな。」
「とりあえずほとぼり冷めるまで、引き続き冬休み前の短期留学先のかあちゃんの実家で
世話にならな。」
「大阪から東京にばあちゃんきてるんだよな・・・。嫌なんだよな、日本名で呼ぶから。」
「しゃあないやん、二重国籍なんやし。機体名だって『赤いキツネ』と『緑のタヌキ』やで?気取んな。
伊衛門にいちゃん。」
「何で商家のしきたりでそんな名前を・・・。お前だって米子じゃん!!」
「あ!! ぬぬ子ちゃんにまりちゃん!! それにちさちゃんも!!」

「あーよねちゃん!!元気してた?冬休みどうだった~?」
「それがなあ、とてもエゲツないやつらにおうたんよ。」
「寄寓だよね~。私たちもとんでもなく嫌な奴らに会ったのよ!!」
「やっぱ、どこにでもそういう奴おるんやなー。」

「千佳子!! お願い! 宿題見せて!!」
「安心してください。春奈さん。ばっちり終わらせてますから!!その代わりコス・・・」
「ゲ!! やっぱりお前、腹黒!!」

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その光景を遠くから斑目が目を細めてウンウン頷きながら見ていた。
「やっばり、殺伐としたのよりこういうほのぼのとした光景が彼女たちには似合うなあ~」
スージー曰く。「やっぱりアンタバカー?」

最終回に続く。

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最終更新:2007年11月01日 21:25