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koyuki 【投稿日 2007/01/26】

カテゴリー-斑目せつねえ


注意:この物語はとなりのクガピ2のサイドストーリー的な物です。
そちらから読まれるといっそう楽しめます。


「ありがとうございましたーっ!」
勢い良く、店中の店員が連鎖的に挨拶する。

ダッフルコートに身を包んだ斑目は、後輩二人に声を掛ける。
「さ、帰ろうか」
地下の居酒屋を出て階段を上り、にぎわいを見せる繁華街に出たとき、斑目はメガネに何か水滴のようなものが当たったのに気付いた。
(雨か?)
それは、雪だった。

「……ここ数年、暖冬だったけど、久しぶりに積もるかもな」
斑目は手で軽く雪を受け止めながら、朽木に語りかける。
語りかけつつも、斑目の瞳は人が行き交う路上に向いていた。
スージーが夜空を見上げて、落ちてくる雪を追いかけるようにバタバタと道の端々へ移動しピョンピョンとはね回っていた。

やや派手目のハーフコート、下はミニとタイツ、走り回るたびに長いマフラーがたなびいている。無愛想な表情以外は、子どものように無邪気に見えた。

(このまま放っておくと変なナンパに捕まるよりも早く、俺たちが児童福祉法違反か何かで捕まりそうだぞオイ)
斑目は危機感を感じて、隣で気持ちよさそうに体をくねらせていた朽木にスージーを送らせようと思った。
彼のアパートの方がスージーのアパートに近かったはずだ。

しかし、うねうねしていたはずの朽木が、自分の腕時計に目をやるや否や、両手で「パンパンッ!」と自分の両頬を張って、シャキッと斑目の方に向き直った。
「斑目サン! ワタクシこれから品川のシネコンまで移動して、『機動戦士ガンガルユニコーン』劇場版三部作のオールナイト上映に出撃してきます!」
「え、そうなの?」
「じゃあワタクシはこれでっ!」
朽木は、チャッ!と敬礼してそそくさと駅の方へ立ち去ってしまった。

酔っぱらいリーマンや学生でにぎわう繁華街の一角に、サラリーマンと金髪少女が残された。
「俺も見たかった……。結局貧乏くじは俺かよ」

遊ぶだけ遊んで疲れたのか、スージーはパタパタと斑目の方に寄ってきた。
(次は何をするのか)といわんばかりに、上目遣いで斑目を見上げている。
斑目は、「えーと……確か日本語の理解はバッチリできるんだよな」と、頭をかきながらスージーに向き合った。
「さ、もう家に帰ろう。送るから」

「オスワリ」
「はい?」
「ネコヤシャ オスワリ!」

出た、伝家の宝刀「猫夜叉お座り」。
いつぞやの成田初詣以降、彼女が留学してきた後も、笹原たちと合流したコミフェス会場や、学園祭に顔を見せたときなど、人通りの多い場所で度々斑目に肩車を強要してきたのだ。

「いやもう遅いし、帰らないと……」
「OSUWARI!」

繁華街を行く人たちが注目し、振り返る。
金髪美少女を肩車して、悲哀いっぱいの表情で練り歩くサラリーマンの姿を。

斑目は、「駅のタクシー乗り場まで」という約束で肩車したものの、なんとも恥ずかしい姿を晒している。
スージーが普通に隣を並んで歩いてくれたら、二人の関係を知らない通行人に対して、少しばかりの優越感も生まれただろうに。
もちろん、雪が降る寒い夜だけに、太股の暖かみを感じてちょっと得した気分でもあった。

(わざわざ繁華街で肩車なんかして、何を見たいんだ)
疑問に思った斑目だったが、顔を傾けて見上げると、スージーが一生懸命に手を伸ばし、雪をつかもうとしているのが見えた。
道まで落ちてくる雪はもうほとんど溶けている。
少しでも空に近い場所で、雪に触れようとしているのだ。

斑目は、「フ…」と、ため息とも笑いともつかない吐息を発した。
吐息は白くなってすぐに消えた。

駅前でようやくスージーを降ろした。周囲でクスクスと笑い声が聞こえる。
斑目は足早にタクシー乗り場に向かい、乗車待ちの列に並んだ。
スージーは列を離れて、またどこかへフラフラ歩いていこうとする。
(ここで離れてもらっちゃまた並びなおしだよ)
斑目は2度、3度と彼女の襟やマフラーを掴んで動きを止め、列に並んでいるように説得した。

憮然としているのだろうが、普段と変わらぬ表情で並んでいるスージー。時折、道行くカップルなどを見かけて、「エッチナノハイケナイトオモイマス!」などと訳の分からない……否、斑目には理解できる言葉を吐いては、周囲を慌てさせた。

だが、やがて静かに列に並ぶようになってきた。
「?」
斑目はちょっとかがんで、隣に立つスージーの顔をのぞき込んだ。
やぶにらみの目が、さらに据わっているように見える。ちょっとずつまぶたが下がってきては、ハッと目を見開く。その繰り返し。
「眠いのか……」
やがてコクリと首を傾けはじめた。

40分近く並んで、二人はようやくタクシーに乗り込んだ。
「えーと、途中で、どこら辺で降りればいいんだっけか。スージー?」
「………」
斑目が彼女の方に行き先を尋ねるが、答えてくれない。

「えーと、うぇあゆあほーむ?」と、無茶苦茶な日本語英語で訪ねてみるが、スージーは答えない。
「まだ住所をおぼえてないのか?」と訪ねると、彼女は頷いた。
斑目は二次会の席で、田中加奈子がスージーの日常の失敗談について話していたのを思い出した。日本の住所は似ているものが多くておぼえにくく、最近も間違えて遠回りをしていたというのだ。
「そうだ、学生証、学生証は?」
「…………」
黙って両手を広げるスージー。
「持って来てないのか……」

しびれを切らしたタクシーの運転手に急かされて、斑目はとりあえず自分の住所を伝えて、アパートに向かうように頼んだ。
(ひとまず俺のアパートに行って、笹原か田中に電話するか……)

後部座席に並んで座っている斑目とスージー。
斑目は窓から外を眺めている。雪がふき飛ぶように流れ去っていくのを淡々と見ていた。
今日の披露宴のことも忘れてしまいそうな騒々しい一日だった。
いまや『高坂咲』となった彼女のドレス姿、笑顔、最後の挨拶の時に見せた嬉し涙を思い出す。
「終わったな」
心中がチクチクと痛んだ。

いきなり「ズシッ」と背中に重みを感じた。
慌てて振り向くと、自分の肩にスージーがもたれかかっていた。
スピスピと、意外にかわいい寝息が聞こえてくる。
(タクシー待ちの時から眠そうにしていたもんな……)

何を考えているか分からない。
突拍子もない言動で周りを振り回す。
そんなキャラクターを留学後も続けているスージーが、斑目はほんの少し苦手であった。

初めて会った時の第一声が、「アンタバカァ」であり、数えるほどしかない二人のやり取りでも、振り回されっぱなしの印象が強かったからだ。
しかし、その寝顔はとても可愛らしかった。
「……」
苦笑いをして、斑目はそのまま自分の肩を貸した。


十数分後、斑目のアパート前。

「……どうする……俺……?」

ブロロロロとタクシーが去っていく。
アパートの入り口前で降りた斑目は、すっかり熟睡しているスージーを背負って立ちつくしていた。

雪はいよいよ本降りになろうとしていた。

koyuki後編に続く