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となりのクガピ2 その2 【投稿日 2007/01/26】

カテゴリー-その他


【14】
同人誌「いろはごっこ」読了……。
18禁同人誌なんて慣れっこのはずなのに、読んでいてドキドキしてしまった。
(ワタシ、小学生の時にこの漫画をおねだりしたのか)と思うと、恥ずかしくて顔中が火に包まれたみたいに熱くなった。

おそらく真っ赤になっているであろうワタシは、周りで黙って見守っている先輩方を見回す。
あぁ、気まずそう……orz

ワタシは、カチカチカチカチカチカチ……と歯車の音がするようなぎこちなさで頬の筋肉をつり上げた。
笑え、笑うんだワタシ。いま精一杯の感謝を込めて!

「あ、あははははは、いやぁ私も小説書きですけど同人活動してるんで、このくらい日常茶飯事ですよ!」
「そそっ、ソーダよねハハハハハハハハッ」
皆が声を揃える。
その場が硬く冷ややかな笑いに包まれた瞬間、ドアが開いた。

「あ~、お お待たせ!」
待ちこがれていた久我山さんが、よりによって、このタイミングでやってきたのだった。

【15】
昔とまったく変わりない巨大オニギリのような体。スーツがまるでオニギリに巻いたノリみたい。
髪はほんの少し伸びたみたいだけど、その雰囲気は……あれよアレ、懐かしい映画の、トトロ。
その『大トトロ』がワタシを見て目を丸くしている。
「あ…、斑目から、は 話を聞いて驚いたけど、お、お 大きくなったね……」
「おぼえていてくれたんですか!?」
「う うん。あの時の営業は、か 会心の仕事だったしね」

「……~ッ!」
私は感激で言葉が出なかった。
人生に影響を与えてくれた人が、目の前に現れて、ワタシのことをおぼえてくれていたなんて!
周りに人が居なかったらガッツポーズが出ていたかもしれない。
そうだ、長年言いたかった言葉を今日、伝えよう。

「久我山さん、あの時は本当に……」
「あ……」

話しかけようとした瞬間、久我山さんの表情から血の気が引いたように見えた。
その顔を見て、ワタシは、『久我山さんの代表作』を手にしていたことを思い出した。
「いろはごっこ」を両手にしっかりと握って、胸の前に抱いていたのだ。
周りの先輩方は固まった表情でうつむいている。
お願い、誰かこっち向いてフォローして、誰かぁ!

何かを悟った久我山さんが、わなわなと震える。
おこってる……。

いま、「怒りに我を忘れてる。王蟲、森へお帰り!」とか言ったら、斑目さんあたりは笑ってくれそうだけど、久我山さんの怒りを増加させそうだな。
……ってか、何考えてるんだワタシ。
こういう非常時って、頭の中は妙に冷静になっているんだなと実感するなぁ。

怒りに震える久我山さんの姿は、小山が盛り上がっていくようにも見えて、対峙していたワタシの方まで影が伸びてきそうな迫力が感じられる。
この威圧感。「燃エロ!俺のコスモよ!」ナンチャッ……てる場合じゃないって!

「ひっ、ひ ひどいよお前らァ~ッ!」

……後は修羅場だった。
暴れる巨体。
制止しようとするが振り回される斑目さん。
詫びる笹原さん。
笑う恵子姉さん。
恐怖のあまり泣きわめく子どもたち。
田中夫人はおでんを死守。
我関せずビールを飲み始める於木野先生。
田中さん、喜々として写真を撮っている場合ですか!

【16】
ようやく一段落して、斑目さんに促されながら、久我山さんがフンッと鼻息荒く着席した。
ドスン!
隣のワタシは大きな揺れを感じた。
思い出す病院のソファ。
なんだか懐かしくて、うれしくなる。

乾杯の音頭を取るべく斑目さんが立ち上がった。
「さあさあ、じゃあ気を取り直して始めましょうかね!」
ちょっと頼りなさげだけど、今日はこの人のおかげで久我山さんにも再会できたのだ。

「え~では新人を歓迎して一言」
コホンと咳き込んで斑目さんが周りを見回すと、いきなり拳を振り上げてテンション高く語り出した。

「そもそもっ! この現代視覚文化研究会とは、アニメ、ゲーム、マンガなどの視覚文化の産物全般をフォローする総合的なサークルとして……」
「いや御託はいいですから」と笹原さん。田中さんも、「このまま語らせると、きっとアレがでるぞ、アニミズム論」と笑う。
「で でも御託あっての、ま 斑目だよな」
久我山さんもようやく笑顔を見せた。
先輩方の息の合ったやりとりは、見ていて楽しい。

「え~周りがうるさいので省略して。じゃあ、新人くんのオタク道の前途を祝して~」
「うわぁ……」「かわいそうに」という声が漏れ聞こえる。
いいんです。覚悟してきましたから。

「カンパーイ!」

「さ ささ、飲んでね」
久我山さんがビールを勧めてくれる。こんなこと、考えたこともなかったなあ。
「ありがとうございます!」
ワタシは、ビールをいただいたり、お酌しながら、わいわいとおでんをつつく先輩方を見回す。
みんな楽しそう。ワタシ、こういう場があこがれだったんだ。
改めて久我山さんの方に向き直る。

「久我山さん。本当に、ありがとうございました。おかげで、気が付いたら立派なオタクになってました」
「え、お 俺が原因なの?」
斑目さんがこの会話に割って入った。
「そうだってよ~久我山。お前のせいでこの世の中にオタクが一人誕生したんだ!」
「せ 責任感じるなあ……」

「いや~。新入部員が誕生してよかった。もうこれで次期会長はキミで決まりだな!」
斑目さんから力強く背中を叩かれ咽せるワタシ。
「ゲフッ……、ワタシが!?」
「そう、今の会長が来年で卒業するはずだから、暫定的にね。……これで『8代目』だね」

【17】
ガタンッ!
斑目さんの言葉に反応して、急に於木野先生が立ち上がった。
「斑目さん、いま『8代目』って言いました!?」
「そうだよ」
納得いかない表情で、指折り数えはじめる於木野先生。
「2代目は斑目さん、次が笹原さん、そして大野さん、私……」

「ああ、知らないのか……。笹原は教えてなかったのか?」
「はあ、僕も忙しくて最近の動きは知らなかったですし……」
ワタシには意味が分からないけれど、どうやら歴代の現視研の会長さんは、5代目が於木野先生で、6代目は留学生、その次の人が『7代目』ということか……。

両手で何かを数えていた於木野先生が、顔を上げた。
「単純に考えて、6年以上会長になっているわけですよね……」
「ま まるで初代だよな……」と久我山さん。
ワタシはますます混乱する。

笹原さんが手を挙げた。
「あの~、『彼』は博士課程ですよね。博士課程は前期後期で5年間のはずだけど」
斑目さんはフウとため息をついて答えた。
「彼、2年間休学したんだよね。そのときすでに現視研の部員は彼だけ……」
「その2年のブランクが、現視研のユーレイサークル化につながったんですか……」
ワタシは思わずつぶやく。なんて迷惑な話だろう。

「よく自治会に潰されなかったな」
「そ 存在自体わすれられてるのかもな……」
「で、その会長は今回の席にはお見えにはならないんですか」

「わ、忘れてた……」と斑目さん。
その場にいた先輩方の顔には、「ヲイヲイ……」と書かれているように見えた。

【18】
その時、『バァン!』とドアが開いた。
といっても、外から引いて開くドアなので、「バァン!」は口で効果音を付けたようだった。
「斑目さん、見つけましたよ!」
背が高く、テンションも高い男の人が部室に入ってきた。
「うわあ、噂をすれば影ってやつ?」と田中さん。

「……ひょっとして、この人が7代目の会長さんですか?」
「イエ~ス!」

誰かに尋ねようとしてたのに、いきなり本人がテンション高く返答したので、ビクつくワタシ。

「クッチーと呼んでネ。そういうキミは誰?」
「あ…、新入生です。ご縁があって、現視研に入りたいと思っ……」
「ああそうなの! 入会したからには、すべてはこの『プライド・オブ・ナリタ』ことクッチーにお任せあれ!」
汗ばむワタシ……。この先輩、基本的にいい人っぽいのだけど……。30近いというのにこの痛々しさは何だろう。

すっかり置いてかれた先輩方を代表して斑目さんが声を掛けた。

「朽木くん、最初の『見つけましたよ!』って、何の事?」
「あ、そうでありました! 斑目さん、『奥様』が探していましたよ」
ビクッと反応する斑目さん。顔が青ざめてますよ?
笹原さんが代わりに尋ねた。
「それでどうして朽木くんに……?」

「斑目さんはお昼時に部室を使うじゃないですか。奥様は『ダーリンが部室で油を売っているのではないか』と思われて、現在の唯一の部員であるワタクシに出動要請が下ったのでありますよ」
「ああそう……(汗。俺の嫁さんはさすがに、『油を売っている』とは言わないけどな……」と斑目さん。

「それに、皆様にも連絡がつかないのでマスマス怪しいと……」

「あ……!?」
於木野先生と田中夫人がそれぞれのハンドバッグから携帯を取り出した。
「ああ、携帯に着信入ってたわ」「マナーモードだし飲んでたし……」

クッチー先輩は、もう一度ドアを開けた。
「そんなわけでして、奥様もご一緒にお見えになりました!」
斑目さんがうろたえながら立ち上がった。
「なにぃ!? 来てるの?」
なんでそんなに動揺してるのだろうか?

【19】
7代目会長・クッチー先輩がオーバーアクションでドアの奥に合図すると、金髪がキター!

すっごいキレイ……だけど…………アレ?
先輩方も『奥さん』に声を掛けようとしたが、一瞬の間をおいてどよめいてる。
その奥様のお腹はすでにパンパンに張っていたのだ。
みんなの視線が同時に、ゆっくりと斑目さんに向かう。

「いや、生まれるまでみんなには内緒にしておこうって、2人で話してたんだけど……」

しかし、初めて奥さんを見たワタシにとっては、妊娠以前に納得いかないことがあった。
なんかヤバイのだ。どう見てもティーンエイジャー。下手すると14、15歳くらいに見える。
ワタシは失礼だと思いながらも、斑目さんに真顔で話しかけた。

「斑目さん……。これってまるで犯罪……」

思わず、「外国人美少女をテゴメにするサラリーマン」を妄想。ワタシは脳裏で展開したテゴメシーンに赤面し、ブルブル首を振って妄想を振り払った。

先輩方も次々に口走る。
「こ これは……イメージ的に き 鬼畜だな……」
「スー、妊婦姿似合わないね……」
「Su……,At that time, were you safe? Wasn't it painful?(大丈夫だった? 痛くなかった?)」
「高坂姉さんを積極的に呼ばなかった理由はコレか?」

斑目さんは頭を抱えていた。
「だからみんなに見せるの嫌だったんだよ!」

『スー』と呼ばれた奥さんがお腹を抱えつつトコトコと斑目さんの横まで歩いてきた。
ポン、と夫の肩を叩くと、無表情のまま口元がニヤリとつり上がり、「エッチナノハイケナイトオモイマス」と声を掛けた。
見事な追い打ちだ。斑目さん汗ダラダラ。
みんなも掛ける言葉がない。

【20】
さらにスー奥様は、於木野先生の隣に座っている双子ちゃんの所へ。
怯える双子に向かって低い声でなんか唸ってる……。

「ノーマクサンマンダーバサラダンセンダマカロシャダ……」
……真言……?
双子ちゃんが田中さんのお子さんのもとへ逃げ出すと、子どもたちをなぎ払ったスー奥様は於木野先生の隣に座った。
於木野先生もため息をついている。
何なんだこの人は?

「スー、初めての人も居るんだから、自己紹介しなさい」
於木野先生に促されて、奥様がジッとこちらを見た。
見た。
見てる。
見続けている……その間約30秒。誰か助けて。耐えられない。

「あのう、スゲー睨んでるように見えるんですけど……」
「ごめんなさい。この子いつもこんななの。ほらスー、挨拶挨拶!」
田中夫人に催促されて、スー奥様はコクリとうなづいて立ち上がり、「ヒュイ!」と指笛を吹いた。
「イエスマァム!」とクッチー先輩がスー奥様の脇に立つ。
え、何?
あ然とするワタシ達全員の前で、二人はアカペラでマーチ風の曲を歌いだした。

どこかで聞いた曲だ……。
ひょっとして「特攻野郎Aチーム」?

「♪チャンカチャンチャーン♪チャンチャンチャーン♪チャラチャンチャンチャンチャーン♪チャンカチャカーチャーン♪…」
ネタとして知ってはいるが……あっけに取られるワタシ。

やがて曲は中盤、スー奥様が「♪デレデデッデッデッ デデッデデーデー♪…」とベースのフレーズを口ずさむなか、クッチー先輩が前に躍り出た。

「やあみんなお待たせ。俺様こそ朽木学。通称クッチー。盗撮の腕は天下一品。奇人? 変人? だから何?」
自己紹介まで再現すんのかよ。
続いてアカペラが交代し、奥様が前に出てくる。

「『スージー・コユキ・マダラーメ』。通称ロリパツキン。ジャパンオタカルチャーノ天才ダ。マンガ編集者ダッテブン殴ッテミセルァ。ダケド、ヒコーキダケハカンベンナ!」


終了。


しばし沈黙に包まれる部室。
クッチー先輩がにこやかに、「イヤー、部室に入る前に急いでネタ合わせしたのでアリマスが、新入りが来ているとは。おかげでいい自己紹介になりましたな。こんどはキミもご一緒に!」と薦めるが、さすがにコレは……(汗。

「ま また変なネタを……。エ エンターテイナーだよな斑目の妻」
「俺、ブン殴られちゃうの?」
「笹原さんは『荻上さん』を奪った怨敵ですからねえ」
「来日外人なのに『飛行機勘弁』かよ」

ワタシは久我山さんに質問する。
「あの……『コユキ・マダラーメ』って?」

「く くじアンの朝霧小雪。斑目が奥さんの日本名として、い 妹キャラの名前をつけたんだよ。役場に届けも出してるし、マ マヂなんだな」
思わず、「スゲー」と唸るワタシ。

斑目さん、あなたはキング・オブ・オタクですよ…………悪い意味で。