アフターストーリー『リツコ・レポート』【地球編】 【投稿日 2007/01/14】

第801小隊シリーズ


「おい、隊長さん、起きてよ。」
「ん・・・?」
目が覚めると、空気が違うことが実感できた。
「ついたのか・・・。」
重力の心地よい疲労感も感じる。
「やっぱり、地球はいいな。」
「そうですね。」
すでに立ち上がり、出る準備を終えているリツコやアンたちを見て、
慌ててマダラメは立ち上がる。
「あ、すまん・・・。」
「なーに、さっき大変だったじゃない。」
「いや、それはお前たちもそうでしょ。」
「私達は気を張る必要はないからね。隊長さんはその辺大変だよね。ほら。」
そういって、アンはマダラメの手を引き、廊下に引きずり出す。
「では、いきましょうか。」
五人は順々に、シャトルから降りて行く。
「マダラメ中尉、お疲れ様でした!」
出口で待ち構えていた機長と副機長が敬礼を送る。
「なぁに、いいフライトでしたよ、お疲れさんです。」
敬礼を返すマダラメ。
「ゴクロウダッタ!」
そういって一緒に敬礼をするスー。
「偉そうだなぁ、お前・・・。」
マダラメは苦笑いをする。

外の日差しは強く、空気は埃っぽかった。
「くは~、地球だなぁ~。」
青い空、白い雲、周りには四人の女性・・・。
「あれ・・・?」
(これ・・・実はすごいいい状況なのでは。)
「・・・どうかしたぁ?」
ケーコに言われて正気に戻る。
「んあ!?いやいやなんでもないでござるよ。」
「なに?クッチーみたいなしゃべり方してさ。」
不思議そうに顔を見るケーコに、少し顔を赤らめるつつ、あとずさる。
「どうしたのさ?顔赤いよ?熱ある?」
「はっはっはっ、大丈夫だって。さあ行こう行こう。」
そういいながら歩き出すマダラメ。
「・・・?変な隊長さん。」
憮然な表情をするケーコ。
一同歩いて、基地の倉庫へ向う。
そのまま、一台のジープにたどり着く。
「これつかっていいの?」
「うん、それ、タナカさん所のなんだって。それで来てくれってさ。」
「ふーん。じゃみんな乗った乗った!」
言いながら、運転席に乗り込むマダラメ。
「道案内するね~。」
助手席に座るケーコ。
「さてと、ちょっとドライブと行きますか。」

基地のある場所からそう遠くない位置にタナカの工場はあった。
戦時中から話を聞いていたらしく、彼は戦後すぐに軍隊を辞め、
この工場で経営を始めていた。オーノと共に。
「二年ぶりか。」
工場の前にジープを止めて、降りてくるマダラメ。
「うわ、大きいじゃないの。」
「まぁ、作業用MSの整備工場だからな。それなりに大きくないと無理だろ。」
「そうね。」
通用口の方に歩きを進めながらマダラメとアンが話す。
「さてと。」
チャイムを押すと、インターフォンから女性の声が聞こえた。
『はい~、今日は工場の方はお休みなんですけど~。』
「オーノさん?俺俺。」
『・・・オレオレ詐欺は結構ですけど。』
「あはは・・・。マダラメですけど。」
『あ!ごめんなさい!』
そういってインターホンをきると、すぐに扉からオーノが出てきた。
「久々に声を聞いたのでわからなくて・・・。」
「なーにいいってことよ。んじゃ、お邪魔するぜぃ。」
「ハーイ、カナコ久しぶり~。」
「マタアエタナ!」
「あら!久しぶり!二人とも元気だった?」
オーノもこの二人も来ることは知らなかったようで、笑顔を隠せない。
「私もいますよー。オーノさん、久しぶりー。」
「ケーコさんも元気そうで。・・・で、あの方は・・・。」
見覚えのない人間が一人混ざっていることに違和感を感じるオーノに、
マダラメはいたって明るく答える。
「あ~、今回の作戦の中心人物だ。」
「リツコ、と申します。始めまして。」
「・・・まさか、あの「リツコ」さんですか?」
「・・・たぶん、その「リツコ」であっていると思います・・・。」
そういって少しの間があったあと、
「・・・なるほど・・・キタガワさんの言ってたのはこれだったのね・・・。
 まぁいいです、なかにお入りくださいな。」
皆で工場内に入っていく。工場内は今日は休止のようで静まり返っていた。
しかし、暗がりの中でも見える設備は、軍のものにも劣らないように思われた。
「結構いい設備じゃねえか。」
「そうなんですよ~、
 ここの前の持ち主の方が軍に重用されるくらい優秀な方だったらしくて。
 その関係で知り合って譲っていただいたそうなんですけど。」
「ほーん。じゃ、元は軍備開発工場だったわけだ。」
「そうなりますね~。」
歩きながら周りを散漫と眺めていたマダラメだったが、
工場の端のほうに見えたあるはずのないものに気が止まった。
(・・・?あれは・・・。・・・どういうことだ・・。)
「こっちが私達の家になります~。」
「完全に新婚さんですか。」
「あはは・・・。もうすぐ入籍するつもりではあるんです。」
「本当!?おめでとう、カナコ。」
「ありがとう~。」
「ケッコンハジンセイノハカバダゾ!?」
「・・・不吉なこといわないで・・・。」

いいながら扉を開けると、中でタナカが待っていた。
「おう、久しぶり。元気そうじゃないか。」
「お前が地球で幸せに暮らしている間も木星の引力の怯えた生活だったぜ!」
そういって笑うマダラメ。
「自分から志願しといてなに言ってるんだ。
 俺は止めただろ?一緒にやらないかって誘ったのに。」
「・・・まー、冗談だ。木星もそれなりにいいところだぜ。」
少し困った顔になってタナカの前に座るマダラメ。
「・・・・・・そうか。しかしなんだ、あまりゆっくりも出来ないんだろ。」
「だな。ちょっと重要人物も連れてるし、早めにやっつけたいな。」
ちらりとリツコの方に視線を走らせるマダラメに、
わかったというように頷くタナカ。
「本当は俺もついていきたいんだが・・・そうも行かなくてな。」
「どうかしたのか?・・・まぁ、忙しいんだろ、気にするなよ。」
「・・・いやね、・・・なんだ。」
「はぁ?聞こえねーよ、なんだよ。」
「・・・身重なんだよ。」
「みおも?誰が?」
「オーノさんが。」
バコーン!
マダラメの右フックが見事にタナカのテンプルに当たった。
「お前もできちゃた婚かい!!!」
「いてて・・・。いや、結婚は本当にしようとしてたんだよ。
 でもわかっちゃったから早めないとってね。・・・っていうか『も』?」
「・・・気にすんな。そうか・・・。・・・まぁいいや。二人の結婚式には二人も連れてくるぜ。」
ふぅ、と溜息をつくマダラメに、タナカは嬉しそうに笑う。
「OK、頼んだよ。明日にはクガヤマが来ると思う。今日はうちで休んでくれ。」

深夜。
工場の外で煙草をふかすタナカ。
「ふ~~・・・・・・。」
「よう。どうした、外に出て煙草なんて。」
そこにマダラメが現れる。
「何言ってるんだよ、子供に一番悪いだろ。」
「それでやめるって選択肢が出ないのはお前らしいな。」
「ははは・・・。ストレスの多い仕事だしな・・・。一本吸うか?」
「ああ・・・。」
そういって一本受け取ると、煙草をくわえる。
「火・・・。」
「ほらよ。」
タナカがつけたライターの火で、煙草に火をつける。
「ふ~~・・・・・・。」
「しかしお前も大変だな、あの人数を連れて行くなんてな。」
「ん?まぁ・・・。戦場に行くわけじゃねえから気楽っちゃ気楽だけどな・・・。」
「ふふ・・・。」
「・・・なぁ、タナカ。」
「ん?」
「工場にあるアレ、何のためにおいてある?」
その言葉に、タナカの顔が少し強張る。
「・・・見ちゃったか・・・。」
「おまえ、もう兵器に関わるのはイヤだって言ってたじゃねえか。」
「・・・・・・約束だったんだよ。」
「約束?」
「この工場を譲ってもらう代わりに、前の所有者が行ってた研究を続けるってな。」
「・・・そういうことか。まぁ、おいしすぎる話だとは思ってたけどな。」
「悪用はさせんさ。」
「ん・・・。お前が言うなら安心だがな。気をつけろよ。どこで情報が漏れるかわからん。」
「ああ・・・。」
「お前だけならまだしも、家族が出来るんだろ・・・。」
「ああ・・・。」
「・・・・・・出来る限り軍には頼れ。」
「ああ・・・。わかっている。現に俺と軍とのつながりは消えてないしな。」
「誰か何か言ってくるのか?」
「ははは。お前だよ。おまえが軍に残っているってだけで心強いもんなんだぜ?」
「・・・恥ずかしいこというなよな・・・。」
「なに、本音だ。」
その言葉を最後に、沈黙が訪れた。
煙草を吸う音だけが、闇に吸い込まれていった。

「お、おう、久しぶりだな。」
朝全員が目覚め、工場で必要なものの整理をしていると、
クガヤマが輸送用トラックと共に訪れた。
「よー、元気そうで何よりだぜ。」
「ま、まぁな、気楽なもんだぜ、こ、この仕事は。」
「・・・んで?後のは軍からの?」
マダラメが視線をトラックの荷台に送ると、クガヤマは頷いた。
「そ、そうだ。一応ジムの最新機だ。」
「ってーと、カスタム?」
「い、いや、次の世代らしい。」
「・・・ほーん。ちょっと怪しいな。データでも採らす気か?」
顎に手を当てて訝しがるマダラメに、クガヤマは笑う。
「そ、それはないだろ。
 ・・・あ、あの人を守らなきゃいけないと一番思ってるのは軍なんだろ。」
そういってクガヤマは視線の先で皆と一緒に荷物整理をしているリツコに送った。
「まぁそうだな・・・。」

「ど、どう?あ、あの『リツコ・キューベル・ケッテンクラート』との旅は。」
「ん?ま、どってことねーよ。最初あったときはすごい威圧感を感じたけどな。
 ・・・・・・気付くと普通の子になってたよ。たぶん、日頃気を張ってるんだろうな。」
「ん・・・、た、大変な立場だもんな・・・。」
ケーコが荷物の配分を間違えオーノに怒られているのを見てリツコは笑っている。
「・・・今は立場を忘れてるのか。・・・・・・もしかしたら何かあったのかもな。」
「か、彼女のプライベートで?」
「ああ。」
その言葉にクガヤマは少し首を振って言う。
「ま、まー、深入りはよくない。」
「それはそうなんだけどな。道程の途中で言ってくれたら嬉しいなっとね。」
「・・・お、お前はお節介だよなぁ。」
「・・・・・・そうかぁ?」
「ど、鈍感なくせに気付くと世話焼きたがるよな。」
「・・・うるせえよ!」
そういって二人で笑った。

「では、いってまいりますよ~。」
「はい~、いってらっしゃい~。」
「結婚式にはみんな参加してくれよな。」
「おうよ~、木星に帰るまでまだ日にちはあるからなぁ~。
 メンバー全員が揃うといいなぁ。」
「楽しみにしてる。」
そういうと、タナカはマダラメに敬礼を送る。
マダラメも敬礼を返しながら、
「任せとけ!」
そう言った瞬間、トラックは走り出した。
「・・・まったく、相変わらずだったな。」
「うふふ・・・。でも、変わりないのが嬉しかったでしょう?」
「・・・参ったな。見抜かれてるとはね。」
そういって頭をかくタナカに、オーノは微笑んで、
「マダラメさんなら、何とかしてくれますよ。」
「ああ、そうだ。心配せずに待っていよう。」
タナカもニヤリと笑った。

「で、トラックで何日よ。」
「そ、そうだな、休み無しで2日弱。」
「2日。・・・マジカ。」
「も、もちろん、休憩や何かあればもっと伸びるな。」
「交代で運転しちゃるよ。」
「あ、ああ、任せたよ。」
トラックはサバンナをひた走る。
このサバンナを越えたあたりに、懐かしい密林が待っているのである。

10時間がたった辺りで、周囲が暗くなってきた。
「そろそろ変わってやるよ。仮眠もさっきとったからな。」
マダラメが操縦席後の皆がいるスペースからクガヤマに声をかける。
「そ、そうか。じゃ、じゃあ一旦止めるな。」
「ふい~、私も寝る~。」
隣で座っていたケーコも、だいぶ疲れているようだ。
「お疲れさん。じゃあ、運転は俺がやるとして・・・。」
「私が助手席に入るよ。」
そういって、アンジェラが後から声を掛けた。
「・・・じゃ、たのまぁ。」
「OK。」
トラックが停止する。
「あ、明け方くらいに起こしてくれ・・・。」
そういってまずクガヤマが後へ入っていく。
「・・・あ~、寝れるかな・・・。ここから密林だから振動ひどいんだよね・・・。」
「まぁ、なるたけ安全運転してやるからゆっくり寝なさい。」
「は~い。」
ケーコもそのあとに続いて休みに行った。
「さて、夜のドライブの始まりだな。」
「なんかそういうとロマンティックだね~。」
「・・・なんか恥ずかしいじゃねえか・・・。」

トラックは密林地帯に入った。村落はたくさん点在している為、
道はなくはない。ただ、整備はほぼされてない。
「うひゃひゃ、振動ひどいな。」
「下手な遊園地よりスリルがあるわねー。」
はしゃぐ様な声を出すマダラメとアン。
「・・・そういえばさ、何で木星に行ったの?」
「ん?何でって・・・。人が足りねえって話は聞いてたからな。」
急に聞かれ、視線は動かさずにマダラメは答える。
「でも、あなたがいく必要はなかったと思うんだけど。」
「誰かが行かなきゃいけないだろ?俺は一人身で身軽だったしな。」
「こっちでやるべき仕事もあったんじゃない?」
「・・・まぁ、なんだ、行ってみたいっていうのもあったんだよ・・・。」
言葉に詰まりだしたマダラメを見て、アンはふぅ、と溜息をついた。
「サキ?」
ドキッとした。
「・・・はぁ?何言ってるんですかアナタ。」
「ん?ちょっと言ってみただけだよ?」
そういわれて、動揺がばれたようで恥ずかしくなる。
沈黙が続く。響くのはトラックの駆動音とタイヤの引かれ枝が折れる音。
こいつは見抜いてる。そう思って観念し、言葉を出す。
「・・・別に、そういう訳じゃねえよ?」
「どういう訳?」
「・・・・・・地球圏に居辛くなったわけじゃねえんだよ。」
「居辛くはならないでしょ。」
「自分のなかで何かケリつけてえって言うかなぁ・・・。」
「それでついた?」
「・・・無理だな。忙しさにかまけて忘れてただけで。
 会ったら思い出しちまったよ。」
「会ったんだ。」
また沈黙が続く。数分経って。
「けど・・・。子供もいて幸せそうだったよ。少しなんか・・・まぁなんだ。」
おほん、と咳をする。
「将来を楽しんでみるかとね。」
「ふーん。・・・ねえ。」
「ん?」
「一緒に仕事しない?」
その台詞に、アンが何をいいたいか、いかに鈍感な彼でも解ってしまった。
「・・・あー、それは無理だなぁ。」
「そう・・・。」
「いや、嫌な訳じゃねえし、ちょっと興味もあるんだ。
 ・・・だがね、俺が軍にいる必要もあるんだ。」
「そうなの?」
「例えばクガヤマとかも、軍に目をつけられれば仕事も出来なくなる。
 軍隊上がりって言うのは目ぇつけられんのさ。いろいろ知ってるからな。」
そういって、トラックのハンドルを叩く。
「そういうのを、防ぐことが出来るんだよ、一応中にいればな。
 大隊長からその辺の方法は教わってるからな。」
「・・・無駄に軍にいるわけじゃないんだね。感心した。」
笑顔で肩をすくめるアンに、マダラメも苦笑い。
「まぁ俺から言わせてもらえば・・・。」
「傭兵やめろ?私達に?」
「・・・何だ、わかっているんだな。」
「まぁ、あなたが言いそうなことは大体ね。」
「あ~、そうか。で?」
「やめる気はないわよ。私達はこの仕事好きでやってるしね。
 それに・・・見えるものもあるの。こういう立場だとね。」
「・・・でもなぁ・・・。」
「女に戦場は似合わない?妙なところでフェミニストなのね。」
「・・・・・・強制はせんよ・・・。」
「あら・・・。あなたが強く言ってくれたらやめたのにね。」
その台詞にマダラメは大きな溜息をついた。
「・・・・・おいおい・・・。それはずるいだろ・・・。」
「あなたが辞めて木星に一緒に来ないか?っていったら行ってるわよ。」
「・・・・・・ずるいなぁ・・・。試したのか?」
「・・・冗談よ。気にしないで・・・。」
そういって笑うアンは、マダラメからみると無理をしているように見えた。
「・・・じゃあ木星行かない?」
「いまさら。」
「そうだよね・・・。」
そのあと、言葉は続かなかった。長い沈黙が明け方まで続いた。
微妙な空気を漂わせたまま・・・。

朝になった。
「・・・ふわぁあああああああああ。」
大きなアクビをしながら、ハンドルを握るマダラメ。
一方、アンは全く堪えてない様子でまっすぐ前を見ていた。
「・・・あ!?あれ・・・村かな・・・?」
「お?丁度いいな・・・。休ませてもらおうかな・・・。」
「ヤスメヤスメ!ニンゲンヤスムガイチバンゾ!」
「うわっ!真剣驚いた!驚かせるなよ~。」
スーが後から飛び出してきた。
「・・・あら、あそこは・・・。」
「あれ?見覚えあるな・・・。」
近付いてくる村の入り口には、見覚えのある門があった。
「あ、クチキ君・・・。クチキ君のメールだ。」
そう、クチキが送ってきた私は今ここにいますメールに添付されていた写真。
そこに映っていたものと同じであった。
「よし、こりゃ都合がいいわ。」
そういって、村の門の前でトラックを停車した。

「・・・お久しぶりでございます!隊長!」
そういって近付いてきたクチキは、前よりも精悍な体つきになっていた。
「おお、久しぶりだな、クッチー。」
「ハーイ。」
「おお、皆様おそろいで・・・。って・・・。」
クチキが後ろにいるリツコに目を留めると驚いて声を上げそうになるのを、
マダラメが口をふさいだ。
「あ~、任務中なんだ、あとはワカルね?ん?」
「・・・はい、了解いたしましたですよ・・・。」
「OK。あのさ、お願いがあるんだけど、ちょっと休ませてもらえないかな。」
「はいはい、了解でありますよ、うちに来てくださいな。」
そういって、クチキは皆を先導して歩き始めた。

「お世話になっている家です、まぁくつろいでくださいなぁ。」
「おう、結構いいところじゃないか。」
そういってマダラメが周りを見渡す。
「ミヤ~、ちょっちいいかにゃ~。」
そのクチキの声と共に、奥からかわいい女の子が出てきた。
戦時中にクチキが命を救ったあの少女である。
今では成長し、しっかりとした女性になりつつある。
「あ、いらっしゃいませ~、マナブさんのお知り合いですか?」
「お邪魔してます。クチキの元上司でマダラメともうします。
 他も元同僚です。すいませんが、少し休憩をさせていただきたく。」
「かまいませんよ~、何なら皆さんで食事でも。丁度朝食なんですよ。」
「あ、はい・・・。」
そういって、ミヤはまた奥に下がっていく。
「・・・クチキ君?」
「はい、なんでありますか!?」
「一緒に住んでるの・・・?」
「そうでありますが何か・・・?」
「・・・クチキマナブ、オマエモカ・・・・。」
スーがその後でそういって、マダラメの背中を軽く二回叩いた。
そのまま、昼過ぎぐらいまで休むことになった一行は、村をぶらついていた。
「おお、ここが写真の!」
「そうですにょ~、綺麗でしょ~。」
そこには村のモニュメントがおかれてあった。
不思議な形状をしているそれは、なぜか妙な美しさを醸し出していた。
マダラメがクチキからメールで受け取った画像を思い出し、感嘆の声を漏らす。
「なるほどなぁ。クチキ君がこの村に来た理由がわかった気がするよ。」
「この村が大変なのは知ってましたし、守りたいものがあったからですにゃ!」
マダラメはその言葉に感心した。というより、羨ましく思った。
あんなに頼りない部下だったクチキが、自分のやりたいことをしているからである。
「ほっほー、クチキ君は・・・。すごいな。」
「へ!?ほ、褒められるとは思ってなかったでありますよ!」
「いやいや・・・。本当に・・・。」
「隊長に褒められると非常に嬉しいでありますね!」
そういってクチキはびしっと姿勢を正し、敬礼した。
「あはは・・・。」
「マナブさ~ん、ちょっといい~?」
ミヤの遠くからの声に、クチキはそちらを向き、
「ちょっと言って来るであります!」
また敬礼して走り去っていった。
「いやいや・・・本当すごいよ・・・クチキ君・・・。」
「ナンダ、ウラヤマシイノカ?」
気付くと、モニュメントの天辺にスーが立っていた。
「ちょ!スー、それは駄目だ!クチキ君が怒るぞ!?」
「シンパイハイラン。スグニオリル。トゥ!」
そういってジャンプすると、マダラメの真上に落下してきた。
「うわちょ!」
顔の正面に抱きつかれ、倒れこむ。
「いてぇ!なにすんだよ!・・・ん!?」
目を開けると、薄暗い空間の中に肌色に布地・・・。
「イヤァ~ン、マイッチング。」
スカートの中だったのだ。
「アホか!どきなさい!」
スーを急いでどかすマダラメ。
「全く・・・。何がしたいんだお前は!」
「・・・何を話してたの?夜。」
急に素のしゃべり方で話し出すスーに、マダラメは唖然とする。
「・・・・・・普通にはなせるのかよ・・・。何を・・・か・・・。
 まぁしいて言えば。」
「しいて言えば?」
「俺がまた情けない奴だということを認識しただけだな。」
「・・・そう?」
「そうだよ。だって、相手が何を言って欲しいか全くわからないんだぜ。」
「でもそれは自分が言いたかったことなんでしょう?
 相手が言いたい事を言わない方が、傷つくわ。」
「・・・そうかも知れねえけどな。俺はなるべく誰かの役に立ちたい。」
「・・・・・・そう気張るものでもないですよ。あなたはいるだけでも・・・。」
スーは視線を逸らすと、モニュメントを見た。

少しの間のあと。
「キレイダナ。」
「!?ああ・・・。」
元に口調に戻ったスーに、再び面食らいながらも、マダラメは少し笑った。
「あの・・・。」
そこにリツコがやってきた。
「お?なんですか?」
「これ、アンジェラさんが、隊長さんにって。」
見ると、果物だった。
「村の人に分けて頂いたけど、自分はちょっと渡しづらいから。
 疲れてるだろうからこれ食べて早く寝なさいって言ってましたよ。」
「・・・そうか・・・。ありがとう。」
「それはご本人におっしゃった方がいいかと思いますよ?
 ・・・隊長さんは、皆に好かれてますね。」
「そ、そうですか?」
「はい。村に訪れた上司をあんなにも世話してくれる方がいる。
 皆があなたの心配をしていますよ。」
「・・・それは、俺が情けないからでは・・・。」
情けない顔で溜息をつくマダラメに、
少しの間のあと。リツコはプッ、と噴出していしまった。
「え?何で笑うんですか・・・?」
「い、いえ・・・。・・・自信を持ってください。
 心配してるってことは、それだけ頼りにしているってことですよ。
 どうでもいい人を心配したりはしません。」
「そ、そういうものかな・・・。」
「そうですよ。そうなんです。」
リツコは、自分に言い聞かせているように強く、言った。
「・・・わかった。少し自信を持ちますよ。」
「・・・はい。」

最終更新:2007年02月17日 07:11