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大野 攻略 【投稿日 2007/01/13】

まだらめメモリアル攻略日記


アメリカから帰国したわたしが入学した椎応大学には、わたしを受け入れてくれる場所がありました。その名は現視研。
 同学年でも半年遅れとなるわたしが、向こうでも特殊な趣味だと微妙な距離を持たれていたわたしが現視研に溶け込むことができたのは、同期のみんなや田中さん、そしてあの人が、この場所にいてくれたからだったのです。



まらだめメモリアル リプレイ



『幸せであるように』



 コスプレ写真の横流しが失敗した夜、わたしは斑目さんを居酒屋に呼び出しました。
 あのときの失態を謝罪したかったのと……わたしはどうしても、彼が何を望んでいるのかを聞き出したかったのです。
 咲さんはもうあと数日で卒業してしまいます。斑目さんと違い、都心で自分の店を持つという職業を選んだ彼女は今後、部室に顔を出すことはほとんどないでしょう。
 斑目さんが、咲さんとお話をする機会はもう、わずかしか残されていないのです。

「斑目さん、ほんとごめんなさい!まさか咲さん本人に見つかるとは思っていなかったんですぅ~」
「いやいや!いいんスよそんなの。それより大野さん、いいの?田中放っといて」
「今日は田中さんの学校の追いコンなんですよぉ。縫製のお師匠様っていう人がいて、そっちにお付き合いしないとならないんです」
「へー、確かに学校行くようになってからあいつ、ますます腕を上げてっからな」
「ほらほら斑目さん、とりあえず乾杯」

 強引にジョッキをぶつけますが、斑目さんはあまり乗り気ではないようです。

「いったい何にスか」
「えーと、じゃ……」

 わたしはちょっと考えました。斑目さんは今日のことを、どう思っているのでしょう。

「斑目さんの秘めたる想いに」
「ぶっ!?」

 漫画みたいに泡を吹き飛ばし、斑目さんはむせ返りました。

「ああもう!なにやってるんですか斑目さんたらぁ」
「げほげほっ、そっ、それはむしろこっちのセリフだっつーの!」

 あわてておしぼりで彼の服を拭きます。涙目になった彼が、こちらを見つめました。

「昼間といい、なんだってんだよ大野さん。俺は別に――」
「――『別に春日部さんのことなんか』って、言うつもりですか?」

 斑目さんの瞳の色が変わりました。

「『春日部さんのことなんか好きになってない』って、そうやって自分に嘘をつくつもりですか?斑目さん」

 斑目さんは何も言わず、わたしの顔を見つめています。わたしも言ってしまった以上あとには引けず、彼の眼鏡の奥に視線を送り続けました。

「斑目さん、斑目さんが咲さんのこと好きだって、わたし知ってました。たぶん他の女の子たちも知ってると思います、咲さん以外は」

 斑目さんは、ふと視線をそらしました。居酒屋のカウンターで手元のジョッキに目を落として、でも彼は何も見ていないのでしょう。角度の加減で、眼鏡にカウンターの照明が映り込んで彼の表情は見えません。

「咲さん、自分のことにはなんかニブいんですよね。でもわたし、斑目さんのその想いをどうこうしようとは考えてなかったんですよ……この間までは」
「……この間?」
「わたしがコスプレの衣装を部室に運び込んだとき、斑目さん、咲さんと二人きりでいたんですよね」

 十日くらい前のこと。逃げるように帰ってしまった斑目さんとどんな話をしたのか、咲さんからはそれとなく聞いていました。

「斑目さんが咲さんにお別れめいたこと言ったって聞いて、もう我慢できなくなったんです。斑目さん」

 わたしは斑目さんに詰め寄りました。

「咲さん、もう卒業しちゃうんですよ?いいんですか、このままで?」

 ……でも、どうして。

「斑目さん!自分の心を告げないままで、好きって言わないままで、咲さんを行かせちゃっていいんですか?」

 どうしてわたしは、斑目さんのことにこんなに一生懸命になっているのでしょう。

「ちょ、ちょっと待ってよ大野さん、なんで大野さんが俺のことにそんなに入れ込むの?」

 ちょうど彼もそこに思い当たったようです。

「あのさ、春日部さんには高坂くんという彼氏がちゃんといるわけでさ、それをどうして大野さんが二人の間に波風立てるようなことしてるのさ?」

 斑目さんの表情にも困惑交じりの焦燥感が見て取れます。

「これは俺の問題であって、大野さんには関係ないでしょ?俺が俺の感情にどんな決着をつけようが、それは全部俺に跳ね返るわけで、大野さんには損も得もないはずだよ、そうじゃない?」
「それは――」
「……あ、それとも大野さんは面白がってるのかな?今の俺の状況」

 自嘲気味の光が、彼の瞳に宿りました。

「俺は今勝ち目のない勝負にハマり込んで、進むも地獄、引くも地獄だ。それなのに大野さんは、俺に進めと言ってくる。どうしたいんだよ、俺が春日部さんの目の前で玉砕するのを見たいってのか?」
「そ……そんな」
「大野さんには解らないんじゃないの?いま自分は田中とうまく行ってるし、そもそも付き合い始めも自然だったじゃんか。タダでさえ恋愛経験ゼロの俺がこんな高度な三角関係に手を出せるはずがないでしょ?」

 さっき飲み損ねたビールを思いだしたのか、ジョッキに口を付けて一気に飲み干します。

「あはは。こんな感情の引きずり方してるオタなんざさぞ珍しいんだろうな。そうか、おおかたアレだ、アンジェラあたりと俺がどうなるか掛けてるんじゃないの?」
「斑目さん!?何を――」
「そうだな、きっと大野さんは俺が告白する方にベットしてるんだ、そうだろ?ひょっとしたら玉砕するオプションもついてるかもな」

 今飲んだばかりのお酒がすぐさま脳まで回るわけがありません。斑目さんは酔ったふりをして、わたしが触れてしまった逆鱗を鎮めようとしていました。

 わたしが言った余計な一言に腹を立てて、それでも直接わたしを攻撃することができなくて、こんな回りくどい方法で胸の内を明かす彼を……。
 もう卒業してるのに、ただの後輩に刺された図星を打ち消すことができないでいる優しい人を……。
 多分わたしと同じように現視研を愛していて、そのあまり自分の真実さえ後回しにしようとする不器用な人を……。
 そんな斑目さんを見ていて、わたしはようやく悟りました。

 わたしは、斑目さんが好きなのだ、と。

「オッズはどうなのかな?俺から見ても鉄板レースだろ、低いよな。うっかりしたら0.9倍とか――」
「斑目さんっ!」

 私は居酒屋の椅子を蹴り、斑目さんを抱き締めていました。
 わたしは田中さんを愛しています。アメリカ帰りというだけで誤解されがちな腰の軽い女でもありません。
 でも、わたしは斑目さんが好きだったのです。……たった今気付いたことですが。
 田中さんを好きなのとは多分まったく違った次元で、今わたしの腕の中で息を飲んでいる人のことが、わたしは大好きだったのです。

「そんなのじゃ……ありませんっ!」

 わたしの行動は結果的に良い方に転んだようです。考えてみれば、斑目さんに口で勝てるはずがありません。彼は驚愕のあまり、我に返ってくれました。

「……大野さん?」
「そんなのじゃ、ないんです」
「大野さん、人が見てるよ」

 居酒屋の全てのお客さんが……正確には従業員の人たちまでもがわたしたちに注目しているのに気付いたのはその後でした。

 代金を支払って早々に居酒屋を出て、わたしたちは近くの公園に移動しました。わたしにはまだ話したいことがあったし、斑目さんももう少し付きあうつもりになってくれたようです。

「大野さん、どーぞ」
「あ、すいません」

 向かいのコンビニで買って来たビールを二人で取り分けます。

「ふう、今日のわたし、なにからなにまでダメですね」
「まーまー。さっきのはホラ、俺も悪かったしさ」

 今度は何も言わず、二人でビールのタブを上げて缶の縁を合わせます。

「斑目さん、もう言いかけちゃったんで全部言いますね。わたしは、やっぱり斑目さんには咲さんに告白して欲しいと思います」
「ええー、その話続けんの?」
「ふふ、続けますよぉ。斑目さん、咲さんのこと、いつから好きだったんですか?」

 彼はまだ少し躊躇しているようでしたが、やがて心を決めたようです。わたしが座っているベンチの向かい側、ウサギの遊具に腰掛けて、こちらを見ました。

「……初めはさ、『なんだよあのドキュン女』って感じだったんだぜ?春日部さんのこと」
「あはは、オタクの対極にあるような人ですもんね」
「そもそもウチがどんなサークルかって知らないで来たんだよ、高坂くんに付きあって覗きに来ただけで。それが高坂くんが居ついちゃったもんだから」
「ああ、聞きました。わたし来た時も、まだ全然こなれてなかったんですよね、咲さん」

 缶ビールをちびちびと飲みながら、斑目さんは咲さんの思い出を語り続けます。その年月が自分の一生分ほども重いとでも言いたげな話し振りで。

「……みんなで海行くちょっと前かな、春日部さんと部室で二人っきりになったことがあったんだよね、ちょうどこないだみたいに」
「え、え、え?それはなにかすっごいイベントが」
「ねーよ、ないない!俺は彼女に何も話しかけられなくて、結局挙動不審で気持ち悪がられて泣きながら撤退。……でも」
「でも?」
「その時に感じたんだよ。あ、俺、春日部さんのこと好きなんじゃん、って」

 今の、表情。

 斑目さんの今の顔つきが、全てを物語っていました。
 海に行ったのって、2年の夏です。その前からっていうことは、ほとんどまる3年間。

「それ以来、部室に来るたんびにまず春日部さんの姿探して、卒業してからもなんだかんだ理由つけて部室に顔出してさ」

 斑目さんは、総受けタイプの人間です。これはオタクかどうか、腐女子の趣味がどうとかとは別の話で、彼は人間の性格自体が受動的に出来ているのです。
 自分からは動くことなく、降りかかってくる刺激はうまいこと受け止めて人生を生きてゆくタイプの人間です。そうやって社会や人間関係をコントロールしてゆく人なのです。
 自分の趣味にしか興味を示さず、その他のことは他人事。巻き込まれた時は小器用に脱出して、また普段通り生きてゆく。

 そんな斑目さんがオタク趣味以外で、能動的にアクションを起こした数少ない相手が咲さんでした。

「こないだのことさ、春日部さんから聞いたんでしょ?お別れめいた、ってのは言いすぎデスヨ」

 部室から離れたくなくて就職活動を後回しにして。いよいよ進退きわまったのかと思ったら大学の近所の会社にちゃっかり内定受けて。

「彼女と同じ空気を吸っていられた4年間を、春日部さんに感謝したかっただけ。でも『ありがとう』とか『さようなら』なんて言ったらきっとびっくりされるだろうから、『お疲れさま』ってさ……って、大野さん!?」
「あ、はい?」
「どっ、どうしたの?」

 斑目さんが、驚愕の表情でこちらを見ています。え、と思って、そのあとで自分の頬を流れる温かいものに気付きました。

「……あ、れ?」

 わたしは泣いていました。

「あらら、ごめんなさい……ひくっ」
「ちょっとちょっと、ごめん俺なんかマズいこと言ったかな?あ、えーと、ほらハンカチ」

 慌てて立ち上がり、わたしに近づいてズボンのポケットからハンカチを渡してくれます。

「すみません……斑目さんの話聞いてたら、つい泣けてきて」
「ええ?俺ってそんなに悲しい?」
「いーえー。感動してるんです」
「……は?」
「咲さん、幸せ者だなあって」

 斑目さんの匂いのするハンカチを目に当てながら、なるべくしゃくりあげないように喋ります。だってわたしが泣いたら、斑目さんが困りますから。

「ほら、斑目さんみたいな人に好きになってもらえて。高坂さんとお付き合いしてるのも幸せなんでしょうけど、それに加えて斑目さんがそばに居てくれて」

 顔は笑顔を作れましたが、涙が止まりません。

「大野さん……」
「あーあ、くやしいなあ」
「えっ?」
「わたしが咲さんだったら、斑目さんのことこんなに苦しめないのに。わたしが咲さんだったら高坂さんなんか放っといて、何も言われなくたって斑目さんの心を解ってあげられたかもしれないのに」

 だめだって思っても、表情を留めておけませんでした。斑目さんに見せちゃいけないって思っていた、泣き顔に変わってゆきます。

「ひくっ」

 鳴咽を止めることもできません。おろおろする斑目さんに申し訳ないと思いながら、わたしはふたたび彼に抱きつきました。

「!?」
「まっ……斑目さん……ごめんなさい、ちょっとだけ、肩、貸して、ください」

 彼が何も言わないのは、わたしを思いやってでしょうか。それとも、処理能力がオーバーフローしてるのかもしれません。
 黙ったままわたしを支えてくれる斑目さんに少しだけ甘えることにして、わたしは彼をぎゅっと抱き締めました。

「大野さん……なんか、ごめんな。要するに俺が不甲斐ないから大野さん、泣いちゃったんだろ?」

 腕に力を込めるわたしに応えるように、彼もわたしの背中に両手を回してくれました。ぽんぽんと軽く叩いてくれる手のひらから、ほんのりと温かさが伝わってきます。

「田中といい笹原といい、俺の回りでオタクどもが急に色気づきやがってさ。ぶっちゃけ乗り遅れた感じは抱いてたわけよ、俺も」

 わたしの背中に手を当てながら、話し始めます。

「俺自身もその頃には好きな人がいて、でもその人には大切な人がいて。俺にはその人が幸せであることの方が大事だったから、そうなるように行動したんだ」

 ……『その人が幸せであるように』。わたしもそう思います。わたしは、斑目さんに幸せであって欲しいのです。

「漫画やアニメみたいに、たとえば強引に彼女を奪うとか。男らしく告白して、正々堂々とフラれるとか。どれもこれも俺らしくないし、だいいち彼女が困るって思ったんだ」

 でも、そのやり方を、わたしは勘違いしていたようです。わたしはわたしの経験の中で、好きならそれを相手に伝えるべきだと信じきっていました。でも、斑目さんの方法論は、わたしのものとは違っていたのです。

「だからこないだも、『お疲れさま』ってさ。今はこれが精一杯、ってわけですよ。……大野さん」
「……ハイ」
「俺のこと気に掛けてくれて、ありがとね。俺一人で墓の中まで持ってくつもりだった秘密を喋る羽目になったけど、今はちょっとすっきりしてる」
「わたしも、打ち明けていただいて嬉しかったです。ちゃんと秘密は守りますから」

 いつの間にかわたしの涙は止まっていました。

「頼むぜ、ホントに~」
「斑目さん、それじゃ、鍵掛けてください」
「へ?カギ?」
「わたしの口が、余計な事を言わないように!」
「え?」

 唇を付き出して、目をつぶります。

「わ!?お、お、大野さん、ちょっとちょっと!」
「は・や・くぅ!」
「いっいやいや待ってよ!大野さんには田中というやつが、それにほら、俺もさ」
「俺も?」
「その……ハジメテは心に決めた人と……」

 あーあ。
 やっぱりダメでした。でもこれは、予想の範囲内です。わたしはすねた表情を作って目を開けました。

「斑目さんのいくじなしー」
「えー?」
「それに斑目さん、心に決めた人って咲さんじゃないですか!それって一生ムリってことですよ?妖精さんになっちゃいますよ?」
「妖精さんとか言うな!あーいやその、ほれ、いつかどこかできっかけがさ」
「ありませんよそんなの!もー、わかりました!」

 わたしは、斑目さんが好きです。

 もちろん田中さんも愛しています。今しがた少しだけ心が揺れましたけど……いさぎよく身を引きましょう。斑目さんの心の中には咲さんが陣取っていますし、事態が変わる公算は万に一つもありません。

 それに……。

 それに、わたしは斑目さんが幸せであることの方が大事です。
 斑目さんたら、今の状況を幸せだと思っているじゃありませんか!これじゃ、わたしにはなにもできませんよね。

「鍵がどうとかはもういいです!その代わり、今日は飲み明かしますから付き合って下さい」
「えええ?マジですか?」
「マジですよ、田中さん今晩はこっち来ないんですから」
「ハイハイ。でも大野さんの酒の相手か、正直体力不安だ」
「斑目さぁん?寝たら言いふらしますからね、さっきのこと」
「ウワそんな縛りアリかよぉ~」
「ふふ。さ、そのビール空けちゃって下さいよ。次のお店行きますからね」
「なんかハメられた気がする」
「気のせいですって。ほらほら乾杯」
「またかよっ!」

 わたしは構わず、缶ビールを派手に打ち鳴らしました。

 斑目さんの幸せに乾杯……と、胸の内で願いながら。



おわり


【リプレイ後記】

……バッドエンドですたorz

クライマックスで2ショットに持ち込めた上、居酒屋から公園に場面転換した時はシメタと思ったんですけどねえ。原作展開を重視するあまり田中との関係構築に時間を掛けすぎたのかもしれません。
4週間連続のコスプレデートとかこなしてるうちに(このコンボにはまり込むと交際発覚イベントまで斑目が登場しません)ゲーム画面に出てないところで斑目→咲ラヴ度が育ちすぎてしまいましたw

他にも何パターンかやってみたんですが、大野さんシナリオの特徴は二つある様子。

ひとつはムードメーカー的スキルとでも言いましょうか、大野さんがいるだけでその場のキャラクターの親密度が勝手に上乗せされてるみたいです。細かくバイタリティチェックしてなかったんでウソだったらすいません。
原作通りに展開しなくても笹荻がくっついてたり、全然関係ないところでクッチーが恵子と付き合ってるような描写があったりで、基本的にバッドエンドでも誰かしら幸せになるシナリオみたいです。

もうひとつはアメリカ仕込みのハグの威力の凄いこと凄いこと。リプレイでは割愛しましたがこの時の展開、田中もハグで落としてます。それに荻上さん登場直後までならコレを活用して笹原と交際することも可w
まあ攻略対象キャラではないので描写は淡白ですし、この場合荻上さんが大学中退してしまうので笹荻派としては許せない。なおエンディングで、編集者になった笹原の担当作家として漫画家荻上さんが再登場します。
大野さんが田中と付き合わない状態で斑目にハグで流れを持って来れるかもしれません。あーでもあんまり早いと斑目が心開いてくれないしなー。

かたやツルペタ、こなたヒゲハゲデブと属性の重なりが全くないだけに予想通りとでも言うべき困難さです。でもプレイしててけっこうホンワカする!これは中毒性高いですよ。

……問題は斑目なんだよなあ……どうしたらいいんだ実際。
また新展開あったらご報告にまいります。では。