26人いる!その8 【投稿日 2006/12/18】
藪崎「あかん、悪い子やないのは分かんねんけど、この子の話には付き合い切れんわ」
日垣が国松を呼びに来た時、正直言って藪崎さんはホッとしていた。
そしてコスプレ中の他の現視研メンバーを見渡し、突如動きを止める。
藪崎「なあオギー、あの人誰や?」
あの人とは、ヒューズコスの斑目だった。
荻上「ああ、OBの斑目さん…ヤブ、どしたの?」
藪崎さんの目がハート型になっていた。
荻上「あの、ヤブ?」
藪崎「直球ど真ん中や!」
荻上「えっ?」
藪崎「いやーこんな近くに理想のメガネ君が居るとは気付かなんだ、盲点やったわ」
フラフラと斑目の方に近付く藪崎さん。
だがそこへ猛スピードで接近する影があった。
アンジェラだ。
アンジェラが一直線に斑目に突進する。
藪崎「何や?」
斑目「アンジェラ?」
アンジェラ「ハーイ、ミスター総受け!」
こける一同。
笹原『斑目さんの総受けは、もはや国際的認識なのか…』
アンジェラは斑目に飛び付くように抱き付き、頬にキスした。
次の瞬間、斑目は硬直して最大出力で赤面し、白目を剥いて気絶した。
それを見て硬直する藪崎さん。
一同「斑目さん!」
アンジェラ「オーミスター総受け、どうしたあるか?」
笹原「(斑目に駆け寄って体を探り)気絶してるだけみたいだね」
荻上「お医者さん呼んだ方がいいかしら?」
そこへスーがトコトコと近付いて来た。
スー「(左上腕部を右手で押さえながら)医者ハドコダ」
沈黙する一同。
台場「スーちゃん、『ねじ式』知ってるんだ…」
沢田「…偶然じゃない?」
その時斑目の鼻から、ひと筋の血が流れた。
笹原「ヤバイ!鼻血だ!」
斑目の顔を横に向けつつ、ティッシュを取り出す笹原。
ティッシュで栓をするまでの間に、鼻血はポタポタと地面に垂れて丸い血痕となった。
それを凝視していたスーが呟いた。
スー「花ダ、紅イ花ダ」
台場「やっぱり知ってるみたい、つげ義春。ってスーちゃん、そんな場合じゃないでしょ!」
次の瞬間、スーは上体を後ろに反らし、自分の股の間から顔を出し、両腕で自分の両脚を抱え込む。
スー「必殺スルメ固メ」
台場「もういいから!」
巴「へー、スーちゃん体柔らかいんだ」
そこへまたもや国松が割り込む。
国松「ダメよスーちゃん。キングアラジンなら、その格好でゴロゴロ転がって行かなきゃ」
一同『キングアラジン?』
スーはするめ固めの体勢のまま、後ろに倒れるようにしてゴロゴロと転がって行き、やがてその体勢を解いて立ち上がり、体操のフィニッシュのようなポーズで決めた。
国松「凄いスーちゃん!完璧にキングアラジンじゃない!」
台場「て言うかスーちゃん、キングアラジンが何だか知ってるの?」
(注釈)キングアラジン
特撮ドラマ「怪奇大作戦」に登場した怪盗の名前。
特殊な繊維とガスで保護色を作り出し、壁に溶け込むように消えることから「壁抜け男」とも呼ばれ、それが登場回のサブタイトルにもなっている。
この怪盗、体がたいへん柔軟で、先程スーがやったような、体を反らして丸めてゴロゴロと転がる特技を持つ。
笹原「それはそうとみんな、大事なこと忘れてない?」
神田「あっそうだ。大丈夫ですか斑目先輩?」
笹原「まあ気絶してるだけだから、寝かしといても大丈夫だけど」
大野「そうは行きません!コスを着ている限りは起きてもらわないと!」
荻上「鬼だ、この人…」
アンジェラ「よしっ!私が人工呼吸で起こしてあげるあるよ」
斑目に近付くアンジェラ。
その時、我に返った藪崎さんがアンジェラに突進する。
藪崎「私の斑目さんに何する気や、この変態外人!」
しばし周囲の時間が止まる。
アンジェラ「あの、私のって…」
自分の言ったことの意味を悟り、またもや自爆する藪崎さん。
藪崎「知ったな!私が斑目さんのことを…」
ここまで言いかけた瞬間、藪崎さんは気絶した。
その背後には、手刀を構えた加藤さんが立っていた。
加藤「大丈夫よ、頚動脈を打って気絶させただけだから」
荻上「頚動脈って、そんな平然と…」
朽木「加藤さん、なかなか鋭いチョップでしたなあ。最低でも黒帯クラスの腕前と見たにょー」
加藤「藪崎まで騒ぎ出したら話がややこしくなる一方だから、とりあえず眠らせたわ。(笹原に)今の内に斑目さんの方をお願いします」
笹原「分かった。それにしても何で俺の周りって、こうも自爆スキーキャラばっかりなんだろう?」
スー「サダメジャ」
笹原「そうかもね、ハハ…(汗)」
スーのひと言に、マジで納得してしまう笹原だった。
荻上「で、笹原さん、どうするんですか?」
笹原「俺が斑目さん起こすよ」
腐女子一同『笹原さんがキスで斑目さんを起こす、ハアハア…』
さすがは荻上会長の一門だけあって、1年女子たちも太陽系から脱出可能な程度の小ワープは出来るようになっていた。
その気配を感じ取った笹原が釘を刺す。
笹原「あの、みんなが希望するようなことはやらないから…」
そのひと言で1年女子たちは地球に帰還したが、1人荻上会長だけはバラン星を通過しかけていた。
笹原「やっぱり本家のワープ能力は違うな。誰か荻上さんの頭の筆、シビビビしてあげて」
豪田「了解です。(筆をシビビビしながら)荻様、戻って来て下さーい」
荻上会長の意識が地球に帰還したその時、笹原はポケットから気付け薬を出し、斑目のティッシュを抜いた鼻先で開けようとしているところだった。
荻上「笹原さん、それは?」
笹原「気付け薬だよ」
斑目は目を覚ました。
斑目「はっ、ここは誰、俺はどこ?」
笹原「まあ、お約束ですね。ハハッ…」
荻上「あの笹原さん、何でそんなものを?」
笹原は平然とした顔で、当然のように答えた。
笹原「B先生の担当になってから、前の担当の人にもらったんだよ。これからはたびたび使うだろうから、いつも持ってろって」
一同『どういう人なんだ、B先生って?』
斑目騒動を吹き飛ばすかのように、クッチーは今日もノリにノッていた。
今日のアルコスは、昨日のベムコスよりもはるかに軽く動きやすい。
内側に貼られたウレタンも、中に入るクッチーの体が傷付くのを防ぐ為のものだから、最小限の量だ。
だから鎧の中はけっこう隙間があり、昨日ほど暑くない。
だから例によって調子に乗って動き回る。
本物のアルも空手的なアクションが多い為、思う存分空手のスキルを披露する。
と言っても素人目にはよく分からない動きだ。
ボクシング的なフットワークとパンチ連打を見せたかと思えば、次の瞬間には中国拳法的な腰を大きく落としたゆったりとした動きも披露する。
そして仕上げは、テコンドー的な半身のスタンスからの派手な蹴りの連打だ。
だがこれがカメコたちにウケた。
それでまた調子に乗り、ワンツーからの浴びせ蹴りとか、ハイキックからの掃腿など、派手な技を見せる。
(注釈)掃腿
中国拳法の技で、大きくしゃがんで回転しつつ脚を伸ばし、相手の足を掃くように蹴る、足払いの一種。
さすがに心配になって荻上会長が声をかける。
荻上「あの朽木先輩、今日はほどほどにして下さいよ」
朽木「大丈夫だにょー」
さらに動きを加速するクッチー。
大野「朽木君、いい加減にしなさい!」
朽木「さあ、ますますもって絶好調ですにょー」
まるで注意が耳に入らない。
荻上「懲りねえ人だなあ、ったく…」
国松「朽木先輩、休憩行きましょう」
突如ピタリと動きを止め、直立不動で姿勢を正すクッチー。
朽木「GIG!」
国松はクッチーを連れて日陰へと移動し始めた。
大野「国松さん、すっかり朽木君手なずけましたね」
荻上「まあ、あの人を手なずけられるのなら、大概の人は従えられますね。これならあの子を次期会長にしても…」
荻上会長の頭の中のイメージ。
1年後の部室。
天井には、ウルトラホークやマットアローやガンフェニックスの模型が吊られている。
壁際の棚にはバルタン星人やカネゴンなどの怪獣ソフビ人形が並ぶ。
さらにその傍らには、着ぐるみの怪獣が展示されている。
壁には怪獣のポスターがズラリと並ぶ。
妙にメカニカルになった机を囲んで座る、GUYSの制服を着た会員たち。
上座には、隊長用の白い襟の制服を着た国松が座っている。
国松が立ち上がり、会員たちも一斉に起立する。
国松「(直立不動で姿勢を正し)現視研、サリーゴー!」
一同「(直立不動で姿勢を正し)GIG!」
(注釈)サリーゴー! 「出撃!」の意。
荻上「やっぱりマズいかも。ヌルオタサークルとしては、何か間違ってる気がするし…」
大野「?」
荻上会長が苦悩する一方で、恵子は満足していた。
金髪に染め直し、周りが注目してカメラを向けてくる、この状況に酔っていた。
まあカメラを向けてくるのがイケメン率0パーセントのオタたちなのが難点だが、それでも人にチヤホヤされて悪い気はしない。
だがカメコの1人の不用意なひと言が、彼女をキレさせた。
「なああのホークアイって、顔マスタングとそっくりじゃない?」
恵子は笹原のことをここ数年で兄として見直し、秘かに高く評価していたのだが、それでもなお男兄弟とそっくりという事実は、年頃の女の子にとってはコンプレックスだった。
恵子「誰がアニキとそっくりじゃゴラ~~~!!!」
カメコにつかみかかろうとする恵子。
それを大野さんや荻上会長が、しがみ付いて必死で止める。
笹原も駆け寄る。
大野「ダメですよ恵子さん、お客さんに手出しちゃ」
荻上「落ち着いて下さい、恵子さん!」
恵子「えーい放せ!」
さらにスーがしがみ付いて叫ぶ。
スー「殿中デゴザル!」
固まる一同。
荻上「…何で『忠臣蔵』なんて知ってるの?」
スー「押忍!日本では揉め事の際には、こう言って止めると日本語の先生に教わりました。違うでありますか?」
荻上「…微妙に間違ってます」
こうして間を外されたこともあって恵子は落ち着き、騒ぎが収まった。
恵子は笹原に近付き、小声で尋ねた。
恵子「なあアニキ、『ちゅうしんぐら』って何だ?」
笹原「アホ」
ふと気が付くと荻上会長の周りには、十数人の女の子が集まっていた。
顔を紅潮させ、まるで男性アイドル歌手でも見るような憧れに満ちた目を向けている。
彼女は前にこれに似た経験をした記憶があった。
荻上『この子たちの目って…そうだ、うちの1年の腐女子の子たちが、初めて私に会った時とおんなし目だ』
女の子たちの1人が意を決したように声をかけてきた。
「あの、すいません、握手してもらえませんか?」
荻上「握手?」
その女の子によれば、彼女たちは荻上会長のオートメールの右手を見て、これならエドとの握手の擬似体験が、かなりリアルに出来ると考えたのだそうだ。
彼女たちの意図が分かった荻上会長は快諾し、次々と握手してあげた。
すると周囲に居た他の女の子たちや、年配のお客さんが連れてきた子供たち、果てはカメコやレイヤーたちまでもが荻上会長の前に並び始め、臨時の握手会状態となった。
会員たちも集まってきて、いつの間にか列を整えて回る場内整理係と化していた。
握手会やったアイドルとか選挙の候補者とかが、手を痛めたという話を聞いたことがあるので、最初は躊躇した荻上会長だったが、こうなったらと腹をくくった。
そして1人1人にそれなりの力を込めて握手してあげた。
ざっと百人前後握手したところで、ようやく人が途切れた。
ぼんやりと自分の右手を見つめる荻上会長。
笹原が駆け寄る。
笹原「お疲れ様。手、痛くない?」
荻上「それが意外と痛くないんですよ。それどころか相手の人の方が時々痛がってました。まあ痛がってた人も『さすがはオートメールだ』って、むしろ喜んでましたけどね」
笹原「オートメールのせいじゃない?」
荻上「そうかも知れませんね。相手の人、みんなけっこう力入れて握ってるみたいなんですけど、あんましそれ手には感じなかったし」
笹原「それにそのゴツゴツした硬い手で握られたら、素手だと痛そうだし」
巴「それだけじゃないかも知れませんよ」
突如巴が話に割り込んだ。
笹原・荻上「…どゆこと?」
巴「荻様、試しに私の手を握って下さいな(右手を差し出す)」
荻上「えっ?」
巴「大丈夫ですよ。私は力入れませんから」
荻上「そっ、そんじゃ」
巴と握手する荻上会長。
巴「思い切り力入れてみて下さい」
さらに強く握る荻上会長。
巴「はい、もういいですよ」
しばし考え込んだ後、巴は解説を始めた。
巴「結論から言うと、荻様ってご本人が思ってるよりも握力ありますよ」
笹原「そうなの?」
荻上「でも、前に体育で体力テストやった時には、大して握力無かったわよ」
巴「どれぐらいです?」
荻上「(赤面し)ここではちょっと言えないわ。だって体重と同じぐらいなんですもん」
顔色変える巴。
巴「あの、荻様、それってかなり凄いですよ」
荻上「えっ?」
巴「多少個人差はあるけど、特別にスポーツや肉体労働やってる人とか、極端に太ってる人とかを除けば、普通は握力って体重の5割から7割ってとこなんです」
荻上「そうなの?」
浅田「巴さんの言う通りだと思いますよ」
浅田と岸野も話の輪に加わった。
岸野「例えば柘植久慶のサバイバル関係の本によれば、ロープにぶら下がって高いとこから脱出するには、体重の8割程度の握力が要ると書かれています」
浅田「つまり、8割もあればけっこう握力のある方の部類になるってことです」
巴「だから特別鍛えてる訳でもない荻様が体重と同じ握力ってのは、かなり凄いことなんですよ」
荻上「そうなんだ。数字的には大したことないから、握力弱い方だと思ってた」
巴「そりゃ絶対値で行けば私や蛇衣子の方が上ですよ。体が大きいんだから。でも体重比例させて比べた相対評価なら、実は荻様が現視研の握力王かも知れません」
荻上「あんまし嬉しくないわね。女の子が握力王と言われても…」
笹原「で、何で荻上さんがそんなに握力があるのかな?」
巴「原因は分かりませんが、さっき握ってもらって分かったのは、荻様が極端にピンチ力が強いということです」
一同「ぴんちりょく?」
巴「簡単に言うと、親指と人差し指で摘む力です」
浅田「でも握力って、どっちかと言えば小指で決まるんじゃないの?」
巴「もちろん小指も重大な要素よ。でも人間の手が、構造上親指とその他4本で挟んで包み込むように物を握るように出来てる以上、握る動作を締めくくる親指の働きも重要よ」
岸野「それもそうだな」
巴「荻様の場合、中指・薬指・小指の3本はさほど力があるようには感じられなかったけど、親指と人差し指だけは、並みの体格の男の子ぐらいの力を感じたわ」
笹原「荻上さん、親指と人差し指だけ酷使したり鍛えたりしてるの?」
荻上「いえ、別にそんなことは…あっ!」
笹原「どうしたの?」
荻上「私ペンの持ち方が変なんです。親指と人差し指で少しペン挟むような感じで、しかも極端に力入れる癖があるんです」
笹原「でも、それぐらいで力付くかな?」
巴「荻様、その持ち方って子供の時からですか?」
荻上「ええ、最初は先生や親も直そうとしたらしいけど、結局さじ投げちゃって」
巴「荻様が漫画描き出したのって、何時ごろからです?」
荻上「本格的に描き出したのは中学入ってからだけど、落書きレベルのは小学校入った頃からやってたわ」
巴「それで分かりました。それなら十分ですよ、ここまでの握力付けるのには」
笹原「どういうこと?」
巴「握力ってのは他の筋力と違って、短時間に大きな負荷かけて付けることが出来ないんです。時間をかけて、軽い負荷から少しずつ負荷上げて継続的に鍛えるしか無いんです」
浅田「なるほど、小学校入った頃から今までなら、ざっと15年。まさに継続は力なりだな」
こうして荻上会長は、現視研の握力王に認定される破目となった。
笹原のところにも、妙な客層が集まった。
彼はマスタング大佐のコスをやることが決まってから、毎日大佐のトレードマークとも言うべき指パッチンの練習を始めた。
最初はなかなか鳴らせなかったが、日々精進する内に素手なら鳴らせるようになった。
そしてさらに修練を積み、遂には大佐用の錬成陣を描いた絹の手袋をはめてでも鳴らせるようになった。
写真撮影の時に指を鳴らして見せるとカメコたちに大いにウケ、リクエストが殺到した。
真面目な笹原は、ご要望に応えて指パッチンを連発した。
だんだん調子に乗ってきて、左手でも鳴らして見せたり、遂には両手でダブルでの指パッチンまで披露した。
ノリノリでダブル指パッチンを連発しているところに、休憩から戻ってきたクッチーが通りがかった。
しばらく笹原の指パッチンを見つめていたクッチー、やがてひと言ポツリと言った。
朽木「まるでポール牧ですな」
このひと言で、笹原の頭上の重力は突然木星並みに増大した。
打ちひしがれる笹原に、何故かカメコたちが殺到した。
「おおこりゃ貴重だ。大佐の無能呼ばわりされてイジケ状態バージョンだ」
カメコたちの絶賛(?)が、笹原のブルーな気分にさらに追い討ちをかけた。
一方斑目は2人の外人女性の相手に苦戦していた。
斑目「あの、すいません。何故俺にそんなに接近するのですか?」
先程アンジェラにキスされて気絶した為に、彼は必要以上に2人を警戒していた。
アンジェラ「私たちの服装見て、何か気付かないあるか?」
斑目「服装?…あっ!」
よく見るとアンジェラは、いつもに比べるとシックな大人っぽい服装をしていた。
一方スーは、いつもそうだが今日は更に輪をかけて子供っぽい服装だ。
長い金髪をツインテールに束ねてリボンを飾ってるので、よけい幼く見える。
斑目「グレイシアとエリシア…なのか?」
アンジェラ「今日の私たちの服装、あなたのコスしたヒューズさんの奥さんと娘をイメージしたあるね」
斑目「田中~!コスで入場するのはアリなのか!?」
田中「いや、それコスじゃないし。それに似た格好の私服で来て、キャラになりきるのは本人の自由だしな」
アンジェラ「(斑目の腕に自分の腕をからめ)あなた~」
スー「(アンジェラの反対側から斑目にしがみ付き)パパ~」
田中「まあ男が生涯で両手に花状態になることなんて、そうそうあることじゃない。ここらが年貢の納め時だと思って、潔く身を固めろや」
斑目『(最大出力赤面で滝汗)助けて…』
コスプレ広場のあちこちで、祭状態を巻き起こしている現視研の面々。
ふと気付くと、コスプレでは1番張り切っていた大野さんと田中は、それらの騒ぎの蚊帳の外に居た。
もちろん大野さんの胸の谷間には道行く男性たちは必ず注目するし、田中も子供たちに割とウケていた。
だが1人で大騒ぎしまくるクッチーや握手会状態の荻上会長、それに指パッチン連発の笹原や両手に花の斑目に比べると、どうしても地味な感じがする。
田中はともかく大野さんは、みんながコスプレにノリノリなのが嬉しい反面、自分が目立てないのは寂しかった。
コスプレイヤーという人種は、やはり多かれ少なかれ自己顕示欲が強い。
そんな大野さんに、田中が悪魔の誘惑を仕掛けた。
田中「あの、大野さん。よかったらお色直ししない?」
大野「お色直し?まさか、別のハガレンコスがあるんですか?」
田中「あることはあるんだ、ちょっと微妙なのが。ただ、目立てることだけは保証するよ」
目立つという殺し文句に大野さんが落ちた。
大野「やります!コスどこにあるんですか?」
田中「今持って来てもらうよ。(ポケットから携帯を出してかける)ああ高坂君、今忙しい?…分かった、じゃあ俺の方が取りに行くよ(携帯を切って仕舞う)」
大野「高坂さんが預かってるんですか?」
田中「ちょっと大荷物になるコスなんで、高坂君に頼んで予めプシュケのブース内に預かってもらってたんだ」
30分後、お色直しに行った大野さんと田中は、新たなコスでコスプレ広場に戻って来た。
大野「お待たせ、ただ今戻りました!」
大野さんと田中を注目する現視研一同。
全員驚愕の表情を浮かべた。
笹原「大野さん…だよね?」
荻上「隣にいらっしゃるの…田中さんですよね?」
大野「(嬉しそうに)分かります~?」
荻上「声でね」
国松「どうしたんですか、そのコス?」
田中「実はね、今まで隠してたけど、俺夢遊病の気があるんだ」
一同「夢遊病?」
田中「大学入った頃から、朝起きると妙に疲れてて、そして作った覚えの無いコスが増えてるってなことが何度かあったんだ」
一同「…」
田中「材料のストックも該当するのが減ってるし、仕上がりから判断するに明らかに俺制作なんだ。それで試しに、タイマーセットして俺の部屋の中をビデオ撮影したんだ」
笹原「そしたらコス作ってる自分が映っていたと…」
田中「その通り」
国松「でも、田中先輩、これを寝ながら作ったんですか?!私起きてても作れる自信無いですよ」
日垣「確かにこれは、起きてて作っても手間ですよ、かなり」
斑目「久々に本心から『田中恐るべし』と言わせてもらうよ」
そこへ台場がトイレから戻って来た。
台場「(2人を怪訝な顔で見て)田中先輩と大野先輩…ですよね?」
どうやら先程までの会話を途中から聞いていたようだ。
朽木「そうだにょー」
突如台場の顔が鬼の形相に一変した。
台場「よさ~~~~~ん!!!!!!!」
またもやどこかから算盤を取り出し、大上段に振り上げながら田中に近付いた。
台場「予定のコスだけでも赤字なのに、あなた方って人は~~~!!!」
田中「台場さん落ち着け!このコスは俺の自腹だから!」
台場の動きがピタリと止まった。
台場「じ・ば・ら…」
田中「そう、自腹だ!だから現視研の会計には迷惑かけん!」
台場の表情が平常に戻った。
そしてどこへともなく算盤を仕舞う。
台場「(ニッコリ笑い)それならいいです!」
ホッとする一同。
そして数分後、田中と大野さんはへばっていた。
大野「暑~~~~い!」
田中「まあ予想はしていたけど、いざ自分で着てみるとやっぱり暑いな」
2人がコスプレ広場に戻って来てから、10分程度しか経っていない。
田中「それにしても朽木君は元気だな。何回か休憩しているとは言え、よくあんな暑い格好で激しく動き回れるな」
大野「私には無理です」
そんな2人の様子を見た国松が声をかける。
国松「あんまり無理しないで下さい。とりあえず休憩しましょう」
田中・大野「そうします…」
こうして3人は休憩に向かった。
それにカメコが注目した。
「おい、すげー珍しい組み合わせのスリーショットだぞ」
「ほんとだ。こんなの原作では有り得ないぞ」
そう、それは確かに有り得ない組み合わせだった。
何しろシン国のメイ・チャンが、第五研究所の鎧の番人スライサーとバリー・ザ・チョッパーを連れて歩いているのだから。
結局田中と大野さんは、わずか1時間程度の短時間に十数回休憩に行き、遂に鎧コスを断念し、元のグラトニーとラストに戻った。
斑目は相変わらず2大外人娘に激しく迫られていた。
アンジェラ「あなた~!」
スー「パパ~!」
そこへようやく気絶から醒めた藪崎さんが戻って来た。
荻上「大丈夫?」
藪崎「大丈夫や。何やあの外人、私の斑目さんに何すんねん?」
荻上「私のって…しゃあねえべ、あの2人は奥さんと娘の役なんだから」
藪崎「そしたら…せやオギー、あんたんとこのコスって、手作りやったな?」
荻上「うん、あそこでグラトニーやってる田中さんのお手製」
藪崎「よっしゃ!」
田中に詰め寄る藪崎。
藪崎「ちょっと田中はん!軍の制服、他に無いんか?」
田中「ちょっ、ちょっと待って!(傍らのバッグを探って制服を取り出し)これ、念の為に作っといた予備のやつだけど…」
藪崎「(制服を引ったくり)ちょっと借りるで!」
制服を服の上から羽織りつつ、走り去る藪崎さん。
田中「あっ、ちょっと…」
その時、田中は背後に殺気を感じた。
そして次の瞬間、シャンシャンと算盤を振る音がした。
恐る恐る振り返ると、鬼の形相の台場が算盤を握って立っていた。
台場「よさ~~~~~~ん!!!!!」
田中「わー落ち着け台場さん!あれ余った布で作ったから、余分な金かかってないから!」
だが頭がオーバーヒートした台場には、もはや田中の声は聞こえていなかった。
台場「よさ~~~~~~ん!!!!!」
台場は算盤を上段に振りかぶった。
田中「ひっ!」
台場「よさ~~~~~~ん!!!!!」
とうとう田中は恐怖で逃げ出したが、台場はそれを追う。
こうしてメガネっ娘腐女子が算盤を振りかざしてグラトニーを追い回すというシュールな光景が展開し、これはこれでカメコたちにウケた。
一方藪崎さんは斑目に接近しつつあった。
三つ編みを解き、さらに自分のバッグからメガネを取り出してかける。
メガネ受け基本の薮崎さんは、来たるべき初体験の時に備えて、常にメガネを持ち歩いているのだ。
(童貞君の財布の中のコンドームのようなものだ)
そして斑目に迫る。
藪崎「何やってんですか、ヒューズ中佐!すぐ職場に戻って下さい!」
斑目の腕を取って引っ張る藪崎さん、顔は最大赤面。
斑目「あのー…どなた?」
藪崎「部下の顔忘れたんですか?シェスカです!」
こける一同。
荻上「ヤブ、それはいくら何でも無理があるって!」
2日目終了間際、藪崎さんと加藤さんは一旦漫研の売り場に向かった。
藪崎さんは現視研のみんなと、いや正確には斑目と一緒に居たがったが、戦況不利と判断した加藤さんが一時撤退を命じたのだ。
加藤「明日の勝利の為に、今日の敗北を甘んじて受け入れるのが真のいい女よ」
藪崎「いや加藤さん、それ元ネタは男だし…」
そんな2人が前方から歩いてきたカップルと目が合い、両者ともに硬直した。
カップルは2人とも猫耳(それも同じ縞模様で色違いのお揃い)を着けていた。
それがまた気味が悪いほど似合っていた。
何故ならその猫耳カップル、顔も猫顔だったからだ。
そしてその猫顔には見覚えがあった。
藪崎「ニャー子?」
加藤「伊藤君、だっけ?」
赤面して露骨にうろたえる伊藤に対し、ニャー子はいつも通りの態度だ。
藪崎「何やお前ら…」
伊藤「いや、これはそのう…」
ニャー子「先輩、私伊藤君と付き合い始めましたニャー」
加藤「いいんじゃない?なかなかお似合いよ」
伊藤「(赤面し)ありがとう…ございます」
ニャー子「ありがとごじゃりまーす」
藪崎「くそー猫同士くっつきおって、勝ったと思うな!」
伊藤・ニャー子「意味分かりませんニャー」
例によって例のごとく、ノロノロとしか進めない帰り道。
自分の右手の親指と人差し指をくっつけたり放したりしつつ、不思議そうな表情で見つめる荻上会長。
そのすぐ左隣では、クッチーが1年男子たちを相手に今日のコスプレについて何やら話している。
一方荻上会長の右隣で並んで歩く笹原は、顔をしかめて自分の両手の親指と人差し指を見つめる。
笹原の向こうでは、1年女子たちと恵子が話し込んでいる。
後方では、田中・大野カップルがみんなの様子を眺めている。
そして斑目は、みんなから少し離れた前方を歩いていた。
相変わらずスーとアンジェラを連れて。
恵子と1年女子たちの会話が荻上会長の耳に入った。
恵子「今日の斑目さん、可愛かったよね」
一同「ですよね~~~」
豪田「今時ほっぺにキスしたぐらいで気絶するなんて、純よね~」
一同「そうよね~~~」
当の斑目は、彼女たちの会話が聞こえないのか、聞こえないふりをしてるのか、スタスタと前方を歩き続ける。
神田「ねえ、誰かシゲさんの誕生日知ってる?」
台場「ちょっと待ってね。(自分の荷物から手帳を取り出して開き)10月25日だけど、どうするの?」
神田「シゲさんのお誕生日にパーティーやらない?」
巴「いいねえ、それ」
豪田「派手にやりましょうよ」
沢田「さんせーい」
恵子「ミッチーあんた、何か企んでるだろ?」
神田「分かります?」
恵子「そりゃ分かるだろ。思いっきり目が笑ってるぞ」
神田「フフ…誕生プレゼントに、みんなで一斉にシゲさんにキスしちゃうってのはどうですか?」
一瞬沈黙。
一同「いいね~それ!」
国松「(赤面して)でもキスなんて…私まだしたことないのに…」
恵子「バカだな。別に誰も唇にはしねえよ。ほっぺだよ、ほっぺ」
国松「ほっぺかあ…」
豪田「それなら問題ないでしょ?アンジェラ御覧なさい。アメリカじゃほっぺにキスなんて挨拶代わりよ」
国松「それもそうね…よし、やりましょ!」
巴「決まりね。喜ぶだろうな、シゲさん」
斑目の誕生プレゼントに1年女子プラス恵子の一斉キス攻撃が決まりかけたその時、荻上会長が口を挟んだ。
荻上「やめなさい!斑目さんが心停止したらどうするのよ!」
一同「ほわ~~~~~~~い」
珍しく荻上会長に対し、不満ありげな返事をする1年女子たち。
でもその一方で、確かに斑目なら心停止しかねないなとも思い、一応納得していた。
笹原「どうしたの、荻上さん?」
再び自分の親指と人差し指を見つめ始めた荻上会長に、笹原が声をかけた。
荻上「いやあ、私の指ってそんなに力あるのかなあって思って。笹原さんこそ、指どうしたんですか?」
笹原「指パッチンやり過ぎて豆出来ちゃった」
荻上「たくさんやってましたもんね、指パッチン」
笹原「荻上さんは右手何とも無いの?」
荻上「ええ、信じられないぐらい何とも無いです」
人差し指と親指の開閉を繰り返す荻上会長。
そこへ話に熱中するあまり、身振り手振りを加え始めたクッチーの右手が、彼女の顔の前まで来た。
しかもタイミングが悪いことに、閉まる瞬間の親指と人差し指の間に。
結果クッチーの右腕は、思い切り荻上会長につねられる格好になった。
朽木「にょ~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
荻上「(慌てて手を放し)すっ、すいません!朽木先輩、大丈夫ですか?」
だが次の瞬間、クッチーは背筋を伸ばし、胸を張る。
朽木「りふれ~~~~~~~~~~~っしゅ!!!!!!!!!!!!!!!!」
こける一同。
朽木「いやー荻チンの指圧のおかげで、今日1日の疲れが取れましたにょー。明日はベストコンディションで臨めるにょー」
荻上「何で、つねって元気になるの?」
スー「(政宗一成風の渋い声で)朽木学ハ女性ニツネラレルト、3倍ニ…」
荻上「もういいから!」
こうして夏コミ2日目も無事に(そうか?)終わった。
折り返し地点を通過し、いよいよ明日は最終決戦だ。
がんばれ荻上会長。
最終更新:2007年02月15日 22:43