26人いる!その4 【投稿日 2006/12/03】

・・・いる!シリーズ


現視研の売り場を出る直前、神田が思い出したように言った。
神田「あっ、それからこれ、会長からのアドバイスなんだけど、売り子2人の内の1人はなるべく浅田君か有吉君にしてって」
浅田「そりゃまた何で?」
神田「何でもサブリミナル効果があるんだって。売り上げを伸ばす」
男子一同「???」
有吉「でも、どのみち僕は今から着替えに行くし、浅田君は神田さんの同人誌運ぶし…」
伊藤「なるべく早く帰って来てニャー」
有吉「それしかなさそうだな。じゃあ後頼むね」
神田「じゃあ私たちも行こうか」
岸野「そんじゃあ行って来るから、店番頼むね」
こうして売り場には、猫耳伊藤と長身の日垣という珍コンビが残った。
日垣「ところで伊藤君、何で会長は有吉君か浅田君が売り場に残るように言ったんだろ?」
伊藤「それは会長がメガネ受け基本だからだと思うニャー」
日垣「メガネ受け?受けっていうと…ヤオイのカップリングで言う女役のこと?」
伊藤「そうだニャー。だから多分、会長原理主義のうちの女子の間では、僕と有吉君、浅田君と岸野君で妄想カップリングが繰り広げられているニャー」
日垣「マジで?てことは、伊藤×有吉で?」
伊藤「多分ね。全くネコなのにタチ役とはこれ如何にだニャー」
ちなみにネコとタチとはレズ用語である。
(最近はゲイの人の間でも使われているらしい)
ネコがいわゆる女役、つまりヤオイで言う受けである。
そしてタチがいわゆる男役、つまりヤオイで言う攻めである。

開場直後、会員たちの分担購入の配置を確認した後、荻上会長は久々の笹原とのデートをしばし楽しむ。
当初自分も分担購入の担当を持つ積りだった。
現視研と別のサークルで午前中売り子に駆り出されることを、神田が直前まで言い忘れていたのだ。
それで当初の分担購入計画に穴が出来たので、会長自らが埋めようとしたのだ。
だがそこでスーとアンジェラが、それなら自分たちがやると言い出した。
当初言葉の問題もあって分担購入の戦力には数えてなかった2人だが、予想以上に(多少難有りだが)日本語が上手かったので、1年生たちは賛成し荻上会長も了承した。
それはまた、1年生たちと2人がカラオケで早くも仲良くなって、お客様扱いでは無く仲間と認めたことの証明でもあった。
2人を入れて分担購入計画を練り直したおかげで、神田の穴を埋めてなおかつ1人当たりの担当範囲が狭くなった。
そのせいもあって1年生たちは「会長は笹原先輩とゆっくり買い物楽しんで下さい」と言ってくれた。
そこで素直に好意に甘えることにしたのだ。
笹原「荻上さん、どっかお目当ての買い物はある?」
荻上「うーん、殆どのとこは1年の子たちにまかせてあるし、大手は巴さんが何とかしてくれるから…」
笹原「あっ、そう言えばうちの売り場の方には顔出さないの?」
荻上「もうちょっと後で、1時間ぐらいしてから行きます。開始早々会長が行っても、会員たちに余計なプレッシャーかけるだけですから」
笹原「それもそうだね」
荻上「笹原さんこそ、お目当ては無いんですか?」
笹原「実はひとつだけあるんだけど…」
荻上「じゃあそれ行きましょう、どこです?」
笹原「企業ブースにプシュケが新作を出品してるんだよ」
荻上「高坂先輩の会社が?」
笹原「うん、この間電話で話したんだけど、高坂君が作ったらしいんだ、その新作」
荻上「…ちょっと興味ありますね。たとえ男性向けのエロゲーだとしても」

笹原「それが男性向けだけじゃないらしいんだ、彼の話によれば」
荻上「…そんなたくさん作ったんですか?」
笹原「何でも、同じキャラや初期設定を使って、男性向け、女性向け、一般向けの3バージョン作ったんだって」
荻上「???」
笹原「まあそれ以上は高坂君教えてくれなかったから、実際に行ってみようよ」

企業ブースのエリアに来た笹荻コンビは、石化した。
プシュケのブースの前では、高坂がメイド姿の女装コスでビラを配っていた。
しかもそのコスは、普通のメイドコスとは違っていた。
布地の大半は黒のシースルーで、前面は白い前掛けで隠れているが、後ろからはパンティとブラの紐が丸見えだった。
前掛けの胸元には、ブラジャーのように貝殻のマークが2つ付いていた。
(49話の扉絵のメイドコスをベースに考えると、想像しやすいかも知れない)
そんな姿の高坂が、にこやかに笑顔を浮かべて「どうぞ見て行って下さい、ご主人様」などと言いつつビラを配っていた。
ビラをもらった客たちは皆、男女問わずまんざらでもない顔をしていた。

笹荻は2人とも、最大出力で赤面しながら固まり続けていた。
笹原『似合う、似合い過ぎる。それに可愛い。しかもきわど過ぎる、あの格好…』
笹原は不覚にも、己のピーが反応していることを自覚した。
笹原『やばい!こんなの荻上さんに見られたら…』
思わず荻上会長を見る笹原。
だが彼女の意識は、既に太陽系を脱出しかけていた。
笹原「『デスドライブ中かいっ!』荻上さん!気を確かに!」
筆を激しくシビビビする笹原。
荻上「はっ、ここは誰?私はどこ?」
そんな2人に、問題の高坂が笑顔で近付いてきた。
高坂「お久しぶりです、ご主人様」

笹荻は高坂にプシュケの企業ブースの中に連れて来られ、新作ゲームの説明を受けた。
ゲームのタイトルは「どっきり魔冥土(マーメイド)サッキー」。
ストーリーは次の通り。
主人公は人魚のサッキー、海底の人魚の世界でメイドとして働いている。
ある嵐の夜、豪華客船の沈没事故に遭遇したサッキー、海に投げ出された乗客の、金持ちのお坊ちゃんを救出する。
お坊ちゃんにひと目惚れしたサッキー、人間になって人間界で生活することを決意する。
そして魔法使いのお婆さん、ではなくマッドサイエンティストのお爺さんに相談する。
お爺さんはサッキーがサイボーグの実験台になることを条件に、彼女の体を陸上でも生活出来るように改造する。
先ず魚の下半身を人間の下半身の完全義体に取り替え、呼吸器を水陸両棲可能に改造した。
ついでにサービスであちこち改造し、最終的にサッキーは脳以外殆どサイボーグ化される。
その結果、10万馬力の怪力、音速で走れる加速装置、人魚の数倍の水中行動能力、千里眼と透視能力を秘めた超視力、1キロ先で落ちる針の音を聞き取る超聴力等の能力を得る。
こうしてサッキーは人間界に行き、首尾良くお坊ちゃんの大邸宅にメイドとして住み込むことに成功する。

高坂「で、ここからのストーリー展開は3つに分かれるんだよ」
パターンA
お坊ちゃんがいずれ引き継ぐ予定になっている莫大な遺産を狙って、親類が次々と刺客を送り込んでくる。
それを知ったサッキー、お坊ちゃんを守るべく刺客たちと戦う、という格ゲーバージョン。
パターンB
お坊ちゃんの周りの親類縁者の男たちは、いずれもスケベな変態揃い。
新しいメイドのサッキーを狙って、彼らの魔手が次々と、というエロゲーバージョン。
パターンC
マッドサイエンティストのお爺さんは、サッキーが男性に変身出来るという、余計な追加サービスを施していた。
お坊ちゃんの親類縁者がみんな男色家で、彼らの魔手が次々とサッキーに、というBLゲーバージョン。

高坂「まあうちみたいな弱小会社は、1度作ったキャラや設定は何回も使い回さないともったいないからね。それでこういうゲームを考えたんだよ」
笹原「それにしてもサッキーって…これってもしや」
高坂「(にこやかに)うん、主人公は可愛くて強くて優しいヒロインにしたかったから、咲ちゃんをモデルにしたんだよ」
ゲームのパッケージに描かれた主人公は、春日部さんを少し幼くした感じだった。
荻上「…それって、春日部先輩知ってるんですか?」
高坂「うん、ちゃんと話したよ。そしたら了解してくれた」
荻上「よく了解してくれましたね」
笹原『まあ多分、諦めたんだろうけどね…』

「それにしても、ほんとあの2人のおかげで助かったわ」
沢田と共に小休止していた豪田が呟いた。
沢田「そうね。ミッチーが他所の売り子に取られた穴を見事に埋めてくれたものね」
豪田「まあまさかあの2人、あそこまで日本語上手いとは思ってなかったからね。だから分担購入の戦力には数えてなかっただけに、ほんとありがたいわ」
沢田「まあこれで、押さえるべきとこは殆ど押さられたわね。笹原先輩に頼まれたA先生の資料用のも買ったし、荻様用のメガネ受け本も買ったし」
豪田「あと大野先輩用のハゲヒゲ本も買ったし」
そこへ国松と台場が来た。
豪田「おう、お疲れ。どうよ初参戦の戦果は?」
10数冊の同人誌の入った紙袋を差し出す国松。
豪田「まあ初めてなら、そんなもんね」
沢田「まあ千里の本番は、特撮ネタ扱う2日目だし」
国松「いやあ、まだ元ネタが分かる本の方が少ないのよ、正直言って。だから分担購入の分を買うのが精一杯だったわ」
台場「まあ確かに、初日は千里の未読未見の作品ばかりみたいね」
豪田「まあまた明日がんばんなさい」

「あっ、あれマリアじゃない?」
豪田は並ぶ人混みの中に、見慣れた人影を発見した。
沢田「凄い荷物ね。紙袋4つは持ってるわよ」
台場「それに何あの動き、ズンズン前進してるじゃない」
国松「さすがは巴さんね。周囲の人の圧力に全然負けてないわ」
豪田「て言うか、むしろ周りの人押しのけてるように見えるんだけど…」

「あっ、あれクッチー先輩じゃない?」
今度は台場が人混みの中に、見慣れたひょろ長い人影を見つけた。
豪田「クッチー先輩も張り切ってたからね。午前中売り子やってる男子たちの分まで買うって」
沢田「いいのかなあ、4年生に買い物係やらせちゃって」
台場「あの人は好きでやってるから大丈夫よ。それに男子の本番は3日目だから、そんなに気合い入れて買いまくってる訳じゃないし」
国松「そうでもないかもよ。見て」
クッチーは異常な速度で前進していた。
巴のように周囲の圧力を押し返して進んでいるのではない。
何の予備動作も無しにスッと前進して行き、たちまち最前列に来てしまう。
台場「…ねえみんな、今の動き見えた?」
沢田「…見えなかった」
豪田「私も…」
国松「何か2~3メートルずつテレポートしてるみたいに見えるんだけど…」
台場「毎年コミフェスでループしてると、あの域に達するのかなあ…」
一同「朽木先輩、恐るべし!」

その後4人は再び解散して、各自の分担エリアを再度回ることにした。
自分の担当エリアをほぼ回り終わった台場は、再び国松と合流した。
国松「そう言えば、確かこの辺に藪崎先輩の売り場があったわね」
台場「まああそこは多分会長経由で本はもらえるだろうから、分担購入のルートから外してたけど、一応行っとこうか」

「やぶへび」の売り場では、藪崎さんとニャー子が売り子をしていた。
台場「どうですか、調子は?」
藪崎「まあぼちぼちや。開始1時間ちょっとで20ぐらいやから、まあこんなもんやろ」
国松「凄いですね。ん?」
国松は売り場に飾られた、不思議なオブジェに注目した。
いろいろな形のブロックをズンズン積み上げただけのような、やたら上に細長いオブジェ。
藪崎「ああ、それは『青春の塔』のミニチュアや」
国松「そんなの『ハガレン』に出てましたっけ?」
台場「それって『ハチクロ』のじゃないですか。何でまた?」
ニャー子「うちは最初は『ハチクロ』で本出す予定だったから、私が作ったニャー。でも先輩土壇場で『ハガレン』にしちゃったもんだからー…」
藪崎「そんでこのアホが、『せっかく作ったんだから、もったいないですニャー』とか言って飾りよったんや」
国松「じゃあこれニャー子さん作ですか?(顔を近付けて)うわあ凄く細かくてリアル」
台場「あんた『ハチクロ』読んだことあるの?」
国松「まだ読んでないけど分かるわよ。(あちこち指差し)この辺とか、この辺とか、ひと目見れば何かモデルになるものがあって、それを忠実に再現してるって」
ニャー子「そう言ってもらえると、作った甲斐があったニャー」
それがきっかけとなって、しばしの間国松とニャー子はミニチュア談義を展開した。

そこへスーがやって来た。
国松「お疲れ、スーちゃん。どう調子は?」
スー「(低音で)問題ナイ。全テハしなりお通リダ」
まだあまりスーとは話していない、藪崎さんが口を挟んだ。
藪崎「確かに物まね上手いなあ。それにしても、えらいようけ買うたな」
スーはパンパンに膨らんだ紙袋を2つ、カートにくくり付けて引っ張っていた。

国松「凄―い!これだけの時間でよくそんなに…」
台場「途中で1回スーちゃん見かけたけど、この子いざとなると凄いオーラ出るみたいで、周りの人みんな左右にどいて道開けちゃうのよ」
ニャー子「まるでモーゼの十戒ですニャー」
スー「押忍!映画の「十戒」なら十回見たであります!」
固まる一同。
台場「もしかして…ダジャレ?」
藪崎「(感心し)ほう…なあスー、布団に爆弾仕掛けたら」
一同「?」
スー「吹っ飛んだ」
こける一同。
藪崎「電話鳴ってるのに誰も」
スー「出んわ」
またこける一同。
藪崎「裏の空き地に囲いが出来たんだってねえ」
スー「格好いい」
またまたこける一同。
藪崎「大変だ、屋根に穴開いちゃった」
スー「やーねー」
またまたまたこける一同。
台場「あの、何やってるんですか藪崎先輩?」
藪崎「この子の日本語の語学力のレベル、かなり高いで」
またまたまたまたこける一同。

藪崎「お前らもなかなかえーリアクションしてるなあ」
台場「どこが語学力なんです!単なるダジャレじゃないですか!」
藪崎「ドアホ、ダジャレを侮ったらあかん」
スー「(右手の人差し指を立てて)侮ッテハイケナイ」
藪崎「あのな、ダジャレ言おう思たら、それなりの語彙が無いとでけへんのや。それにな、ギャグの基本はダジャレやけど、ギャグの奥義を究めた完成形もまたダジャレなんや」
台場「そうなんですか?」
藪崎「いとこい(夢路いとし・喜味こいしのこと)さん見てみい。上方漫才の無形文化財の漫才が、ネタそのものはしょーもないダジャレの連発やで」
台場「そう言えば1度聞いたことあるけど、確かにそうでしたね」
藪崎「せやろ。それを言い方とか間で笑わすのが、いとこいさんの腕やねん」
ニャー子「あの先輩、話の趣旨がズレてきましたニャー」
藪崎「まあとにかく、この子の日本語能力はかなりのもんやっちゅうこっちゃ」
台場「へえー、ダジャレって奥が深いんですね」
スー「(腕を組み)奥ガ深イ」

藪崎さんたちが話し込んでいる間に、国松はスーの買ってきた同人誌を広げていた。
国松「あの、スーちゃん。私この漫画まだ読んでないからネタ分からないけど、これって男性向けじゃない?」
確かに国松が持っている同人誌には、男女の絡みが描かれていた。
アンジェラ「スーも私も、あんまり男女の違いには拘らないあるよ。男×女でも男×男でも女×女でもセックスはセックス、萌えられれば問題無いあるよ」
そこへちょうど通りかかったアンジェラが、割り込んで説明する。
国松「(赤面して)そんなセックスなんて露骨に…そうなのスーちゃん?」
スー「ワイノしゅーとハ2枚刃ヤ」
台場「男女どちらでもオッケーてことね。そう言えばアンジェラの方の収穫はどう?」
アンジェラ「あんまり買えてないあるよ」
アンジェラが見せた紙袋の中身は、袋の半分にも満たなかった。

台場「こりゃまた少ないわね。マリアと互角の怪力の持ち主にしては」
国松「何かあったの?」
アンジェラ「(赤くなり)実はね…」
アンジェラが喋りかけたその時、「おい、居たぞ!」という声と共に、大勢の男たち(言うまでもなくオタ)がこちらに向かって走ってきた。
何事?と身構える台場と国松。
事情が呑み込めず、彼らをキョトンと見つめるスーと藪ニャーコンビ。
男たちはアンジェラに向かって1列に並んだ。
そして先頭の男から順に、メモ帳やスケブや色紙等を差し出す。
それにアンジェラは順番にサインしていく。
男たちは意外と礼儀正しく、皆丁寧にお礼を言って去って行く。
国松「これはいったい?」
アンジェラ「(やや困り顔ながらサインをしつつ)何だか分からないけど、あちこちでサイン求められて、なかなか買い物が進まなかったあるよ」
台場「私こういうことあんまり詳しくないんだけど、アンジェラって誰か外人の歌手とか女優とかに似てるの?」
国松「(首を横に振る)そういうの関係無いみたいよ。だってアンジェラのサインって、本名を筆記体のアルファベットで書いてるだけよ」
突如強烈なオーラを感じて、振り返る国松と台場。
そのオーラは「やぶへび」の売り場から発せられていた。
藪崎さんが鬼の形相と化していた。
国松・台場「ひっ?」
ニャー子「あーあ、先輩キレちゃったー」
スー「?」
やがて藪崎さんは売り場の机を乗り越え、自分の座っていたパイプ椅子を振り上げて、サイン男たちに突進した。
藪崎「(椅子を振り回し)おのれら何時まで昭和40年代のメンタリティーしとんねん!」
たちまち退散するサイン男たち。

ニャー子「あのー先輩、何ですか昭和40年代のメンタリティーって?」
藪崎「昔大阪で万博があった時な、外国人のお客さんにサインねだるのが流行ったんや」
国松「そりゃまたどうしてですか?」
藪崎「当時はまだ外人が珍しかったからや。それに敗戦からまだ25年しか経ってなかったから、外人コンプレックスが今より強かったってのもあるやろ」
一同「…」
藪崎「そやから外人ってだけで、5割増しぐらいで綺麗でかっこ良く見えたんやろな。そんでただの観光客の外人が、映画スターや歌手みたいに見えたんやろ」
ニャー子「あのー先輩って歳いくつですかニャー?」
藪崎「お前の1個上や!これはおかんから聞いた話や!私はまだその頃、生まれるどころか影も形も無いわ!」
国松「で、何でそれを今のオタクがやってるんですか?」
藪崎「多分『クレしん』の映画の影響やろ」
国松「『クレヨンしんちゃん』ですか?」
台場「あっ分かった!『オトナ帝国』だ!」
藪崎「せや。正確には『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』ちゅうんやけど、その映画の冒頭の万博再現シーンで今の話が紹介されたんや」
台場「それで一部のオタクの間で流行ってると?」
藪崎「そういうこっちゃ」

アンジェラ「あの、よく分かんないけど、ありがとうございましたあるね」
アンジェラはいきなり藪崎さんに接近し、頬にキスした。
藪崎「ぎえ~~~~!!!何さらすんじゃい、この変態外人!」
ニャー子「先輩落ち着いて下さい。アメリカじゃそのぐらい挨拶代わりですニャー」
藪崎「ここは日本や!」
アンジェラ「あのう、お礼の積りだったあるが、お気に召さなかったあるか?」
藪崎「当たり前や!」

アンジェラ「そうか、キスでは足りないあるか…」
しばし考え込むアンジェラ。
アンジェラ「ならばしょうがないある。後で一緒にホテルに行きましょうある」
藪崎「何考えとんのや、この変態外人!」
アンジェラ「私の体では、お気に召さないあるか?」
藪崎「当たり前やろ!」
アンジェラ「私はあなたみたいなポッチャリ型が好みあるが、あなたは私みたいな金髪の巨乳は嫌いあるか?」
藪崎「そういう問題やない!そもそも私もお前も、両方とも女やないか!」
アンジェラ「男女の違いなんて、地球や宇宙のレベルから見れば誤差みたいなもんあるよ。そんなことは大した問題じゃないあるよ」
藪崎「ドアホ!大した問題や!お前みたいな変態外人には分からんやろけどな、私の女の操はな、理想のメガネ君に出会った時に捧げると決めてるんや!」
一瞬時が止まる周囲。
国松「あの先輩、女の操って…」
自分の言い放ったことの意味に気が付いた藪崎さん、自らダメ押しをしてしまう。
藪崎「知ったな!私が処女だということを知ったな!」
ニャー子「知ったと言うか、まあそんなことだと思ってましたニャー」
さらによせばいいのに、とどめのひと言を付け加えてしまう。
(本人に悪意は無いのだが)
ニャー子「まあ別に誰も先輩のこと非処女だとは思ってませんでしたけど、何もそんな大っぴらに公表しなくても…」
藪崎「うわあああああああああ!!!」
藪崎さんは泣きながら走り去った。

藪崎さんは涙の逃避行の途中、笹荻コンビに会った。
荻上「ヤブ、どしたの?」
藪崎「(涙目で)勝ったと思うな!」
再び走り去る藪崎さん。
荻上「意味分かんね…」
笹原「でも泣いてたよ、藪崎さん」
荻上「何かあったかな?」
後を追おうとした荻上会長に、不意に背後から加藤さんが声をかけた。
加藤「そっとしておいてやって」
荻上「加藤さん?」
加藤「ちょっと事情があってね、今回ばかりは荻上さんが行くのは、傷口に岩塩すり込むようなもんだから」
笹荻「???」

10数分後、藪崎さんは現視研1年女子と「やぶへび」の中から急遽メンバーを選んで編成された救助隊に捕捉され、粘り強い説得によって何とか落ち着き、売り場に戻った。
ちなみに救助隊編成の条件は、処女であることだった。
前述のカテゴリーの女子群の殆どが該当した為にかなりの人数が集まり、藪崎さんが「自分1人じゃない」と思えたことが勝因となった。
(誰が非処女かは、個人情報保護の観点から発表は差し控えさせて頂きます)

その後1年女子からの連絡で、それらの顛末を聞いてひと安心した荻上会長は、笹原と共に現視研の同人誌売り場に顔を出した。
有吉と伊藤が売り子をやり、その後ろで日垣が同人誌におまけコピー本を挟む作業をしていた。
荻上「どう、調子は?」
伊藤「まずまずですニャー。今でもう50冊近く出てますニャー」
笹原「そりゃまた順調だねえ」
開始からまだ1時間半程度しか経っていない。

有吉「思ったより特装版が効いたみたいですね。朝神田さんと2人でとりあえず50冊ばかり作っといたんですが、売れたの全部特装版でした」
日垣「だからとりあえずあと50冊ばかり特装版にしときます」
そこへ浅田と岸野が戻って来た。
浅田「すまん、遅くなって」
有吉「随分かかったね」
岸野「まあ、ちょっと…いろいろあってね…」
2人はその顛末を話し始めた。

浅田と岸野の2人は、入場後まず売り子用のコスに着替え、先に入って売り場の準備をしてた神田と共に、神田の一家が委託販売している売り場へと向かった。
その売り場の売り子を担当していたのは、神田の両親だった。
母親の方の服装はTシャツにオーバーオールにバンダナと、さほど奇異な感じはしなかったが、父親は少し異様だった。
中途半端な長髪に眼鏡に無精ひげという、いかにも古参のオタという風貌の上に、「宇宙戦艦ヤマト」の艦内服に似たデザインの長袖Tシャツにホワイトジーンズという服装だ。
2人とも軽く40代半ばには達していると思えた。
神田父「いやいや、わざわざコピー本を運んでくれて、ほんとにありがとう。まあちょっと寄って行きたまえ。ミッチー、店番頼むよ」
売り子を神田に任せると、父は浅田と岸野を売り場の中に招き入れた。

岸野「それでコピー本運んだお礼にって、これもらったんだよ。神田さんとこの家族の人が作った同人誌」
岸野が出した同人誌は、神田が作った分を含めて4種類あった。
興味深げにそれを見る一同。

浅田「その『宇宙戦士バルディオス』のがお父さん作、『ケロロ軍曹』のがお母さん作」
岸野「そんで『魔法のプリンセス ミンキーモモ』のが神田さんのお兄さん作で、『テニスの王子様』のが俺らが運んだ神田さん作」
笹原「お父さん渋い…」
荻上「神田さんってうちでもコピー本出してるのに…凄いわね」
日垣「お母さん若い…」
有吉「いくつなんだ、神田さんの兄貴?ミンキーモモだってバルディオスとそう変わらんぐらい古いんだけど…」
荻上「笹原さんバルディオス見たことあるんですか?」
笹原「ビデオでね。まあ何しろ四半世紀ぐらい前の作品だから、今見ると粗も目立つけど、コアなファンの人がいるのも無理ないと思える、いい作品だよ」
浅田「実はそれを見せられてたんですよ、俺たち」
岸野「お父さんがノートパソコン持って来てて、それに全話入ってるもんで」
浅田「1話見終わったとこで神田さんが間に入ってくれたから助かったけど、下手すりゃあのまま全話見せられるとこでしたよ」
岸野「まあその代わり、宿題もらってきましたけどね」
岸野がDVDを数枚取り出す。
笹原「まさかそれに…」
浅田「ええ、全話入ってます。まあ確かに1話見た感じではけっこう面白そうだったんで、コミフェス済んだら一気に見てみようかと思います」
一同『神田一家恐るべし…』

その後現視研の売り場には、クッチーとスー&アンジェラも顔を出し、神田一家の同人誌をみんなで見ている中、春日部さんがやって来た。
春日部「よっ、久しぶり。今年も店出してたんだな」
荻上「あっ春日部先輩、こんちわ」
1年一同「こんちわ」
春日部「(外人コンビに)あっ、あんたらも来てたんだ」
アンジェラ「お久しぶりあるね、春日部先輩」
スー「押忍、春日部先輩!」

最終更新:2007年01月12日 04:47