その三 欲望ロック【投稿日 2005/11/30】

カテゴリー-2月号予想


=====回想=====

 笹原 「どうですか先生! 売れましたけど!」
 荻上 「い いやあ~~何といいますか…」

初めて自分の同人誌が売れた瞬間。
感想を求められて、ろくに纏まりもしない感情を伝える。

 荻上 「これは…予想以上に…」
 笹原 「うん!」
 荻上 「………」

…どうしてこの人は、こんなにも嬉しそうな顔をしてくれるのだろう。

 笹原 「ん?」

ふと、笑顔の先にある視線に気付き、荻上は振り返った。

 中島 「荻上!?」
 荻上 「…………!」
 中島 「アーやっぱ荻上だー! こげんトコで会うなんてねー」

五年振りに再会した旧友は、笑顔で荻上の同人誌に手を伸ばした。

 中島 「スゴー!! まだ描いてたんだーーー!」
 荻上 「えっ……」

荻上は、胸が軽く引っ掻かれるような感覚に襲われた。
最後に感じたのは何時だったか、忘れかけていたどす黒い感情が再び荻上を覆う。

 中島 「まいいや 同人誌貰ってくね、あんがと! ほんだら元気で!」
 荻上 「ちょっ、待っ…それ…どういう……」

言葉に含まれている意味に薄々気付きながらも、恐怖からかそれを確かめることが出来ない。
その場に呆然と立ち尽くす。


 スー 「Excuse me.」

そんな荻上の前に現れた来客は、

 スー 「さいん please.」

そう言いながらあどけない顔で、ハードコアな場面を作者の前に開いた。
当然隣りの笹原にも見られているだろう。

 荻上 「……!!…ちょ…っ、…さ、笹原さん見ないで…」
 巻田 「……………」

振り返ると、そこには笹原ではなく、かつての初恋の相手がいた。
スーが持つ本の場面に釘付けである。

 荻上 「ひぇっ!?何で、巻田、く…」
 巻田 「…………………………」

本から視線を反らさない巻田。慌ててスーの持つ本を閉じさせる。
無常にも表紙には、「巻田君総受化計画」の文字が並んでいた。

 荻上 「……………!☆◎※#@!!……あ…ぁあ…」

脳が一瞬にして沸騰する。声にならない声。巻田の顔などとても見れたものではない。


 荻上 「ごめっ…ごめ…な…!!すっ!!……ひっ…っく…」


闇の中に自分のすすり泣く声だけが響く。自分の泣き声で目が覚めた。

 荻上 「……… …夢か……」

合宿初日、深夜2時の出来事である。




=====軽井沢・午前9時・合宿所・作戦会議=====

 大野 「斑目さん」
 斑目 「うおっっ!」

マスクド大野のドスが効いた声に驚かされる斑目。
ただ今午前9時。合宿所に残っているのは現在大野と斑目だけだ。

 大野 「昨晩はどうでした?」
 斑目 「ああ…笹原の方は間違いないみたいだけど」
 大野 「そんなのはもう分かりきってますよ!…告白する様仕向けられましたか?」
 斑目 「いや…」
 大野 「あーうー!!もー!!何やってたんですかぁ!!」
 斑目 「…」

大野の鋭い眼光から目を逸らしつつ、斑目は昨夜の光景を思い出す。





=====合宿初日・男だらけの呑み会パーティー=====

 斑目 「そーいや…」
 笹原 「ハイ?」
 斑目 「…こないだのコミフェス…」

 斑目 「荻上さんと二人っきりだったらしーじゃん?」
 笹原 「え、えぇまぁ…」
 斑目 「どーなん?」
 笹原 「ど、どうって…」

 斑目 「…それとなく気になっちゃったりしちゃったりしてんの?」
 笹原 「そ…そうっすね… って……い、いや、止めましょうよ!
     どーしたんすか今日?」
 斑目 「いや、…笹原君に恋愛フラグでも立ったりしなかったのかねって
     思ったんだがのう…」
 笹原 「…ギャルゲーじゃないんすから…」

 笹原 「何か一番予想外のセリフっていうか…どうしたんすか?」
 斑目 「い、いや、別に…」
 笹原 「…もしや斑目さん好きな人でもいるとか……」
 斑目 「………(汗」
 笹原 「…あ…もしや…図星っすか?」

何で自分が追求されてるのであろうか。
立場が一瞬で逆転し窮地に陥る斑目。

 斑目 「俺なんか……か…か…」
 笹原 「?」

…ここでもし玉砕覚悟の告白をすれば、笹原を焚きつけるフラグが成立するかもしれない。
しかしそれは今までのコースから外れることを意味する。そして一度進んでしまえば、後戻りは出来ない。
…………

 斑目 「……か…彼女なんか持ったらオタクやってられるかっ!!」
 笹原 「…はぁ…??」
 斑目 「我々一般のオタクは、高坂とは違うのだよ、高坂とは!」
 笹原 「…まー高坂くんは特別ですからねー」
 斑目 「…ザクとは微妙に意味合いが違うのが悲しいがのぅ」
 笹斑 『ハハハハハー』




=====軽井沢・午前9時・合宿所・作戦会議=====

 斑目 (すまん笹原…俺にゃー無理だ…)

斑目は後輩への懺悔と共に、己のヘタレ具合に深い溜め息を吐いた。

 斑目 「…そっちの方はどうなん?」
 大野 「それが…昨日トラウマは判明したんですけど…アレ以来元気が無くて…」
 斑目 「…そー…」

 斑目 「どうしたものかねぇ…」
 大野 「そんな呑気なこと言ってる場合ですか!!今夜しか無いんですよ!?」
 斑目 (…何かいつになく鬼気迫るものが…)
 大野 「…かくなる上はっ…!!」





=====軽井沢・午前10時=====

 恵子 「何でアタシまで迎えに行かなくちゃいけねーのよ~…」
 笹原 「ダァホ!…お前野晒しにしてこれ以上借金されちゃ堪らんからな…」
 恵子 「…サイアク~…」

咲は深い眠りから蘇った高坂と何処かへお出かけ。
特にすることもない残りの者は、散歩がてら、本日合流する田中を迎えに行く途中であった。
面子は笹原、恵子、朽木、荻上の四人。
朽木は既に暴走、先頭をひた走る。尤も誰も追い付こうとしないが。

笹原は横目で荻上の様子を伺う。朝食から一言も喋っていない。
いつもより輪をかけて沈黙を貫く。心なしか視線も落ち込んでいる。

 笹原 「…大丈夫?」
 荻上 「…え?」
 笹原 「何だか元気ないみたいだけど…」
 荻上 「イエ…何でも……。…スイマセン、大丈夫です…」
 笹原 「あ、荻上さ…」

笹原を避けるように足を速める荻上。心配ながらも何もできない笹原。
そんな兄を後ろから伺う妹。

 恵子 (…ちょっと…兄貴にゃ荷が重すぎっか…?)

昨日の部屋で見た荻上の涙を思い出しつつ、頼りない兄を見つめる。

 恵子 (…こりゃダメかもね……)




=====軽井沢・午後7時・バーベキュー大会=====

夕食は合宿所のテラスでバーベキューと相成った。
田中が遅れて来た御詫びにと、ドッサリ良質のバーベキューセットを持ってきた為だ。
皆が夕食の準備を進めている間に、参謀・大野が練り上げた笹荻成就作戦を部員へ伝達しに回る。

 大野 「いいですか?それとなく一人ずつその場から離れて下さいね!!」
 咲  「…ちょっと強引過ぎるんじゃねーの?」
 大野 「だ・か・ら! ばれない様に"それとなく"離れるんですよ!
     もう今夜のうちにケリを着けないと…」
 田中 「せっかく良い肉持って来たんだけどな…」
 大野 「…肉と笹荻どっちが大事ですか!?」
 田中 「ハイ、スミマセン」
 咲  (…なっさけね~な~田中…)

かくして笹荻成就作戦は開始された。
斑目はトイレ、朽木は皿洗い、女性陣は料理の下ごしらえ等、
ありとあらゆる方便を駆使し笹荻網を囲い込む。
田中などは良案が思いつかず、準備した金網をワザとらしく地面に落とし
「再び洗ってくる」などといった愚行をやってのけた。

その後残された男女が二人。
色々ありながらも、二人きりの状況は夏のコミフェス以来だ。
開きかけていた距離を埋める絶好の機会である。
先程の騒がしさとは一転した気まずさからか、荻上は重い口を開いた。

 荻上 「あの…今更ですけど…就職おめでとうゴザイマス」
 笹原 「あ、うん…アリガトウございます」

 笹原 「今朝の…体調大丈夫?」
 荻上 「あ、ええ…精神的なものですから…」

 笹荻 『…………』

大した会話も出来ず言葉に詰まる二人。
ああ、あれだけ淀みなく会話を弾ませていたのが遠い過去のようだ。

 笹原 「…みんな何処いっちゃったんだろうね…」
 荻上 「…………」

ココまで露骨であれば嫌でも不自然な状況に気付く。
苛立ちを隠せない荻上。
突然立ち上がり、岩陰の裏に歩み寄る。

 荻上 「…そんな所で隠れて何やってるんですかっ!!」
 一同 「あ…いや…その…」

氷のような冷たい視線を一同に浴びせながら、荻上は踵を返す。

 大野 「ま、待ってくださいよ、荻上さ…」
 荻上 「いちいち構わないで下さい!!」
 大野 「だ、だって…荻上さん達が何時まで経っても埒があかないから…」
 荻上 「それが余計なお世話だって言ってるんです!!
     …親切心でやってるんでしょうが、…私には辛いだけです!!」
 大野 「えっ…!?」

大野は荻上の目が潤んでいるのに気付いた。
昨夜見た、自己嫌悪に満ち溢れた表情だ。
まずい。これでは笹荻どころではない。

 荻上 「私なんか…同人趣味だって、あんな事しときながら何度辞めようと思っても、
     辞められない様な最低の女なんです!もう放っといて下さい…!」
 大野 「そんな…」

堪りにたまった自己嫌悪が爆発したのだろう。自暴自棄になっている。
全てを諦めた口調で、周りに八つ当たるよう荻上はわめき散らす。

 笹原 「え…?辞めようって、何の話…?」
 荻上 「どうせ笹原さんだって、私の本性知ったらっ…ドン引きに決まってます!!」

何の事情も知らない笹原にも、荻上は構わず切先を向ける。
とにかく荻上に自分を取り戻させなくてはと、笹原も臆せず話し続ける。

 笹原 「ちょ…落ち着いてよ、荻上さん!…そんなことないって…!」
 荻上 「そんなことあります!!まちげーねーですっ!!…わたす…わだずっ…」

あくまで冷静を努める笹原の態度が逆に荻上には不快だった。優しさが自分を傷つける。
いやこんなのは子供の我侭だ。そんなことは分かっている。知るか、もうどうとでもなれ。
これさえ言ってしまえば誰だって私に愛想をつかすに違いない。これで終わりだ。
荻上はついに切り札を放った。

 荻上 「笹原さん攻と斑目さん受で、ホモネタ考えるような女なんですよっ!!」


  沈黙。


 斑目 「………………(汗」
 田中 「…あ、固まってる」

 咲  (…あの絵ってもしや………このムスメは…)
 恵子 (…まだ懲りてねーんかい…)

咲の脳裏に会室で見た笹斑絵が蘇ってきた。
こんな場所で本来の意味を知ることになるとは思わなかっただろう。
恵子はドン引きである。

 笹原 「い、いや荻上さん、だからって…別に…ねぇ…」
 荻上 「ホラァ…、口ではそんな事言ったって…、っ引いてるでねすかっ!!」

いかん。ここで引き下がっては自分の負けだ。
荻上が殻に閉じこもってしまう。
考えろ、考えるんだ、笹原完二。

 笹原 「お…、」

熱暴走した頭で考え抜いた笹原の言葉は、荻上の殻を打ち破るには十分な破壊力だった。

 笹原 「…俺だって荻上さんのコスプレで抜いてるんだよ!!」


  さらに沈黙。



 咲  「…笹ヤン、…それは…チョッと…」
 恵子 「アニキ…それサイアク…」

時よ止まれ。ドン引きなのはもはや恵子だけではない。

集団の目の前でオカズにしていることをカミングアウトされた
筆頭の女子は、頬をまるで燃え盛る木炭のように真っ赤にして言い放った。

 荻上 「サッ… …サイテーですっ!!!」

 笹原 「い、いや…そういう意味じゃなくて…」
 荻上 「他にどういう意味があるんデスカッ!!!」
 笹原 「いや、その、その位カワイイコスプレだったなって…」
 荻上 「だっ…だからってそんなこと女子の前で言わないで下さい!!
     まったく兄妹そろってヤル事しか考えてないんですか!?」

 高坂 「それはちがうよ荻上さん」
 荻上 「はい!?」


 高坂 「セックスとオナニーは別物だもの!」



  三度目の沈黙。



まるで「ご飯とケーキは別腹だもの」とでも言わんとする少女のように
曇りの無い笑顔で言う高坂真琴に、反論できる者が果たして居るだろうか
(いや居ない)。

 高坂 「僕も咲ちゃんと付き合い始めてからせめて同人誌だけは
     やめようかと思ったけどすぐ無理だと分かったしね!」
 咲  「コ、、、コ~サカ~… (泣」

 高坂 「それはそれ、これはこれ! ですよね田中さん?」
 田中 「え!?、あ、そ、そう、ね…」
 大野 「ちょっ、…田中さんッッ!!」

 朽木 「いやぁ~オタクって本当に困ったモノですね」
 全員 『『 お前が言うな!! 』』

水野晴○のマネをすかさず突っ込まれた朽木はその場でイジケしゃがみ込む。
さぞかしお笑い芸人としては本望であろう。

 荻上 「と、とにかく…笹原さんも結局そこら辺のヤラしいオタクと一緒じゃないですかっ!」
 笹原 「お…荻上さんだって同人誌作ってまで…俺等と変わんないって!!
     大体オタクが人にどう思われようが知らないだろ!?」

落ち着かせようとした相手に面と向かってイヤラシイと罵られ(自業自得だが)、
矛先をその相手へと向ける笹原。

 荻上 「良くそーいった恥ずかしいことが言えますね!!」
 笹原 「かっ…覚悟が足りないんだよ!!荻上さんはっ!!」
 荻上 「………ッッ!!」

笹原は荻上にするどい言葉を投げかけた!
痛恨の一撃!

 恵子 (そこまで言えんならとっとと告っちまえよ…)

そんな兄へ無言の突っ込みを入れる妹。

 笹原 「イヤラしかろうが仕方ないじゃん!俺達どうせオタクなんだから!!」
 荻上 「覚悟なんてそんな事言えるんですか!?
     …もうこうなったらトコトン言わせて貰いますけどね!!」

そういってヤケになり、テーブルの上にある酒を瓶ごとかっくらう荻上。

 大野 「ああッ!!お、荻上さん、駄目ですよ、そのお酒…!」
 荻上 「…ぷはっ!!大体去年のコミフェスの時だって…」
 大野 「50度の白酒…」
 荻上 「久我山さんの…。。。 。うっ…っっ…ぅぷっ…!!!」



…その後の事は、あまり荻上は良く覚えていない。
一気に胃の中が燃やされるような強い酒気だけが記憶にある。
その場にすぐに倒れこんだ、と後から聞かされた。
虚ろな意識の中で、自分の名前を呼ぶ声と、ついさっき迄
言い争っていた人の腕に連れられて、トイレで吐き続けた気がする。
今までの自分の醜い感情も一緒に吐き出しながら、
荻上の意識はその場で徐々に遠のいていった。




=====軽井沢・深夜3時・寒空の下=====

朦朧とした意識のまま、目が覚める。周りは真っ暗だ。
もしかしてさっきのは夢だろうか。

横に目をやると、笹原がうつら…と舟を漕いでいた。
頭には濡れタオル。どうやら夢ではなかったらしい。
笹原が目を覚まして、荻上の様子に気付く。

 笹原 「…あの…ちょ、調子の…具合の方…。…大丈夫?」
 荻上 「…だいぶ…」

 荻上 「…ちょっとまだ火照り気味っすけど…」
 笹原 「…外の空気にでも…当たってこない?」
 荻上 「…そーっすね…」

重い体を起こし、笹原の手を取りながら立ち上がる。
近くに投げてあった防寒着を羽織って、夜の冷たい風を求め、外へ出た。

 笹原 「…うわぁ…」
 荻上 「…スゴ…」

空一面に散らばる星の光。
思いがけない軽井沢の夜空に、二人とも思わず声を漏らした。


 荻上 「ウチも田舎の方っすけど… ここまでの星空見た事ないっすよ…」
 笹原 「…凄いね」

お互いに、先程の毒気はもう残っていない。
星空に見蕩れて言葉をのむ二人の静寂を破ったのは笹原の方だった。

 笹原 「…あの…荻上さん…」
 荻上 「……あ、……はい……」
 笹原 「さっきの…未だ覚えてる?」
 荻上 「サイテーっすね…」
 笹原 「…ハハ…ゴメンね…ホントに…」
 荻上 「あ、いやそんなつもりじゃ…ねくて…」
 笹原 「朽木くんのこと恥知らずなんて言えたもんじゃ無いよね」
 荻上 「じゃなくて…自分も…サイテーだったっつーか…」

 笹原 「いや…確かに…あの絡みは、ちょっとビックリしたけど…」
 荻上 「…やっぱり…」
 笹原 「…仕方ないじゃん、趣味好みの違いはあるし…
     …大野さんのオヤジ趣味とか…みんなバラバラでしょ…?」
 荻上 「…まあ確かに…」
 笹原 「少し位引いちゃっても…まあ大目に見て欲しいな、なんて…
     …別に描くなって訳じゃ全然ないし…」
 荻上 「いえ……大目にみて頂くのは…寧ろコチラの方で…」

 笹原 「それと…絵、辞めるとか言ってたけど…」
 荻上 「…あ…」
 笹原 「そんな…無理して辞める必要も…ないんじゃない?」
 荻上 「…いや……でも…」

 笹原 「ほら、俺だってオタ趣味は辞められないけど… 
     結局自分の好きなモノに忠実で無いと…
     …自分を否定することになっちゃうだろうし…」
 荻上 「………」

 笹原 「荻上さんだって…描かなくなって…自分を否定するより…。
     …描き続けたほうが、良いんじゃないかな、なんて…」
 荻上 「…ですかね…」
 笹原 「…うん」
 荻上 「……」

 笹原 「…ここまでやってきちゃったら、今更引き返せないっしょ…」
 荻上 「かも知んないっすね…」
 笹原 「…三つ子の魂百までって言うし…」
 荻上 「…前も言ってましたね、それ」
 笹荻 『…ハハッ…』

軽い笑い声を交わしたあと、再び静寂が訪れる。
笹原は続けた。

 笹原 「…あと、恥知らずのついでに言うんだけど…」
 荻上 「いや、スミマセンでした…」
 笹原 「付き合ってくれない…?…かな……」
 荻上 「はぁ…。…え?…!!」

 荻上 「…………!!…へ…!?…」
 笹原 「いや、その…あそこまで言っておいて、もう何でもアリかな、って…」
 荻上 「……あっ……」
 笹原 「いや、でもいい加減な気持ちでは!決して無いよ!ウン、ほら」
 荻上 「………」

 笹原 「何だか…最近その、荻上さんのことばっか、…頭から離れないっていうか…」
 荻上 「…それって私の…」
 笹原 「いや切っ掛けはコスプレだったけど…。それだけじゃなくって…」
 荻上 「…………」
 笹原 「あんなこと言った後で全然説得力ないけど…」
 荻上 「………」
 笹原 「もっと荻上さんと、こう…一緒にいたいな、っていうか…」

 荻上 「わ、私…。…腐女子っすよ?」
 笹原 「や、その…俺だって、オタクだし…」

 笹原 「そ、その、荻上さんさえ、良ければ、の話だけど…。」
 荻上 「先輩も……モノ好きっすね…」
 笹原 「…ハハッ」

 笹原 「…ダメかな?…」
 荻上 「い、イエ…その…」


 荻上 「…し、しばらく、みんなに…黙ってんなら」

 恵子 (…バレバレだっつーの)
 大野 (シーーッ!!)

夜の静寂に響くヒソヒソ声に二人は振り返る。
そこには笹荻成就作戦実行委員会の面々。
当然今までの会話は筒抜けであろう。
恥ずかしさを吹っ切るように荻上は叫んだ。

 荻上 「2回も盗み聴きだなんて、趣味悪いですよっっ!!」
 咲  「ハハ、…でも聴かれたくないなら、せめてドア位閉めて外出してくれないかね?」
 笹荻 『う…』
 恵子 「スキマ風寒くてオチオチ寝てらんねーって…」

      カシャッ
 荻上 「…どっ…ドサクサに紛れて何撮ってるんですかッッ!!」
 朽木 「いや~なかなかお似合いのオタップルショットが撮れましたデスヨ!?」
 大野 (ナイス朽木!!)
 田中 (……オイオイ)

 咲  「…ま、いーんじゃないの、もう昔のことは?」
 荻上 「先輩…」

咲が昨晩の話を受けて、荻上に諭すよう語りかける。

 咲  「振り返れば、私もアンタ等のお陰でどれだけ恥ずかしい思いをさせられたか!」
 斑目 「…まあコスプレは春日部サンにも一因あるような…」
 咲  「…あんだって?」
 高坂 「でも可愛かったよ咲ちゃん」
 咲  「……!」
 高坂 「ですよね、斑目さん?」
 斑目 「あ?う、うむ…ソーデスネ…はは…」

 斑目 「…ま、辞めようと思って辞められれば苦労せんよ、荻上さん」

諦観を滲ませる口調で、二代目現視研会長は語る。

 斑目 「…オタクなんて、気付いたらそうなってるものだからな」
 高坂 「そーですね」
 田中 「…久しぶりに聞いたなそのセリフ…」

 笹原 「…ま…、みんなどうしようも無い、ってことで…」
 荻上 「…デスネ…」

そう言葉を交わす二人を、笑顔で遠巻きに見つめる大野の姿に荻上は気付いた。
任務を遂行した充実感からか、それとも祝福の微笑みか。

 荻上 「あ…」

先ほどの己の醜態を思い出し、気まずそうに大野に話しかける。

 荻上 「大野先輩も…あの…スミマセン…」
 大野 「別にイイですよ~」
 荻上 「いや、でも…ひでーこと言っちまって…本当に…」
 大野 「!…じゃあ言う事聞いてくれますよね!?」
 荻上 「…え」
 大野 「コスプレしましょう!」
 荻上 「アンタの頭の中にはそれしか無いんですか!!」

何はともあれ、一件落着した安堵感から、咲は苦笑しながら呟いた。

 咲  「…全く面倒なイキモノだな、オタクってもんは!」



=====有明・冬コミフェス=====
 笹原 「ゴメン!遅くなっちゃった…」
 荻上 「長かったっすネ」
 笹原 「いや~高坂くんのメーカーのブースで話し込んじゃって…」
     え、もしかしてもう売り切れちゃった!?」
 荻上 「あ、ハイ…今ついさっき」
 笹原 「…おめでとうゴザイマス!於木野先生」
 荻上 「あ、いや…アリガトウございます」

 笹原 「どうですか?完売達成のご感想は…」
 荻上 「…いや~…何つーか…非常に……感慨深いというか…」

 笹原 「…一度味わっちゃうと…もう抜けられないよね」
 荻上 「…そーっすね…」

 荻上 「笹原さん」
 笹原 「何?」
 荻上 「私に足んないもの、分かりましたよ」
 笹原 「…覚悟が?」
 荻上 「覚悟が」
 笹原 「…そっか」

 荻上 「しかし…よく言ったモノですね」
 笹原 「ん?」
 荻上 「三つ子の魂…」
 笹荻 『百までって?』

    『…プッ…、…ハハハッ…!』

思いがけず同じ言葉を重ねたのが可笑しく、
その場で笑いあう二人。

 荻上 「本当、どうしよーもねーなぁ…!」
 笹原 「ホントにねー…あ、荻上さん…時間大丈夫?目当ての本売り切れないうちに…」

 荻上 「あ、…じゃスミマセン、お願いします」
 笹原 「うん、いってらっしゃい」

屈託無く笑えるようになった荻上の笑顔を焼き付けながら、
笹原は完売したブースから彼女の後姿を見送っていた。


 斑目 「ウィーッス…差し入れ持ってきたぞって…え、もう完売?」
 笹原 「あ、斑目さん…お疲れさまです」
 斑目 「おめでとさん…って午前中で完売か…スゲーな…」
 笹原 「まあ50部…久我山さん時の1/4ですからね」
 斑目 「ちょっと表紙だけでも見たかったケドな」
 笹原 「あ、でも何冊か残してるんで」
 斑目 「あるんだ、…じゃ…拝見してもいいかね?」
 笹原 「ええ、いいっすよ…もう彼女も、大丈夫なんで」
 斑目 「どれ…」

パラパラと頁をめくりながら、斑目は最後の後書きに目を留めた。


  やおいずきでもいいじゃない ふじょしですもの   おきの


 斑目 「荻上さんも…随分逞しくなったもんだのぅ、笹原…」
 笹原 「…ハハ…登ってんのか堕ちてんのか…」




  …巻田くん…ゴメンな…

     …あんだけの事しでかしちまったけんど…

        …やっぱし私には無理だ…辞めらんね…。




 荻上 「…業が深いよナァ……」

諦観めいた苦笑いを浮かべながら呟き、
一人の同人作家が人ごみの中に溶け込んで行った。




=====オマケ・正月の笹原家にて=====

 笹母 「先にあんた達食べときなさい」
 笹恵 『いただきまーす…』

 恵子 (…ニヤッ)
 笹原 「…何だよ」
 恵子 「別にー」

 笹原 「…餅食ってる人の顔ジロジロ見んな!」
 恵子 「ドコまで行ったん?」
 笹原 「な…」

 恵子 「やっぱオタクだとコスプレしながらヤッたりする訳?」
 笹原 「ばっ…!声デケーっつの!!…親に聞こえたらどうすんだョ…!」
 恵子 「別にいいじゃん!いや~アニキが童貞捨てれるとは思わなかったな~!」
 笹原 「…まだ捨ててねーヨ」
 恵子 「 ハ ァ ? 」

 恵子 「サル一体あれから何ヶ月経ったと思ってんだよ!!」
 笹原 「だから声デケーよボケ!!大体お前にゃ関係ねーだろっ!!」
 恵子 「これ以上焦らすんじゃねーよ見てるほうもイライラするっつーの!!」

 笹父 「うるせーぞ!兄妹喧嘩なら外でやってこい!!」
最終更新:2005年12月20日 03:45