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26人いる! 【投稿日 2006/11/12】

・・・いる!シリーズ


この話を初めて読む方の為に、オリジナル設定等のまとめ
①今年の新1年生は、男子5人女子6人の計11人、さらに秋にはスー&アンジェラも合流します
②部室が手狭になったので、サークル棟の屋上にプレハブ製の部室を新設しました         
③斑目は相変わらず部室に昼飯食いに来てますが、4月以降は外回りの仕事も手伝っているので、昼休み以外の時間帯にも時々部室に来ます
④斑目は1年生女子からシゲさんと呼ばれています
⑤クッチーは去年の秋頃から空手を習っています
⑥諸々の事情で、クッチーは児童文学研究会にも掛け持ちで入会してます
児文研会長の勧めにより、普段は大人しくなりましたが、イベントになると必要以上に大騒ぎします  
⑦荻上会長は巷談社主催の春夏秋冬賞という漫画コンクールに応募して審査員特別賞を獲得し、それがきっかけで今年の秋に「月刊デイアフター」で新連載開始の予定です

神田美智子 
両親と兄1人の4人家族だが、家族全員がオタなので幼少の頃よりコミフェスに参加していた。
ノーマルなカップリング中心だが、最近ヤオイも始める。

国松千里  
元々は特撮オタで、アニメや漫画のオタとしては初心者。
垂れ目ながら大きな瞳のロリ顔美少女。

豪田蛇衣子 
腐女子四天王(クッチーが命名した、新1年生の腐女子4人組の通称)のリーダー格。
小学生の頃から少女漫画を描いている。
大柄で肥満体のゴッグのような体格。

沢田彩   
四天王の1人。
元々はジュニア小説を書いていた、ショートカットで色白の文芸少女。

台場晴海  
腐女子属性はむしろリーダーより濃い、四天王の参謀格。
見た目秀才っぽい、スレンダーなメガネっ子。

巴マリア  
四天王の1人で、元ソフトボール部の体育会系腐女子。
巨乳でなかなかの美人だが、夏ミカンを握り潰せるほどの握力の持ち主でもある。

日垣剛   
元野球少年の初心者オタ。  
身長185センチの肉体派オタだが 気は弱く温厚で大人しい性格。
初心者同士のせいか、国松と仲がいい。

有吉一郎  
高校時代は漫研。
いかにも理屈先行型オタという感じの、細面のメガネ君。
伊藤とは同じ高校出身でよく一緒にいるので、それを腐女子四天王にネタにされている。

伊藤勝典  
高校時代は文芸部。
脚本家志望だが、ラノベやSSも書く。
猫顔で、動作も猫に似ていて、喋る時も語尾に「ニャー」と付ける。

浅田寿克  
高校時代は写真部。
神経質そうなメガネ君で、1年生会員たちの会話ではツッコミ役になりがち。
岸野と一緒にいることが多い為、有吉×伊藤同様、腐女子四天王にネタにされている。

岸野有洋  
浅田と同じ高校出身で、部活も写真部だった。
リーゼント風のひさしの目立つ髪型以外に取り立てて特徴が無く、あまり目立たない。
浅田と共に、様々な雑用で縁の下の力持ちとして力量を発揮する。

 **本編**

「笹原君、君、ヤオイっちゅーもんを知ってるか?」
漫画家のA先生が笹原にそう声をかけて来たのは、笹原が新たに担当になってから1週間ほど経った、ある日のことだった。
漫A「君確か自己紹介で、学生ん時に何たらいうオタクのサークルに居った言うてたな?そしたらそういうことにも詳しいやろ?」
笹原「ヤオイがどうかしたんですか?」
漫A「君、すまんけどわしにヤオイっちゅーもんについて、いろいろ教えてくれんかな。先ずは何でヤオイって言うかからやな。やっぱり八尾の朝吉とかが関係あんのか?」
笹原「八尾の朝吉?」
笹原はA先生に、そもそもヤオイという言葉の語源から、順を追って丁寧に説明を始めた。
(注釈)八尾の朝吉
映画「悪名」シリーズで勝新太郎が演じていたやくざの名前で、本編とは特に関係ない。
ヤオイに縁の無いオッサンの一般的な認識と流して下さい。

A先生は、主に中高年やブルーカラー層を購読者とする、実話系雑誌でやくざ漫画を描き続けてきた、この道30年のベテランである。
実話系雑誌とは、芸能・スポーツ・風俗・賭博・政治・犯罪など、スポーツ新聞的なネタに加えて、普通のマスコミがあまり扱わない暴力団関係の記事が充実している雑誌のことである。
非オタ系漫画の極北のポジションに居たこの先生を、笹原は失礼ながら担当が決まるまで知らなかった。

A先生は推定年齢55~60歳で、笹原の両親より多分年上だ。
顔付きは強面で、体付きは大柄でいかつく、喋り方も柄の悪い関西弁だ。
経歴は公式には不明とされているが、裏社会にしっかりした情報網を持っていることから、裏社会の住人だった時期があったと思われる。
正直言って苦手なタイプであった。
そのA先生が、無骨な外見に似合わず凄まじいスピードで丹念にメモを取りつつ、矢継ぎ早に質問を次々とぶつけてくる。


ヤオイから派生したオタク関係の質問が次々と出て、話題は夏コミへと移って行った。
漫A「ほな君、今年もその夏コミっちゅーのに出るんか?」
笹原「ええ、上手く休み取れたら3日とも顔出そうと思ってるんですが、まだ決まってません」
漫A「よっしゃ笹原君、その件わしが編集部に話つけたるわ。3日とも休みにしたるから、行ってきい夏コミ」
笹原「えっ?」
漫A「その代わりスマンけど君、その3日間で夏コミについて可能な限り取材して来てくれんかな。ひとつ頼むわ」
笹原「取材…ですか?」
漫A「せや。デジカメでええから、ようけ写真撮って、君のサークルのもんとか他のお客さんから話聞いて、それをレポートにまとめてわしに提出してくれたらええ」
笹原「まあ、それはいいですけど…」
漫A「あ、それからな、資料として同人誌っちゅうのを買うて来てえや」
懐から分厚い札入れを取り出し、無造作に万札を十数枚掴み出して笹原に渡す。
笹原「こっ、こんなにいいんですか?これだとさすがに、物凄い量になりますよ」
漫A「かまへん。どのみち君の話聞く限りでは、そんだけ出しても会場で売ってる本、全種類は買えんやろ?」
笹原「それはそうですが…」
漫A「ええか、何の話でも話を書く時にはなあ、可能な限り最新の情報を仕入れるのが基本中の基本や。どんな絵空事な話でも、その土台にはリアルな現実の情報が要るんや」
さらにA先生は、今考え始めている企画について話し出した。
A先生が現在「実話鉄拳」で連載している任侠漫画がもうじき終わる。
次の作品の連載も決まっているのだが、その内容に編集部から注文があった。
最近雑誌の部数が落ちているので、新しい読者層を取り込めそうな話を描いてくれというのだ。
そこでA先生が目を付けたのはヤオイブームだった。
彼の得意なヤクザ漫画にヤオイネタを絡め、腐女子を新たな顧客にしようと考えたのだ。

漫A「まあ具体的な話を言うとや、昔は漫画家を目指してた絵の上手いテキヤがヤオイブームに目え付けて、ヤオイ同人誌を新しいシノギにしようとする、まあそんな感じや」
笹原「あの先生、ひとつ伺いたいのですが、今先生が描いてらっしゃる絵柄でそれ描かれるお積りですか?」
笹原が憂慮したのは、A先生の絵柄だった。
先生の描くやたらと無骨な顔立ちのキャラは、任侠漫画ならともかくヤオイには不向きだ。
漫A「君の言いたいことは分かるわ。つまりヤオイやったら…」
そう言いかけ、A先生は先程まで使っていたメモ帳に、何やら絵らしきものをサラサラと描き込む。
そして描き終わると、それを笹原に差し出しつつ言った。
漫A「こういう絵を描かなあかんねんやろ?」
笹原「ひへっ?!」
思わず自分の彼女のような驚き方をする笹原。
先生が描いたのは、普段描いてる作品のような無骨な顔ではなく、最近のヤオイ漫画にありがちなレディコミ風の端正なイケメンだった。
笹原「先生、これはいったい?」
漫A「わしこれでも下積みの時は少女漫画のアシスタントやっとったからな、こういう絵えでも描けるんや」
一抹の不安を覚えつつも一応納得した笹原、もうひとつ疑問をぶつけた。
「それに先生、いくら何でもヤオイだと、腐女子以外の人からは拒絶される危険が大きいと思います」
だが先生は意外な返答をした。
「その点は大丈夫や。君は知らんやろけど、実は極道もんには、その手の趣味のもんが意外と多いんや」
笹原「(意外そうに)そうなんですか?」
漫A「今の大卒の経済ヤクザはともかく、昔のヤクザもんが出世しよう思たら、ヤバい仕事やってムショで何年か修行して来なあかんかったんや」
笹原「?」

漫A「まあ君みたいな真面目な子には想像しにくいかも知れんけどな、そうなると女抜きで何年か暮らさなあかんから、どうしてもこっち系で代用することになる訳や」
先生は「こっち系」のところで、手の甲を頬に当てた。
オカマを示すジェスチャーだ。
漫A「そんでムショ出た後も、そのまんまそっち系の趣味続けるもんもけっこう居んねや」
笹原「そういうもんなんですか?(汗)」
思わず後ずさりしてしまう笹原。
漫A「安心しい。わしにはその気は無いから」

その後A先生は鷲田社に電話して、笹原の夏コミ3日間の休みの確約を取ってくれた。
そして細かい打ち合わせを終えた頃、もう1人の担当編集者が来たので、笹原はその担当氏に後を任せてA先生宅を辞することにした。
ヤオイに関する疑問から派生して、コミフェスその他のオタク趣味にも深い興味を持ったらしいA先生に対し、帰り際に笹原は大真面目にこんな誘いをかけた。
笹原「あのう先生、取材はやりますけど、1度ご自分でも夏コミに参加されてはどうですか?知識や情報はともかく、あの独特の雰囲気や空気は、あの場所でしか体感出来ませんから」
マジ顔で誘う笹原に、A先生は笑って応えた。
漫A「堪忍してえや、笹原君。君の話聞く限り、この歳ではキツイで、夏コミデビューは」

この後笹原は、他に担当している漫画家の所も回る予定だ。
現在笹原は先ほどのA先生の他に、キャリア15年ぐらいになるB先生と、今年デビューしたばかりで椎応の漫研の3年生でもあるC先生の、3人の漫画家を担当していた。
もっとも担当と言っても、笹原1人でその漫画家についての仕事を全てこなしている訳ではない。
A先生とB先生には元々メインの担当者が付いている。
(つまり先ほど来た編集者がメインの担当者だ)
笹原の仕事は、その担当者たちの補佐であった。
まあ早い話が雑用係である。
編集者という仕事には、いろいろな雑用が伴う。
その雑用の大半を笹原が引き受ける訳だ。

ひと口に雑用と言っても本当に様々である。
資料を集めて来たり、ちょっとしたお使いを頼まれたり、時には家事をこなすこともある。
そんな雑用の合間に、先輩の仕事ぶりを盗み見しながら仕事を覚える。
感覚的には落語家や相撲取りの新弟子に近い、今日的には前時代的な感じの教育方針だが、真面目な男笹原はめげること無く働いた。

笹原はC先生と打ち合わせをすべく、椎応大学のサークル棟に向かった。
漫研の現役会員であるC先生は、今日は部室でネームを書いているのだ。
その後夜になってからB先生の所にも顔を出す予定だ。
B先生は、それなりに作品は売れているのだが、「分かる人にだけ分かる」ネタと作風の為に今ひとつメジャーになり切れずにいた。
その為ベテランでありながら業界の評価は、前座プロレスラーや2番バッターみたいな中堅扱いであった。
そのせいか、精神構造はネガティブ思考でメンヘル気味で時々発作的に自殺を図る。
(実は半分狂言気味で、本音は止めて欲しいらしいのだが)
そこで〆切が迫ってなくても定期的に顔を見に行くように、もう1人の担当者に厳命されているのだ。

漫研の部室でC先生のネームをチェックすると、笹原はGOサインを出した。
この先生に限って笹原は単独で担当していた。
作品の人気やレベルはそこそこだが、とにかく真面目で仕事が速い。
編集にとっては手の掛からない漫画家なので、編集部が笹原1人でOKと判断したのだ。
B先生宅に寄る予定の時間には間があったので、笹原は現視研の部室に寄ることにした。

屋上の床には、ブルーシートが敷かれており、その上に何かが立っている。
さらにその傍らに、こちらに背を向けてしゃがみ、体を丸めて何かしている人影があった。
その周囲には、塗料の入った小皿や缶がいくつか並べられていた。
笹原が近付いてみると、立っていたのは何かの体だった。
いや正確には、逆さまにされて、材木を組んで作ったらしいスタンド状の器具に固定されていた。

灰色がかった茶色のそれには、鋭い爪の生えた手足があり、腹のあたりが蛇腹状になっていた。
腕や脚の中にも材木が通してあるらしく、四肢はピンと張っていた。
首を切って逆さ磔にした、ヒューマノイドタイプのモンスター、そんな風に見えた。

笹原の気配に気付いたのか、しゃがんでいた人影が振り返りつつ顔を上げた。
人影の正体は、筆を持った国松だった。
「あっ笹原先輩、こんにちは」
「こんちわ…わっ?!」
驚いて声を上げてしまう笹原。
国松の足元に、不気味な顔があったからだ。
脳を肥大化させて露出したような感じの頭でっかちな頭部に、細く吊り上った瞳の無い目と、牙とギザギザの歯の生えた口があった。
よく見ると見覚えがあった。
笹原「それってもしや、ベム?」
国松「そうです、妖怪人間ベムの変身後です」
笹原「(先程の胴体と顔を見て)これってフィギュアなの?」
国松「いえ、コスです」
笹原「コス?ってことは…」
国松「着ぐるみです。今度の夏コミのコスプレで『妖怪人間ベム』やりますんで」
笹原「へえー。しかしこれ、よくできてるね」
思わず胴体に手を伸ばす笹原。
国松「あっダメです!まだ乾いてません!」
数ミリ手前でピタリと笹原の手が止まり、サッと引っ込める。
笹原「ごっ、ごめん。これってどうやって作ったの?何で出来てるの?」
国松「ラテックスです。石膏で型作って、それにラテックス塗って剥がして原型を作りました。今日はそれに色塗ってるとこです。塗り終わったら今日はここまでです」
笹原「まだ続きがあるの?」
国松「色塗ったのが乾いたら、中にウレタン貼って形整えます。そして朽木先輩に実際に着てもらって、体に合わせていろいろ調整します」

笹原「朽木君がやるの?」
国松「はい。万が一朽木先輩が来れない時に備えて、日垣君でも着れるように少し大きめに作ってあるもんですから、ちょっと念入りに調整しなきゃいけません」
日垣はクッチーより5センチほど背が高く、肩幅や胸囲なども少し大きかった。
国松「まあ朽木先輩が着る分には、かなり余裕があると思います。あんまりピッタリ過ぎたら動きにくいし、汗の逃げ場が無くなって余計に暑いし、第一皮膚呼吸が出来なくなります」
笹原「へえ、本格的だね」
国松「まあ技術レベルはともかく、基本的な作り方は本物の着ぐるみと同じですから。機電も一応仕込みますし」
笹原「きでん?」
国松「機械の機に電気の電で機電です。まあ簡単に言うと、機械で着ぐるみの一部を動かす仕掛けのことです。まあ今回は、目を電球で光らせるだけですけど」
笹原「凄いね」
その後笹原は、国松の溢れんばかりの、いや溢れ過ぎでダム決壊状態の怒涛の着ぐるみ愛を延々と小1時間ばかり聞かされる破目になった。
普段はどちらかと言えば無口で大人しい国松だが、こと特撮の話になると垂れ気味の大きな目をキラキラ輝かせて、楽しそうに話し続ける。
笹原『まるで漫画描いてる時の荻上さんだな』
愛する人と同じ種類の目の光を見てしまった以上、すげなくすることは出来なかった。

ようやく部室に笹原が入ると、こちらはコスの山だった。
2つの机の上には、同様のデザインの制服らしきコスが数着ずつ、4種類ほど見られた。
肩ビラの色が紺色のものと水色のものと2種類のセーラー服、青のブレザーに黒いズボンの男子用らしき制服、そして紺色のロングコートタイプの軍服らしき制服。
さらにその他にもさまざまなコスが並べられている。
その片隅で斑目は遅い昼食を食べており、日垣は一心不乱に(多分田中が持ち込んだのであろう)ミシンに向かっていた。
あとはやや困り顔の荻上会長、田中、恵子、クッチー、そしてただひとり上機嫌な大野さん、という面子だった。

互いにひと通り挨拶と近況報告を終えると、話題はコスプレのことになった。
笹原「外で国松さんに『妖怪人間ベム』のコスやるって聞いたけど…何かいろいろいっぱいあるね」
大野「(にこやかに)はいっ!」
田中「今回は大野さん、学生として参加する最後の夏コミだからね、3日間目いっぱいコスするんだよ」
大野「3日とも違うんですよ」
笹原「凄いね」
大野「1日目と2日目は、私が会長だった代の会員中心でやるんです。で、1日目が『妖怪人間ベム』で、主役のベムは朽木君にやってもらいます」
朽木「あの、大野さん、何故わたくしだけ変身後なのでありますか?」
田中「コミフェスは長物禁止だからだよ。変身前のベムでステッキ無しだと、さまにならないだろ?」
大野「それに変身後の方が、目立つし、ウケるし、かっこいいじゃないですか。主役だから立ててあげたんですよ」
目立つ、ウケる、かっこいい、主役、クッチーの好きそうなキーワードを並べ立てる波状攻撃作戦は、見事に功を奏してクッチーは納得した。
でも芸に生きる男クッチーは、お約束も忘れない。
朽木「早く人間になりたいにょ~~~!!」
笹原「てことは、荻上さんもやるの?」
荻上「私がベロで、大野先輩がベラです」
笹原「ベロかあ…」
大野「何ですか笹原さん。もっとロリロリなのとか、露出の多いの見たかったんですか?」
笹原「(赤面し)ちっ、違うよ。よく荻上さん承知したなあと思って」
田中「これでも知恵しぼったんだよ。大野さんの代のメンバーで出来るコスで…」
大野「荻上さんがコスやってくれる条件に出した、ロリロリじゃなくて露出の少ないキャラってことで、荻上さんのキャラから逆算して考えたんですから」
荻上「何かそれじゃあ私が我がままみたいじゃないですか。どっちかと言えば…」
大野「ええそうですとも。我がままなのは私ですよ」
胸を張ってにこやかに開き直る大野さんだった。

荻上会長は先程の続きに話題を戻す。
荻上「それとあと、恵子さんがキラやります」
笹原「キラ?」
ガンダムのパイロットや、ノートに名前書いて殺人するインテリ君を連想する笹原。
荻上「新シリーズに出てくる新キャラですよ。ベロの友だちの女の子です」
笹原「ベロの友だちってことは…小学生?恵子が?」
大野「ええ、最後だからってことで頼んだら、快く承諾してくださいました」
コスの山の中から、キラの小学校の制服を取り出して見せる大野さん。
ブレザーにミニスカートにベレー帽という格好だ。
恵子を見る笹原。
笹原「そうなのか?」
手招きする恵子。
笹原「?」
笹原が恵子に近付くと、恵子は腕を掴んで部室の隅に笹原を連れて行き、顔を寄せた。
恵子「(小声で)しゃーねーじゃん。あの暑苦しい巨乳の大女に涙目で迫られたら、断れねーじゃん」
笹原「まるでアームストロング少佐だな」
恵子「まあその代わり、バイト代もらえるけどね」
笹原「バイト代?」
恵子「2日目に何とかいう金髪のキャラやる代わりに、タダで金髪に染めれる美容室の券もらったんだよ」
笹原「お前今度は金髪かよ」
恵子「1回やってみたかったんだ。さすがに春日部姉さんいる間は遠慮してたけどね」
こいつがそういう気の使い方をするようになったのかと、笹原は妹の人間的な成長に少し感心した。
そして同時に、春日部さんに対する恵子の尊敬や親愛の情を微笑ましく思った。

再びみんなの方に2人が戻ると、さらにコスについての話は続いた。
笹原「それで2日目は?」
大野「荻上さんの希望を入れて『ハガレン』にしました」
荻上「私がエドで、朽木先輩がアル。大野さんがラストで、田中さんがグラトニーです」
朽木「わたくし2日連続で着ぐるみであります」
笹原「大変だね」
恵子「そんで私が…何だっけ?」
荻上「ホークアイです。いい加減覚えて下さい」
斑目「そして俺がヒューズさ」
食事の途中の斑目が割り込むように言った。
笹原「斑目さんもやるんですか?」
斑目「ああ。今年は土日休み取れたし、それにまあ俺も大野会長期の、部室の備品みたいなもんだからな」
そう言いつつ手招きする斑目。
笹原が近付くと、斑目は顔を寄せてきた。
斑目「(小声で)しょうがねえだろ。あの胸近付けて凄え力で肩掴んで涙目で(以下略)」
笹原「犠牲者その2ですか」
斑目「お前は今年はどうよ?」
笹原「3日とも出ますよ。上手く休み取れましたんで」
笹原は、A先生用レポート作成の為に、3日とも休みを取れるようになった顛末を話す。
斑目「半分仕事で夏コミか…それはそれで大変そうだな」
ふと嫌な視線を感じて振り返る笹原。
大野さんが赤面でニヤニヤし、荻上会長は意識が亜空間飛行中だった。
笹原は、斑目から見えない角度で「それは無し!」という感じで手をヒラヒラさせつつ2人に近付く。
そして荻上会長の筆を激しくシビビビする。
荻上「はっ、ここは誰、私はどこ?」
苦笑する笹原。
荻上「(赤面)すっ、すいません」

再び嫌な視線を感じる笹原。
振り返ると同時に、大野さんに右肩を左手で、物凄い力で掴まれた。
笹原「えっ?」
大野「笹原さん、3日とも出れるんですね」
笹原「うん、出るけど…」
大野さんは右手で「ハガレン」の軍服を1枚掴み、笹原の方に差し出した。
大野「ちょうどここに、笹原さんのサイズの軍服があるんですよ」
笹原「何であるの?(汗)」
大野「田中さん、例のものを」
田中は傍らの自分のリュックから白い手袋を出して、笹原に差し出す。
笹原「その模様はもしや…」
手袋には魔法陣みたいな記号の模様があった。
田中「錬成陣だよ」
助けを求めるように、荻上会長の方を見る笹原。
あきらめて下さいと言わんばかりに、片手拝みのポーズの荻上会長。
笹原「犠牲者その3か…」
結局笹原は、2日目にロイ・マスタング大佐のコスをやる破目になった。
考えてみればコスプレ初体験である。
A先生用のレポートのネタが増えたし、まあいいかと笹原は1人納得した。
笹原「で、3日目は何やるの?」
大野「まだ何するかは未定なんですけど、私はアンジェラとペアでやる予定です」
笹原「やっぱり今年も来るんだ、あの2人」
大野「まあ秋からは正式にここの会員ですからね。で、実はそれと別班でもうひと組やるんですけど、遅いな神田さん…」
笹原「神田さん?」
傍らで食事していた斑目の食べるペースが、何故か急に速くなった。
神田「遅くなりました!」
晴れやかな笑顔を浮かべ、神田が部室に入ってきた。

神田「あっ笹原先輩こんにちわ。(大野さんに)遅くなってすいません」
神田は手に持った風呂敷包みを机に置いて開ける。
包みの中身は、袴と井の字模様の羽織という組み合わせの着物だった。
笹原「これは?」
神田「お祖父ちゃんの着物です。亡くなってからもう20年ぐらい経つ上に、お祖母ちゃん物忘れがひどくなっちゃって、なかなか見つからなくて…」
笹原「???」
神田「前にお祖母ちゃんに写真、見せてもらったの覚えてたんです。で、似てるなあと思って、お祖母ちゃんに出してもらったんです」
笹原「あの、それで何のコスプレなの?」
神田「今試着してもらうのを見れば分かりますよ。お祖母ちゃんの話だと、お祖父ちゃんの背5尺8寸だったそうだから、多分あまり調整しなくて済むと思いますよ」
荻上「5尺8寸って、どれぐらいなの?」
神田「およそ175~176センチってとこです。明治の人としては長身だったみたいですよ。私が生まれる前に亡くなったんで、会ったことは無いんですけど」
斑目がそろそろとドアの方に向かう。
その腕を「ムズンパ」と擬音が聞こえそうなタイミングで神田が掴む。
神田「どこ行くんですか、シゲさん?」
斑目「いや、そろそろ会社に戻んないと…」
神田「大丈夫ですよ、あそこの社長さんイージーだから、少々遅れても怒られませんよ。それよりさっそく寸法合わせましょうよ。さあ、みなさん向こう向いて下さーい」

数分後、斑目は神田の持ってきた着物を着込んだ。
カッターシャツの上から着たので、袖口からカッターの袖が見える。
神田「わーピッタリ!」
それを見た笹原が呟いた。
「絶望先生…」
恥ずかしい一方で、斑目のキャラ作り魂が目覚めた。
「知ったな!うわああああああ!」
絶叫しつつ部室を飛び出して行く斑目。

コミフェスという非日常のハレの場ならともかく、日常的な部室で身内相手にコスするのは却って恥ずかしいものらしい。
いつか荻上会長が部室でコスした時に逃げようとしたのも、単に露出が激しいコスだからというだけでなく、そういう心理もあってのことだったのだと笹原は改めて理解した。
神田「ねっ、大野さん、私の言った通りでしょ?」
大野「そうですね、あそこまで似合うとは予想出来ませんでしたね」
笹原「あの、これはどういう?」
荻上「今のコス、言い出したの神田さんなんです」
神田「シゲさんも絶望先生も総受けキャラだから、絶対似合うと睨んでたんです」
笹原『1年の女子の間でも、斑目さん総受け認定なのか…』
大野「それでそこから発展して、斑目さんと1年生の女子で『さよなら絶望先生』のコスやることになったんです」
神田「でも実は、他にもちょっとしたサプライズを用意してるんですよ」
悪戯っぽく笑う神田。
笹原「へー、どんな?」
神田「(唇に人差し指を当て)秘密です」
大野「どうですか笹原さん、なかなかの名プロデューサーでしょ、神田さん?」
笹原「何やら嫌な予感が…」

笹原「とすると、あっちのセーラー服とブレザーは?絶望先生のとは違うみたいだけど」
荻上「あれはハルヒの学校の制服です」
笹原「それもコスプレするの?」
荻上「うちの同人誌の売り子用なんです」
笹原「…ということは、同人誌のネタってハルヒなの?」
荻上「そうです。『涼宮ハルヒの憂鬱』です」
笹原「またえらく男性向けなのを題材に選んだね」
荻上会長は、その経緯を説明し始めた。

7月も後半に入り、印刷所への入稿〆切まで残り10日を切ったある日のこと。
その日も部室では、サークル参加の同人誌のお題についての議論が続いていた。
参加者は腐女子四天王の豪田、台場、巴、沢田、ヤオイは最近始めたばかりの神田、ただ1人の男性の絵描きの有吉、そして荻上会長という面子だ。
部室の外では、国松が妖怪人間ベムの着ぐるみコスを作っていた。
今日の作業は、溶かしたラテックスを石膏の型に塗りつける作業なので、さすがに部室の中ではやり辛い。
ちなみに日垣は田中、大野と共に資材の買出しに出ている。
クッチーは就職活動中だ。
そして浅田と岸野の2人は、ここ数日夏コミ用の軍資金を稼ぐべくバイトに精を出し、部室にはあまり姿を見せていなかった。

海水浴効果(「17人いる!」参照)でわだかまりが無くなり、みんな我を通さなくなったものの、今度はそれが逆に足枷となって議論を長引かせていた。
例えばAさんがaという案を主張し、Bさんがbという案を主張していたとする。
やがてAさんがbという案もいいなと言い始める。
ところがその頃には、今度はBさんがaという案(あるいはCさんのcという案)もいいなと言い始める。
その一方で、Dさんがdという案を捨てて、新たにddという案を出したりする。
そんなことの繰り返しで、結局のところ1つの案に賛同者がなかなか2票集まらないという状態が続いた。

もっともここまで議論が長引くのには、もうひとつ理由があった。
それはコミフェスへの出品が、必ずしも毎年出来るとは限らないということだ。
毎年必ず出品する枠が設けられている大手と違い、現視研のような無名の弱小サークルは次はいつ出品出来るか分からない。
くじ運が悪ければ、今回が彼女たちの大学での最後のサークル参加になるかも知れない。
そう考えると、どうしても今回最高の本を作らねばという思いが過剰になってしまう。
テーマひとつ選ぶのにもついつい慎重になり過ぎてしまうのも、ある意味仕方ないことかも知れなかった。

強権発動して決めてもよかったのだが、荻上会長は敢えて1年生だけで納得行くまで話し合わせて決めさせることにした。
今回の同人誌の件については、荻上会長はオブザーバーに徹し、暴走した時だけ止め役に回る程度以上には介入しないと決めていた。
彼女たちを信頼しているというのもあったが、もうひとつ別の目的があった。
それは次期会長に誰を推すか選定することだった。
順調に原稿が上がれば、10月末に出る「月刊デイアフター」12月号から荻上会長の作品は連載開始する。
8月中に第1回の原稿を上げ、以降月に約20Pずつ原稿を上げていかなければならない。
編集部の担当の人は「学生さんなんだから、1回や2回原稿落としても大丈夫だから、気楽にやりなさい」と言ってくれてはいるが、その言葉に甘える積りは無かった。
やるからには絶対に原稿は落とさない、当たり前のことだがそう決心していた。
ただそうなると、やはりどうしても会長としての職務はおろそかになるかも知れない。
現に今でも、3年生は荻上会長1人きりで手が回らないので、会計は台場(簿記の資格を持ってたので)に任せてるし、書記や様々な提出書類は神田(ペン習字1級で字が上手いので)に任せていた。
とりあえず今考えてるのは、秋頃に誰かを会長代行(あるいは名称は副会長でもいいかも知れない)に任命して、半年近いテスト期間を経て決めるという方法だ。
あるいは男女ほぼ半々で2桁の人数なのだから、体育会系のクラブみたいに男子リーダーと女子リーダーを1人ずつ選んでもいいかも知れない。
ただそれにしても、今年の1年生は人数が多い上に、リーダー候補が多過ぎた。
先ず腐女子四天王にはリーダー格の豪田がいる。
彼女は決して押しの強さと口数だけでリーダーぶってる訳ではない。
小学生の時から少女漫画を描いてて、経験に裏打ちされた知識や技術には、各自それなりに敬意は払っていた。
それに世話好きで面倒見のいい一面もあった。
四天王の参謀的な役割の台場は、ヤオイ方面の知識と情報量と理論では誰にも負けない。
口数は少なく前に出ることは少ないが、巴は高校時代ソフトボール部のキャプテンの経験がある。
さらに高校時代の経験で言えば、有吉は漫研の会長、伊藤は文芸部の部長だったそうだ。

その一方で、荻上会長は逆のことも考えていた。
と言うのも斑目会長のように、どっちかと言えばリーダーっぽくない押しの弱そうな人が会長やって上手く行った(そうか?)例もあるからだ。
今の1年生たちの代のリーダー候補たちは皆個性的なので、役職と責任で縛るより好き勝手やらせてやり、別のリーダーが止め役として制御した方がいいかも知れない。
その意味でどっちかと言えば大人しそうな、沢田、神田、国松、日垣、浅田、岸野という目もあるかも知れない。
その辺を見極める為の試金石、荻上会長は今年の夏コミをそう捉えていた。

ケンケンガクガクの議論の末、台場が妥協案を出した。
まず各々が描きたいと思うお題をメモ用紙に書く。
そのメモを四つ折りにして、ちょうど空になったティッシュの箱に入れる。
そしてよく振って荻上会長に1枚引いてもらい、当たったものを今回のお題とする。
まあ早い話がくじ引きである。
台場「最も公平で民主的で、そして神聖なる方法よ」
豪田「でもここまでモメて、くじ引きってのも…」
台場「慌てないで、その辺のフォローも考えたから」
台場が考えたのは、次のような方法だった。
くじで外れた者は、当たりの原稿を手伝う一方で、自分の書いたお題のコピー本を作れる。
ただしコピー代は自腹なので、作る作らないは各自の判断に任せる。
そしてコピー本は、印刷所で刷った方の同人誌に「おまけ」として付けるのだ。
おまけを付けるか付けないかは、お客さんの希望に従う。
おまけ付きの特装版も、おまけ無しの通常版も値段は同じにするので、どっちにしてもお客さんには損は無い。
あくまでもお客さんの好みや都合で選んでもらえばいい。
捨て身の「損して得取れ」商法だ。

巴「値段均一はちょっと無理が無い?」
沢田「本体の値段に、おまけ分上乗せ出来ないの?」
台場「本体は基本20ページぐらいで1冊500円の予定だから、上乗せ分は殆どないわ」
豪田「てことは、完全に自腹?」
台場「だからこの方法は強制にしない方がいいと思うの。自腹でも自分の本出したい人は出す、うちの同人誌に全力つぎ込むって人は出さない、そんな感じでいいんじゃない?」
しばし考える一同。
豪田『うーん、今度の同人誌は200部刷る予定だから、仮に半分おまけ付けるとしても100部、全部に付けたら200部か…』
巴『おまけコピー本を仮に10ページ程度として、2ページ並べてコピーすれば、コピー代は1部50円』
沢田『仮にコピー代1部50円ぐらいなら、100部なら5000円、200部なら10000円か』
有吉『普段なら5000円や10000円ぐらいなら出せるけど、夏コミを控えたこの時期にそれだけの出費は痛い』
一同『うーむ…』
ちなみに彼女たちに、パソコンのプリンターを使うという選択肢は無かった。
「昔プリンターで大量にコピーしたら、途中で壊れてえらい目に遭った」
「コピー本をコピー機以外で作るのは邪道」
「パソコンで原稿描く場合以外で、プリンター使うのは邪道」
理由はいろいろだが、何故か全員プリンターに対して禁忌意識を持っていた。

金がネックになって議論が膠着したので、荻上会長は助け舟を出すことにした。
荻上「ねえ台場さん、コピー代ぐらいはうちの予算で出せない?」
台場「今回はコスプレで相当使ってるから、印刷代までで赤字なんです。それにこの方法、僅かな金額とは言え自腹がかかってるからこそ真剣になるし、燃えるんです」

台場の瞳に怪しい光を見て荻上会長は少したじろいだが、それでも金でもめるのは避けたかったので別の財源を提案した。
荻上「いざとなれば、初代会長が好きに使ってくれっておっしゃってたOB会費も預かったままだし、私も春夏秋冬賞の賞金残ってるし…」
台場「(大声で)それは絶対ダメです!」
凍り付く一同。
台場「…すいません、大声出して」
荻上「何でそんなに無理に自分たちだけでやろうとするの?そりゃ同人誌についてはみんなに任せたけど、こういう問題ぐらい私に相談してもいいじゃない?」
台場「こういう問題だからこそ自分たちで解決しなきゃいけないんです。だって荻様…会長もうすぐ本格的に漫画家としてデビューされるから」
はっとなる一同。
台場「大野先輩は9月で卒業するし、恵子姉さんは来年専門学校卒業だし、朽木先輩も来年卒業です。残るのは私たちと、秋に来る外人さんたちだけになってしまいます」
一同「…」
台場「来年には、もう私たちがこの現視研の主力になるんです!私たちで現視研守っていかなきゃいけないんです!だから、何時までも会長に甘えてちゃいけないんです!」
荻上『台場さんがこんなに長々と熱く語るの初めて見たなあ。意外と熱血だったんだ、この子…』
熱くなったせいか、台場の演説は脱線し始めた。
台場「地球の平和は、我々地球人の手で守り抜かなければならないんです!俺たちの翼で!」
一同「俺たちの翼?」
台場「(赤面し)すっ、すいません、今のは無しです。最近千里に薦められて『ウルトラマンメビウス』見出したもんで、つい…」

豪田「ウルトラマンってことは特撮?」
台場「そうよ。特撮っていうと畑違いみたいに思えるかも知れないけど、我々腐女子にとっては宝の山よ」
巴「そうなの?」
台場「まあ戦隊シリーズとか仮面ライダーシリーズがネタになること多いけど、メビウスは凄いわよ」
豪田「そんなに?」
台場「だってどう考えても、私たちみたいな視聴者層を狙ってるとしか思えない台詞とか状況がバンバン出てくるのよ。例えば、男同士で『僕たちの思い出の場所』とか…」
巴「マジ?」
台場「だから千里にヤオイの何たるかを教え込むのには、絶好のテキストになったわ」
有吉「国松さんまで引っ張り込むの?」
台場「引っ張り込むというより、本来の姿に戻すだけよ」
有吉「本来の姿?」
台場「(右拳を握り)ホモが嫌いな女子はいません!」
女子一同「(首を前後にコクコクしつつ)うんうん」
その後も特撮とヤオイに関する議論がしばらく続いた。
ひと区切り付いたところで、荻上会長は軌道修正を図る。
荻上「さあみんな、本題に戻るわよ」

先程まで殆ど発言していなかった神田がポツリと言った。
「あの…うちのコピー機使えば、そんなにお金かからないと思うけど…」
一同「うち?」
荻上「神田さんの家って、コピー機あるの?」
神田「ええ、ありますよ」
豪田「ミッチーの家って、文房具屋さんかコンビニなの?」
神田「ううん、普通の一戸建て」
巴「じゃあ家が設計事務所か何かとか?」
神田「ううん、パパただの会社員よ。ママ専業主婦だし」
沢田「それじゃあいったい…」

神田「みんなの家って、コピー機無いの?」
一同「(首を横に振りつつ)無い無い無い!」
神田「そうなんだ…案外コピー機ある家って少ないのかなあ?」
有吉「いや普通ある家の方が少ないから」
神田「そうなの?昔小さい時、パパやママのお友達の家によく遊びに行ったけど、どこもあったわよ。だからコピー機って、どこのご家庭にもあるもんだと思ってた」
一同「(首を横に振りつつ)無い無い無い!」
台場「ミッチーそんなもん、何時から家にあったの?」
神田「何時からって…昔からあったからなあ。買ってもらったのは中学入った時だけど」
一同「買ってもらった?!」
神田「うん、小学生の間はママの借りてたんだけど、中学入って私も欲しいって言ったら、パパが買ってくれたの」
巴「ママのって?」
神田「ママのが1番機能充実してるのよ。パパのだと白黒しか出来ないし、お兄ちゃんのはA4までしか使えないから」
一同「はい?」
有吉「あの、神田さん、それはもしや、家族全員がそれぞれ1台ずつコピー機を所有している、という意味?」
神田「普通そうじゃないの?」
一同「(首を横に振りつつ)無い無い無い!」
荻上「つまりそれって、もしかして神田さんのご家族って、全員同人誌作ってるってこと?」
神田「はいっ、毎年1人7~8冊は作ってますよ。私も今回は現視研の分と別に、うちの家族の知り合いのサークルに委託で置いてもらう分作るし…」
神田一族のDNAに戦慄する一同。
荻上『ある意味この子、1番現視研の会長に向いてるかも知れない…』

神田のコピー機提供により、くじに外れた者のコピー本も費用は紙代オンリーとなって気楽になったので、台場の案は採用された。
荻上会長がくじを引く。
くじを開いてみると「涼宮ハルヒの憂鬱」と書かれていた。
ブーイングが起きた。
豪田「ちょっと待ってよ!それじゃあカップリング1つしかないじゃない!」
台場「そうよそうよ、古泉のニヒル攻めとキョンの逆切れ受けしかないじゃない!」
豪田「ちょっと、それは逆でしょ?キョンの強気攻めに古泉の冷静解説受けじゃない!」
ケンケンガクガクのカップリング論争が続く。
荻上「もうみんな、その辺にしなさい!それよりハルヒって書いたの誰なの?」
有吉「僕です」
一同「有吉君?何で?」
有吉「みんなハルヒ好きだし、ハルヒならカップリング出来るキャラ限られてるから、あんまり揉めないかなと思ったんだ。結局揉めたけどね」
荻上「うーん…あのね有吉君、例えば男の子が18禁同人誌作る時、まず気に入ったキャラにあれこれすることが主眼になるでしょ?」
有吉「そうですね」
荻上「でも女の子の場合は、そういう人もいるけど、先に状況設定とかストーリーとかがあって、その必然としてカップリングが出来るのよ」
有吉「なるほど…」
荻上「だからあれこれ議論になるのは、それぞれの頭の中の設定やストーリーがそもそも違うからなのよ。それをまとめるには、納得いくまで話し合うしか方法は無いのよ」
巴「まあ結局のとこは、どっちかが折れないと決まらないのが実情だけどね」
豪田「でもその話し合いがまた楽しいのよ、女の子は」
有吉「そんなもんなんですか」
荻上「そんなもんなのよ。とは言っても、そろそろ〆切も迫ってるから、今回は有吉君の意見採用すべきだと思うの。みんないい?」
筆のひと声、もとい鶴のひと声で同人誌のお題は「涼宮ハルヒの憂鬱」に決まった。