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その一 短いようで長い冬の一日 【投稿日 2005/11/27】

カテゴリー-2月号


「や。」
「あ・・・。」
年の瀬も迫り、凍えるような東京の冬。ここは国際展示場駅前。
夏コミのときと同様に、笹原と荻上は待ち合わせをしていた。
「今回もどうもありがとうございます・・・。」
そういってお辞儀をするも、荻上の顔は相変わらずの仏頂面。
「いや、ま、暇だしね。」
あはは、といつものような会話をする笹原。
「じゃ、行きましょうか。」
荻上はそういうと、先に逆三角形のほうに向かう。
「あ、ちょっと待ってよ。」
それを追いかけて行く笹原。少し駆け足になり荻上の横に着く。
進む道はサークル入場口。その隣の道では一般入場者が列を成していた。
「いやー、今回も人多いねえ。」
「冬は二日間ですからね。集中もしますよ。」
「だねえ。」
「大野先輩たちはあの中ですか?」
「だって。さっき田中さんからメールがあったよ。今回は初日から皆来てるみたい。」
「皆?」
怪訝そうな顔をする荻上。
「ん。斑目さんとか、高坂君とか。咲さんも来てるんだってさ。」
「へ?本当っすか?」
ぎょっとした表情をした荻上に、笹原はにっこりと笑うと、頷く。
「うん。最後だし、ま、記念みたいなものだってさ。」
「まあ、高坂先輩も来てますしね・・・。」
少し話が途切れる。
笹原はいつもと代わり映えのない荻上の様子を見て、少し安心する。
最近、しょっちゅう思い出すのは、合宿のこと。
(・・・・ここで、何とかしなきゃなあ・・・。)
あの日、大野に言われたことを思い出して、少し顔を引き締める笹原。

合宿初日、その夜。隣の部屋でまったり男たちは飲んでいた。
疲れが出たのか、斑目と朽木は早々に潰れてしまい、笹原は一人さらにのんびりしていた。
そこに、女部屋から大野さんが出てきた。
「あ、終わったの?」
「・・・・なに平和そうな顔をしてるんですか!」
酔っ払っている大野は、掴み掛からんばかりの喧騒で笹原に迫る。
「もう、皆寝ちゃいましたから言いますけど!」
「は、はい?」
「荻上さんのこと、どう思ってるんですか!」
冷や汗、赤面満面になる笹原。
「ど、どうって・・・。」
「どうなんですか!?」
「す、好きですよ・・・。」
意外とあっさり答えが出てきて勢いが削られた大野は、空いているいすに座る。
そして、残ってたビールに手をつける。
「グビッ。そうですか。ならいいんですよ。」
(まだのむんだ・・・。)
「でもね、笹原さん?」
「は、はい。」
もう、笹原は恐縮仕切り。
「荻上さんには癒しがた~いおも~い傷があるんです!それをどうしますか!」
「ストップ!」
その言葉を聴いた瞬間、笹原はいつもとは違う真剣な表情をして手のひらを突き出す。
「な、何ですか?」
いつもと様子の違う笹原に、今度は大野が縮こまる。
「何かあるのはなんとなく知ってたけど・・。それ、聞きたくないから。」
「なんですってー!!」
ボルテージが再び上がる大野。先程より強い勢いで笹原に迫る。
「なんで、そんな事いうんですか!好きなんでしょ?!好きなら相手の事知りたいんじゃないんですか?
知らないで幸せにできると思ってんですか?!」
フーッ、フーッ。
ここまでほぼノンストップで言って息が上がる大野。
「いや、そういう意味じゃないんだよ。ちゃんと聞いて。」
「は、はい。」
先ほどの表情を変えない笹原に少し興奮した自分を反省する大野。
「大野さんからは聞きたくないって事。もちろん、ほかの誰からもね。」
「それは・・・。」
「うん、本人から聞きたい。だって、そうじゃなきゃまた彼女傷つくと思うから。」
「でも・・・。優しいだけじゃ、うまくいきませんよ・・・。」
笹原の優しさからの発言に、逆にしょんぼりしていく大野。
「それでも、いま俺が聞くことで彼女が傷つくなら・・・。聞きたくない。」
笹原はそういって、目を瞑る。
「知りたくないってわけじゃないんですよね・・・?」
「もちろん。逆に知りたいよ。でも、だめ。今はね。」
「でも・・・、このままじゃ・・・。すぐに卒業ですよ・・・?」
そう、彼に残された時間は後半年。
「もし、ぎりぎりうまくいっても、彼女には一緒にすごす学生生活はなくなっちゃうんですよ。」
「うーん、俺のこと荻上さんが好きとも限らないしね。」
そういって、久々の笑顔をみせて、たはは、と笑う。
「なにいってるんですか・・・。彼女の態度で分かりますよ・・・。」
大野も笑顔を見せる。
「そうかな?実はまだあの発言が引っかかってたりして・・・。あはは。」
今度は少し情けない表情に変わる笹原。
「あー、『オタクと付き合うわけじゃないですか』ですか?」
数ヶ月前の部室でのやり取りを思い出して、大野は少し笑う。
「大丈夫ですよ、それは。きっと・・・。」
自分に向けた嫌悪。おそらく、本当は『笹原さんが自分みたいな』が先頭に隠れてたんじゃないかだろうか。
「そう?なら、まだ希望はあるのかな?」
「それどころか!笹原さんには荻上さんを幸せにしてもらわないと!」
そういって大野はがばっと立ち上がる。
「え、え。幸せに・・・?」
その発言に戸惑いまくる笹原。
「そうです!あんな過去を背負ってるんです!今までもずっと独りだったんでしょう・・・。
いい加減幸せになって・・・ほしっ・・・。」
大野の目には涙が浮かんでいた。
「うん、わかった。」
そういってハンカチを渡す笹原。
「あ、ありがとうございます・・・。すいません・・・。」
興奮しすぎたことか、自分の意見を押し付けてしまったことか、
どちらかは分からないが、大野は笹原に対して謝る。
「ううん。幸せになってほしいって思うのは俺もそうだから。」
「はい・・・。」
「それが、俺でできるなら・・・。」
「はい・・・。」
「でも、12月までは待ってくれないかな?」
「え・・・?」
「冬コミまでに、最悪冬コミで何とかする。また手伝おうと思うから・・・。」
「でも、まだ受かるとは限りませんよ・・・?」
冬コミも抽選によってサークル参加できるか決まる。
荻上は応募はしたが、まだ結果は戻ってきてない。
「なら別の機会に何とかする。だから・・・ね?」
大野は少し考える。この人はあくまで荻上さんに無理に踏み込まないつもりだと。
それがいいことなのか?自分としては少し強引さも必要とは思うのだが・・・。
「・・・わかりました。」
結局、笹原を信用することにした。
「でも、12月過ぎてもだめだったときは・・・。」
「大野さんが思うようにしていいよ。」
強い口調で言って、再び真剣な表情に戻る笹原。
「本気、と思っていいんですよね?笹原さん。」
「あはは、ちょっと似合わないかな。」
再び笹原は笑顔に戻る。
「うふふ・・・。いえ・・・。そんなことないですよ?」
大野は少し、安心してしまった。この人なら大丈夫なんじゃないだろうか?
よくは分からない安心感を笹原は生み出している。
「じゃ、俺は寝るね?そろそろ眠くなってきたし・・・。」
笹原は伸びをして、欠伸をすると、立ち上がる。
「はい。おやすみなさい・・・。」
笹原は高坂の寝てる部屋に入っていった。
「・・・大丈夫、ですよね・・・。」
「ま、大丈夫だろ。」
その声に大野はびくつく。寝てたと思った斑目がムクリと起き上がった。
「お、起きてたんですか・・・。」
大きな声を出しそうになるのを抑えて、声を小さくしてひそひそ話をする。
「まあね。あれだけ大声出されりゃね。朽木君はぐっすりのようだけど・・・。」
斑目は爆睡中の朽木を見る。
「えっと・・・。どのあたりから?」
「知りたくないんですか?あたりからかな。」
少し恥ずかしくなって縮こまる大野。
「ま、荻上さんにヘヴィーな過去があったわけだ。」
「そうなんです・・・。」
「それは後で聞くとして・・・。笹原は大丈夫でしょ。」
妙に自信満々に語る斑目に違和感を感じた大野はつい、勘ぐる。
「なにか、ありました?」
「い、いや?なんか予感よ、予感。」
やはり斑目は自信満々の口調で言う。
「よ、予感といわれても・・・。」
「まー、あいつとの付き合いも長いしな。やるときはやる男だからな。」
「そういえばそうでしたね・・・。」
笹原は会長就任以降、色々やってきたのは周知の事実。
「俺とは違ってな・・・。」
ぼそり、と小さな声でつぶやく斑目。
「え?何か言いました?」
危うくそれを聞き取られそうになり、あわてる。
「いや、いや、なんでもないよ。」
「でも・・・。何かしてあげたい・・・。」
そういって俯く大野。傍から見ればお節介なのかもしれないが、
彼女は心配なのだ。荻上のことが。
「じゃあ、とりあえずは、だ。」
「はい?」
「二人を話しやすい状態にさせよう。」
「あ・・・。」
今現在の二人には会話もない状態だ。一番、今の状況を変えるにはいいだろう。
「さすがの俺でも、今日一日会話なけりゃ気付くよ。」
「ええ・・・。それとなく、ですね。」
こくん、と頷く斑目。
「ふーん、斑目にしちゃよく見てんじゃん。」
声のしたほうを見ると、咲が敷居のあたりに立っていた。
「さっきから一応黙って聞いてたんだけど・・・。
笹やんやる気みたいだし、任せてみようよ。」
大野が暴走しすぎたら止めるつもりだったのだろう。
「ですね・・・。」
「ま、うまくいくといいわな・・・。」
そういって笹原の寝てるほうを見やり、ふいと斑目は天井を仰ぐ。
「疲れたの?」
咲にその姿勢を見られた斑目は、少しあわてる。
「い、いや、別に。」
(いえねえよな。俺の二の舞にならなければな・・・、なんて。)
天井を見上げたのは、咲のほうを見れなかったから。
彼の恋はきっと報われない。しかし、斑目には忘れることはできない。
(告白して玉砕すりゃすむんだろうが・・・。今の関係は壊したくねえ・・・。)
軽井沢の星の元、様々な思いが交錯した夜だった。

合宿二日目。起き上がってきた荻上は完全に二日酔いだ。
先に起きていた笹原はそれとなく荻上に水を差し出す。
びくっとなる荻上。笑う笹原。
恐々、差し出された水を受け取る荻上。
少しの間。感謝の言葉。
影で見ている三人。少し、ホッとする。
それ以降、二人の会話は徐々に前の状態に戻ってきた。
言えなかった内定おめでとうの言葉。
ちょっとした雑談。元の関係に戻ってくる。
でも、何かが引っかかっているように、笹原には感じられた。
おそらく、荻上は本を見られたことを気にしている。
実は、それ以上に、笹原の近くにいていいのか悩んでいる。
彼女の傷は思ったより深い。
ただ、誰かに傷つけられたのならまだ治りも早いだろう。
しかし、彼女の場合は、自分が人を傷つけたという事に対する自戒。
それを解消する方法は、誰かがどうこうする問題ではない。
彼女自身が、それと向き合わなければならないのだ。

そんなこんなで、夏コミと同様、否、少し心構えの違う二人がここにいた。
「いやー、でも本当良かったね。受かって。」
「まあ・・・。駄目なら駄目でよかったんですけど。」
そう、相変わらずの口調の荻上。少し苦笑いの笹原。
「そういわないようにしようよ。落ちた人もいるんだからさ・・・。」
「う・・・。すいません・・・。」
少し、反省した顔になる荻上。ニコリと笑って笹原は言葉を続ける。
「今日は晴れっぱなしのようだね。大野さんや田中さんはうれしいだろうなあ。」
「ですね。この寒空の下でよくやりますよ・・・。」
「それだけ好きなんだろうね・・・。」
そんな会話をちらほら続けながら会場の中へ。
「今回はここ、ですか・・・。」
「前と似たようなところだね。」
自分たちのブースにつく。届いている新刊の包みを見つめる荻上。
「どうぞ。」
笹原は笑いながら荻上を促す。荻上は包みを破り、中身を確認する。
「どう?」
「悪くは・・・。ないです・・・。」
まるでデジャ・ビュを見てるかのような会話。しかし、ここからが違っていた。
「・・・見ていいかな?」
びくっ!
よもや笹原がそんなことを言い出すとは思っていなかったため、鼓動を早める荻上。
「な、何言ってるんですか・・・。呪われますって・・・。」
自分で何を言ってるのかも、荻上は分からない状態におちいる。
「あはは・・・。そんな訳ないでしょ。どうしても駄目って言うならいいけど・・・。」
やっぱり笹原。強くは出れない。
「先輩別に興味ないじゃないですか、こういうの・・・。」
荻上は取り出していた一冊の新刊を抱きしめる。顔はもう真っ赤だ。
「まあね。でも、荻上さんの作品だから、読みたいっていうのはあるよ。」
そんな言葉をかけられ、少しうれしい感情がこみ上げる荻上。
「で、でも・・・。」
それでも。自分の本は人を傷つけるかもしれない。
「大丈夫、大丈夫。俺別にそういうの見たことないって訳じゃないからさ。」
実際、大野が持ってくる本を絵に惹かれて読んだことがあった。
内容はともかくとして、絵を楽しむつもりで読む男は少なくはない。
「う・・・。」
「いいかな。」
それでも意固地になろうとする荻上をよそに、包みのほうに移動する笹原。
返事がないのは了承のサインと判断した笹原は一冊、新刊を手に取り、読み始める。
ぱら・・・。ぱら・・・。
「あ・・・。」
読まれてしまった。もはや荻上は放心状態になる。
しかし、笹原から出た言葉は彼女にとって意外なものだった。
「ん。いいね。印刷もいいし・・・。やっぱりコマ割にセンスがあるなあ・・・。」
「は・・・?」
「え、なんか変なこといった?」
荻上が驚愕するのをよそ目に、笹原は手に持った新刊を元に戻す。
「いえ・・・。あ、ありがとうございます・・・。」
「余ったら一冊買うね。あ、前のも買おうかな。」
ブースの中に入り、準備を始め出す笹原。それを見てあわてて手伝う荻上。
「いいですよ・・・。手伝ってくれてますし。渡します。」
そういって、自分の荷物の中から既刊本を出す。そう、夏コミのときの本。
「そう?ならもらうね。」
笹原は一冊ずつ荻上から受け取る。
「ありがとう、あとでゆっくり読むよ。」
「は、はい・・・。」
ここまで、笹原はかなり頑張っていた。冷静を装いつつ、内心はかなり冷や汗ものだった。
強引に読んだことで、嫌われるんじゃないかと思っていたのだ。
本については、そういう系の本について内容の良し悪しは分かりかねるが、
コマ割や、描写などはよかったと思っていた。
(少し強引に行くことも大切だね、大野さん・・・。)
そう、現会長の言葉を思い出していた。
「じゃ、こんな感じかな。」
「あ、はい。それでいいです。」
飾り付け、ポップなどもうまくでき、準備は万端、といった状態になる。
荻上は荻上で、いまだに少し混乱していた。
平静は装いつつも、笹原のコメント、行動にドキドキしていた。
褒められるどころか、もし本格的に見られたら軽蔑されると思ってたのに。
そんなことをする笹原でないことは分かっているはずなのだが・・・。
(笹原さんは・・・。いいのかな?私ここにいて・・・。)
席に座り、四ヶ月前と同じように、会場の挨拶を聞く二人。
『ただいまより、コミックフェスティバル69を開始いたします・・・。』
ぱちぱちぱちぱち・・・・・。
拍手が会場中に響く。前と似たような、でも違った二人のコミフェスが始まった。

「二人は大丈夫かな・・・。」
コスプレ広場でいつものように撮影をしていた大野はつぶやいた。
「んー、心配しすぎてもしょうがないよ。」
「それはそうなんですけど・・・。」
田中はカメラを抱えながら撮影をする。
「顔に出ちゃうと、せっかく似合ってる衣装が台無しだよ。」
「はい。そうですね。信用したんですから・・・。」
笑顔に戻って撮影を再開する大野。
『ハーイ、カナコ!』
遠くから大きな声がする。
『はいはい、今行くから待っててよ・・・。』
そう、アンジェラが来ているのだ。もちろん、スーも。
スーのお目当ては当然同人誌だが。
『スー、大丈夫かな?』
『前に来たとき、問題なかったじゃない。今度も大丈夫よ。』
相変わらず能天気気味な発言をするアンジェラ。
『まあね・・・。』
(二人のところ行って何かしなけりゃいいんだけど・・・。)

「ありがとうございました・・・。」
島中で、人通りも少ないジャンル。売れる量もさして多くはない。
「よ。」
そこに現れるは斑目。
「あ、ちはっす。」
「あ、ども・・・。」
「どーよ、調子は。」
そういってブースを見渡す。少しそわそわしてるのがわかる。
「ぼちぼちですね。」
「でも、前買ってくれた人がまた来てくれたりしました・・・。」
そういって、少しうれしそうな表情を見せる荻上。
「そか。よかったじゃん。じゃ、頑張れよ。」
そういって、颯爽と去る斑目。
「・・・いなくなるの早かったですね。」
「たぶん、女の人しかいない空間に耐えられなかったんじゃない?」
あたりです、笹原君。
(なんなんだよー。ああいうブースって回ったことないからマジ緊張したー。
コミフェスの男女比が女性のほうが多いってマジなんだな・・・。)
さすがです、斑目先輩。

コミフェスの時間は過ぎる。
他愛もない会話をしたりしながら、二人はこの時間を楽しんでいた。
「あ、ちょっとトイレ行ってきます・・・。」
「うん、いってきなよ。」
そういって席を離れる荻上。
やることもなくなった笹原は、先ほどの同人誌に手を伸ばした。
「ん・・・?」
前回の本を読んでいる時に少し引っかかる。
「これって・・・?」
どこかで見たような会話。描写。
「あれ?この会話・・・。どこかで・・・。」
そして思い出す。自分と斑目のしていた会話にそっくりだったことを。
「もしかして・・・。」
先に進む。それは確信に変わる。
「あ、これ俺と斑目先輩の・・・。」
ネクタイを使ったネタなど、そういうことをしたことが思い出せる。
「なるほどねえ・・・。」
そこに丁度帰ってきた荻上は、本を読んでいる笹原の怪訝そうな顔に緊張する。
「あ、あ、さ、笹原さん・・・。」
「あ、お帰り。」
相変わらずの笑顔を変えない笹原。
「そ、それ・・・。」
「ああ、これね。びっくりしたよー。俺と斑目先輩のでしょ、この会話とか。」
「そ、そうです・・・。」
笹原に指摘され、認めざるをえない荻上。
「へえ・・・。こういう所から作ったりするんだ・・・。」
「あ、あの!すいませんでした!」
「へ?」
急に謝られ、驚く笹原。
「勝手にそんなことに使っちゃって!嫌ですよね?そうですよね?」
すでに涙目になりかけている荻上に、少しためらったあと話しかける笹原。
「ま、座って。」
「は、はい・・・。」
座るよう促され、荻上は席に座る。何を言われるかと、おどおどしていた。
「えーと、まあ、びっくりはしたけど、嫌とか別に・・・。謝る必要はないから。」
「で、でも・・・。勝手にそんな風に・・・。」
「うーん、まあこれは俺たち本人ではないしね。」
俯いたままで荻上は過去のことを振り返る。
胸が、ちくちく痛む・・・。
「で、でも。や、やっぱり、本人とかでやってたら嫌ですよね・・・。」
少しの間があった。
「ぷっ、あはは・・・。」
「へ?」
急に笑い出した笹原に、荻上は怪訝な顔をする。
「はは、ご、ごめん。たぶんね、笑うんじゃないかな?」
「は?」
そういって顔を上げた先には、笹原の満面の笑顔があった。
「今想像してみたけど、冗談にしか思えないよ。
逆にそれで荻上さんに怒られそうな気がするけどね。」
「い、いや、そんなこと・・・。」
「やっぱりそういうのって理解できないから、ギャグか何かかなって思っちゃいそう。」
「・・・そういうもんですか・・・。」
「あ、ごめん、怒ったかな?でも、そういうもんじゃないかな。」
「いえ・・・。」
「でも、そういう想像で楽しむのって言うのはありだと思ってるんだけど・・・。」
「そうですね・・・。」
そういって考え込む荻上。笹原はその態度に少しびくつきながら、あえて話しかけない。
荻上は考える。この人は私を。ありのままの私を受け入れてくれるんだ。
あの時以来ずっと出さないようにしてきた男の人への好意。
自分なんて受け入れてくれるはずもない。そういう思い込みとともに生きてきた。
ここで、変われるのかもしれない。荻上は切り出した。
「あの・・・。聞いてほしい話があるんです・・・。」

「ったく、何でこんなに人がいんのよ。」
「しらねーよ、姉さん。聞かないでよ。」
会場地下のレストランで二人お茶をする咲と恵子。
「皆、まー、必死。よく熱中できるよ、と思う。」
「だねー。少し尊敬できるかも・・・。」
「おまえ何もねーもんな。」
「なんだよー。何もねー訳じゃねーよー。」
そういって恵子は膨れる。
「ふーん、じゃ、何かアンの?」
「う・・・。」
咲の問い詰めに言葉の出ない恵子。
「だからあんたは駄目なんだよ。少しは兄貴見習いな。」
「ええー。兄貴ー?」
テーブルに突っ伏して恵子は不満そうにする。
「しっかりしてるよ、最近の笹やんは。」
「そうだね・・・。」
そういって、遠くを見るような目になる恵子。
「どした?」
いつもと違う態度に少し驚く咲。
「ん。兄貴も色々あったからさ・・・。荻上の話聞いたとき思い出しちゃったんだ。」
「え・・・?」
さすがの咲も、そうくるとは思ってなかった。
「兄貴、大学入るまでオタだって隠してたじゃん。
家ではそういうのもってたから、あたしには丸分かりだったんだけど。」
「ああ。らしいね。」
咲が思い出すのは初体面のとき。ぶん殴ったこと。
「隠してた理由があってさ・・・。ずっと忘れてたんだけど・・・。」

荻上の過去の告白が終わった。
よもやすぐに話してくれるとは思ってなかった笹原は驚きつつも、その話を聞いていた。
「私・・・。巻田君を傷つけたとおもって・・・。いまだに傷ついてたらっておもって・・・。」
泣きそうになる荻上に対して、笹原は言葉をかける。
「うん・・・。それは、大変だったね・・・。」
「私が悪くて・・・。だから・・・。」
「うん・・・。」
「もう、こういうのはしないって決めたけんど・・・。
でも・・・。逃げられるもんじゃなくて・・・。」
「うん・・・。」
「でも・・・。私がこういうことをまたしてたら・・・。誰かを・・・。
傷つけることになるんじゃないかって・・・。」
「そっか・・・。でもね、荻上さん。」
「・・・はい。」
あくまで優しく、傷つけないよう言葉を選ぼうと必死の笹原。
「えーと、なんていうんだろう。確かに、悪いことしちゃったよね。」
「はい・・・。」
「でもね、ずっとそのことを荻上さんが気にしてたら、それもよくないんだよ。」
「でも・・・。」
自戒の念はそう消えない。それは、この五年間感じてきたことだった。
「じゃ、今度は俺の番ね。」
「はい・・・?」
「俺の過去話。ま、あんまりためになるかは分からないけど・・・。」
荻上は意外な笹原の言葉に、戸惑うばかりであった。
「俺が隠れオタしてたことは知ってるよね?」
「ええ、聞きました。」
たしか、斑目がそういっていた。それを思い出す。
「まー、何でかっていうとさ、中学ん時はまだ普通にゲーム好き少年だったんだよ。」
「はい・・・。」
話が見えてこない荻上は、それでも黙って聞こうと思った。
「ガキでさ、あの頃は。ゲームさえあればよかったような生活だったんだ。」
そういって少し俯く笹原。
「だけどね、三年になったばっかりの頃ね。気になる人ができたんだよ。
普通の子だよ。まあ、どこにでもいる。でもね、ちょっとした優しさに惹かれたんだと思う。」
ふふっと自嘲気味に笑うと、笹原は顔を再び上げた。
「でね、放課後教室で友達と話してて、トイレにいったんだ。
そのときにね、女の子達の話している姿が見えたんだ。その子もいた。
会話してるのが聞こえて、それとなく聞いたんだ。そしたらその子とは違う子が、
俺のこと話題に出してね。あいつ、ゲームばっかやってるんだってーって。
そうしたら、みんな一斉に気持ちわるーいって言う訳。」
「え・・・?」
「その子も一緒に笑ってるんだ。その後いじめられたわけじゃないし、
普通に過ごしていけたんだけど、傷ついたなあ、あれは。
自分の好きなものが恥ずかしいものなんだって思いこんじゃんってさ。
それで、高校行っても同じ思いしたくなくてずっと趣味隠してきたんだよ。
普通の部活とかに入って、自分の本当の姿隠してた。
その間も家ん中じゃいろいろ趣味の幅増やしてたんだけど・・・。」
そこまでいうと、ふう、と息をつく。
「でも、大学では素直になろうと思ってね。そういう感じのサークル探したって訳。
最初はやっぱり素直になれなかったけどねえ・・・。」
笑顔に変わる笹原の表情。
「その子のことに対して何か嫌な感情を持ってたわけじゃないんだ。
いわれたこと以上に嫌だったのは自分。
そういう風にいわれた自分がかっこ悪いって思った。
でも、早々変わるもんじゃないしね、自分なんて。」
そういった後、笹原は荻上のほうを向く。
「現視研に入ってすっきりしたよ。別にどう見られたっていいじゃないって。
覚悟決めた。まー、あの頃は中坊だし、そういうところ気にしがちだったよね。」
荻上は、その話を黙って聞いていた。笹原にもそういう過去があることに、驚いていた。
「荻上さんのに比べればたいした物じゃないのかもしれないけど・・・。
聞いてて思ったのは、反省しているなら、それでいいんじゃないかなって。
きっと、本人に謝っても荻上さんはそのこと気にし続けるだろうし・・・。
荻上さんが、そんな自分ごと認めるしかないんじゃないかな・・・。
勝手な、本当に勝手な意見なんだけどね。」
荻上はぶんぶん、と首を振り、涙を流した。
「いえ・・・。本当に・・・。ありがとうございます・・・。」
「荻上さんは、もう少し楽に考えてもいいよ。ね?」
「はい・・・。ちょっと、顔洗ってきます・・・。」
「うん・・・。」
そういって、席から荻上は離れていく。
「ふう・・・。まさかあんなに重い過去とは思わなかったな・・・。
でもまあ、これで何とかなる・・・のかな・・・?」
自分の話がどの程度彼女に届いているかわからない。
それでも、これが最善だと思った方法を、とれたと思った。

『ワオ!斑目じゃない!』
アンジェラが斑目のほうに近づく。
「あはは。ども。」
コスプレ広場に現れた斑目をアンジェラは熱烈に歓迎する。
「どうでした?二人の様子は?」
「ん、まあ、普通。今頃どうなってるかはわかんねえけど。」
それに気付いて近づいてくる大野と田中。
「そうか・・・。どうなってるかな?」
「大丈夫だとは思うけどな。今から皆で見に行くか?」
「そうですね!そうしましょう!」
斑目の提案に、乗る大野。
「ま、こっちも一段落したところだし、いいんじゃないかな?」
『WHATS?何の話をしてるの?』
『荻上さんたちに会いに行こうかって。』
『オー!いいね!早く行こう!』
そういってノリノリで先に行こうとするアンジェラ。
『そっちは出口じゃないわよ!もう!』

「落ち着いた?」
「はい。」
戻ってきた荻上の様子は、だいぶ落ち着いたものだった。それでも笹原は心配で聞いた。
「先輩の話が聞けて、良かったです。」
「そ、そう?なら良かった。すぐにどうこうなるもんでもないと思うけど、頑張って。」
笹原は色々考えていたが、月並みな言葉しか出ない。
しかし、荻上はそれで十分だった。この先、彼女は過去と向き合うことになる。
きっかけがあればすぐに消えるようなものだったら、
彼女はここまで苦しむことはなかっただろう。
「はい・・・。」
荻上は思う。たぶん、これからはそこまであのことに囚われることはないだろう。
だが今後、自分を認め、自分の中にある「弱さ」と戦わなければならない。
そのときに。わがままかもしれないけど、隣にいてほしい。
この人がいてくれれば、きっと・・・。もっと頑張れるから。
「あの先輩・・・。」
「ん?なに?」
さっきとは違った意味で心臓の鼓動が早くなる。
「あ、あの、わたし・・・。」
「やっほー、荻上。」
「あ・・・。」
荻上の顔が強張る。荻上の中学の同級生、中島達である。
(この人達はたしか中学のときの・・・?)
笹原は夏コミのときに会ったこの子らが荻上の過去に出てくる友達であることは認識していた。
「カタログ見てたらまた載ってるからさ?」
「ああ・・・。」
「すっごいねえ。毎回毎回。よく出すよ。」
「うん・・・。」
心なしか荻上のトーンが先ほどとは変わって、沈んでいた。
「なつかしいねー。中学。そういえばさ、三年のときさ、本作ったじゃん。」
「・・・。」
よもやそのことに触れてくるとは思ってなかった荻上。少し緊張する。
「巻田にあの本見せちゃったの私なんだよねー。」
「・・・!」
声にならない驚きを表情に出す荻上。
「ちょっとした冗談のつもりだったんだけどさ、あそこまで話が大きくなるとは思ってなくてー。」
中島は笑顔で、いたずらを告白する子供のように話す。
「ごめんね?でも、荻上も気にしてないんしょ?だって今も書いてるしー。」
「ん・・・。」
中島の告白に沈んだ表情になる荻上。一方笹原は、先ほど荻上の過去を聞いたばかり。
この中島の発言に、かなりきていた。もはやいつもの笑顔はない。
(気にしてないはずねえだろ・・・。なんだ、この人・・・。)
いらつきを抑えるために組んだ腕にさらに力が入る。
「荻上もさー、あの時巻田と付き合ってるんなら正直に言えばよかったのに。
隠したりしてるから、あんなことになっちゃったんだよ?」
「・・・。」
更なるトークをする中島に、荻上はもう声も出ない。
「見せようなんて、ううん、作ろうなんて思わなかったのになー。」
「そこまでにしてくれる?」
さすがに見ていられなくなった笹原が、止めに入った。
「え。」
「荻上さんがその話嫌がってるのわからない?」
「だって・・・。」
「君にとってはどうでもいい過去かもしれないけど、荻上さんはそれ、すごく気にしてるから。」
「・・・へー。あの話聞いてるんですか。じゃ、よく一緒にいれますね。」
笹原の言葉に反発するように中島は聞いてくる。
「いや、関係ないでしょ。」
「だって、付き合った男のやおい本描いてるんですよ?」
「んー、別にいいんじゃない?」
「へー。じゃ、今は彼氏なんですか?」
夏コミのときは荻上が大声で否定したこの言葉。当の荻上は口を挟めない。
「今はまだ違うけど・・・。そうなりたいって思ってるからさ。」
その言葉に驚いたのは荻上。顔はもう真っ赤だ。
「ふーん。わかりました。じゃね。荻上。バーイ。」
そういって中島は踵を返すと、連れの女の子とともに雑踏の中に消えていった。
「大丈夫?荻上さん。」
「ひへ?」
ボーっとしていた荻上に声をかけて、その反応に少し笑う笹原。
「えっと・・・。なんか、色々わかっちゃったね。」
「え?ああ・・・。まあ、そのことはどうでもいいです。」
なんとなくわかっていたことだった。
巻田の手にあの本が渡ったのは誰かがそうしなければ起きえないことだったから。
それくらいは荻上にだってわかっていた。でも、そこが、荻上にとって大切なことではなかった。
人に裏切られたことより、人を傷つけたことのほうがつらかった。
「そ、そう?ならいいんだけど・・・。」
「それよりも・・・。先輩・・・。」
荻上が何を言おうとしてるのか最初わからなかったが、笹原はそれをすぐに悟る。
顔に血が上る。
『そうなりたいと思ってるからさ』
「あ、あれ?売り言葉に買い言葉っていうか・・・。」
「じゃあ・・・、嘘・・・だったんですか?」
そういう荻上の口調は少し沈む。
「・・・いや・・・。嘘ではないよ・・・。うん。俺は、荻上さんのこと、好き・・・だよ。」
笹原は荻上に向かって、しっかりとした口調でいった。
「あ・・・。」
顔中赤くして、もう、言葉が出ない荻上。
「あ、でも、嫌ならそう言って。気にする必要はないしさ・・・。」
「いえ・・・。」
「え・・・?」
「私も・・・。さっき言いかけてたことってそれで・・・。」
少しの間。見詰め合う二人。
「笹原先輩。好き・・・です。これからも一緒にいてくれませんか?」
「・・・!うん・・・。俺なんかでよければ・・・。」

「あら・・・?」
丁度、大野たちが荻上のブース近くに来たときに、中島が離れていくところだった。
「何か長いこと話してたみたいだな。知り合いかな?」
「そういえば、前のコミフェスのときに荻上さんの昔の同級生にあったって聞いてたけど。
その人たちなのかな?」
田中と斑目の会話を聞きながら、大野は中島の進むほうを見やる。
「もしかして・・・。荻上さんが中学のときの友達・・・。」
「でもま、普通にやってるから・・・。あれ?」
田中が普通にやってると思ったブースには、顔を真っ赤にして目を合わさない二人がいた。
「何か様子が変だな・・・。」
「ちょっと様子見ましょう・・・。」
ちょっとはなれたところで二人を観察する一同。
アンジェラは何をしてるのかわからない、といった様子。
「何か変なことがあったわけじゃなさそうだけど・・・。」
斑目が様子をもっと確認しようと見つめるその先に、ある人物が接近していた。
「スー!」

「あ、こんにちは・・・。」
『ハロー。』
相変わらずの無愛想キャラで出現したスー。
前回があったので今回はそこまで驚かなかったが。
『新刊出てるんだね。買います。』
「?な、なんていってるんですかね?」
「ニューとか、バイとか聞こえたから、新刊買います、じゃない?」
笹原はかろうじて聞き取れた単語から、言い当てた。
「あ、な、なら今回もあげるのに・・・。」
「じゃー、いうことはひとつだね。」
にっこりと笑って荻上を見た笹原が促す。はっとする荻上。
「あ・・・。ぷ、プレゼントフォーユー。」
そういって、荻上は立ち上がって新刊本をスーに渡す。
やっぱり驚くスーに対して、笑顔を作ろうとする荻上。どこかぎこちない。
長い間卑屈じゃない笑顔をしたことがなかったのだろう。
その必死な荻上を見て、笹原はこの姿も好きなんだよな、と思った。
「Thanks…。」
荻上の笑顔を見て、スーも少しはにかんだ笑顔を見せた。
そして、やっぱり一番すごいシーンにサインを求め、手を振って去っていくスー。
「あの子、荻上さんのこと大好きだろうね・・・。」
「へ・・・?」
笹原が思ってもなかった事をいったので、荻上は驚きの表情を見せる。
「だってさ、荻上さんの本であんなに喜んでるんだよ。
作った人のことも大好きに決まってるじゃない。
夏コミの時もくっついてまわってたし・・・。
はじめ見つめてきたのも、気になってたんでしょ、荻上さんのことが。」
「あ、あはは・・・。そういうもんですかね・・・?」
笹原にいわれたことは意外すぎて、今まで考えたこともなかった。
「荻上さんの本が、人を幸せにすることもあるんだよ。
だから、ね。使い方さえ間違わなければ・・・。」
「・・・はい。」
すこし、荻上は自分に自信が持てた気がしてきた。
「荻上さんが困るときには一緒に困るから。
俺なんかで解決できそうにもないことが多そうだけど、
一緒に考えることはできるからさ。」
「いえ・・・。それで十分です・・・。私が、頑張らないと・・・。」
一度孤独になった荻上は、この二年間で色々なものを手に入れた。
きっと、それは彼女をこの先も支えていくに違いない。

スーが去ってから少したって、笹原は荻上の方を横目で見る。
荻上の手の上に、笹原の手が伸びる。彼にとっては勇気のいる行動だった。
ドキッとする荻上。その手の平の暖かさに、驚くような、安心するような・・・。
「あら。」
聞き覚えのある声がしたと思ったら目の前にいたのはコスプレ魔人・大野。
ばっと手を離す二人。顔中が真っ赤になり、もう何もいえない。
「あらあらあらあらあらあら・・・・。」
ニヤーと口の端を歪め、二人がとっていた行動に突っ込む気満々である。
「笹原さん。もしかして、もしかしてですか?」
「あはは・・・。」
「荻上さん。もしかして、もしかしてですか?」
「・・・えっと・・・。」
二人は肯定することも、否定することもできなかった。
沈黙、すなわち肯定である。すると、大野の表情は優しいものに変わった。
「うふふ・・・。本当、よかった・・・。」
すこし、涙ぐむ大野を見て、荻上はちょっと驚いた。
このことがばれたら、一番おちょくってくるのは大野だと思ってたから。
「笹原さん、荻上さん。おめでとうございます。」
「えっと・・・。いや・・・。ありがとうございます・・・。」
大野の祝福の言葉に、素直に返事をするしかない荻上。
そして、やっと気付く。今、自分にとっての一番の友はこの人なのだと。

「おー、おめでとう。良かったじゃないか、笹原。」
「やっぱし、お前はやるときゃやる奴だな。」
話を聞いた田中、斑目が次々に笹原に声をかけた。
「いや・・・。まあ・・・。うれしいですね・・・。」
あはは、と弱気な笹原に戻って笑う。
周りは人通りも少ない上に、こういうブースである。何事かと注目を浴びる。
『へえ、そういうことになってたんだ。おめでとう!』
『おめでとう・・・。』
アンジェラとともにいつの間にやら大野たちに合流していたスーも現れる。
「あは・・・。」
そこに、今度は咲と恵子がやってくる、
「おー、メール見て飛んできたけど、やるじゃん、笹やん。」
「彼女いない暦21年でストップおめでとー、兄貴。」
褒めてるのかけなしているのかがわからない恵子。
「お前・・・。ま、ありがとうな。」
あきれたが、素直に感謝する笹原。
「笹原君。」
声がしたほうには、良くぞこのタイミングで、と高坂がいた。
やはり彼はニュータイプなのかもしれない。
「よかったね。」
満面の笑顔で言われ、笹原はうれしくなる。
「うん・・・。ありがとう。」

その後、いったん解散した皆。そして、時間は過ぎてゆく。
ついに、コミフェス終了の時間を迎えた。
「ふー、おわったね。」
「はい・・・。」
色々在りすぎた一日を、振り返る。
「えーと、なんかこんな言い方変かもしれないけど・・・。」
笹原の言葉に疑問符が顔に出そうになる荻上。
「今後とも、よろしくお願いします。」
「あ・・・。はい。よろしく、お願いします・・・。」
そういって二人で頭を下げた後、震えだす二人。
「ぷ、あははは・・・。」
「くす、ふふふふ・・・。」
笹原は初めてに近い荻上の満面の笑顔に、ドキッとする。
「あ・・・。荻上さん、やっぱり笑ってたほうがいいよ。」
「え・・・。」
その台詞がとてもうれしくて。また微笑んでしまった。
「ありがとう、ございます。」

オマケ
「えーっと、このあと皆で打ち上げか・・・。」
「・・・あの。」
「ん?あ、そうだね。二人でどっかいこうよ。」
「い、行きたいんですけど、後で何言われるやら・・・。」
「うーん、でもそうしなきゃならなそうだよ?」
「え?」
「皆携帯の電源切ってる。誰にも通じない。」
「えええ!」
「大野さんかな?多分、考えたの。」
「まったく・・。あの人は・・・。」
「あはは・・・。それじゃ、行こうか。」
「・・・はい!」

オマケ2
「あれ?」
「どーしたの、マッキー。」
「ん?ああ、中学の同級生に似てる子がいて・・・。」
「まさか、あの?」
「そう、あの。」
「ええー。じゃ、その子、まだやってるってことー?」
「そうじゃないかな。でも、そのほうが安心するよ。」
「そうなの?」
「あの頃はまだよくわからないことが多くて・・・。
あのことはショックだったけど・・・。
今思うと、何か事情があったのかもしれないし・・・。」
「マッキー、優しい!」
「あはは・・・。彼女、ものすごい謝ってたらしいし・・・。
あのことで彼女が思いつめてたりしたほうが嫌だから・・・。」
「ふーん。でも、元気そうだったんでしょ?」
「うん。笑顔だった。ちょっとほっとしたよ。」
「そっかー。じゃ、行こう!」
「あ、ちょっと待ってよー。」