二つの幸せ 【投稿日 2006/10/06】

カテゴリー-笹荻


きっかけはどうしようもなく小さなことだった。

「・・・え?」
気付くとそこは仙台であった。
荻上は非常に驚いた。駅のベンチに座り、呆然とする。
「あー・・・。そうか。無我夢中で電車に乗ったんだっけ。」
昨日の夜、笹原と喧嘩をした荻上は、そのまま飛び出し、
気付けばここにいた。
先ほどまで電車で寝てたためか、記憶が定かでない。
喧嘩の原因ですら、彼女には思い出せなかった。
「・・・電話・・・。うわ・・・。」
物凄い数の着信履歴。全て笹原だった。
「今日は・・・仕事だって言ってたな・・・。」
段々思い出してきた。
・・・最近構ってもらえなかった私がわがままを言ったのだ。
笹原さんは明日も早いというのに。
・・・でも・・・あんな言い方ひどいと思う・・・。

『あー、もう、いい加減にしてよ。うるさくするなら帰って。』

・・・わかっている。私のほうが悪い。
「あー・・・。もう無理かな・・・。」
いっそ諦めてしまった方が。
「笹原さんもこんなの相手にするの嫌ですよね・・・。」


ブルル・・・。

バイブレーションにしていた電話が震える。
「!笹原さん・・・じゃない?」
そこに出ていた名前は「斑目先輩」・・・。
「え?どうしたんだろう。」
普段、電話するような人じゃないしな・・・。
「はい。荻上です。」
『おー、荻上さん。出てくれたか。』
「え?」
『いや、笹原から話を聞いてな。
俺なんかに相談してもどうしようもないだろーによ。
あいつ相当凹みやがって。自分が悪いだろうによ。』
「あの・・・。どういうことですか?」
『あん?笹原がキッツイ事言って荻上さんが出て行ったんじゃねーの?
俺はあいつからそう聞いたんだけど。」
「・・・違います。私がわがままを言ったんです。
悪いのは私です。」
笹原が自分を責めるのはおかしい。荻上はそう思った。
『・・・お互い反省してるんだったらもういいんじゃねえか?
会って話をするのが一番さ。』
「・・・いえ。なんか、笹原さんに迷惑かけるのがもうイヤになって・・・。
もうやめにしたほうがいいんじゃないかって・・・。」
『おいおい・・・。それはおかしいだろ。』
「でも・・・。」
『まあ、ちょっと聞いてくれよ荻上さん。』
いつもと違う・・・優しい斑目の声が聞こえる。
『人間、素直になれるのが一番いいんだろうな。
でもよ、それがこうやってケンカの原因なったり・・・。
ま、色々起こるわけよ。それはしょうがないことだと思うんだよ。』
「はい・・・。」
『でもさ、そんなことで欲しいものが諦められるようなら、苦労はしねえよな。
世の中には幸せになる方法は二つあると思ってるんだけども・・・。』
「二つ?」
『ああ。一つは、当然欲しいもの、夢がかなったりすることだと思う。
もう一つはそいつらを全部諦める事。諦められりゃすっとすんだろうなぁ。』
その言葉に荻上はドキッとした。そうか、先輩は・・・。
『でも、大概の奴が諦められず追いかける。
簡単に諦める事が出来りゃ世の中幸せだろうよ。』
「そうですね・・・。」
少し笑ってしまう。
『なんだ、荻上さん。君は手に入れているんだ。手放しても後悔するぞ?
諦められるなんて思わないほうがいい。』
「・・・はい。」
『あ。もうすぐ昼休みおわっちわまぁ。で、今どこいるの?』
「仙台です・・・。」
『せ、仙台?ま、まぁ、早く帰ってきなよ。』
「はい、本当にありがとうございました。」
電話を切る。そうか。
私はいま手に入れたかったものを手に入れているんだ。
諦められる?ううん。一生引きずる自信がある。
そんな自信あってもしょうがない。
戻ろう。あの人の待つ町へ。
またケンカするかもしれない。でも、そのたびに分かり合えるのかもしれない。
「よし。」
立ち上がって、逆方向の電車のホームへ向った。
最終更新:2006年10月06日 05:46