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筆をギュっとね! 【投稿日 2006/09/14】

カテゴリー-他漫画・アニメパロ


ここは関東の地方にある多摩県。夏休み終盤の頃、県の総合体育館に
体格の良い高校生がぞろぞろと集まってきていた。
地域の高校の柔道部が、合同練習を始めようとしている。
会場の観客席の一陣を確保して、柔道着に着替えている一団が居た。
背中のゼッケンによると、現士高校の柔道部のようだ。
部員数は6人、体格のいいのは二人だけであとは細身であり、部員も
かなり少数で5人の団体戦もギリギリのようだ。
一人だけ柔道着に着替えずに、カッターシャツに腕を吊っている者が居る。
その中でキャプテンは意外なことに細身の斑目、3年生だ。
他に3年生には超重量級で昔ながらの柔道体型である久我山と、
がっしりした中量級の田中が居るので、知らない者が華奢な斑目を
キャプテンと思う事は無いだろう。
ついでに2年生はと見ると、金髪で身のこなしが軽そうな笑顔の高坂と
意外とがっしりしているが背は高くない地味な笹原が居る。
笹原は右腕を怪我しているので、暑い中、見学だけの為に来たようだ。
1年生は長身の朽木一人である。さっきから挙動不審で落ち着きが無い。

そこへ同じ学校の女子部員たちも着替えてやってきた。
着替えている選手が3人、マネージャーが1人。
「斑目キャプテン、女子部のほうは揃ったので会場へ降りますけど
 監督は今日も見つからないんですか?」
2年生の大野が斑目に話しかける。3年生は居ない。
大野は腰まである長い髪を丸くまとめているので頭が大きくなっている。
「ああ、大野さん。監督は居ないと思ったら居るし、居ると思ったら
 居ないからなぁ。皆も見つけたら俺にいってくれい。」

斑目は、2階観客席から下に広がる畳の柔道会場を指差しながら説明し始める。
「じゃあ女子は女子の会場が向かってあっちの2面で、あとの
 4面が男子だから。午前は主に補強と各種打ち込み、午後は
 2時から5時まで寝技と立ち技の乱取りっていうか基立ちらしい。」
部員たちの顔がうんざり気味…憂鬱になってきた。
「2年生以上は去年もやったから覚えてると思うが、10分×10で
 死にそうになるけど、立った奴は頑張って遣り遂げて欲しい…って、
 そこ!高坂と春日部さん、話聞いてる?全く……ブツブツ。」
高坂の隣でカッターに紺のスカート姿のマネージャーの春日部さんも
高坂と同様に髪は染めきっている。自由な校風のようだが、公立なので
制服は地味だし、公立の小さな柔道部なので揃いのジャージも無い為、
笹原も春日部も制服で居るし、全員制服でやってきている。
高坂と春日部の二人は付き合っているようで、何やら話しかける春日部に
笑顔で二言三言、高坂が返している。斑目の事は気にせずといった様子だ。
「あと笹原、今日はまあ見るだけだったら暇かも知れんから休んでても
 良かったのになぁ。まあ、試合にでもなったら記録頼むわ。」
笹原はタオルを開いた左手で使い汗を拭きながら、苦笑いを斑目に返した。
その様子を見ていた小柄な女子部員が、気まずそうに他所を向いた。
頭を括っているが髪が硬いのでまっすぐ筆のように立っている。
小柄ながら長い柔道暦で期待の1年生、荻上だ。
気まずそうな様子に目ざとく気付いた笹原が、荻上に声をかけた。
「あ、俺の不注意だからホント気にしないで今日は頑張ってよ。大変だけど。」
「そうですね、スミマセンでした。」
かみ合わない会話に横から入ってくるのは、茶髪の一年生、恵子だ。
「兄貴、女の子に腕を折られるなんて情けねぇよなぁ。」
「うるさいな!俺が腕ついたからだつってんだろ。」

「相変わらずの破壊王やな!荻上!」
隣の席に固まって陣取っていた万賀高校は、現士高校と仲が良くもあり
ライバル関係でもある。関西弁で話しかけてきたのは、その1年女子
である藪崎だった。
「私のこの腕が、お前を倒せとうずくんや!その悪行三昧、許さんで…
 って、聞いとるんか!無視か!」
立派ないい体格の藪崎は、荻上とは階級が違うので、荻上とはそんなに
関わりも無さそうだが…。
「それはお前の自爆だったらしいな。自分で関節極まる方向に行ったから。」
その背後からツッコミを入れてきたのは2年生の加藤だ。髪で顔が隠れている。
「ちゃうねん!うちはこいつの非道な技で…。」
「弱いから技に掛かった…でしょう?」
「いや、無差別の市民大会でうちはこいつの筆がらみで肘を脱臼して
 負けましてん!」
「負けたことを自慢してもしょうがないでしょう…。
 脱臼して負傷負けじゃなくて投げ技で1本負けだったって聞いたけど。」
加藤には藪崎も弱いようで、どんどん勢いが削がれていく。
「藪ちゃんドジっ子だから仕方ないニャ。」
「ドジちゃうわ!」
同級生の犬っぽい顔の女子部員にまでツッコミを受けて、藪崎は
それ以上荻上を追うことをやめて撤退していった。
「今日は勝負付けたるさかいな!」
「捨て台詞だニャー。」

ようやくといった風に、横から眼鏡で丸い体型の男が出てきた。
「や、うちのがうるさくてすまなかったね。」
万賀高校柔道部のキャプテン高柳が斑目に話しかけてきた。
「あれでしょ、そちらの1年の女の子、確かに有名だけど気にしないでね。
 反則技じゃないんだし、頑張ってもらってよ。負けた方が悪いんだから。」
「うちの部員達は、もうけっこうもう慣れてきたぜ。」
一連のやりとりを半笑いで聞き流すしかない笹原だった…。
荻上は、無表情なような固い表情でたたずんでいた。

そんな騒ぎをよそに、地獄の2日間が始まった。
慈智会大付属高校柔道部が中心となって、号令を掛けて練習メニューを
次々とこなして行く。
やっている者たちは「早く終われ!」と思うが終わらない。
朽木は斑目に「トイレ行って来ます…うんこニョー…。」
と言って出て行ったきり帰ってこない。
田中と大野は寝技派なので、寝技勝ち抜けの時だけは早々に休めて、
体力を温存することが出来ているようだった。
斑目は技巧派だがパワーは無いので、早々に腕がだるくなり、
今では腕がぶら下がっている事すら重く感じていた。
さっきから両手の親指を帯に差し込んでいるのは、その為だったりする。
荻上は右の一本背負い、左の一本背負いとそれぞれ繰り出し、フィジカル面が
まだ弱いのでふらふらになりながらも、技のキレでよく投げて目だっていた。
そんな様子を悔しそうに横目で見る藪崎の姿もあった。重量級の中では
藪崎は体格任せ出なく高い技術力と体力で、こちらも期待の新人といった
ところだったが、軽い方と重い方で分けられているので、藪崎と荻上が
当たることは無いのだった。

2日目の朝、全身ロボットのように筋肉痛でガチガチになってやってきた
各校の部員たちの体が鉛が溶けたように重く鈍くなり、その汗が点々と畳に
落ちる中、午後の練習の後半は、こういう場では恒例の練習試合となった。
練習量が普段から多い慈智会大付属の圧勝で、2日間の合同練習は終わった。
もちろん現士高校女子と万賀高校女子の試合も有ったが、女子の団体は
体重の軽い順に並んだ組み合わせなので、ここでも藪崎は荻上と
当たる事はなく、大野を体落としで投げながらも悔しがっていた。
偉いさんの長い話のあと、じゃんけんで清掃と片付け当番に決まった
現士高校と万賀高校だけを残して他校の生徒たちは帰り始めた。

「この機会を待っとったで!」
ホウキを重そうに持つ荻上の横に、仁王立ちで登場した藪崎。
「掃除の邪魔なんですけど…。」
「あれから1年!うちの努力を無駄にはさせんで!」
「はぁ…(溜息)。軽量級の私を狙ってどうするんですか?」
「柔道の強い弱いと階級なんか関係あらへんわ。」
斑目も、ちりとりを持ってやってきた。
「重いほうの選手が言うと卑怯くさくねぇかな…(苦笑)。」
「また失言…ドジっ子なのに萌えないニャー。」
ぞろぞろと部員たちも集まってきた。
「くっ!だいたいアンタ、今日は筆がらみ使ってなかったやろ!
 あーもう、面白う無いな…!!罰ゲームで負けたら下穿き脱いで
 ブルマで掃除して帰るっちゅうんはどうや!?」
「……私の得意技は筆がらみじゃなくて左右一本背負いです。」
しかしブルマにどよめく男子部員達。そこへゴミ袋片手に笹原がやってきた。

「荻上さん、やりなよ。勝っても負けても恨みっ子無しで
 これから3年やっていく事になるんだしさ。」
爽やかに言っているが、10%ぐらいは下心がある気がする。
流石、男子高校生真っ盛りといったところだろうか。
笹原が藪崎の味方をしたように感じられて、荻上は内心不機嫌になった。
「わかりました!やれば良いんでしょ!」
少しむくれて叫ぶと、荻上は頭の筆をギュっと留め直した。
「じゃあ僕が審判するよ。」
いつのまにかぬらりとした風貌の現士高校監督が試合場の真ん中に立っていた。

「じゃあ疲れてるし、3分で。…はじめ。」
勢いの無い主審の声を合図に、赤畳の外を取り囲む両校の生徒たちが見守る中、
荻上と藪崎の試合が始まった。
これだけの対格差があると、まともに両手で組んでしまうと荻上には
藪崎の技を防ぐことは出来ない。
しかし荻上は2日間の猛練習で、本来のスピードをすっかり失っていた。
藪崎も疲れで本来の動きではないとはいえ、こうなるとますます重いほうが
じっくり攻めると、有利になってくる。
藪崎が袖を、襟を掴むたびに、荻上が必至でそれをずらして外す、
という繰り返しの展開のまま1分半が過ぎた。藪崎は両手が持てないので
足払いを織り交ぜるぐらいで、得意の体落としや大内刈りが出せずに居た。
荻上は片手だけ持って一本背負いが使えるし得意だが、スピードが落ちて、
連続でなく単発の技では全く通用しなかった。
連続で掛けるには、今の荻上の持ち技では両手で持つしか無いのだが、
そうすると藪崎にも両手で組まれてしまう為に危険過ぎるのだった。

「残り時間20秒!荻上さん!」
笹原が声をかけると、それを聞いた荻上は意を決して得意技を仕掛けた。
藪崎の右腕を抱えて、荻上が右の一本背負いに入ると、藪崎は逆の
左前方向に重心を流して耐えにかかった。
その時、荻上は抱えている藪崎の右腕を掴んだまま、絡むように
ぐるりと逆方向に回転したのだった。腕の内側に回る通常の背負い投げ
ではなく、外側に回る、いわゆる逆一本背負い。
角度によっては肘が決まることが有り、柔道ではあまり見ない技だ。
中学時代、周りから筆がらみと呼ばれたこの連続技は、引っ張られる腕を
中心に荻上の筆がぐるりと回る様子からついた通称であった。
右前方向の技に耐えようと藪崎が左前方向に移した重心の方向に
投げ掛ける連続技であり、「これは決まった…。」
横方向から藪崎の右脇に潜り込む荻上を見て、誰もがそう思った時、
藪崎はさらに大きく左方向に体を外し、取られていた右腕で荻上の
上体を後ろに払い飛ばしていた。谷落としでの切り返し。
「技あり。」
淡々とした現士高校監督の判定が聞こえる。
「これを狙うとったんや!」
叫ぶ藪崎だが本人もその場に座り込む状態になり、寝技で追撃は出来ていない。
試合は開始線に戻り、仕切りなおしとなった。
改めて、藪崎の技ありが宣告される。
「荻上さん、それじゃない!思い出して!」
笹原の声が荻上に届いているかは定かではない。
が、組みぎわに荻上が再び仕掛けた。

右足で薮崎の右踵を刈る小内刈りのフェイントを混ぜるものの、
再び右の一本背負い…から逆一本背負いに回り始める。
「ワンパターンか!」
藪崎は再び返し技を掛ける心構えをした。
しかし今度の入り方は違っていた。今まで横方向から潜り込む
ように入っていた逆一本背負いを、一旦大きく後ろに下がって
前傾姿勢を取ってから、真正面に入るように入ってきたのだ。
「それ!立って掛け切って!」
笹原が叫ぶ。笹原はこの入り方の練習に付き合っていて、荻上が低く
投げたために前方に突き出された右腕を脱臼してしまったのだ。
技の理合としては、その場で回るよりも前傾姿勢から縦に回る方が
数倍の威力がある。正しいフォームに修正されたと言って良いだろう。
「技あり。」
ドタン!という音とともに藪崎は投げられ、そのまま押さえ込まれる。
試合時間は終了しているので、押さえ込みの終了時間が試合の終了だ。
「あ、そこは袈裟固めじゃ駄目です!」
今まで黙って見ていた大野が叫んだが時既に遅し。
藪崎は押さえ込みを返していた。
「押さえ込み解けた。有効。試合終了。」
技あり同士に押さえ込みでの有効一つぶん、荻上の勝利となった。
二人ともうつむいて礼をして、試合を終えた。

「薮崎さん、それ別にしなくて良いですカラ!」
「敗者に情けはいらんのや!止めんでくれ!」
うっすらと涙目で、真っ赤になりながら薮崎が柔道着の下穿きを脱ぐ。
その下には、ふくよかな太ももと、紺色のブルマがあった。
そのまま掃除を終えると、藪崎はダッシュで掛け出て行き…。姿を消した。

藪崎は一人走って会場から出ると、隣の湖の湖岸に立っていた。
まだ高いが赤くなっている夕日を眺めて、悔し涙を浮かべる藪崎。
ふと気が付くと、後ろに荻上も下はブルマ姿で立っていた。
それに気付くと藪崎はあわてて涙を袖でぬぐい、再び湖面に向きなおした。
二人は、無言で並んでしばらく立っていた。
「…今日の試合は引き分けみたいなもんや!アンタもそれで
 ブルマになったんやろ。次はウチの勝ちやな!」
そう荻上に告げると、藪崎は振り返りもせずに帰っていこうとしている。
「………!!自分で言って一番カッコ悪い台詞じゃないですか!?
 優しくしたら調子に乗って!疲れてなかったら秒殺に決まってます!」
柔道着の下がブルマ姿で叫ぶ荻上。青春ドラマのラストシーンのようには
いかない二人だったが、高校柔道を通じた熱戦は始まったばかりだった