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あつい話 【投稿日 2006/08/26】

カテゴリー-笹荻


「あつ…」
夏のとある日、荻上は自分の部屋の床の上で溶けていた。
外から聞こえるかすかなセミの声。
テレビの中ではアナウンサーが「今日も暑くなりそうです」などと、わかりきった事を喋っている。
(そんな事!言われなくても!今現在!ものすごく!暑いのですが!)
(むかつく!むかつく!)
(地球温暖化なんてだいっきらいだ!!)
理不尽に怒る。
だがその怒りも暑さに溶けていく。
恨めしげにエアコンを見上げる。
うんともすんとも言わないエアコン。
故障しているのだから、当たり前なのだが。

理由はわからないが、エアコンが壊れたのは一昨日のことだった。
大家を通じて電気屋に連絡を取ったところ、この暑さでエアコンの売れ行きが好調で云々、とさんざん言い訳された上に、「3日ほど待って下さい」という一方的な通告をされてしまった。
(忙しいのはわかる。土日を挟むから3日待て、と言うのもわかる)
(でもこっちは客だべ?客のためなら多少の無理をしてくれたっていいでねェか!!)
再び理不尽に怒るが、それさえ暑さに溶けていく。
テレビの中のアナウンサーは涼しげに、「この先一週間はとても夏らしい暑い天気が続きそうです」などと謳う。
(…)
荻上はもう怒る気力も出ないようだ。
「シャワーでも浴びよ…」
よろよろと風呂場へ向かう。
冷たいシャワーで汗と熱を流すと、いくらか気力を取り戻せた。
(だめだ。このままこの部屋にいたら、きっと死んでしまう。何とかしないと)

荻上は避暑地を検討し始める。
(部室は…あそこは冷房の効きが悪いし…この暑さじゃたどり着く前にやられてしまう)
(某漫画家のようにファミレスで粘る…そんなことできるかー!)
(図書館とかは…近くに無いし…)
(買い物、という名目でショップ巡り…人ごみ嫌い)
そんな中、この前笹原のアパートにお泊りした時のことを思い出した。
『汚い部屋だけど、何かあったら自由に使って』
そう言われて、合鍵をもらったのだ。
財布に大事にしまっておいた鍵を取り出す。
(迷惑かな…でも、鍵をくれたってことは迷惑じゃないってことだよね…)
(それに部屋を片付けてあげて、料理なんか作って、『お帰りなさい、笹原さん』なんて…)
(それくらいやってもいいよね…)
その時の笹原の顔を思い浮かべて、荻上はにへらと笑った。
「よし!決まり!」
そう宣言すると、幾ばくかの荷物と供に、荻上は部屋を飛び出した。
…実は笹原の部屋は、部室以上に遠いのだが。

買い物袋を携え、荻上は笹原の部屋の前にいる。
高鳴る胸を押さえながら鍵を差込み、回す。
軽い金属音と供に、鍵が外れる。
荻上は一つ深呼吸をすると、ノブを回した。

「お邪魔します…」
小声で呟きながら部屋に入る。
この時間に笹原がいない事がわかっていても、やはり緊張する。
人気の無い部屋はしんと静まり返り、…そして暑かった。
ズカズカと部屋を横切り、エアコンのスイッチを入れる。
かすかな音とともに冷風が吹く。
ほっとした表情でしばらく風に当たった後、買い物袋の中身を冷蔵庫にしまうと、荻上はようやく安堵のため息をついた。
ベッドに腰掛ける。そのまま横になる。
急に眠気が押し寄せる。
(あ…そうか。夕べも熱帯夜でほとんどねむれなか…った…んだ…)
(笹原さん…の匂いが…する…)
(笹原…さん…)
部屋に穏やかな寝息が響きだす。

「ん…?」
荻上が目を覚ますと、すでにだいぶ日は傾き、夕方特有の赤い日差しが差し込んでいた。
(うわ!寝ちゃった!今何時?もうこんな時間!?)
荻上は飛び起きると、忙しく動き出す。
脱ぎっぱなしの笹原の服を洗濯機に突っ込み、思い切って窓を開け、夕方になってもちっとも涼しくならない空気に不機嫌になりながら掃除機をかける。
そして荻上は、ベッドの下から、いわゆるエロ同人誌を見つけた。
(笹原さんこんなトコに隠してたんだ)
妙に微笑ましく思いながら、とりあえず机の上に置く。
好奇心から2・3冊ほど流し読みする。
(ふうん。こういうのが趣味なのか…んん?)
何かが荻上の脳裏に引っかかった。
全部に軽く目を通す。
机の脇に積まれたゲームの箱を見る。
くじアンのDVDや格闘ゲームに混じって置かれた、いわゆるエロゲーの箱を引っ張り出す。
(…やっぱり)
荻上は確信した。
そこにあったのは、背が高くて巨乳でグラマーでナイスバデーで年上な女性がたくさん。
つまり、自分とは正反対の…
(むかつく)
(むかつくむかつく、ムカツクーーー!!!)
荻上はそれらを机の上にきれいに積み上げると、怒りを胸に秘めたまま、家事の続きを始めた。

「つかれた…」
家路をたどりながら、笹原は呟く。
今日は定時に帰れたものの、一筋縄ではいかない漫画家とのやり取りは酷く疲れる。
(荻上さんの声が聞きたいな…)
そんなことを思いながら鍵を外し、ドアを開けた。
「ただいま」
投げやりに呟く。しかしその声に答えるものがあった。
「おかえりなさい」
慌てて顔を上げると、そこには微笑む荻上がいた。
一瞬幻覚か?と思ったが、それは間違いなく現実だった。
笹原は疲れが一瞬にして吹き飛ぶのを感じた。
「どうしたの?荻上さん。急に…」
「来ちゃいけなかったですか?」
「そんなことないよ。嬉しいよ!」
「そうですか」
そんな微妙にテンションの違う会話をしながら、笹原は鞄を机に置こうとして…固まった。
ゆっくりと振り返る。そして気付く。
荻上が微笑みながら、その背後に真っ黒なオーラを背負っている事に。
冷房の効いた部屋の中で、笹原の全身に汗が滲む。
「あの…荻上さん?」
「何ですか?」
「見ましたか?」
「見ましたが、何か?」
荻上の放つ圧力がさらに強まる。

「いや、その、確かにこういうのが好きなのは確かだけど、それは決して荻上さんを嫌いだ、なんて事じゃなくて!」
「…」
「こういうのはあくまで二次元として好きなのであって、二次元と三次元は全然別物で…」
「…」
「でも、前にこういうのの話をしたときには、荻上さんも時間制限つきならいいって…」
「…」
「だから、その…」
「…」
「…ごめんなさい」
笹原は深深と頭を下げる。上目使いに荻上を見る。
荻上は顔を伏せている。よく見ると、肩が小さく震えている。そして。
「クスクス…」
「?」
「アハッ、アハハ!」
「ど、どうしたの?」
「アハハハハハハハ!」
「荻上さん!」
ひとしきり笑った後、荻上は笑いすぎて流れた涙を拭きながら、笹原に話し掛けた。
「ごめんなさい。笹原さんがあんまり必死なんで、ついおかしくなって…」

「…」
笹原は憮然としている。
「わかりました。許してあげます…って、笹原さん?」
笹原は無表情のまま近づくと、
「そんなに笑いたいなら…もっと笑え~っ!!」
そう叫んで荻上をくすぐり出した。
「ちょっと、笹原さん!やめてって、くすぐった、あは、あはは、あはははは!」
「もう、調子に乗らないで下さい!それならこっちだって!」
「まだまだ!ここならどうです!?」

笑い疲れ、くすぐり疲れた頃、二人は互いに見つめあうと、どちらからとも無く唇を重ねた。
「「ん」」


おまけ
「あの、荻上さん。よければこれからもお願いできるかな?」
「何をですか?」
「あの、『おかえりなさい』っていうやつ。本当に嬉しかったんだ。疲れが吹き飛ぶくらいに」
「いいですよ」
「ごめんね、面倒かけて。たまにでいいから」
「たまに、でいいんですか?」
「…できれば毎日」
「わがままですねえ」
「だめかな?」
「そんな訳ないじゃないですか」

おまけ2
大野・咲「「それって遠まわしなプロポーズじゃないの?」」
笹・荻「「あ」」