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6年1組カスカベ先生・その2 【投稿日 2006/08/26】

6年1組カスカベ先生


「なんであたしはこんなとこに居る・・・」

某県某市某田舎小学校6年1組の入口で、春日部咲はぼそりと呟いた。



話は2ヶ月前に遡る。
この春で4回生となった咲は、1年後に迫った卒業を前に忙しい日々を送っていた。
必要単位は既に修得済み。ゼミ、卒論の準備は勿論のこと、
”オリジナルブランドのショップを開く”という長年の夢を叶えるべく、
大学で培った知人友人コネツテカネをフルに活用。
原材料と販路確保にやっと漕ぎ着けるところまできていたのだ。
交渉事は元々得意な咲ではあったが、ここ暫くの断続的なフル稼働に
流石に疲労を隠せなかった。
勿論、目標に向かってひた走る彼女にとっては、その疲労すら心地よいものではあったのだが。

そんなこんなで。
咲がげんしけんに顔を出すのも随分と久しぶりだ。
(コーサカともなかなか会えてないなあ・・・)
知らず漏れそうになる溜息をこらえドアを開けると、ひどく懐かしい(しかし会いたくはない)人物がそこに居た。

「・・・会長じゃないですか。」
「や、久しぶり。」
会長、と呼ばれた男は、奥目を細め薄く微笑んだ。

正直、咲は会長が苦手だ。
当初オタク集団と揶揄していたげんしけんへ彼女が正式に入部したのは、
初代会長の何気ない、しかし痛烈な一言がきっかけである。
今ではサークル自体に不満は無く、むしろ楽しいとさえ思えるようになっていたが、
会長のキャラクターだけは掴めないままであった。

そんな初代会長が久方ぶりに部室に居る、しかも一人で。
咲は何故か言い知れぬ恐怖に襲われ、会長の対面を避けて座った。
「どうしてまた今日は一人で・・?」
「いやね、ちょっと用事があって。やあ、なんだか久しぶりだなあこの部室も」
会長はまるで無感動に感嘆を口にした。
「誰も来なかったらどうしようって思ってたんだけど、丁度良かった。
少し、お話しをしようか。」
「まあいいですけど。なんですかいったい?」


「咲君、小学校の先生になってみない?」


「   は   ?    」


「え。いや。何言ってんだアンタ?小学校?はあああ?」
脈絡も拍子もない会長の提案に、先ほどまでの漠然とした不安もあいまって、咲は必要以上に狼狽した。
つうか敬語忘れてますね。
「まあ、混乱するのも無理は無いけど。途中だからちゃんと話聞いてくれるかな?」
うろたえる咲をなだめつつ、会長はつらつらと語りだした。


斑目に2代目会長を任せた彼は、無事に椎応大学を卒業。
元々教育学部で教職免許を持っていたこともあり、地元の小学校に就職した。
大学での人間観察から、今度は実地による未成年の観察へ興味がシフトした、というのが
表向きの理由であるらしい。
まあこの人のことだ、裏に何があるかわかったものではないが。
さてこの小学校。山間にある小学校だけに児童も少なく、
学年に1クラスしかないらしい。とはいえ、小学校教師という職業は
なかなかにハード。心安らぐ間もない日々が続いていたのだ、とのこと。

「そんなときだったんだよ、教育実習生受け入れの話を聞いたのは。」
「はあ・・・。」咲は半ば呆けた様子で、会長の話を聞いている。
「実習生の子が居る間だけでも、僕は肩の力を抜ける、そう思ってね。
でもさ、実習生の子っていっても、どんな子が来るかわからないじゃない。
咲君確か教職の単位ほぼ取ってたよね?」
「いや、取ってますけどね。・・なんで知ってるんですか。」
眇目でにらむ咲を軽く無視する会長。
「それでまあ、咲君ならうまくこなしてくれるんじゃないかな、って。
どうだろう、やってもらえないかなあ?」

正直なところ、咲にとってはそう悪い話ではなかった。
今は別の目標があるとはいえ、会長の話に乗れば単位が揃うわけである。
しかし。
「会長。いくつか聞いていいですか?」
「うん?」
「某県某市ってあたし住んだ覚えも何もないんですけど。そういうのって問題ないんですか?」
「ダイジョウブだよ、僕がなんとかする」
「準備全くしてませんよ?」
「ダイジョウブだよ、僕がなんとかする」
「実習中の住処とか」
「ダイジョウブだよ、僕がなんとかする」

「なんで、あたしなんですか?」

会長は視線を合わさない。咲は会長を見つめている。

「そもそも、すごく不自然ですよね。教育実習生なんかが来たところで、
会長の負担が減るとは思えないし。それに会長が決めるってことも。こういうのって、
もっと偉い人が決めることだと思うんです。」

会長は視線を合わさない。

「あたしは今すごく充実してるんです。そりゃ単位は魅力的だけど、
会長の話に乗ってまで欲しいとは思ってません。」

会長は視線を・・・あれ?会長さっきまでこ「残念だなあ」「うわ!」
突然背後から声をかけられ、咲は悲鳴を上げた。
「いきなり消えないで下さい!ほんとにびっくりした・・」
「僕はすごくいい話だと思うんだけどねえ」
若干肝を潰した咲であったが、なんとかひるまずに切り返す。
「だから!あたしにはその気が無いんですってば!
それに会長の意図も判らない以上、この話は」

「(ピーーー(自主検閲)ーーー)?」

会長の呟きに、咲は一瞬で石化した。

「(ピーーーーーー)だったのに、咲君は(ピーーーー)だよねえ」
「そういえばあのとき(ピーーーーー)は(ピーーーー)」
「(ピーー)」「(ピーーーー)」「(ピーーーーーーー)」

「ヤラサセテイタダキマス」

石化の解けた咲に出来ることは、半泣きで完全降伏することのみであった。


160 :6年某組カスカベ先生 :2006/08/26(土) 21:26:53 ID:???
(嫌なこと思い出しちまった・・・)
咲はドアの前で軽く落ち込んだ。
ふるふると頭を振り、気分を切り替える。
「まあ、こうなったからにはやるしかないか!単位も取れるしな!」

室内のざわつきが収まるのをドア越しに感じ、にわかに緊張が高まる。

「じゃ、入ってきてー」

会長の案内を受け、意を決した咲は、ドアを開け教室へ踏み込んだ。