6年1組カスカベ先生・その1 【投稿日 2006/08/26】

6年1組カスカベ先生


「なあ、知ってるか?今日新しいセンセイが来るんだって」

口から泡を飛ばしながらヤナが聞いてくる。
いつも戦車のマンガとか描いてるばっかりのくせに、
どうしてこういう情報は早いんだろうか。
ハルノブは心中溜息をつきつつ、後ろの席の友人に振り向いた。
「知ってるよ、きょーいくじっしゅーせー、だろ?」
「なんだ知ってたのか。つまんねー」
「知ってちゃ悪いか。」
軽くにらみを効かせつつ、こっそり持参したコミックブンブンに再び集中しようとしたが、
「だーから聞けって!」
ペンシルロケットで首筋をつつかれ、再びヤナに向き直った。

ヤナの話では、じっしゅーせいの先生はしーおう大とかいう都会の大学から2週間だけ
実習にやってきたらしく、職員室でちらっと見た限りではすごい美人のお姉さんだった、ようだ。
・・・全く、こいつはマンガおたくのくせにこういうとこがスゴくフジュンだ。
ブンブン貸してやんねぇぞもう。

熱っぽく語るヤナのトークを聞き流しつつ、なんとなしにハルノブはクラスを見渡した。
某県某市立某田舎小学校6年1組。
といっても田舎ゆえにクラスは1つしかない。
この6年間同じクラス、同じ顔、同じ仲間。
本屋も駅前に1件しかないようなこの地区で、ヤナとハルノブ、そして窓際に座るタナカとクガヤマは
「マンガとアニメがだいすきです」という一点において
数少ない仲間だ。
他の男子とも遊ばないわけではないが、
体力勝負が苦手なハルノブにとって、ドッジや野球はやはり重荷である。
それにクラスの女子はケイタイと恋愛の話ばかり。
カンダムやポトムスの話には付いて来れない。
実際のところは付いて来れないのでなく付き合いきれないのが現実ではあるのだが、アタマの悪い女子なんかにはわからないさと決め付けるハルノブなのであった。

さて、そんな取りとめもない思考に浸っていたのだが。

「ん、みんな集まったかなー?じゃ、HR始めるよー」

担任の所台先生のか細い声にハルノブは現実に引き戻された。

「さて。HRの前に今日は皆にうれしいお知らせがあります。」
「え、カイチョー先生、なになにー?」
「こら、私語はつつしみなさいね。」
軽く生徒をたしなめる。

ちなみにこのショダイ先生、何故か生徒から「カイチョー」と呼ばれているのだが、
生徒はもちろん、他の先生も名前の由来を何故か知らないらしい。
ハルノブは一度教頭先生にしつこく聞いてみたことがあるのだが、
青ざめた表情の教頭に職員トイレに引き込まれ、
「それ以上しゃべったらダメだよ、ね。じゃないとカメ(ry」
などと硬く口止めされ、以来深く追求しないことにしている。

生徒のざわめきが収まったのを確認し、カイチョーは話しを続けた。
「実は今日、新しい先生が来てくれることになったんだよ」

「えー!」「ホントに!」「かっこいいの?」

「はいはい静かにー。それじゃ紹介するね。春日部くーん、入ってきて」

お決まりのやり取りに軽く辟易しつつ、ハルノブは何気なく
入口に目を向けた。



女神様が、そこにいた。
最終更新:2006年08月30日 00:41