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斑目放浪記名古屋編 【投稿日 2006/08/10】

斑目放浪記


「斑目君!この書類、付箋か何か付けて回して来ないと、どう処理するか
 わからないでしょ!全く…また同じミスしてどうするのよ!」
突然、向かいの事務机の上司である女性事務員のAさんから叱られる。
「え…??いえ、それは………。ス、スミマセン。」
「斑目君、もう2年目なんだしボーっとしてちゃイカンなぁ。」
向こうの机の社長からも声が掛かる。
(えー?付箋付けて社長に回したのに…外したの社長じゃないんか!?)
しかし結局、その日はAさんの逆鱗に触れないように、過剰に気を遣って
緊張のまま夕方の終業を迎えたのだった。斑目は、なんとかムッとした
表情を眼鏡の奥に隠そうと、平静を装いながら仕事を続けた。
実際、斑目は春からボーっとしていた。確かにもともと仕事に燃えて
いるわけでもなく、事務を淡々とこなしていたのだが、さらに何かが
抜けたような雰囲気だった。一言で言うと『枯れた』感じだろうか。


「お疲れ様でした。お先に―――。」
会社から外へ出ると明るい。日は沈んでいるが、頭上には青空が広がる
梅雨入りしたのに全く雨が降らない、6月のある週末のことだった。
(くっそー、濡れ衣で何であんな気を遣わんとイカンのだ!)
斑目は早足で、足音も高くズカズカと歩いていた。
そしてその足が向かった先は、現視研の部室である。
(このまま帰ってもなぁ。誰か飲むなりパーっと散財するなり相手が欲しいわい。)
扉に手をかけると、鍵が開いているのでホッとした様子の斑目。
「…ちーす。今、誰が居るのかな?」
部屋に入ると、蛍光灯がついている。


(良かった、これで今夜憂さ晴らし出来そうだな…。)
斑目がそう思いつつ部室に足を踏み入れると、朽木が一人で座っていて
入り口の方へ振り向いてきた。
「斑目さん!ちょうどいいところに来られましたにゃ~!」
その手には携帯が握られている。
「おいおい、何の話だっつーの?」
とりあえず斑目も椅子に座り、大きくため息をついた。
「ふーーーーっ。」
「おやおや、斑目さん、仕事のストレスですか?」
朽木が何故かにこやかに話しかけてくるが、斑目はその様子を
あえて見ずに、スルー気味にしている。
「んー、まあね。」
「明日なんですけど、ワタクシめとライブに行きませんか? そのー、
 チケットが1枚余ってまして、買って頂けるとありがたく存じます…。」
「――え?えらい急だなぁ。……で、誰の?」
「元UNDER-13のウメーイこと、梅井ハルコ嬢ですぞ!」
「あー、まあ俺もちょっとは聴いてるけど―――。」
そう聞いてガバッと身を乗り出す朽木。
「おおーーーっナイス!オゥイェス!」
斑目はちょっと身を引いて避けようとする。
「じゃあお願いしますね、これチケットです!
 明日のライブ参戦に備えて、今日はこのDVD持って帰って
 絶対見てくださいませっ!お願いしますにょ!」
ちょっと椅子を引いて距離をとりながら、斑目は財布を取り出す。


「そこまで言うなら、まぁ行こうかー。ぐじアン再アニメ化だしナ!
 で、いくら?落としたらまずいから朽木君が持っといてよ。」
「了解であります!5千円になりますっ!」
そうしてDVDを受け取ると、なんとなくワクワクしてきた斑目だった。
部室を後にする二人。
「んじゃ、また明日ね、朽木君。」
「それでは明日は駅前に10時半でヨロシクっす!」
別方向に帰っていく斑目と朽木だった。
(ん?なんか集合時間早くねぇか?会場遠いんかな…横浜とか?)
ふとした疑問が湧き上がったが、仕事のイライラからの逃避が強く働き
すぐに帰って、さっき借りたライヴDVDを見ることを考え始めた。
(コンビにで弁当と、ちょっと良いビールでも買うかな。)
ビールのCM曲を鼻歌で歌いながら、足取りも軽く斑目の背中が遠ざかっていった。


翌日の午後、しっかりした電車のシートに座り呆然とする斑目の姿があった。
その隣にはもちろん朽木が居る。手には某携帯HDDプレイヤーに動画を落とした
物を持ち、熱心に曲ごとの振り付けをレクチャーして来ている。
斑目も流石にウザいような冷や汗が浮かんでいる。
(何故、俺は新幹線に乗っているんだ――。)
「ライヴが名古屋で有るからに決まってるにょ。」
「――!?朽木君、テレパスか?」
「口から台詞が漏れてましたからっ!」
その時、車内販売のカートが車内に入ってきた。


「お弁当、お茶、お土産各種取り揃えております。
 浜名湖名物のうなぎ弁当、うなぎパイ、静岡茶はいかがでしょうか。」
ガラガラと近づいてくる。ちょうどお昼の時間も近いので、弁当は
かなり売れているようで、近づく間にも何度も呼び止められている。
「名古屋に着いたらもう遅い時間でずぞ…弁当食いませんか斑目さん?」
「うむ、そうだな。名古屋名物を食いたい気もするが…。まあ食えるっしょ。」
「名古屋名物ですか?どんなのがありますかにゃ~?」
素で聞いてくる朽木に、苦笑しながら斑目が答える。
「つか、朽木君さー、行くの判ってるのに調べてないの?」
そう言って、しばし車内販売のカートを待つ。
が、うなぎも無ければ味噌カツも無かった。
結局、幕の内弁当2つを買ったが、それも残りわずかだった。
それを食べながら、車窓に目をやると、山の緑が濃い。
しかし旅情も無く、朽木が話しかけてくる。
「名古屋名物ってうわさに聞くと、僕にはキワモノっぽく思えるのですが!?」
「それは食わず嫌いなんじゃねーの?俺も食った事ないけどさ。」
(なんでコレでわざわざ名古屋に行こうとしてるんだろうなぁ。)
「んーそうだな。うなぎに薬味を合わせたり茶漬けにしたりして食べるひつまぶし、
 味噌味のソースが掛かった味噌カツに、味噌煮込みうどん、平たい麺のきしめん、
 海老天のおむすびの天むす、スパゲティーの変わった食べ方のあんかけスパに、
 トーストに小倉あんを付けて食べたり、豪華な喫茶店のモーニングが有名だな!」
「ほうほう?」
「あとは酒のつまみとかでは、手羽先が有名だったり、巫女居酒屋が有るという
 噂も聞いたことがあるが―――。」
「イグザクトリィ!それはミーも聞いたことアリマスね!」


「それと、ホントのキワモノ料理ってえなら、 喫茶マウントポジションも
 有名かもな。 甘口のフルーツスパゲティーとか 巨大なカキ氷とか、ネタが
 豊富らしくてな。量が多いらしいから、俺らだけじゃ無理っぽいけどなぁ。」
おとなしく斑目の説明を聞いていた朽木が口を開く。
「はーい質問!なんで朽木さんはこんなに詳しいんですかにゃ?出身でしたか?」
「いや、会社の先輩が一人、名古屋出身でね…。」
そうして名古屋名物の話をしながら普通の幕の内弁当を食べ終え、ライヴ画像で
振り付けの復習をするうちに名古屋に到着したのだった。

名古屋駅構内に出てきた斑目と朽木。
「そういえば今年のガメリャの映画は名古屋だったよな!」
「はーい僕チン、観に行きましたヨ!」
吹き抜けの広い構内には丸い柱が並び、広告がずらりと並んでいる。
「行き先は大丈夫なんかな?朽木君。」
「こっちでアリマス!………たぶん。」
人波をかき分けながら移動していくと、駅から出て人の流れに乗って歩く。
前方に巨大な細長い人形が見えてきた。水着を着ている。
「これがナナちゃんか―――。」
「なんですか?この巨大なコスプレ人形は?」
「ぶっ!コス………まあ、どうだろうなぁ。萌えない事だけは言えるが…。」
ライヴ会場に関しては朽木の下調べに基づいて地下鉄に乗って移動する。

「朽木君、会場はこの近くなのかな?」
「ノン!せっかくですから、ちょっと夕方まで異邦のオタ文化を楽しみましょう。」
降り立った町は、アーケードの中に洋服店とオタ向けの店が混在する商店街だった。
「確かに、これは不思議な感じだよなぁ。」
食玩のショップや同人ショップをぶらぶらと探索し、メイド喫茶で休憩する。
名古屋に来ても、いつもと同じ休日を過ごす二人だった。
「東京では見かけない同人サークルも有るし、掘り出し物が有ったな。」
「現聴研の成人向けですか~?でもそれ女性向けではありませんかにゃ…。」
「いや、これはギャグものでな、けっこうイケルぜ。」
(帰ったらこのサークルのサイトに行ってみよう。)
「しかしこうして見ると、東京のイベントだけじゃなくて、名古屋や大阪に
 遠征するのも、たまには行ってみたい気がするな。」
「オオ!旅費さえあれば、良いですネ―――!」
そうして時間が迫り、店を出る。
「行ってらっしゃいませ~、ご主人様。」


また地下鉄で移動してから、少し道に迷いつつ、会場に到着した。
しかし朽木の様子が少しおかしい。
「……あのー、そのー……ま、斑目さん―――。」
「ん?何かな?」
「えー、非常に申し上げにくい……まことに、まっこと申し上げ難いのですが。」
「え?え?何、まさか―――。」
「チケット、忘れてきました!しかも斑目さんの分だけっ!!」
「ぶっ!!!」


反射的に吹き出す斑目。前方に居た他のライブ参加者が訝しげに振り返る。
「おいーーーっ!!どうすんの?ここまで来て!!」
「すみまっしぇん!!斑目さんについて来てもらったのに―――。」
流石の朽木も、少し震えて半泣きだ。こう見えても朽木は斑目を
慕っている方なので、心底申し訳ないと思っているのだろう。
「は、はは!はははは!!まあ、イイッテコトヨ!!」
「え????」
「朽木君、見てきなよ。俺は近くの店で待ってるわ。
 終わったら携帯に連絡くれな。」
「それで良いのでありますか!?私も辞退しても―――。」
「それは勿体無いっしょ。俺は大ファンでもないし。」
「うう……斑目さん、一生ついていきますっ!」
「いや、それ迷惑だから。まぁ気にすんな。」


そうして朽木を見送った斑目は、夜の街を彷徨い始める。
(うーん、慣れない街は緊張するなぁ。ていうか予想外の展開…。)
その時、すれ違った金髪の女性の姿に思わずふり返る。
(え?春日部さん!?)
確かに後姿は似ている。思わずUターンしてしまう。
追い越しざまに見てみると………。
(当然だけど、別人だわな。っていうか、俺、まだ引きずって―――。)
名古屋名物を食べようかという目論見も忘れ、しばらくボーっと街を歩く。
ふと気づくと、路地にはハリウッドのアクション映画に出てきそうな
外国の方々が、前方にたむろしている。斑目は慌てて大通りに引き返した。
結局、漫画喫茶に入り、ネット巡回や懐かしい漫画を読んだりしつつ、
ドリンクの飲みすぎで腹がちゃぷちゃぷになって行ったのだった。

やがて朽木から連絡が有り、会場に戻っていくと、汗で上気した人々の
群れとすれ違い、祭りのあとのような寂しさを少し感じた。
「これ、ツアーTシャツです。斑目さんにお土産っス!」
「ん?ああ、ありがと。じゃあ飯でも食って……ってホテル!」
「どーしましたかにゃ~?」
「かにゃ~?じゃねぇ!ホテルどうしてるの?そういやさ!」
「あ~、近くに安くビジネスホテルを取ってますから!ネットの力で!」
「そこは威張るところじゃねーよな…。まあ良かったけど。」
そうしてプリントアウトしてきた紙を取り出して歩き始めた朽木にのあとに
ついて斑目も歩き始めた。
「晩飯、どうすっかね?俺もまだなんだけど。」
「時間が時間ですから、開いてる所が有ったら入りましょうカネ。」
「しゃーねーわな。」
結局15分近く歩き、ホテルが見えて来た時に居酒屋チェーンも発見した。
一旦、ホテルにチェックインしてから行こうという事にする。
さすがに朽木は。ここでもツインじゃなくダブルで部屋を取る。という
大ボケはかまさず、普通にツインで部屋を取っていた。
「もうとことんまでトラブル続きかと思ったけどナ。はは…。」
「そこまでひどくは無いでアリマスよ!!」
そうして結局、東京でも利用していた黒木屋で呑むことになり、
斑目にしては珍しく深酒をしてしまった。
日付が変わるまで呑み続け、朽木に抱えられてホテルに帰ったのだった。


「うう……気分悪りーな………。」
斑目は、目を覚ましてしばらくして名古屋のホテルだと思い出した。
「あ、オハヨーゴザイマス。」
朽木はTVで朝のライダーを見ている。
「あー、昨日どうしたっけ?あんま覚えてねーや……。」
「昨夜は珍しく、斑目さん笑い上戸でしたヨ。」
「ハハ…どーしたんだろね………。」
「もう起きますか?今日は味噌カツとかひつまぶし食べますかにゃ?」
「ぐっ………無理だ、それ。」
そしてトイレに入ると、居の中のものを吐き出すのだった。
TVでは白黒少女のアニメが始まっている。
「うー、俺、もうちょっと寝るわ―――。」
「了解でありますが、大丈夫スか?」
「起きなくてもチェックアウト前には起こしてくれい……。」
そうして昼前まで、ホテルのベッドで寝て過ごしたのだった。


ホテルを出てすたすた歩く朽木と、けだるげについていく斑目。
「帰りの時間が迫ってまいりました!」
「は?帰りの時間って?」
「イェス、サー!帰りの新幹線は指定席で取っているでアリマス!」
「いや俺、何も名古屋らしい物、食ってねーんだけど…。つか早くない?」
「早いのは、ライヴで疲れてると思ったからでして。あと食べるのは、名古屋駅の
 近くですぐ見つかれば、いけると思われ!」
「あ、でも濃いものは無理だな………。」
朽木は斑目が寝ている間に、コンビニで弁当を買ってきて朝食を食べている。
「あー………もう帰ろっか………。」

そうしてぐったりと新幹線で帰る斑目と朽木だった。
「夜ご飯に食べてくださいにょ。」
朽木の思いやりで、味噌カツ駅弁を鞄に入れてもらう斑目は少しホロリと来た。
しかし新幹線を待っている間に、朽木は一人で新幹線ホームの立ち食い処で
きしめんを食べ、新幹線内では松坂牛弁当を食べていたのだった。
その間、斑目はポカリをすすって胃の回復を待つしかなかった。
「あー、朽木君と二人旅はいかんな…マジで!」
「えーっ、そんなつれない!クッチーショックですぞ!」
「あ、ごめん、心の声が口から漏れてたわ。」
そう言う斑目の顔には、屈託のない笑みが浮かんでいた。
なんだかんだで、非日常の気晴らしにはなったようだ。
(しかし、名古屋は心残り過ぎるぜ、こりゃ…。何も食ってねーし、
 観光もしてねーもんな。さすがクッチープレゼンツ!ってか。ハハ……。)
会社の人へのお土産を忘れていたので、東京駅でういろうを買う斑目であった。