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promise 【投稿日 2006/08/07】

カテゴリー-笹荻


もうすぐ冬が過ぎ、春が訪れそうな季節の頃。
大学の卒業式も目前に迫る中、笹原と荻上の二人は道を歩いていた。
夜もふけ、人通りもない。歩道もない狭い路地をのんびり進んでいた。
まだ残る寒気を帯びた風が吹くたびに、震える二人。
「まだ寒いね。」
「そうですか?実家の方じゃこのくらい・・・。」
そのタイミングで寒い風が吹く。
それにつられて荻上は体を震わせた。
「ははは。やっぱり寒いよね。」
「・・・ですね。」
恥ずかしそうに顔を背ける荻上に、笹原は優しく笑う。
「やぁ、しかし早かった、もう卒業かあ。」
「・・・そうですね。もうですよ。」
二人はその後、言葉もなく歩く。
これが普通になってもう半年近くがたつ。
慣れてきたともいえるこの状況は、二人にとって幸せに違いない。
だが、それももうすぐ変わる。
「卒業したら、もうこんなふうには・・・。」
そう独り言のようにボソッと呟いてしまい、目を見開いて口を覆う荻上に、
笹原は困った顔で苦笑いを浮かべるしかなかった。
「んー・・・。ごめんね?」
「何謝ってるんですか。笹原さんは別に何も悪くないでしょう。」
「でもね・・・。」
「・・・すいません。謝るのは私のほうでしたね。」
「・・・それもなんか違うと思うんだけど・・・。」
卒業も間近になり、少し今までと違う雰囲気になっていたのは確かだ。
今後のことを、不安に思う気持ちが、彼らを覆っていた。
「・・・でも・・・。」
「まあ、なんとかなるよ。うん。」
「・・・ですね。」
頭では納得はする。しかし、何かすっきりはしない。
また無言。二人は歩く。どんどん歩く。

少し時間がたった後、笹原は後ろに気配を感じ、振り向く。
車の音が近付く。
「危ない!」
叫びと共に押された荻上は壁に叩きつけられる。
「いたっ・・・。」
一瞬何が起こったのかは分からなかった。
目の前で、笹原が車にぶつかり、倒れる様が見えた。
車は一瞬速度を落としたようだったが、そのまま走り去って行った。
「え・・・。」
その場に、ぺたんとへたり込む荻上。
人気もない路地。目の前には一人の男が倒れている。
「笹原・・・さん?」
動かず、返事もない。
一瞬、呆然として何をすればいいのか分からなかった。
「笹原さん!」
飛び出すように笹原に近付く。目は閉じられたまま。頭からは・・・。
「血・・・!・・・きゅ、救急車・・・!」
手が震える。鞄の中の携帯を探す時間も長く感じた。
「えっと・・・。」
119。この三桁を押すのでさえなかなか手が動かなかった。
心臓が絶え間なく動く。鼓動が、大きく聞こえてくる。
『はい、救急センターですが。』
「あ、あの、事故が!事故がありまして!」
急がなくてはという想いが心を占め、口が早くなる。
『はい、住所をお願いします。』
「えっと、えっと・・・。」
住所なんて分かるはずもない。焦りだけが募り、頭が真っ白になる。
『近くに電柱はありませんか。落ち着いて。』
周りを見渡すと、すぐに目的のものは発見できた。
ようやく住所を告げ、電話は切られた。
「笹原さん・・・!」
涙目になりながら、笹原の手を握る荻上。遠くから、救急車の音が聞こえた。


「軽い脳震盪?頭の傷も深くはないって?」
荻上の連絡で駆けつけたメンバー達。
咲が、荻上の言葉にホッとしたような顔をした。
「ふぅ。荻上の連絡があったときには驚いたけど・・・。
 まあ、不幸中の幸いだね。」
「ええ・・・。意識はまだありませんが・・・。
4、5日検査入院だそうです。」
「ひき逃げだって?全く・・・。いやな世の中だな。」
田中が神妙な面持ちで話す。
「全くです!犯人は絶対に見つけて欲しいですね!」
大野が怒りに満ちた表情で声を荒げる。
「・・・。」
荻上は俯き、言葉を発しない。
「家族には連絡したの?」
「・・・はい。一番最初に恵子さんに。」
「・・・あのバカ、何でこんな時にすぐ来ない・・・。」
その言葉を咲が全て出し切ろうとしたその時、恵子が姿を見せた。
「・・・兄貴、どうなの?」
いつもない真剣な表情を見せる恵子に、咲は少し戸惑う。
足が、小刻みに震えているのが分かる。
「・・・なんだ、あんたどうなったか知るのが怖くてすぐ来れなかったのか。」
「う、うるさい!で、どうなんだよ!」
「・・・軽い脳震盪だそうです。傷も・・・浅く・・・。」
「じゃ、じゃあ命は・・・。」
「大丈夫ってこと。親御さんは?」
咲が笑顔で言うと、恵子はその表情を崩す。
「・・・一応留守電に入れといた。二人ともまだ仕事だろうし・・・。」
「そう。じゃあ、もう一回入れておきな。命に別状はないって。」
「ん。分かった。・・・よかった・・・。」

携帯を取り出し、電話をする恵子の呟きに、咲が笑う。
「ぷふっ、あんたもなんだかんだ言って・・・。」
「うー、うるさいって!・・・あ、お父さん?うん。大丈夫だって。
 お母さんも一緒?これから来る?わかった。」
段々緊張も解けてきた皆のなかで、荻上はふっと足を外に向ける。
「・・・どうした?荻上さん?」
その姿に気付いた斑目が声を掛ける。
「・・・すいません。ちょっと風に当たってきます。」
「・・・あ、ああ。」
そのまま、外へ出て行ってしまう荻上。
ただならぬ雰囲気にちょっと腰が引けた斑目。
それを見ていた咲が、すっと前に出る。
「まーたあの子、何か抱え込んでるな。」
「・・・どうしましょう?」
「・・・ここはあたしに任せてよ。」
恵子が咲と大野に告げる。
「あんたが?喧嘩しないでよ?」
「だ、大丈夫だって。兄貴のこと、礼も言いたいしさ。」
そういって、荻上のあとを追いかけていく恵子。

「・・・こんなところにいたんだ、お姉さん?」
少しおどけるように、荻上に声を掛ける恵子。
病院の中庭で、荻上は空を見上げていた。
その声にはっと振り返って、恵子の顔を見る荻上。
「・・・お姉さんじゃありません。」
「まあまあ、いいじゃないの。ありがとうね。」
「・・・・・・なんのことですか?」
その言葉に、面食らったように言葉に詰まる恵子。
「いや、兄貴のことに決まってんじゃん。」
「・・・助けてもらったんです。こっちが・・・礼を言わなきゃ・・・。」
「ああ、そういうこと・・・。」
思いつめたような荻上の言葉に、恵子は少し笑う。
「何がおかしいんですか。」
「なんとなくどういう状況だったかは分かったよ。
 兄貴ならそうするだろうなって思ってさ。」
「・・・そうですか。」
ふいっと、恵子から視線をはずす荻上。
「それで気に病んでんの?」
「それもあるんですけど・・・。
 ・・・今の自分がどれだけ幸せか、認識したんです・・・。」
「はぁ?」
何を言っているのか恵子には分からなかった。
しかし、それに構わず荻上は言葉を続ける。
「笹原さんが本格的に仕事を始めたら、今までのように会えなくなる。
 そのことに、少し不安を感じていたんです。」

振り返り、恵子のほうを見る荻上。
その視線は、あくまでも真剣だ。
「でも・・・。そんなこと、今までに比べれば大した事じゃない。
 今回のことで・・・、笹原さんがいなくなったら、って思ったら・・・。
 一人だった頃のことを思えば・・・。
 私、幸せすぎて、そのことを見失ってたんです。
 ・・・自分が、すごくイヤになりました。」
その言葉に、恵子は不思議そうな顔をし、頭をかいて声を発した。
「・・・まー、人間そんなもんじゃねーの?
 一つ手に入れたら次ってなるじゃん?
 あたしはそーなるけどね。
 でも、そんなに怒られたりしないよ?
 やりすぎてしかられることはあるけどね。」
笑って荻上に近付く恵子。
「いいじゃん、少しワガママでもさ。
 あんたちょっと自分に厳しすぎない?
 今回もさ、無事だったからいいじゃん。」
「・・・あなたは、もう少し責任感を持った方がいいんじゃありませんか?」
「あー、いったね!?」
そういった後、二人は笑う。
「・・・さ、ここ寒いじゃん、向こういこうよ。」
手を伸ばし、恵子は荻上の手を取る。
「・・・はい。」
「そー言えばそろそろお父さんたち来るかな?
 あ!もしかして初対面!?」
その言葉にドキッとする荻上。
「え、あ、そ、そういえば・・・。」
「大丈夫大丈夫だって、二人ともゆるいからさ~。」
この恵子にゆるいといわれる二人の両親とはどんな人なのだろうと、
少し想像しておかしくなった荻上であった。

「あ~、ごめんね。」
翌日。目覚めた笹原の横には荻上がいた。
無言で、不機嫌な顔をする荻上に、言葉が出せなかった笹原だったが、
ようやく声を出すことが出来た。
「・・・なんで謝るんですか?」
少し棘のある言い方で、荻上は視線を手に持ったりんごに向けている。
りんごは綺麗に剥けて行く。
「あ~、心配かけたかなって・・・。」
「でも、それは私を助けたからじゃないですか。」
「ま~、それはそうだけどさ・・・。」
荻上がどうして不機嫌なのかをつかめずにいる笹原は、
物凄い居心地の悪さを感じていた。
「・・・約束してください。」
りんごを剥き終えて、それを皿にそろえた後、
荻上はようやく声を自分から発した。
「え?」
「次こういうことがあったときは、私だけを助けないで下さい。」
「え、で、でも・・・。」
「わたしひとりになったら、それもいやですから。」
「・・・あー、でもなあ・・・。」
「二人とも助かる方法を考えてください。」
あまりに真剣な表情で話す荻上に、笹原は戸惑う。
「でも・・・。」
「ここは、うん、と言ってくれればそれでいいんです!
 もし仮にそういうことがあって、出来なくてもいいんです!
 いま、そういう約束をするってことが大切なんです!」
少し涙目になりながら荻上は捲くし立てる。
「・・・うん、わかったよ。」
「・・・はい。」
そうして、二人はようやく笑って、いつもの状態に戻った。

「あー、りんご食べようかな・・・。」
「・・・はい。」
荻上の手が、フォークを持ち、りんごを刺す。
そして、そのまま笹原の口の方へ・・・。
「あーん・・・。」
「うぇ!・・・うぁ!!」
(こ、こいつは夢にまで見た「あーん」ですか?)
ベタと言えばベタな展開に、笹原は興奮する。
荻上も、顔を真っ赤にしてやっている。
そして、笹原が口をあけて、
「・・・あーん。」
「よう!元気してるか笹原!見舞いに・・・。」
大きな扉の音と共に現れたのはMr.バッドタイミング・斑目氏である。
「・・・。」
「「ま、斑目先輩・・・。」」
無言のまま後ずさり、外に出て、扉を閉める斑目。
「「な、何か言ってくださいよ~~~~~!!」」
二人の叫びを扉の外で聞きつつ、心で呟く斑目。
(病院でカップルがいちゃつく・・・。寒い時代だと思わんか・・・・。)
呆然とした顔をして、斑目はその歩を病院の外へと向けた。


オマケ

「で、お父さんとお母さんとは?」
「・・・普通に挨拶しただけですよ。」
「ほんとー?」
「本当です!!」
「なんだー、
 『完士のことよろしくお願いします』
 『はい、任せてください』
 みたいな会話を期待してたのに~。」
「何を言ってるんですか!
 ・・・今度遊びに来てね、とは言われましたけど・・・。」
「をを!マジで!」
「・・・何を大げさに・・・。」
「いや、お父さんがさ、
 『今度我が家の新しい一員が来るよ。』
 みたいな事いってたから・・・。てっきり新しいペットかと思ってた。
 お姉ちゃんの事だったんだね~。」
「!!」