※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

アンジェラ 【投稿日 2006/08/06】

カテゴリー-斑目せつねえ


注:データ量の関係で二分割しています。

(映画「Angel-a」のパロ)

~山崎まさよし「アンジェラ」より~

いつか流した涙と無くした言葉を探して
鏡の向こうに閉じ込めた心を取り戻して

今は渇いた瞳でやがて来る明日を見ないで
私はあなたのすぐそばでささやきつづけている

そして物語は始まった…


ぬかるみのような灰色の空。
最近ずっと曇りの日が続いている。
冬。もうすっかり葉の落ちた木が、冷たくなった風を受けて枝を揺らしている。

会社を出てしばらく歩いたところに少し大きな川がある。
ふと足を止め、川を橋の上から眺めてみる。
濁っているので水の中までは見えない。
まるで今の自分の心のようだと思った。

ただ、川の水は止まらずずっと流れていって行き着くところがある。
自分はまだ立ち止まったままだ。


ボーッと川の流れを眺めていた。ふと気配を感じて横を向く。
すると、そこにはアンジェラがいた。

『あ、アンジェラ??…こんなトコで何してんの?』
…よく見ると、アンジェラは手すりの向こう側にいた。
今にもそこから飛び降りそうな顔で。


(………………………………………は?え?)


そんなトコにいたら危ない、と言いかけたとき、アンジェラが真剣な顔で言った。
『マダラメ!!早まらないで!!』
『は?って、早まってんのはそっち………』
『もしそこから飛び降りたら、私も飛び込む!!』
『いやいやいや、何かとんでもない勘違いしてない?ていうかそこ危ないって!』
『え?…勘違い??』
『いいから、とにかくこっち戻………』

そこまで言ったとき、アンジェラが足をつるっとすべらせ、下の川にどぼーん!!と落ちた。


『!!!!!!』
あまりのことに頭が真っ白になる。
(え、うわ、え!?落ちた!?う、う、うわーーー!!!!!
どどどどーしよ!!!???えーとえーと、とにかく助けないと!!!!!)

慌てて着ていた上着だけ脱ぎ、手すりを乗り越えて自分も橋から飛び込んだ。


ゴボゴボゴボ………。
12月の川の水はどこまでも冷たい。
着ている服が体にまとわりつき、水を吸って重くなる。めちゃくちゃ泳ぎにくい。
無我夢中でアンジェラのところまで泳ぎ着き、腕を取って岸まで必死に体を動かした。
アンジェラもバタ足で必死に泳ぐ。


ようやく岸まで辿り着き、とにかく荒い息をついた。
水の中にいたのはわずかな時間だったはずだが、一気に体力を使った。
『ぜーー、はーーー………だ、だ、大丈夫?』
『ええ、何とか…泳ぐのは得意だから。服のまま泳いだのは初めてだけど~~』
『………………………………あ』
『どうしたの?』
『俺、泳げないんだった………………』

無我夢中で、泳げないことを忘れていたのだった。

『でも泳いでたわ、今』
『人間、その気になりゃ何でも出来るんだな………(汗)』

岸辺を冷たい風が吹き、凍えそうになる。
歯の根が合わない。大きいくしゃみが出た。

『…ぶっくしゅ!!』
『さすがに寒いわね~~』
アンジェラがのんびりと言う。
今日のアンジェラは、いつもと雰囲気の違う格好をしていた。
冬だというのに袖なしの黒いぴったりしたワンピースで、スカートの丈がやたらに短い。そして黒いヒールを履いている。
むき出しの太ももから目をそらすようにして、アンジェラに聞いた。

『て、ていうか、何で俺が飛び込むと思ったの…?』
『だって今にも飛び込みそうな顔していたもの』
『俺そんなひどい顔してたんか………?』
『してたしてた』
『いやいや、そんなつもりで川見てたんじゃねーから!
ていうか、だからってアンジェラまで飛び込もうとすんなよ』
『どうしても思いとどまらせなきゃ、って思ったのよ。どんな手を使っても』
『…はあ。心配してくれてどーも………』
『マダラメが死んだら生きていけないわ、って思ったの』
『………………はい?そんな大げさな』
『大げさじゃないわ』
アンジェラは真剣な顔でこっちを見る。その青い瞳に吸い込まれそうに感じ、どぎまぎする。

『え?何で???』
『マダラメが好きだからよ』
『………………………………はい?』

いきなりの告白に、頭が真っ白になる。
アンジェラはニコニコしてこっちを見ている。

『は?え?………何の冗談デスカ?』
『冗談なんかじゃないわ』
『ていうか何で俺??』
『何でって?』
『だって、そのーーー…アンジェラは美人だし、スタイルいーし、俺みたいなショボいのでなくてももっといい相手がいるじゃ…』
『どうしてそんなこと言うの?』
『え?』

アンジェラが悲しそうな顔をする。何故そんなに悲しそうにするのか分からなかった。
『どうして信じてくれないの?』
『いやだって…な、何で俺?』
『何か理由がないと駄目?』
『………だって俺なんか、別にカッコいいわけでも何か特技があるわけでもねーのに………………』
『どうしたら信じてくれる?』
『ど、どーしたらって………………』
『キスしたら信じる?』
『は?』

言うなりアンジェラにキスされた。
頭が再び真っ白になる。
『なん…』
『くしゅっ!!』
アンジェラもくしゃみをした。

『アハハハ、このままじゃ風邪ひいちゃうわ!!』
『………………………………………』
『あらどうしたのマダラメ?顔がトマトみたいに赤いわ。熱があるんじゃない?大変!
とにかくこの服を乾かさないと。どうしましょう?大学が近いからとりあえず戻る?』
『………………………………………』
『マダラメ?』
『へっ!?…あ、あー、そ、そーだね………………………』
頭の処理速度が極端に遅くなり、何も思いつけないのであった。


大学に戻っても服を乾かす手段がないので、とにかく自分の家に行くことに。

アンジェラには自分の服を適当に着てもらうことにして、濡れた服を洗濯した。
ドライヤーでアンの服を乾かす。乾燥機がないので、時間がかかるがこれしかない。
『………………………………』
アンの黒い色の下着も一緒に乾かしながら、さっき言われた言葉を思い出していた。

(………………ていうか何で俺??)
未だに半信半疑である。

『マダラメーあがったよー。』
シャワーを浴びていたアンジェラが自分のシャツを着て出てくる。
『アハハハ!下着つけてないからスースーするわ!』
『………とりあえず乾いたからつけてくれば?』
そっちのほうを見ないようにして下着を渡す。
『ありがと!』
そう言ってアンジェラは下着を受け取る。何か後ろのほうでごそごそしている。

(…つーかここでつけんなよ………………)
そうツッコみたかったがツッコめない。
『マダラメもシャワーあびてくれば?』
『…いや俺はいい………』
『でもさっきの川、あまり綺麗な水じゃなかったわよー』
『………じゃ、入ってくる………』

アンジェラの行動にいちいち振り回され、疲れて思考停止しそうだった。


『…さて!これからどーする?』
『え?どーするって?』
風呂から上がると、乾いたワンピースに着替えたアンジェラが聞いてきた。

『とりあえずお腹すいたわね!何か食べに行かない?』
『………………』
『あら、どうしたのマダラメ?』
『え?いや。まあいいけど』

…いつ帰るんだろう、と思っていたが聞けないのだった。


とりあえず近くのファミレスに行った。大学時代にもよく行ったところだ。
『オムライス!オムライス!!』
アンジェラは自分が注文したオムライスを前に上機嫌だ。
『はあ。そんな好きなの?それ』
『アメリカでは食べたことなかったから~』
『ふーん』
いつも楽しそうなアンジェラを見て、その性格が少し羨ましくなる。

『そういえばマダラメ』
『ん~~?』
『どうして自分のことをショボいなんて言うの??』
『ええ?』
『あなたってとても魅力的なのに』
『え、えええ??』
アンジェラに本当に不思議そうに聞かれ、ものすごく焦る。

『え?は?………ど、どこが?』
『自分では気づいてないのね』
『え、ていうか今までそんな…言われたことねーし………』
『あなたって自分のことをわかってないんだと思うわ』
『………はあ?』
『あなたって、繊細で優しくて、あんまり誰かと競争したりするのが向いてない人なのよ。
皆が仲良く平穏にしてるほうが好きでしょ?本当は。
そしてとっても臆病。だからいつも、人に本音が言えないで隠しちゃう。
そしていつも自分がどう見られてるか、怖くていつも気にしてる。』
『………………………』
アンジェラに鋭く指摘され、言葉が出てこない。

『あなたはどっちかというと女性的なんだと思うわ、心が』
『………それってむしろ男としてはダメなんじゃ………………』
『そんな風に思うから自分が生かせないのよ』
『………………なんか、スゲー落ち込んできた』
『でもそれがあなたなんだから仕方ないわ。むしろそこが魅力なんだから、もっと生かさなきゃ』
『………はあ…』
『自分を認めてあげるの。そしたらもっと自分が好きになれるわ』
『………………うーん』
『私はあなたと逆なの。内面は男性的。』
『え?』
アンジェラの言葉にいちいちとまどう。

『そう、豪快で大雑把で行動的。あなたとは対照的ね。まるで光と影みたいに』
『………………何かよくわかんねーんだけど………。俺が影?』
『いいえ、私が影、あなたが光。内面的には』
『ええ?逆じゃなくて?』
『あなたが光よ。ま、それはどっちでもいいわ。とにかく』
アンジェラはにっこり笑った。

『あなたは魅力的なの。そこが好きなの。それが答え。わかった?』
『………いや、まだよくわかんねーんだけど』
『もう!頑固ね。その頑固さもまた女性的だわ』
『その女性的、って言われるのスゲー嫌なんですけど』
『あらそう?』
『なんか男として否定されてるよーな………』
『まあ、そんなことないわ。』
『それに、その、す、好きって言ってもらえんのは嬉しいんだけど、俺は………』
『ああ、好きな人がいるんだっけ?確かサキが好きなのよね?』
アンジェラはさらっと言った。

『な、ななな何でそれを!!!!!』
『カナコが言ってたわ』
『…大野さん………………(汗)』
『でもサキにはずっと恋人がいるんでしょ?』
『………うん、まあ………』

『今でも好きなの?』
『………………………………』
考え込んだ。

『いや、もうわかんねー………自分が何でこんなに固執してんのか…。どうしたいのか………。
いや、何かしたい、って思ってるわけじゃなくて、もういい加減忘れなきゃいけないって分かってんだけど、それもできなくて………。
何でだろーなあ………。』
『なあんだ、そんなの簡単よ』
『え?』
アンジェラは立ち上がる。

『一人で考え込んでるから分からなくなるんだわ。直接本人と会って話してみないと、自分がどうしたいかなんてわからないわ!』
『ええ?本人って春日部さんと??い、いや無理!』
『だって今までさんざん自分で考えてて、答えが出た?出てないんでしょ?』
『いやそりゃそーだけどでも』
『じゃ、こうしちゃいられないわ。サキの店って新宿にあるのよね?さっそく行ってみましょう』
言うなりアンジェラは席を立つ。

『へ!?い、今から!?いやそんないきなり!!』
『「コトワザニモイウダロ?オモイタッタガキチジツ!!」って、スーも言ってたわ』
『…スーが?ことわざよく知ってんなあ…………って、そうじゃねー!いやむ、無理だって!』
慌てる自分を置いて、アンジェラはさっさと席を離れ、店を出ようとする。
必死で後を追った。

アンジェラは早いリズムを刻むようにきびきびと歩き続ける。
その後ろ姿を必死で追いかけた。

新宿へ向かう電車に乗っている間、周りの男性が皆アンジェラに釘付けになる。
アンジェラが美人だから、ということももちろんあるが、着ている体のラインぴったりしたワンピースと、ぎりぎりまで短いスカートから伸びる足が原因かと思われる。
『シンジュクって初めて行くわ!楽しみね、マダラメ!』
『…はあ、そうね………。』

アンに相槌を打つたび、周りの男がビックリしたようにこっちを見る。
(睨まれてんよ………。俺はもー勘弁して欲しいんだけど、ホントに)


アンは春日部さんの店の名前と住所が書かれたメモ(大野さんに聞いたらしい)を片手に、街行く人を捕まえ片っ端から道を聞いている。その行動力が羨ましいと思った。
(…ていうかどーすんだ俺?春日部さんに会ったところで、何が言えるんだろう?)

そうこう考えながらアンの後をついてゆくと、着いてしまった。
『ここだわ!』
『………………………』

店の外から、奥で服をたたんでいる春日部さんを見つけた。
こうして姿を見るのは久しぶりだ。

『…アンジェラ』
『なあに?』
『やっぱ止めない?そのー………仕事中だし、忙しそうだしさー…。』
『なら今度会う約束を取り付ければいいわ』
『…ああいう女の人の服売ってるトコってあんまり入ったことないしさーーー………』
『大丈夫、みんな最初は初めてなんだから』
『…そういう問題か?』
『いいから、つべこべ言ってる間にどーんと行けばいいのよー。ホラ!!!』
『わ………!!』

アンジェラに背中をどーん!と押された。
よろけながら店の中に入ってしまう。

「いらっしゃいませーーー!」
大きな声で挨拶され、ビビる。

「…斑目?」
「あ…(汗)」
春日部さんが目を丸くしてこっちを見ている。

「…や、やあ、久しぶり」
「何やってんの?新宿で。買い物?」
「あーいや、今日は………………」
思わず入り口近くで様子を伺っているアンジェラのほうを見た。春日部さんもアンに気がつく。

「へえ、アンジェラと来てたんだ?」
「え!?あーまあ、そーなんだけど…」
「へえええーーー。ほーほーほー!!」
春日部さんは何を勘違いしたのか、急に悪顔になって笑う。

「いや、ちがうって。そんなんじゃねーって」
「照れることないじゃん。アンジェラ、今日はまたすごいセクシーなカッコしてんのねー。気合い入ってるねー」
「なんの気合いだ。いやだから今日は………」
「何よ?」
「え、えーと………いやその………」

頭が真っ白になる。まさかこんなところで自分の中のトップシークレット(最後の砦)をバラすわけにもいかない。

「…いや、ちょっと様子見に………たまたま新宿に来てたからさ………」
「たまたまって、デートだったんでしょ?」
「いやそーじゃなくて、えーとその、アンジェラに同人ショップの場所とか紹介してただけで…」
「え?ああ、そーなんだ。…そういえばあるって言ってたね、新宿にも同人ショップ」
春日部さんは呆れたような顔をする。


…こういうときにごまかすのが得意だ。そうやっていつも、言いたいことをごまかしてきた。…自分自身にも。

「………じゃ、仕事の邪魔しちゃ悪いから帰るわ」
「あ、そう?」
「うん。…頑張ってな」
「ありがと」
それだけ言うと、店を出た。そのままアンジェラの横を通り過ぎた。


ちょっと後ろめたかった。でも、これでいいと思った。
『マダラメ!』
アンジェラに後ろから声をかけられる。
『どうだった?気持ちをちゃんと伝えられたの?』
『…いや』
『じゃあ、次に会う約束を取り付けた?』
『いや』

歩き続ける。アンジェラがずっと後ろから質問をあびせてくる。
いいのだ。そんなことしなくても、あの人が元気で頑張ってたらそれでいいのだ。
自分に言い聞かせる。だから、自分の想いなど言わなくたっていいのだ。

『…じゃあ何を話してたの?』
『仕事頑張れ、って』
『それだけ?』
『うん』

短く答えると、アンジェラに肩をつかまれた。
『何で言わないのよ!』
『いいんだよ。言わなくても』
『良くない!』
『何でアンジェラにそんなこと決められなくちゃいけないんだよ!』
『だってあなた、ひどい顔してるもの』

アンジェラがまっすぐこっちを見つめてくる。いたたまれなくなって目をそらした。


『………いいんだよ。俺のことは』
『どうして自分をないがしろにしようとするの?どうして自分の本音をごまかそうとするの?』
『………………………』


本当は自分でも分かっている。でも、状況や立場によって、本音を言えない時なんかたくさんあるのだ。別に恋愛に限ったことじゃない。
だから仕方ないのだ。だからいいのだ。

『…ごまかしてなんかない』
ようやくそれだけ言った。

『嘘よ。また自分に嘘ついてる』
『嘘ついてなんかない』
『それがもう嘘じゃない』
『…嘘つかなきゃならんときもあるだろ?』
『そうね。でも自分に嘘をつきつづけるのは良くないわ』
『………………………』
『そうやって自分を傷つけるのはやめて。自分に対してひどいことしてるわ』
『………言ってることが良くわからん』
『わかった。じゃあわからせてあげるわ。この辺りに大きい鏡のある場所はあるかしら?』
アンジェラは急にそんなことを言い始めた。

『…は?大きい鏡?』
『そう、できれば個室で。あ、あそこならあるかしら』
アンジェラは自分の手をつかみ、ぐいぐい引っ張ってゆく。

『え?ちょ、どこ行くの?』
アンジェラに連れられて入った入り口には、こう書かれていた。


 ご休憩 ¥7000~
 ご宿泊 ¥10000~

 HOTEL PINK BOARD


『!!!!!?????』
状況を認識したのは、もう連れ込まれた後だった。