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カラーパレット 【投稿日 2006/07/06】

未来予想図


六月

 ***

大「あうう~~~…」
朽「にょにょにょ~~~…」

ある日の夕方、大野さんと朽木君はリクルートスーツ姿のまま、部室の机の上に伸びていた。
荻「…二人とも大丈夫っすか?」
荻上さんはそんな二人に声をかける。言葉はそっけない感じだったが、表情からはとても心配している様子が伺えた。
大「就職活動がこんなにキツイものだったなんて…。去年、笹原さんや咲さんが疲れた顔されてたけど、今になってようやく実感できます…」
荻「そ、そんなキツイんですか」
大「体もなんですけど、特に精神的にですかねぇ…必死で心の準備して面接行って、あっさり落とされるのってたまらないですよ~~…。君はいらないって言われ続けてるようで。本命も落ちちゃいましたし…」
荻「大野先輩って、空港関係とか旅行会社とか受けてるんでしたっけ?」
大「ええまあ…私のとりえと言ったら英語が喋れることくらいですから…。コスプレはあくまで趣味ですし。」
大野さんは大きくため息をついた。

大「エントリーシート書いてると、自分を見つめなおさないといけなくなるんですよねぇ…。『私ってどんな特技があるんだろう』って考えるほど落ち込んできちゃって」
荻「はああ…(汗)」
明日は我が身。荻上さんは大野さんの言葉を聞いて、不安になってきた。
(私もそろそろ、将来のこと考えといたほうがいいのかも…)


朽「にょ~~…。面接きついにょ…」
荻「…朽木先輩はどんな感じですか?」
(というか朽木先輩は面接でまともな態度をとれてるんだろうか?そこが一番気になる…)

朽「…とりあえず初めて面接行ったときは、『いつも通りに』と思って気負わずに行ったにょ」
荻「い、いつも通りすか(汗)」
朽「うん、そしたら面接の途中で退場させられたにょ」
荻「………………………何やったんですか朽木先輩(汗)」
朽「でー、さすがにいつも通りはまずいにょと思って次からは自分に『普通補正』をかけて行ったにょ」
荻「普通補正ってどんなのですか?」
朽「姿勢を正して、言葉も正して、こう。『私が御社を希望する理由は………』」
荻「へえ、朽木先輩、やればできるじゃないっすか。」
朽「『…面白そうだと思ったからです!以上!!』
………何で落ちたのかにゃ~~~?」
荻「………………………やっぱり朽木先輩は朽木先輩でしたね」
朽「でも、そーゆーときに思ってもないこと言うのって、なんというかトゥルーオアダウ?みたいな」
大「………ケースバイケースだと思いますよ」
さっきから聞き役に徹していた大野さんが思わずツッコミを入れた。

大「でも、そうですねえ…面接で喋ることって、本心なのか、その会社に入りたい一心でついてる嘘なのか、自分でもわからなくなってきますよねえ…。」
大野さんは再びため息をついた。
朽「もーどこでもいいから決まりたい、って気にもなってくるしにょ…」
大「ああ、わかります、それ………。」
二人は大きくため息をついた。


………………………


さて、恵子は恵子で色々悩んでいた。
最近ずっと春日部ねーさんに今後のことを相談しに来ていたのだった。

咲「とりあえず何でもやってみりゃいいじゃん。そのうち何か見つかるって」
…と言われ、バイトを変えたり求人情報誌を読んだりしてたのだった。

ある6月のある日、今日も恵子は春日部ねーさんの店に来ていた。
閉店してレジ閉めも終わった後なのを見計らって、恵子は店までやってきた。
いつものようにシャッターを叩いて合図する。

恵「こんばんは!」
咲「またアンタか…」
春日部ねーさんは疲れて少しげっそりした顔で恵子を見た。
恵「またってことはねーじゃん!…疲れてる?ねーさん」
咲「まあねえ…」
恵子はその辺においてあるディスプレイ用の椅子を持ってきて勝手に座る。

恵「えーでも6月は売り上げ落ちる時期なんでしょー?そんな悩むことないって!」
咲「いや、本当ならそうなんだけど、今年は暑いでしょ?先行で入れてた夏物が売れるのよね。逆に品薄になっちゃって。
売れるって分かってても商品がないんじゃあねえ………」
恵「へえ、大変だー」


咲「それだけじゃないんだよね、頭痛いのはさ」
春日部ねーさんは眉間にしわを寄せる。
咲「急な都合で辞めちゃうスタッフがいてさ。その空いたシフトの穴をどーやって埋めようかと」
恵「へーーー」
咲「今から求人かけても………………………………」

言いかけて、じっ、と恵子のほうを見る。
恵「ん?何??」
咲「………アンタさ」
恵「うん」
咲「ウチで働く気ない?」


帰り道、恵子はワクワクしていた。
ねーさんに「ウチで働く気ない?」と言われ、即「やる!」…と返事したのであった。
ちょうど今やってるビデオ屋のバイトに飽きてきていたところだった。

咲「でも、ウチで働くからには、知り合いだからって甘やかさないよ」
そうはっきりと言われた。
恵「んなのわかってるよ、ねーさん」
咲「アンタが思ってるよりきついよ?」
恵「そーなん?」
咲「その服装も、仕事来るときは変えてもらわないといけないし」
恵「あーそっか、店の服着て売るんだっけ、こーゆーのって」
咲「まー完全にウチのじゃなくていいけど、ウチの雰囲気に合った服を着てもらわないと店に立たせられないからね」



(なんかちょっと楽しみだなー。スタッフは店の服半額くらいで売ってもらえるらしーし。
春日部ねーさんの趣味だから、今まで来てた服よりちょっと綺麗目な感じんなるけど。
まーそろそろ渋谷系から変えよーと思ってたし。私もトシだしィ)

とりあえず明日は店に着ていく服を買いに行こう、と思い、気合いを入れる恵子だった。



咲「うーん………」
初出勤の日、恵子を見て渋い顔をする春日部さんだった。
咲「あんたセンスはいーんだけどねえ………まだちょっと派手かな」
恵「えーそうかなー?」
咲「スカートもーちょっと長いのにして。あと化粧ももうちょっと抑え目で。」
恵「えーこれでも控えめにしてきたんだけどなー」
咲「どこが(汗)」
マスカラたっぷりの恵子のまつ毛を見て、ため息をつく春日部さんだった。

咲「…ま、仕方ない。今日はそれでいいや。あと、けっこう年配の人も来るんだからその喋りもなんとかしなよ」
恵「はーい」
咲「大きい声でアイサツしてね。お客さんが店に来たら入り口のとこで「いらっしゃいませ!」って。」
恵「わーってるよ、今までバイトとかで慣れてるもん、その辺はわーってるって」
咲「だからその喋り方を…」
恵「大丈夫、大丈夫。お客さん来たら変えるって…」
咲「いらっしゃいませー!」
お客さんが来たらしく、春日部ねーさんは商売用の声で即反応する。そのままお客さんの方に寄っていった。

咲「お久しぶりですー、○×様。昨日お友達の方がお見えになってましたよー」
「ああ、そーなの。ここの服着てたら友達に誉めてもらっちゃったんで、紹介しといたんだー」
咲「ありがとうございますー。」
「で、今日は取り置きしてた服、取りに来たんだけど…」
咲「はい、ただいまお持ちしますね」
「あと、最近暑いから半そでの服も欲しいなって」
咲「そうですね、今でしたらこのあたりが…」

接客する春日部ねーさんは普段とは別人みたいに口調が丁寧だった。
(おおお…プロだーーー!)
感心して見ていると、急に後ろからお客さんに声をかけられた。

「あの、この素材の服って洗濯できるんですか?」
恵「へっ!?」
びっくりしてお客さんを見る。お客さんもびっくりしていた。
恵「えーと、ハイ、たぶん…」
「え?」
恵「あー、ちょっと聞いてきますね!!」
慌てて春日部ねーさんの所に聞きに行く。

恵「ねーさ…じゃなかった、店長、この服って洗濯できる?」
咲「うん、できるよ。…そういうのは品質表示に書いてあるから。この服の中のタグ」
恵「ああ、そうか…」
咲「…大丈夫?」
恵「うん、何とかやってみる………」

恵「あ、お洗濯できるそーです」
「そう。…試着していい?」
恵「はい、どーぞ!!」
試着室のほうまでお客さんを連れて行く。

(えーと自分が客の時って、店員さんどうやってたっけ。えーと?)

恵「あ、じゃあ、カーテン閉めますねー!」
そう言って、とにかくカーテンを閉めた。

(ふう!…うわー緊張したーーー…。ていうか、これでいーんかな?)
焦りながら、春日部ねーさんの方を見る。ねーさんはずっと笑顔を崩さず、お客さんの世間話を聞いている。

「あのー」
試着室からお客さんの声が聞こえる。
恵「はっ、はい!あ、試着されました??」
「ちょっとキツいかも…。もう1サイズ上ってないですか?」
恵「サイズ上っすか?ちょっと待って下さいねー!」

急いでサイズ上を探しに行くが、どこに並んでいた服かわからない。
(えーと、アレ?…どの服だっけ?白のデザインシャツだったと思うんだけど、…このへん全部そうだな。
似てるのばっかでどれかわかんねー!サイズ上??Lサイズ??)

探すが、やっぱりどれか分からない。
(あーそうだ、お客さんが持って入ってんだから、それ借りて探したらいーじゃん!)
ということにようやく気づき、試着室に戻る。カーテンの外から声をかける。
恵「あのー、もう一度探してみるんで、今持って入られた服借りていいっすかね?」
「え?まだ見つからないの?」
恵「あーすいません!もーちょっとなんで!」

そしてようやく並んでいる服から同じ形を探し出した。
(Lサイズ…あ、これだ!あったあった!)

急いで引き返す。
恵「すいませーん!お待たせしました、これっすね!」
「…ありがとう」
お客さんは待たせたせいか、ちょっと声が硬かった。
(う………怒らせたかな??)

しばらくして、お客さんは出てきた。
恵「あ、どーでした?」
「んーーー…もうちょっと他も見てから…」
そう言って服を返してきた。
恵「はい、どーぞごゆっくり………」

(うーーーん…何か難しいなーーー………)
お客さんから返された服を手にもったまま、立ちつくしていた。
(なんかこう…ねーさんみたいにスマートにできてない気がする。
まだ慣れてないから、ってのもあるけどー…うーん…)

お客さんが帰ってから、春日部ねーさんに話しかける。
恵「ね、どーだった?何か私変だった??」
咲「うーーん、もうちょっと落ち着いて接客しなよ」
恵「あはは…」
咲「あとは商品知識だね。お客さんに聞かれたらすぐに答えられるようにならないと。あと、店内にある商品の場所も覚えてね。
…ま、慣れてきたらそのうち覚えると思うけど。」
恵「うーーーん」
咲「あと喋り方、直しなね。お客さんの前で出てたよ」
恵「え、マジ?マジ?気づかなかったー」


その日、帰りの電車の中で恵子はぐったりしていた。
緊張しながら8時間ほど立ち仕事だと、キツイ。バイトで慣れてるつもりだったけど。
(そのうち、かあ………そのうち、ねーさんみたいになれるのかなー………)

次の日、言われたとおり薄化粧で店に向かっていた。いつもより化粧が薄いと、なんか落ち着かない。
すっぴんで外を歩いてるような気分になり、何度もその辺のショウウインドーに自分の顔を映して確認してしまう。
(うーーーん………どーもなー…気になるなー………。化粧って自分の顔の気に入らないトコを隠すわけじゃん?
何か隠れきってないような…あー、もうちょっとマスカラつけてくりゃ良かった………)

店に着き、春日部ねーさんから商品の検品の仕方など色々教えて貰うのだが、頭に入ってこない。
鏡が視界に入ると、つい自分の顔を確認してしまう。

咲「アンタ、ちゃんとやる気あんの?」
春日部ねーさんは怒り始めた。
恵「あ…うん。あのさ、今日変だよね?私」
咲「は?何が」
恵「今日、化粧変えてきたんだけどさ………。やっぱもっとマスカラつけてくりゃ良かったかなーって」
咲「何言ってんの。いつもがつけすぎなんでしょ。これハンガーにかけて、時間ないんだから」
恵「へいへい…」
言いながら、やっぱり気にしてしまう。


昔、小学生の高学年のとき、顔のことで同級生の男の子に言われたことがあった。
「おまえ兄ちゃんそっくりだな。男顔!」

…それを言われてから、自分の顔が嫌いになった。高校生になって化粧を覚えてからは、できるだけカバーしてきたつもりなんだけど。
特に目が似ている。そういえばねーさんに初めて会ったときに、それを見破られたことを思い出した。

(………あー、駄目だ。やっぱ………………)
だんだん不安になってくる。しっかり化粧してないと、裸で街を歩いてるような気分になるのだ。

咲「………あんた、顔色悪いよ?大丈夫?」
ねーさんが聞いてきた。
恵「…う、うん、大丈夫!」
(ちゃんとやらなきゃいけないのに。…ちゃんと………)

咲「…ちょっとこっちおいで。副店長、ちょっとバックルームいってくるから」
そう副店長に言って、春日部ねーさんは私の手を引っぱっていく。

(………うわーどうしよ。説教されんのかな………)
びくびくしながらついていくと、商品が所狭しと並んだバックルームのドアを閉め、ねーさんは心配そうにこっちの顔を覗きこんでくる。
咲「ホントに顔色悪いよ。体大丈夫?」

怒られる、と思ってたのに心配されてしまい、急に心が緩んでしまう。
咲「ちょっ、ちょっとあんた、何泣いてんの?」


何でだろう。何故か急に、涙腺まで緩んでしまったのだ。
恵「…っだって、あたし………ブスだから、化粧で隠さないと恥ずかしくてっ………」
咲「ええ?」
恵「…今日、化粧薄くしてきたら、不安で仕方なくて………。」
咲「あんたは別にブスじゃないよ」
ねーさんは優しい声でそう言ってくれるけど、私は信じられなかった。
恵「ブスだって、昔そう言われたもん、兄ちゃんにそっくりで男顔だって!自分でもわかってんもん!ねーさんだって知ってるっしょ?」
だから、しっかり化粧しないと恥ずかしいのだ。

咲「ホントだよ。あんたはブスじゃないよ。」
春日部ねーさんは私の顔を見つめてそう言った。

咲「厚化粧だとせっかくの長所が隠れちゃってもったいないよ。あんた目がかわいいんだからさ。いつもアイメイクがきつすぎてもったいないことしてるよ。」
恵「………………………」
咲「色も少し優しい色にしたほうがさ、もっとかわいくなんのに、って思ってたんだ。店終わったらやり方教えたげるからさ、元気出しな」
恵「………………うん」
咲「よし。んでも今は仕事。気持ち引き締めてよ」
恵「…うん、ありがと、ねーさん」
咲「よし、ホラ涙拭け。」
春日部ねーさんは、ハンカチを渡してくれながら笑った。
その笑顔が本当にカッコいいと思った。

ねーさんのその言葉を信じようと思った。
自分もこんな風になりたいと思った。


恵「…あのさ、今日ねーさん家に泊めてよ。こっから近いんでしょー?」
咲「………駄目。」
恵「あ、もしかしてコーサカさん来るのー?だったらなおさら行きた………」
咲「ぜ…っったい、駄目!!!」
恵「えーーー!ケチィーーー」
咲「さっきまで泣いてたくせに、もう元気になりやがって」
春日部ねーさんは呆れたように笑う。
やっぱりお泊りには行かせてもらえなかったけど。

(ま、仕方ないか。)

………そして数ヶ月後。
私は今も春日部ねーさんの所で働いている。
接客って結構大変だ。色んなお客さんがいる。話がめちゃくちゃ長い人がいて、とりあえず顔では笑顔をつくりながら、どーでもいい話を延々聞かされるのに耐えたり。
逆に、声かけをしても完全に無視されたり。我がままな人もいたり。

けど、嬉しいこともある。
「この前薦めてくれた服、すごく良かった」と言われたときは本当嬉しかったし。
最近では私の固定客も何人かいて、ようやく店員として役に立ち始めたかなァ?という感じ。
まだまだ覚えないといけないこともたくさんあるけど。


恵「ねーさん、入り口のトルソーに着せるのってこの服でいいのー?」
咲「ねーさんはやめなって言ってんじゃん。店長でしょ」
恵「あ、そーだった。」
咲「ったく………。うん、その服着せといて。あと、上にこの帽子かぶせて」
恵「はいよ」


開店前、鏡で身だしなみを確認する。前より淡い色に変えたアイシャドウの色と服の色があってるかどうか、もう一度確認する。
(………よし)
今日は特に気に入っている服を着ているので、気合いの入り方が違う。大きく深呼吸した。

「いらっしゃいませー!」
笑顔で声を出す。
今日は日曜。いい天気だから、きっと昼から忙しくなるだろう。

                  END  続く。


おまけ4コマ的な。

【まだそこで悩んでます】

恵「くそー、今日はコーサカさん来るんだ?いいなあ…」
咲「ウフフ………でも、ウチに来てまでゲームやるのは勘弁して欲しいよねぇ………」
恵「え、…マジで?」
咲「会社でさんざんゲーム作ってるくせにねえ………(泣)」
恵「…うわ、さすがにそれは引くかも」
咲「でも、いいの!愛があるから!!」
恵「ねーさん、イタイよ。アイタタターーー(汗)」

【部室からのつぶやき】

「…これって何の話だったっけ?」
「げんしけんの話………じゃなかったかにょ?」
「部室から完全にはみ出てるな」
「いやいや、社会人にもなって大学の部室に足突っ込んでるほうがおかしいにょ」
「………………それは誰に向かって言ってるのかね?」