第十七話・シンデレラ・チカ 【投稿日 2006/06/09】

第801小隊シリーズ


衝撃が船内を伝わる。
「く、左舷、被爆!」
「しっかり回避しろよ~!」
「む、無茶な~、多勢に無勢でありますよ~。」
多くのドムの襲撃を受け、大慌てになる船内。
「・・・クッチーは頑張ってるよ。ぐっ!」
サキの体が衝撃にゆれる。
「・・・敵が多すぎるんだ。なんて基地だよ。小規模に見えるくせになんて戦力だ。」
「・・・ど、どうするのさ・・・。」
ケーコが青い顔をしてサキを見る。
「・・・・・・どうするもこうするも耐えるしかないよ・・・。
 あんたの兄貴を信じるしかないんだよ・・・。」
「あの兄貴だから信用できないんだろ・・・。」
「あら?あんたがなんだかんだで一番信頼してるのはササハラだと思ってたけどね。」
驚いた顔をして少し顔を赤らめ、ケーコはサキから顔を背ける。
「・・・とにかく!このままじゃやばいんだろ!」
「・・・・・大丈夫、もう少しだ・・・。」
大隊長の声が響く。
「・・・く!!」
クチキのうめき声が聞こえる。手元が激しく動く。
目の前からビームバズーカの光が迫る。
しかし、間一髪船はそれを避ける。
「・・・やばいでありますにょ・・・。」
その瞬間である。宇宙空間に妙な振動が伝わった。
「こ、この感覚!」
「・・・前より弱いけど・・・まさか!!」
「・・・・・・これで向こうは動けないが、こちらは動ける。
 こちらには防ぐシステムが配備されてるからね・・・。
 墓穴を掘るとはまさにこのことだよ・・・。」
大隊長のメガネが光る。
「・・・あとは君達が頑張るだけだ・・・。」

「どうだ、これで動けまい!」
勝ち誇った顔をして、ディスプレイにうつるジムを見るオギウエ。
「・・・これで終わりだ・・・。不愉快なんだ・・・お前は・・・。」
メガ粒子砲がジムに狙いをつける。
「消えろ!」
衝撃と、砲撃の激しい音がMA内に響き渡る。
光が発せられ、一瞬、視界が消える。
視界が開けた後には、消えているはずだった。
「・・・なぜだ!!?」
ジムは、その姿を保ったまま、目の前にいた。
「かわしたと言うのか?・・・嘘だ!なぜ動けるんだ!!」
目の前のMSが、もはや恐怖の対象と変わりつつあった。
ジムが動く。ドムたちは動きを見せない。
自由に、こちらに向ってくる。
「く、来るなあ!来るなあ!!」
闇雲にバルカン砲を放つ。
しかし、それを軽々かわし、ジムは接近する。
『答えて!』
知らない女の声が頭に響く。
「・・・誰だ!私を不愉快にするな!話しかけるな!」
もはや混乱のあまり、言っていることが支離滅裂だ。
『・・・あなたは、オギウエさんでしょう!?』
頭が痛くなる。声が響くほど、何かを思い出そうとする脳から痛みが走る。
「やめろ!やめてくれ!」
頭を抱えてコクピットでうずくまる。
『思い出して!』
「やめろぉぉぉぉぉおおおお!!」
眼光を見開き、意を決したようにジムに突進する。
「声の元はお前なんだな!私を苦しめるな!!」
ジムが間近で、停止する。
「お前さえ消えれば!!」

『駄目です、聞く耳を持たない・・・。』
「駄目か・・・。」
接近するMAを見ながら、ササハラは苦い顔をする。
「俺の声を聞かせることが出来れば・・・。」
『・・・出来るかもしれません・・・。』
「え?」
『あの時、コーサカさんが教えてくれました。
 私とあなたの同調率が最高に達すれば、
 あなたに私の力を渡すことが出来ると・・・。』
「そんなことが・・・。」
半信半疑のササハラだが、コーサカのいう事である。
「だけど・・・どうすれば・・・。」
『・・・それだけは・・・。危ない!』
メガ粒子砲の光がかすめる。
「・・・くそ、このままじゃジリ貧だ・・・。」
そのササハラの目に、後方にある敵の基地が目に移る。
「そうか!基地に押し込んで、その中で面と向かい合えば・・・。」
そのためにはあの巨体を基地に押し込まなくてはならない。
「誘導するぞ・・・頼む、もってくれよ・・・。」
そういいながらコクピットの操縦桿を握りなおす。
『ササハラさん・・・。』
「会長は、オギウエさんに呼びかけ続けてください。」
『でも、彼女苦しそうで・・・。』
会長の声から悲しそうな感じを受ける。
「・・・かなりひどい洗脳でも受けてるのか・・・。
 でも、それでも反応があるなら・・・望みが・・・。」
『・・・分かりました!オギウエさん!』
会長の声が離れていく。
「・・・君の苦しみの元はここだ・・・。追って来るんだ!」
ジムがブーストを光らせ、MAの裏へと移る。
そのまま、基地のほうへと高速で突き進んだ。

「なんだ・・・。敵の動きが・・・。」
マダラメは周囲の動きが弱くなったことに気付く。
そして、妙な感覚を受けていることにも気付いた。
「・・・なるほどね、あの兵器が動いてるのか。」
感謝するべきはコーサカである。
このアンチミノフスキーウェーブシステムを配備したのは彼だ。
「多少・・・違和感はあるが・・・大丈夫そうだな・・・。」
周りのドムが逆に動けないのは好機である。
「向こうさんは全MSに配備、とまではいかなかったようだな・・・。」
『き、貴様、なぜ動ける!!』
驚きの声を聞くマダラメは、ニヤリと笑う。
「何の対策も無しで来るとでも思ったか?
 ・・・まあ、無くても来ただろうが、一応自信の素っていうのはあったんだよ。」
『な・・・貴様ら、全員動けるとでも言うのか!!?』
「そういうこった。・・・勝負つけんぞ、鬼さんよ。」
赤いゲルググと黄色いゲルググが距離を置く。
『・・・オギウエ、オギウエ聞こえないのか!!?
 兵器を切れ!こちらが不利になるんだぞ!!』
「余裕だな!」
急速に接近するマダラメ。
『ぐ!』
マダラメの切り付けを受け流し、再び戦闘体勢になる鬼。
「流石だな・・・。・・・勝てねえかもな・・・。」
奇襲をかけても攻撃をかわす相手に、思わず弱音が出るマダラメ。
「・・・だが、やるしかねえ。こいつだけは俺が抑える・・・そう決めたからな・・・。」
改めて操縦桿を握り締め、ディスプレイに移る相手に目をやる。
『・・・さっさと片をつけさせてもらうぞ、赤いの!』
「やれるもんならやってみろっていってんだろ!」
わざと不安を消すように笑ってみる。そう、これが俺だ。
不安を消す為に、いつも口だけは大きく言っとくんだよ。
結局は臆病者なんだ。それは、変わらない。いつまでも。
「・・・でもな、臆病もんには臆病もんなりの勇気の出し方がある!」

「なんなの・・・?敵の動きが・・・。」
アンジェラは数箇所破壊されつつも、かろうじて生き残っていた。
「・・・これが例の兵器って奴?」
ドムから苦しむような動きが見える。
「スー?スーは大丈夫?」
通信から声が聞こえない。
「スー?スー!!?」
『・・・怖い・・。』
ようやく聞こえた声は、非常に震えたものであった。
「スー?よかった・・・。でも・・・どうしたの・・・?」
『強い悪意を感じるの・・・あの基地と・・・あの大きいのから・・・。』
スーが指しているのは基地と、あの射出兵器のようだ。
『あと・・・強い悲鳴・・・悲しくなるくらい・・・怖い・・・。』
震える声をつむぐスー。いつもの飄々とした元気はそこにない。
「・・・大丈夫よ。あの人たちが信用できない?」
『・・・そんなことはない。あの人たちは・・・信用、出来る。』
その言葉に笑顔を取り戻すアンジェラ。
「そうでしょ。だから、大丈夫。信用しましょう。
 今は、少しでも戦力を削っておきましょ。」
『ウン・・・。』
そうか、と思った。アンジェラはマダラメが誰かに似てると思っていた。
スーなんだ。だから、私はあの人に好感を持ったんだ。
臆病なのに、普段格好をつけてるところなんかそっくりだ。
「・・・生きて帰れ、か。今はあんたに言ってやりたいよ。」
アンジェラが戦闘を続ける二機のゲルググを見る。
「この状態じゃ・・・足手まといだろうから・・・。」
そういいながら、動けないドムの移動能力や武器を壊しに宇宙を舞う。
「頑張れ・・・。臆病者の隊長さん。」
『・・・いくぞ!我が前に立つものは刀の錆にしてくれるわぁ!』
「刀持ってないでしょ。・・・調子戻ってきたね。」
アンジェラは元気を取り戻したスーの声に笑った。

「・・・基地へと向ってる?・・・させるか!」
オギウエは、敵MSの目的が基地だと判断し、追撃をかける。
「・・・ミノフスキウェーブが効かないなら・・・。」
パネルを数箇所押し、スイッチを押す。
「・・・全門開放だぁ!!」
その声ともに、MAの全身から、銃口が飛び出してくる。
「これで終わりだ!!死ねえええええええ!!!!」
銃弾が大量にジムへと向い、発射された。

「何だ!!あの銃口!!」
MAの変化に気付き、驚愕の声を上げるササハラ。
あと少しで基地の内部に侵入できるという所まで来ていた。
『まずいです!!』
「くそぉおお!!!」
銃弾がジムを襲う。たくさんの弾を避けきれず、各所が被弾する。
「・・・ぐはぅっ!!」
直撃は免れたものの、衝撃を受け、体に痛みが走る。
『大丈夫ですか!!?』
「・・・ノーマルスーツは大丈夫だけど・・・中身は・・・。」
『!!そんな・・・。』
「だ、大丈夫ですよ・・・体は・・・動きます・・・。」
片目を瞑り、血を吐くような声を出す。
『どうすれば・・・。』
「慌てないで下さい・・・。早々・・・。くそ、第二波か!!」
再びジムに狙いをつけたMAが、銃弾を送り込む。
『やめて・・・これ以上・・・あなたの大切な人を傷つけてはなりません!!』
その会長の叫びと共に、光を帯びるジム。
「会長・・・。」
『いきますよ!!』
「・・・はい!!」
ジムが、今までにない速さで動き出す。稼動域から悲鳴を上げるような軋む音が響く。
『お願い、もって!少しだけだから!!』

「なんだ!!?」
光を帯びだしたMSに、オギウエは戸惑う。
『これ以上・・・あなたの大切な人を傷つけてはなりません!!』
叫びが頭に響く。しかし、第二波は撃ち出したあとであった。
「・・・これで終わりだろう!・・・なにぃ!?」
レーダーになぜか多くの機影が映る。
「ば、バカな・・・。」
その方向には一体しかいないはずなのにだ。
ディスプレイに目を移すと・・・。
「な!!?」
多くのジムが移っていた。
しかし、破損箇所が同じ事から、違う機体だとは思えない。
「・・・残像?
 だかなぜレーダーに映る・・・?質量のある残像とでも言うのか!?」
驚愕するオギウエ。
「・・・なら全てを消し飛ばしてやる!」
第三波を撃つ用意をするオギウエ。
しかし、周囲を残像が取り囲む。
「くそう・・・本体は・・・どこにいる!」
バルカンで残像を消しながら、オギウエは本体を探す。
MSの影を追い、徐々に基地へと接近するMAの機体。
丁度基地の入り口へと近付いたその時。
「ぐはっ!」
衝撃がオギウエを襲う。後ろから、ジムが思い切り突進して押し込む。
「これを狙っていたのか?しかし、MAの出力にかなうと・・・。」
ブーストを駆けようとした瞬間、声が響く。
『・・・聞こえる!?オギウエさん!』
その声に体をビクンと震わせる。
「その声・・・知ってる・・・誰だ・・・。頭が・・・痛い・・・。」
頭を抱えるオギウエ。そのまま基地へと押し込まれていくMA。
基地の中を破壊しながら二体は、奥の整備場と思われる広い空間に出た。

『なに!?』
荒野の鬼の、驚いたような声が響く。
「・・・基地に・・・ササハラ・・・やったか?」
ササハラのジムの様子を見て、心配そうな表情をするマダラメ。
『・・・バカな・・・。くっ!!』
背中を見せ基地へ向う鬼に、マダラメは叫ぶ。
「バカヤロウ!戦闘中に背中見せてただで済むとは思うなよ!!」
二刀流のナギナタが黄色いゲルググを襲う。
『・・・私には守るべきものがある!!』
基地に向いながら、マダラメのほうを向きライフルを撃つ鬼。
「・・・やるべき事の順序間違ってねえか!?
 俺がこのまま黙ってやられるとでも思ってるのか!?」
そのライフルの銃弾を交わし、迫撃するマダラメ機。
『くそぉ!』
「終わりだな!!」
すれ違いざまにライフルを持った手を破壊する。
すぐに折り返し、足を破壊。返す刀で左手を破壊。達磨状態にする。
『・・・き、貴様ぁ・・・。』
「・・・・・・いくらなんでも、敵に背を向けちゃいけねえよ。
 勇敢なのも考え物だな。後先考えなくなる。」
『隊長さん!やったね!』
元気のいいアンジェラの声が響く。
「おおー、二人とも無事か。」
『もちろん!・・・ササハラは・・・?』
「わからん。だが、終われば通信の一つでも入るだろ・・・。」
そういいながら、マダラメの視線は射出兵器『光の槍』に向けられる。
「・・・お前らはここで待機しとけ。俺はあいつに向かう。」
『隊長さん?何いってんのさ?行くならみんなで・・・。』
「・・・いいから待機しておけ。絶対についてくるなよ!」
マダラメのゲルググがブースとを閃かし、『光の槍』へと向う。
『な、ちょっと待ちなさいよ!』
アンジェラの叫びが響いた。

「なに?」
ナカジマが険しい顔をする。
「基地に侵入?オギウエのMAごと?」
「ハイ・・・。」
部下の報告を聞き、ナカジマは声を上げる。
「博士につなげ。」
ニヤリと口の端を上げるナカジマ。
「『光の槍』こそ、私の真の目的だ。」
ディスプレイに映し出された博士。
『どうされましたか?』
「射出準備急げ。・・・無論、いけるよな?」
『・・・分かりました。ただしその威力は半減ですがの・・・。』
「構わん。この射出で奴らの気勢を削げればいい。」
ナカジマの言葉にニヤリと笑う博士。
『・・・・・・すぐに準備させていただきます。』
「頼むぞ。」
ディスプレイから博士の画像が消える。それを見届けた後、ナカジマは振り返り、歩を進める。
「ど、どこへ・・・。」
「MSで出る。」
驚きの顔をする部下。
「ま、まさかあのMSで・・・。しかし、あれはまだ8割の出来で・・・。」
「ふん、現状で100%動くさ。それがお前らには分からんのだ。」
そのまま進み、扉の前に立つ。
「・・・オギウエ、待っていろ。すぐに助けるからな・・・。」
開いた扉の中に進み、そのまま姿を消す。
「・・・どうするよ・・・このままじゃ・・・。」
「・・・みんな早くここから脱出するんだ。」
声が響く。声の主を見て、兵士に動揺の色が走る。
「お、おまえは・・・。」
「・・・早く。急ぐんだ。」

整備室では、戦闘がまだ続いていた。・・・いや、もはや戦闘ではなかった。
『聞こえてるんだろ!?やめてくれ、オギウエさん!!』
「やめろ!声を聞かせないでくれ!」
銃弾が飛ぶ。コクピットでは、オギウエが震えながらMAを操縦していた。
流れ弾が基地を破壊していく。もはや狙っているわけではないのだろう。
ただ、狂ったように弾を撃ってしまっているのである。
それを避ける事はササハラにとって容易かった。
『やめてくれ!もう、やめよう!』
「・・・聞かせないで!その声を!私は!私は!」
狂ったように叫ぶオギウエ。
その声は、非常に暖かかかった。
覚えている、その声を。
あなたの隣にいて、私は幸せだった。
そう、そうなんだ・・・。
私は・・・。あなたと一緒にいたかった・・・。
でももう・・・。
「もう駄目なんですよ!」
『・・・思い出した!?オギウエさん!』
「駄目・・・なんです・・・。私は・・・あなたを・・・傷つけて・・・。」
あなたに向けた銃口。その過去をもう拭えない。
『・・・ははは。』
「・・・なんで笑うんですか・・・。」
涙が流れる。一番聞きたかった声が耳に入る。
でも、それも許される立場じゃない。
苦しみに耐えられず、あなたを忘れた。
『そんなこと、どうでもいいんだよ。』
弱い重力が掛かる基地内で、二人の機体は向かい合って止まる。
「どうでもって・・・!」
『俺はね。君がいてくれればそれでいいんだ。
 一緒にいてくれよ。それだけでいい。
 ・・・・・・俺は!!君と添い遂げたい!!!君が欲しい!!!』
「・・・何を・・・。」
あまりにも暖かい・・・これ以上ない言葉を聞いて・・・ただ泣く。
不意に、ペンダントが目の前に浮かび上がる。
思い出が、浮かび上がる。短いようで長かった、数ヶ月の生活が。
『・・・オギウエさん。』
「・・・もう、魔法は解けたと思ったんです。
 幸せになる権利なんて私にはなかったんだって・・・。
 魔法が解けた偽者のお姫様のように、私は、元に戻るべきなんだって。
 そう思ったら、記憶が消えていきました。
 暖かいもの全てを忘れようとしました。
 でも・・・結局はそれが欲しくて仕方なくて・・・私は・・・弱いんです・・。」
『いいじゃない。』
そういって、ササハラのジムはMAに近付き、コクピットをこじ開ける。
前に中を見たときに構造を大体把握していたので、容易だった。
オギウエを見つけ、コクピットのハッチを空けるササハラ。
身を乗り出し、オギウエに体を近づける。
「ササハラさん・・・。」
久々に見たササハラの顔に、流れていた涙がさらに増す。
『いいじゃない。みんなそうだよ。みんな、一人じゃ生きていけないから。
 俺もそうだ。だから、君を取り返しに来たんだ。』
そういって、笑顔を見せる。しかし、その顔には、血が流れていた。
「っ!!私・・・私!」
『大丈夫。このくらい平気だよ。ほら。』
手を伸ばすササハラ。その手を、オギウエは握る。
そのまま引っ張り、自分のコクピットに一緒に座らせる。
『・・・さあ、帰ろう。これは破壊して・・・。』
ハッチを閉じ、MAに向けてライフルを放つ。
大きな爆発音と共に、MAが燃えていく。
「・・・はい。」
ようやくオギウエは笑顔を見せる。
『よかった・・・本当によかった・・・。』
会長は、二人の姿に安堵した。

そこに、大きな爆発音が響く。
「??MAの爆発音とは違う?」
音の方向に振り返ると、そこには一機のMSがいた。
「・・・!?なんだ、あの白いMSは!!?」
『逃がさないよ・・・。オギウエを返してもらおうか・・・。』
『ナカジマぁ!』
叫ぶオギウエ。まるで、美しい天使の様なカラーリングのMS。
MA「エルメス」を基にしているようだ。
しかし、手足が存在し、形状はMSに近い。
『よもやこのプロトタイプを使うことになるとはねえ・・・。
 無敵の零式のエルメス運用データが役に立ちそうだ・・・。』
周りにビット・・・少々形状が違う・・・が浮かぶ。
「オールレンジ攻撃だって?・・・ただでさえ手負いなのに・・・。」
『嘘・・・。あんたNTじゃ・・・。』
『オギウエ。私はね、上に立つために色々な方法を使ったんだ。』
『まさか・・・強化実験を受けたの!?』
『・・・そう。それだけじゃないけどね。
 腐った親父ども・・・もう二度と顔も見たくないような奴らに媚売ったりね・・・。』
語尾に怒りが含まれていることがよく分かる。
「・・・強化実験・・・。」
『やめて!ナカジマ!』
『・・・オギウエ・・・あんたは・・・私の元からいなくなるのか・・・。』
白いMSが、ビットのようなものをこちらに向ける。
『手元からいなくなるならいっそ・・・ファンネルの餌食になれ!!』
「くそ・・・。ぐっ・・・。」
緊張が一瞬解けたせいか、痛みが全身に走る。
『ササハラさん!』
『・・・ここは私が何とかします。サポートお願いします・・・。』
オギウエがMSの操縦桿を握る。
『・・・分かりました。』
会長は力強くオギウエに返事をした。

マダラメは『光の槍』に乗り込み、過去を思い出していた。
「・・・大きくなっただけで何も変わっちゃいねえ。」
コクピットから降り、記憶どおりに操作室にたどりつく。
そこには。
「・・・・・・やっぱりお前かよ、爺さん。」
思わずデジャ・ビュかと思う様な光景。
銃を構えるマダラメ。
「ヘタレなりに決着つけに来たぜ。」
『・・・お前か。・・・くくく。撃てるのか?』
「撃つさ。お前がやめない限りはな。」
にらみ合いが続く。再び彼に決断の時が迫る。


次回予告

『光の槍』射出が迫る中、戦いは続く。
ナカジマは自分の意思を貫く為に。
オギウエは自分の手で決着を付けるために。
マダラメは過去にケリをつけるために。
ササハラは大切な人のために。
・・・リツコは、自分自身の真実のために。

次回、最終話
「地球(ほし)へ帰る」
お楽しみに。
最終更新:2006年06月16日 04:50