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「ありがとう」 【投稿日 2006/05/25】

最終回に寄せて


もう外は明るくなり始めてきた。
荻上さんの家に到着。部屋の鍵を開けた。

当の家主は背中の上で寝息を立てている。
すっかり酔っ払ってしまったみたいだ。
かくいう自分も足取りが心もとない。

玄関に入り、荻上さんをおぶった体勢のまま靴を脱ごうとすると、

「あっ、も、もう大丈夫ですっ」
「…あ、起こしちゃった?」

背中から荻上さんの声が聞こえてきた。

「いや、…ゴメンなさい、寝ちゃって…」
「大丈夫、大丈夫」

ふと部屋の中の時計を見ると、針は五時を指していた。

「もうこんな時間か……」

二人とも部屋に入って、このまま眠りにつこうかと思っていた矢先、
手に何も持ってないことに気付く。

「あああっ!!」
「ど、どうしたんですか?」


「忘れたぁぁ!!」
「へ?」

「同人誌…」


「…そんなんどうだっていいじゃないですか!!」
「いや、…そうね…、う~んでも…」
かなりお気に入りだったんだよなぁアレ。
「…寝ていいですか」
呆れた様子で、荻上さんはソファに寄りかかる。


「…でもまさか、あんなになるとは思わなかったなぁ」
「まだ同人誌ですか」
「いや、…それもあるけど、そうじゃなくて、
 女性陣は随分盛り上がってたなあって思って」

合宿の時は仕切られてたからどんな話をしてたか全然分からなかったけど、
知らない間に随分と仲良くなってたんだな、と思った。
無理矢理ついてきた恵子とも、それなりに打ち解けてたのが、
ちょっとした驚きだったり。


「笹原さんこそ、おとなし過ぎですよっっ!」

「チラチラ見てても、酒呑みながらいつものオタク話
 ばっかりだったじゃないですか!」
「んー…
 でも俺達いつも、あんな感じだしなぁ…」

男性陣は男性陣で、まったりといつものオタク話。
斑目さんと高坂くんの仕事話や田中さんの衣装話も
軽く話したりしたけど。
でもそんな話を気兼ねなく話せる人たちだし、それだから
楽しく続けていられたんじゃないかと、今になって思う。

「それにしたって!!」


「最後なんですよ!もっと色々
 話す事とかあったじゃないですかぁっ…ヒッ!…ク」
息を吸い込みすぎたのか、しゃっくりが出てきた。

「……まだ酔ってる?」
「酔ってないです!!」
「水、持って来るね」
「大丈夫です!…話聞いてますか笹原さん!?……ブツブツ」

ソファーに座りながら煮え切らない様子の
荻上さんを尻目に、台所から水を取りにいく。


…コンパの後は二次会、三次会、カラオケとオールナイト。
久我山さんも残業後にかけつけてくれた。

全員が久しぶりに集まる。お酒も随分空けたし、
朽木君が例によってハメを外したりしたけど、
それも含めて凄く楽しい夜だった。
多分もうこんな機会はないだろうなと思う。


「…荻上さんさ、」
汲んできた水を渡す。勢い良く水を飲む荻上さん。

「どこか大野さんに似てきたよね」
「!!」

驚いたように水をこぼす。


「ど、どこがですかっ!!」
「…いや、良い意味でだよ」

「似てませんよっ!!」

「でもさ、」
服の上に零した水を拭いてあげながら、言葉を続けた。
「以前の荻上さんだったら、あんな風に泣いたりしなかったよね」

「………」


入学当初、誰も寄せ付けないような感じだったのに。
…別れ際、春日部さんと話してて涙ぐんでた荻上さん。
酔っ払って、タガが外れたのだろうか。

春日部さんも大野さんも困ってたな。
荻上さんが感情を表に出すのって珍しいから。

春日部さんは荻上さんを落ち着かせようと
頭を撫でながらよしよしやってたけど。
大野さんは貰い泣きしちゃってたみたいだ。



「…だって、……卒業しちゃうんですよ……」
急に声が尻すぼみになる。

「大野先輩達はまだ居るし、笹原さんは傍にいますけど…」

「もしかしたら、もう会えないかも…」
そういって荻上さんの目が潤む。
「荻上さん…」

「春日部先輩や、大野先輩にっ……。現視研に…私…、どれだけっ……」
そのまま言葉を詰まらせてしまった。


「……大丈夫だよ」
「……っく……ひぐっ…」

荻上さんの隣に座る。

「みんな荻上さんの気持ち、分かってると思うよ、きっと」

なかなか素直にはなれないけど、
本当の荻上さんは真っ直ぐな気持ちを持っているってこと、
現視研のみんなはもう知ってる。


「それに…卒業したって、また会えるし、ね」
「……」



「だから、…大丈夫だから、ね?」
そういって、目の前の彼女を抱き締める。
「………ハイ……」

こうしていると、根は本当に良い子だよなあと、改めて思う。


「かわいいな、荻上さんは」
「……どさくさに、何言ってるんですかっ……」
「…ハハ」

荻上さんにとって、いつのまにか現視研が
かけがえの無いものになっていたんだな、と思う。
もちろん、自分にとっても同じだ。
何となく、嬉しい気持になった。


「ありがとう」
「……」

誰に向けるでもない言葉が、自然と自分の口から出てきた。

いや、目の前の人に向けた言葉には違いないんだけど、
それだけじゃなくて。
酔っ払ってるせいだろうか。


「そんな…まるで、これで終わりみたいな風に言わないで下さい」
「そんなんじゃないよ」
「分かってます…ケド…」


「…ずっと一緒ですよ」
そういいながら、彼女が抱き付いてきた。

「うん」
返事をしながら抱き返す。


しばらくそのまま、目を瞑ってみる。
すると、さっきまで一緒にいたみんなの顔が浮かんできた。
本当に、四年間…色々あったな……



…気がつくと、傍から寝息が聞こえてくる。
あれだけハシャいだもんなぁ。
…自分も眠くなってきた……

カーテンの隙間から差し込む明かりと
隣に感じる温もりを感じながら、
ゆっくりとソファーに身体を預けていく。


こんな感じで、僕達の卒業式は終わっていったのだった。