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僕ハココニイル 【投稿日 2006/05/20】

カテゴリー-現視研の日常


「会長、お願いします!!」
大野さんは大きな声でそう言った。

朽木君は自分の耳を疑った。
「………え!?ボクチンですか!!!???」



それは新学期の始まる数日前。
大野さん、荻上さん、朽木君は新入生歓迎会の打ち合わせのため部室に来ていた。
大「…今日は大事な話があります。」
大野さんは妙に真剣な面持ちで言った。
荻上さんは黙っている。朽木君はにょ~としている。

朽(次期会長のことなんダローなーーー。去年は盗塁のフリしてみたけど、今年は何のフリしてミヨーカナーーー?)
誰も朽木君のリアクションなど見ていなかったのだが、朽木君はそんなことおかまいなしだった。
荻上さんに会長をゆずるところを見て、『俺じゃねーのかよ!』とコケる気マンマンでいた。

ところが、『会長』に選ばれたのは自分自身である。
朽木君は驚きすぎて言葉が出なかった。あまりに驚いたのでいつものナイスなアドリブ(と自分では思っている)が出なかった。


朽「え、マジデスカ?僕が会長に???」
大「大マジですよ!」
朽「え、でも荻上さんは嫌じゃナインデスカーーー?」
荻「朽木先輩、お願いします。」
荻上さんは何かを決断したような真剣な面持ちで、朽木君に頭を下げた。
朽「エエエエーーー???でもボクチン、そんな大役務まるかどーか………」
大「ええ、本当は私もそう思ってます。」
大野さんは少し機嫌が悪い。マスクつけてないのに。
朽「え?では何で??」
大「…実は、笹原さんに言われたんです。」
朽「笹原先輩に?」
思わず荻上さんを見る。荻上さんは、頷いた。あらかじめ知っていたらしい。



笹「朽木君を会長にしてみたらどうかな?」
その言葉に、大野さんは度肝を抜かれた。
大「な、何がどーなったらそーなるんですか!!!」

大野さんは春休みに入ったある日、笹原に相談していた。
これから三人きりで活動していく不安、朽木君をどー扱えばいいのかという悩み。自身の就職活動のこともある。
…そうしたら、笹原の口からこんなとんでもない言葉が出てきたのだ。

笹「駄目かな?」
大「ダメに決まってるじゃないですか!あんな人に会長なんて任せたらメチャクチャになりますよ!問題起こして即廃部ですよ!」
笹「でも、順番としては朽木君から………」
大「荻上さんも何か言ってください!朽木君なんかに任せられないですよね!?」
大野さんはそういって荻上さんを見る。
同意してくれるものと思っていたが、荻上さんは体を固くして前かがみに座り、何か考え込んでいた。荻上さんは人の話を聴くときいつもこの姿勢で聴いている。
荻「…昨日、笹原さんから話聞いてたんです。私も無理だと思いましたけど、笹原さんがこう言ったから。」
そう言いながら顔を上げ、大野さんの顔を見た。
荻「現視研の会長になった人は、みんな、会長になる前より成長するらしいんです。斑目さんも笹原さんも、そして大野先輩も…。」
大野さんは自分の名前がでて、ぴくっと反応する。

笹「えーと。これは俺の実感としてあるんだけど、自分自身、会長になって部の責任をもつこととか、あと自分のしたいこと、サークル参加とかやってみて、すごく成長できたと思う。もちろん失敗もしたし、へコんだり、キツいと思ったこともあったけどさ。
…でもそのおかげで、今まで見えなかったことが見えてきたんだ。自分の短所とか、そして自分を生かせる長所とか。大野さんも、実感ないかな?会長になってから、すごく積極的になったよね」
大「え、…そうですか?」
笹「うん。前よりずっと自分を出せるようになったじゃない」


大「う~ん、そう言われると…そうかも…」
笹「だからさ。朽木君も、一度会長をやってみて、会長の責任とか苦労を知って欲しい、と思ったんだよ。朽木君、責任とかあると逃げ腰になるから…」
大「…逃げ腰な人に、会長が務まるとは…」
笹「大野さん。とりあえず、一度朽木君に話してみたら?それでどうしても嫌、ってなったら仕方ないけどさ」
大「笹原さんがそういうのなら…」



大「…というわけです。朽木君!」
朽「は、はい!何でショウ!?」
大「断ってもいいんですよ?」
朽「………………」
大「笹原さんがこんなに推してくれても、自分には自信ない、というのであれば、別にいいです。荻上さんに頼みます。」
朽「………………」
大「…脅してるわけじゃないんですよ、朽木君。」
朽「へ!?」

大野さんはさっきの厳しい口調とは打って変わって、急に口調が柔らかくなった。
別の脅し方かと思ったが、そうではないようだ。
大野さんは真剣な目で朽木君を見る。朽木君はビビった。

大「私自身も最初、無理だと思ったんです。笹原さんに『会長』になるよう言われたとき。
…今まで人をまとめるポジションについたことないし、自信がなかったからです。
でも。会長になって、良かったことがありました。周りの人のことを考えて、会長として皆をまとめなきゃ、仲良くしなきゃ、って思って自分なりに頑張ったら、周りの人のことが今までよりも、よく見えるようになってきたんです。
…荻上さんとも、仲良くできるようになりましたし。」
下を向いて聞き入っていた荻上さんが、大野さんの顔を見上げた。

大「…ま、職権乱用したこともありましたけどね~。」
大野さんが照れ笑いをすると、荻上さんは、
荻「ああ、しょっちゅう乱用してましたね。」
と呆れ顔で言った。大野さんがムウッとむくれた顔をする。
荻上さんはまた下を向いたが、少し口元が笑っていた。

大「…だから何より、自分のためになったんです。その分責任とか、重いと感じることもあったけど。
だから、会長にならないのは、もったいないと思うんです。」
大野さんはゆっくりと、自分の言葉で語った。

大「…でも、判断するのは朽木君です。会長になったからには責任持ってもらわないといけないし、辞退するのが一番と判断したら、それはそれで『負いきれない』との判断、責任の取り方かもしれません。
だからそれでもかまいません。」



………………………


朽木君は大学からの帰り道、ずっと考えていた。
こんなに「会長」のことについて考えたのは初めてだった。

まず、自分には無理、という結論がずっと頭にある。
自分のことは良く分かってるつもりだった。
どーしても自分は余計なことをしてしまう。わかっちゃいるけど、いつのまにかやってしまう。
それに「責任」を果たすのが大の苦手だ。
自分ではちゃんとやってるつもりで間違えてたり、うっかり忘れてたり。ちゃんとやりたい気持ちがあるにはあるのだが、興味が失せるとつい忘れてしまう。

仕方ないと思っていたし、今まで周りにも要求されなかった。
あんまり人にアテにされたことがないけど、それも個性!と思っていた。

でも。さっきの大野さんの真剣な目を思い出した。真剣な言葉を思い出した。
笹原先輩が自分を推してくれたことを思い出した。

こんなに人に期待されたことがいままであったろうか。いやない。忘れてるだけかも知れんけど。

(むうぅ~~~…不肖朽木、通称クッチー、ここで断ったら漢がすたるのではナイデスカ?
大野先輩のあの目を見て、「自分には自信がないデス…」なんて言うのデスカ!?
「自分の辞書には『会長』の2文字はアリマセン!!」なーんて堂々と言えるのデスカ!?)

(そう!ここで引いたら漢がすたるにょ~~~!!!)
朽木君は鼻息も荒く早足で道をどんどん歩いていった。歩く速度が見る間に早くなった。


………………………


朽「…と、ゆーワケで、会長、就任イタシマス!!!」

次の日、部室で3人が集まったとき、朽木君はそう宣言した。
姿勢を正してビシッと敬礼し、(クッチー的には)決まった!と思える挨拶をした。
さて、大野さんと荻上さんの反応は。

大・荻「………………はぁ………」
朽「む、何デスカそのやる気をそぐよーな反応は!!」
大「…何でって、ねえ荻上さん…」
荻「…今後の私たちの苦労を思うと………」
大野さんと荻上さん、2人顔を見合わせ、再び深くため息をついた。

それからというもの。こんな日常が繰り広げられた。

荻「…だーかーらー!もう何回言わせるんですか!」
朽「にょ?」
荻「どーしてこんな大事な書類、ギリギリまで放っといたんですか!」
朽「(忘れてたからにょ~~…)むう、何かそのー色々、活動内容とかってどー書いたら良いものか…と考えてまして…、
ぶっちゃけ忘れてたにょ~!アハハ!!」
荻「………(怒)」
朽「ス、スミマセン!!」
荻「…もういいです。」
朽「…ううう、そー言われちゃうと………」
荻「もーいいって言うのは、小言は後にするって意味です。今できることをまずやってから!時間ないんです、この書類、自治会のはんこもらってきてください。じきに自治会室閉まっちゃうから!」
朽「はっ、ハイ!!」
朽木君はそう言って、慌てて飛び出した。
後ろから大声が聞こえる。
荻「朽木先輩!書類持って行かないでどーすんですか!」
朽「ああ!!忘れてたにょ!!」
慌てて引き返す朽木君。
荻「ハイ、じゃあ頼みましたよ!」
足だけはやたら速い朽木君の後姿を見送りながら、荻上さんはげっそりしていた。


さて。朽木君は4年になってから、授業がかなり詰まっていた。
1、2年の頃、遊びすぎたのと、色々落とした授業があったからである。
朽木君は別に頭が悪いわけではないが、ただテストの日を忘れてたり、追試の日を忘れてたり、大事な提出物を忘れていたりしただけの事である。

その上『会長』になってしまったので、今まで考えられないほど忙しい日が続いていた。
…だが、こんなに充実した日々を過ごすのは初めてだった。
今までなにしてたのやら。フラフラして、ゲーセンいったり秋葉原いったり…。



朽木君は今日も部室で、溜まっていた(ぶっちゃけ忘れていた)書類と格闘していた。

(…思えば今まで、「ここが駄目なら次いけ次!」と、フロンティアスピリットでやってきたケド………。
ポジティブ過ぎたんデスカネ~~~?)
アニ研を辞めて(正確には追い出されて)現視研に来たときのことを思い出す。

(そーやって突き進んでても、なーんにも残らなかったよーな………。
いやー、周りの冷たい視線ばっかり、やたら増えていったよーな………。)

…ようやくそのことに気づいたらしい。

(もしかして今までのは、ポジティブなんかじゃなくて、逃げてたダケなんですかのう?
じゃあ今、逃げたくないのは………………?)


(そうか………。
ここにいたいのか、ボクチンは…。
あれ、こんな風に思ったの初めてですの~~~~~。)

(いや…。本当はずっと思ってたヨ、どの場所でも。「ここにいたい」って~。
ダカラ、みんなと「溶け込もう」として色々話しかけたり自己主張してきたんだケド…。
うまくいかなかった………。)

(ここにいると、「責任」取ったり、悩んだり、考えたり、我慢したり、空気読んだり、誰かを助けたり助けられたり、色々しないといけないんだろーなーーー。全部ボクチンの苦手分野………。
いや、今までしよーとしてなかったから苦手分野に…。ぐぬう………。)

朽木君は頭が痛くなってきた。元々深刻に考えるのは苦手だ。

(…いや待てよ?「考える」ことないんじゃないデスカ???だってもう、「ここにいたい」って決まってるんだし。
そのために「苦手とか言ってられない」って、結論出てるし。

………なぁーーーんだ、ソウカ!!ならもう、次は行動あるのみデスヨ!!!)

朽木君の中で、これからの根幹となる重大な結論が、今まさにはじき出されたとき!

コンコン、と部室の扉がノックされ、荻上さんが部室に入ってきた。
荻「あ、どうも」
朽木君は荻上さんの顔を見て、急に思った。
(そうデス!!「新生」朽木学、通称クッチー、今荻上さんに自分の決意を伝えておくのデス!!
なぜなら自分の記憶装置に入れたままだったら、そのうち綺麗に忘れてしまうカラ!!!)

朽「オギチン!大事なお話が!!」
荻「え…な、何ですか?」
荻上さんはいつものように、朽木君と話すときのクセで身構える。

朽「えーボクチンは………………………………………!!!」
荻「………………………………?」


(…あ、アレ?何だったっけ?)
………どうもひと足遅かったようである。

(えーと、そうだ!「ここにいる」決意をば………!!)

朽「荻上さん!!」
荻「…はい?」
朽「僕はここにいるにょ!!」

荻「…そうですね、そこにいますね。」
朽「ずーーーっと、ここにいるにょ~~~~~!!!」
荻「…ええ、ずっとここの部員ですよね。」
朽「以上!!!」
荻「………………………何が言いたいんですか(怒)」

朽「さて、宣言はこのくらいにして、と。
オギチン!実はここに、今日締切なのに例によって完全に忘れてた書類がアリマス!!」
荻「はぁ!?またですか!!」
荻上さんはいつものように、怒りながら書類の必要事項を読んで、朽木君にアドバイスしてゆく。

荻「だ~か~ら~!略称じゃなくって正式名で書けと、何度言ったら分かるんですか!!」
朽「えーだって正式名長いにょ~。現代視聴覚?現代文化視覚??わかんなくなるし。あ、現聴研でしたっけ?」
荻「全然違います。今まで何度書類に書いたと思ってんですか!ていうか何のサークルだと思ってんですか!」
朽「じょ、冗談ですにょ~(汗)」
荻「冗談言ってる間に手を動かしてください!あとコレ、字が汚くて読めません。読めない字書いてどーすんですか!」
朽「あ、でも意外とボクチンは読めるにょ~。」
荻「そんなことはどーでもいいんです。他人が読めなくてどーすんですか!!」

…朽木君が成長する前に、自分の忍耐力のステータスが大幅うp(対朽木君以外にはたいがいムダ)
してしまいそうだ、と思った荻上さんであった。

                       OWARI