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AKIHABARA METAL CITY 【投稿日 2006/05/17~】

カテゴリー-他漫画・アニメパロ




(前回のあらすじ)
 なんかクッチーとカズフサに友情が芽生えた。
 「べ、別にカズフサさんごときに友情フラグなんか立てて無いんだからねっ!(クッチー)」



「―――と、言うわけでだな、朽木クンよ。アキバに連れて行ってはくれんカネ?」
 ここは椎応大学サークル棟。現代視覚文化研究会部室に入ってきたカズフサの第一声がコレだった。

「お断りいたしますにょ。ワタクシ只今エントリーシートを書くのに忙殺されておりますゆえ」
 朽木はその言葉を無視したい気持ちで一杯だったが、カズフサを無視するとスネるかで暴れるかで
被害が拡大することが用意に予想できたため、簡潔に断りの理由と言葉のみを口にし、手元の書類へと視線を戻した。
 朽木も既に大学四年生。春からの行動とは遅ればせながら、将来に向けて稼働しはじめたのであった。
だいたい、いきなり「――と、言うわけで」と言われてもワケがわからない。
脳内で妄想と計画を膨らませていた、カズフサ本人は別として、だ。

「エントリープラグゥ? いつから朽木クンはエヴァのパイロットになったと言うのダネ? ンン~~?」
 毛の先ほども働くことに関する活動をしたことが無いカズフサらしく、エントリーシートの『エ』の字さえ知らないようだ。

「エントリーシートですにょ! エントリーシ・ィ・ト!! ワタクシしゅーしょく活動の真っ最中でありますゆえ、
アナタにかまっている暇はミルモのハナクソほどにもアリはしませんぞ!!」
 自身の言葉どおり『構ったら負け』であることが解っているにもかかわらず、
ついつい声を荒げてツッ込んでしまう朽木。ソコがまだまだ若い。
「だーいたい、何でアキバなんですかにょ? 大坂にだって日本橋というオタク街はあったはずアルね!
オタ空気を堪能したいなら、そっち行けばいいし、とっととラブ穴とおって平方市にお帰りくださいな!」(*注1)

 その朽木の突っ込みにメガネをギラつかせながら応じるカズフサ。
「クフゥ……『なぜアキバか』だとォ? よかろう、答えてやろうじゃないかキミィ。
それは一生添い遂げる伴侶を見つけるためダヨ!」
 『伴侶』と言う単語を耳にした朽木が怪訝な顔をする。
 この男――大森カズフサはこれ以上は無いという位の非モテ系であり
『伴侶』が3次元の彼女を意味することは物理的にありえない。それに加えて3次元を捨て、
2次元キャラに求愛するほどの覚悟も資質も持ち合わせていないのだ。

 なら『伴侶』とはどういう意味なのか。朽木が不思議に思っていると、カズフサは続けて口を利いた。
「実はまたオナホール師の殿堂入りを目指そうと思っていてネ。
丈夫で長持ち、しかもキモチいいホールを探そうと思っているのだヨ……
……そう、一生添い遂げても良いと思えるような奴を!
聞けば、アキバにはビルの全フロアが紳士淑女のための
オモチャで埋め尽くされた建物があると言うじゃないかネ!
そこに行けばきっと出会える! このオレの泌尿器にジャストフィットす    」
 「ストーーーップ!! ストーーーップ!! 
カズフサさん、アウト、アウトですにょ! 板的にアウトでアリマス!!」
 あわてて止めにかかる朽木。そう、ココは21禁板では無いのだ。

「カズフサさん! アンタいい加減にそのシュミどうにかしないとアフタヌーンから追い出されちゃいますにょ!?」
「えー? せっかくヒデヒコから名人のホールハンドリングをマンツーマンで教授し    」
「黙れ無職。二十九歳童貞」
まだグダグダ言うカズフサを切って捨てる朽木。

「クックックッ……その程度の言葉の暴力でオレを葬れると思ったか、クッチーよ?
『無職』も『童貞』も言われ慣れて、もはやビタイチなんとも感じんわ!!!」
 そして、そんな情けないセリフを威張りながらカズフサは叫ぶ。

「行くんなら一人で行ってくださいにゃ。椎応大からは立川で中央線に乗り換えて、アキハバラまでは一本アルね」
 もはや朽木は怒鳴る気力も失せて『出てけ』という意思表示だけをする。

 だが空気の読め無さならカズフサのほうが一枚上手だ、そんなイヤミに臆する事無くマイペースで喋りだす。
「ああそうそう、その中央線」
「は? 中央線がどうかいたしましたかにょ?」
「うむ、実は闇ルートの裏オークションで今夜のD.M.C.のライブチケットをゲットしてな。
 ライブハウスがその中央線沿いなのだヨ。アキバでのオナホ探しはオレ的にこのイベントの前座よ!」
 事実、中央線沿いにはライブハウスが非常に多い。

「でぃえむしい? カプセルコンピューター略してカプコンのデビルメイクライですかにょ?」
 朽木は聞きなれぬ単語に興味を引かれたか、ついつい聞き返してしまう。

「き、貴様ァッ! 帝都・お江戸に住んでおりながらDMCを知らんと抜かすかぁっ?!」
「そんな事申されましても、存ぜぬモノは存ぜませんにゃ。ライブって事はバンドかなんかですカナ? カナ?」
「クフゥ……コレだからインディーズと言ったらサウンドホライズンしか知らないようなボクチャンは困る……
無知! 無知無知無知無知! 無知とは罪イッ!」
「カズフサさんに無知を指摘されると、そこはかとなくムカ付きますな……
まあ、語りたそーな顔してらっしゃいますし、話くらいなら聞いて差し上げようじゃアーリマせんか!」

 実際、朽木もココ数週間の就職活動によってストレスが溜まっていた。
面白そうな話なら聞くだけの価値はあるかもしれないと判断したのだろう。

 『ラブやん』作者の田丸氏は大層なメタルッ子であり、
その被造物であるキャラクター達もまたメタルッ子属性を付与されている事が多い。
だからカズフサは語り始めた。ノリノリで。

 D.M.C.は「デトロイト・メタル・シティ」の略であり、インディーズシーンの
最エッヂを突っ走るデスメタルバンドであるということ。
 プラチナチケットである今夜のライブを取るのに自分がイカに苦労したかということ。
 そのDMCのギターボーカルを務める「ウォルフガング・ヨハネ・クラウザーII世」は
本物の悪魔であり、数々の伝説を残しているということを。

 そして、全てを聞き終わった朽木はこう言った。
「……ハァ? 悪魔がバンドやってるって、何ですその頭の悪ぅぃ設定は?」
「てめぇソレはクラウザーさんに対する冒涜かぁーーーーッ?!
クラウザーさんは生まれた時に『殺してくれ』と発言し、幼き頃に両親をSATSUGAIした 伝説の魔王なんだぞ!」
「カズフサさん……そんなアホ設定を本気で信じてるだなんて……前々から脳味噌が不自由な人だとは
思っておりましたがまさかソコまでとは……もう、ライブでもアキバでも一人で好きに行っちゃってくださいにょ」
そう言い捨てると、椅子に座ったまま反り返るほどに大きく伸びをした。
 すると、ちょうど朽木の真後ろに張ってあった『くじびきアンバランス』カレンダーに目が行き―――
「あああああああああああっっっ!!!!!」朽木は絶叫した。

 そのまま、反り返りから戻る反動で一気に椅子から立ち上がり『くじアン』カレンダーに向き直る。
見れば今日――四月八日だ――の日付に赤マジックでグルグルに丸がつけられ、こう註釈が入れられていた。
『プシュケ新作[食込戦隊ぶるまちゃん オルタナティブ]体験版頒布会。15時より。秋葉原メッセ前』と。(*注2)

「し、しまったぁぁぁぁぁぁぁっっ! 大事なイベントを忘れておりましたぁっ!!」
「ンン~? いきなり声を荒げてどうしたというのダネ、ハニバニ?」

 朽木はのんきに語りかけてくるカズフサの顔を見、悩み、そしてまた見、また悩み、
逡巡を繰り返したが、やがて重々しく、そしてポツリとこう言った。

                     「二枚」

「は?」
それを、マヌケ面をさらして聞き返すカズフサ。
 そんなカズフサを前に朽木は次々口を開いていく。

「二枚ですにょ。二枚。カズフサさん、貴方が一緒に並んで下されば、二枚手にはいるのでアリマス」
「えーと、それはドオイウ?」
「体験版でアリマすよ!! プシュケの体・験・版! 特に本日のイベントは絵師の
直筆色紙が当たるやも知れぬ抽選つきナリ! 二人いれば抽選券が二枚手に入るという寸法アルね!」
 言いながらも朽木はカバンを取り、ゴミ溜めの様になっている部室の片隅からビニール傘を発掘する。
午後から雨との予報なのだ。オタアイテムのほとんどが水に弱いことを考えれば、必須装備だといえる。

「えと、朽木クン? 確か就職活動がどうとか……」突如活発に動き始めた朽木に対応し切れていない。
「しゅーしょく活動ですとォ~~?」しかし朽木は『それがどうした!』といわんばかりの表情で切り返し、そして続ける。
「にょっほっほっほっほっほ…確かに人間は労働を行い、それの対価として金銭を得ることによって生きていきますナ。
ですが!! 人はパンのみに生きるにあらず! 食らうだけならケダモノでも出来る! 
魂の安寧を得、精神の充足を得てこそ真の人間の生き様と言えるでSHOW!!」
 そういう朽木の表情はうっとりとし、瞳孔は開きつつある。明らかに自分の言葉に酔っている。

「なればこそ! 漢ならば今日のイベントは避けては通れぬと言えるナリね!!
就職活動など明日でも出来ますが、プシュケの配布会は今日しかないのでアリマすから!!
ボヤボヤしないでとっと参りますぞ!! カモンベイビィゴートゥーアキハバラ!!」
そこまで一気に言い終えると、朽木はカズフサの手を引き、飛び出すかのように部室から駆け出した。
「ちょっ……オレもうトシだからそんないきなりダッシュかまされて――」
連れられて叫ぶカズフサの声もどんどん遠くなっていく。

 こうして、本日の現代視覚文化研究会の部室は平和を取り戻した。


(*注1) 『ラブ穴』:「らぶほーる」と読む。ぶっちゃけ『どこでもドア』。ラブやんの便利道具の一つ。
(*注2) 『メッセ』:平たく言うとオタショップ。アキハバラにおけるエロゲーギャルゲーのメッカの一つ。


「ねえ……西田君まってよ~~」

          ドン
一方そのころ『首領・きほーて秋葉原店』では二人の青年が買い物の真っ最中であった。(*注3)
しかし、西田と呼ばれた男は『待て』という声を無視し、カートに次々商品をブチ込んで行く。

 カート内には缶入りクッキー、輸入物の馬鹿でかいコンビーフ、サケ中骨水煮缶、
非常用カンパン、などなどなど、カロリーたっぷりの保存食が山と積み込まれ
今にも崩れんばかりである。
 しかしこれらを常食しているのだとしたら、西田という男の体型にも納得がいく。
小太り……いや、コレは肥満の範囲に入る。はっきり言うとデブだ。

他方、声をかけたほうの青年はヒョロ細い体型をしており、いかにも気弱げだ。
そんな青年に西田はボソりと声をかける「トロトロすんな根岸。このクズ」

「酷いよ西田君……クズだなんて」根岸と呼ばれた青年は半ばベソをかいた様な表情でそう答える。
だが根岸の行動が遅いのも無理も無い、何やら背中には大荷物を背負っている。
 そんな根岸を無視し『次は飲み物だ』と、ばかりに西田がペットボトルのコーナーで吟味を始めると、
「あ、待って、西田君」と、根岸が声をかけてきた。

 声も無く西田が振り返ると、なにやら背中の荷物をゴソゴソいじくり、根岸は一本の大きなビンを取り出した。
中には赤い液体がたっぷり収められている。
「トマトジュースだよ、昨日お母さんが送ってきてくれたんだ。みんなの分もあるよ」
 しかし根岸が喋り終わる間も無く、西田はジュースの選別を再会した。
どうやらトマトジュースはお気に召さないらしい。

 何とか興味を引こうと根岸はトマトジュースについて語り続ける。
「ウチの畑で取れたトマトなんだ。トマトだけどあまーいよ。
へへっ、アメリカのジャックさんにも送ってあげようと思ってるんだ」(*注4)
「トマト嫌い」あっさり返す西田。うなだれる根岸。

「ところで西田君。食べ物ばっかり買ってちゃダメじゃないかな?」
 トマトジュースを背中に戻しつつ、ふと、思い出したかのように根岸が言うと、
西田もピクリと手を止め、ジュースをカートに積める作業を中止した。

「ほら、今夜はライブだし、社長の言い付けどおり、ちゃんとメイク買って帰らなきゃ」
「……代わりに買っとけ」
 興味なさげに西田が言うと『またか……』と根岸は心の中で毒づく。
根岸は西田とは付き合いも結構長いのだが、未だに西田の考えている事が理解できていない。
 もともと西田が感情をあまり外に出さない性格だと言うのもあるのだが。

 そんなことを考えつつ、根岸は数十分前の『社長』の言葉を思い出す。


『いいかい根岸?! 一回しか言わないから良く聞きな!! 西田の野郎のメイクが切れちゃってねぇ。
西田と一緒に行ってちょっくら買ってきな!! アイツは顔だけ塗りゃいい和田やアンタと違って、
ヘタすりゃ上半身全部に塗るからねぇ、安いので良いわさ安いので。ドンキ行きゃお徳用があったはずさァ。
わかったかい? わかったらとっとと行きな! 寄り道してライブ遅れたらタダじゃすまさないよ!!』


 『社長』の恫喝を思い出し、根岸はぶるりと体をふるわせた。
 あの女性の機嫌を損ねたら本当にタダではすまないのは根岸自身もよーく判っている。
身の安全を確保する為、とっとと本来の用事を済まさねば。


 根岸は化粧品売り場でメイクの選別を始めたが、
他人の肌のことでもあり、今ひとつピンと来る商品がわからない。
しかたなく、普段自分が遣っている油性のフェイスペイントを、
いくつかカートにほおりこもうとした、その時
「違う。コレじゃない」
 背後から唐突に現れた西田がフェイスペイントを取り上げると、『粉おしろい(お徳用)』と
書かれた缶をじゃんじゃん根岸のカートに積み込み始めた。その数おおよそ20缶ほど。

(……結局自分で選ぶなら最初から来ればいいのに)と、思いつつ、気弱な根岸はそれを言い出せない。
 そう思いつつ西田を見れば、腰に大量の食料品が入ったビニール袋を縛り付けている。
どうやら会計を終らせてから、こっちにきたらしい。

 メイクの会計も済ませ(根岸はおしろい缶全部持たされた。重いのに)、二人が店の外に出ると、
根岸はふと思い出したように西田に尋ねた。
「ねえ、西田君。そういや僕達なんで秋葉原のドンキなんかに来たの? もっと近いところあったでしょ?」

 そう聞かれた西田もまた、ふと思い出したような顔をすると、携帯を取り出し、覗き込み、時間を確かめた。


―――そして、西田は脈絡無く歌い始めた。

           「パピプペブルマが食い込んじゃぅ~♪ 昨日の剃毛吉と出た~♪」

 歌詞は心底イカれているが、正直、上手い。
ちょっとした一節を聞くだけでも西田の非凡な音楽的センスが感じ取れてしまう、そんな歌だった。

「ちょっ……西田君止めてよ! こんな人目のあるところで!」
 しかし、真横でそんな恥ずかしい歌を歌われている根岸はたまった物ではない。
そんな根岸に気づいているのかいないのか、ご機嫌で歌いながらすたすた歩き出す西田。
 根岸もまた、西田の歌を止めようと、必死で追いすがる。

 西田が向かうはメッセ山王。現在14時25分の事である。


(*注3)『首領・きほーて秋葉原店』:註釈しつつもあえて解説しない。どこの事だかわかるヨネ?
(*注4)『ジャックさん』:元・メタルの帝王の座にあった『ジャック・イル・ダーク』の事。
              人間にしてはいい線行っていたが、所詮は人間。クラウザーさんの敵ではなく完全敗北。
              ジャックの『伝説のギター』はいまやクラウザーさんの手中にある。


「ぱっぴっぷっぺっブッルマが食い込んじゃぅぅぅぅぅ~♪ きっのぉのてっいもーキチと出たぁぁぁぁ~♪」

 そして根岸と西田がドンキを出た頃、秋葉原駅周辺で西田と同じ曲を熱唱している一人の男がいた。
 しかし明らかに音階が狂っており、歌詞の異常さとあいまって、まさに聞くに堪えない。
 彼こそはご存知、朽木学である。

「おっぱいせいちょうとまらへ~~ん♪ エッチな教師がみていま~~~す♪」

「クッチーよ……もーちょっとこー、ボリューム下げて歌ってくれりゃ、オレが助かるんダガネ?」
 迷惑そうな顔をして朽木の横を歩くのは、もちろん本日のツレであるカズフサだ。

 朽木はその言葉を耳にするとピタリと歌う口を止め、じろり、とカズフサの顔をねめつける。
「……ふん。先ほどカズフサさんの『買い物』に付き合った時のワタクシの恥辱に比べれば
アナタが今感じている感情など、キラ・ヤマトを前とした時のシン・アスカのよーなモノと言わせて頂きますにょ!」

 イベントまでは時間があったため、二人はカズフサのほうの『用事』を先に済ませていたのだった。
「シカシダネ? やっぱ実用品だけに色々吟味して買わなきゃならんだろ?」

「実用だからって、店員さんにわざわざサンプルもって来させるナリか?! 
しかも、持ってきたサンプルに指突っ込んでヒダがどーとか!! シマリがこーとか!!」

 往来のド真ん中である事をも忘れたのか、朽木は卑猥な単語の混じった苦言をぶつけてしまう。
すると買ってきた『ブツ』の入った袋をしげしげ眺めながら、カズフサは文句に応じる。

「フムウ、できれば指じゃなくて、ちん「 う る せ え バ カ 黙 れ そ し て 死 ね 」
 言い終わるが早いか、怒鳴りつけて後半部分をかき消す朽木。グッジョブ。


「あ、朽木くーん」

―――ふと、気づけば、朽木を呼ぶ声が聞こえる。
 朽木のカン高い上に良く通る声で怒鳴った為か、知り合いに発見されてしまったようだ。
キョロキョロとあたりを見回してみれば、少し離れた路地の方から手招きする人影が見える。

「……え? あの? その……コーサカ……先輩でアリマスか?!」
 そう、声をかけてきたのは高坂だった。
朽木が驚いているのは、何も知り合いに偶然出合ったからではない。問題なのはその『格好』である。

「そっちが大森さん? はじめまして高坂真琴です」
 カズフサたちが高坂の方へ駆け寄ると、流石は社会人らしく、深々と頭を下げながら高坂は挨拶する。
 もっとも、その『頭』には黒いフリルカチューシャがはまっているのだが。(*注5)

 しかし、挨拶されたカズフサは、なにやら思うところがあるらしく、
高坂をギラリと見つめたまま返答しようともしない。

「えと……その……『それ』は……?」
 高坂を指差しながら質問をぶつけ、ちょっとづつ現実に対応していこうとする朽木。
 どうやら、両親に『気安く人を指差しちゃいけません!』と、教わらなかったらしい。

「あー、うん。今日はウチのイベントだしねぇ」

 高坂はいわゆる『コーサカスマイル』を顔に浮かべながら、にこやかにそう答える。
そしてその『顔』には、メイクが施されていた。
童顔の高坂を良く引き立てる出来となっており、もはやパッと見には少女としか思えない。
濃すぎず、薄すぎず、素人目にもプロの手によるものであろうと理解できた。


「だ、だ、だ、ダークスパッツたーーーん!!」

 ―――突然、奇声を上げて、カズフサが高坂に飛び掛る。
 しかし、高坂の身体能力からすると、こんな奇襲を避けるくらいは手間ですらない。

 ゴ ィ ィ ン !

 高坂が、フリルの付いた短く黒いスカートをなびかせつつ、ヒラリとかわすと、
かわされたカズフサは、思いっきり壁に頭をぶつけた。
そして舞い上がったスカートから見える高坂の太腿は、ぴっちりとスパッツに包まれている。
毛の一本すら生えていないその美脚を、誰が男のモノと思おうか?


 そう、本日高坂が着こんでいるのは『ダークスパッツ』のコスチュームであった。(製作協力:田中総一郎)
ダークスパッツとは、高坂自身もプログラマとして参加している、エロゲーブランド『プシュケ』の
プチヒットタイトル『食込戦隊ぶるまちゃん』に置ける主人公チームのライバルキャラであり、
ファンサイトにおける非公式人気投票では、メインヒロイン3人をぶっちぎって一位を獲得するほどの人気キャラでさえある。
 その人気をメーカー側も放置する訳が無く、続編である『食込戦隊ぶるまちゃん オルタナティブ』での
続投が決まり、貧乳属性持ちのプシュケ信者を大いに湧かせたものである。


「……カズフサさん、アナタなんて言うか……もう」
 朽木はぶっ倒れたカズフサを『かわいそうだけど明日の朝にはお肉屋さんの店頭に並ぶのね』と、いった感じの眼で見ながらそう呟く。

「大丈夫ですか? 大森さん」
 一方、高坂は、襲われかけたことに対して、微塵もなんとも感じていないのか、
ケロリとした顔で、倒れたカズフサへと手を差し出す。

 カズフサは頭をぶつけたショックから徐々に復帰しつつあり、首を振り振りひとりごつ。
「フウ……アブナイアブナイもう少しで人の道踏み外すとこだったヨ」

「アナタの口から『人の道』なんてセリフが出てくるだなんて思わなかったアルね…………ソレはソレとしてコーサカ先輩」
 カズフサを引っ張り、助けおこしつつある高坂を見ながら、
朽木が声をかけると「ん? なに?」屈託の無い笑顔で高坂は答える。

「なんと言うかその……良くできておりますにょー」
「あ、コレ? うん、田中先輩に作ってもらったんだ、会社の経費で」
実際良くできていた。kid's atの血鶴や、くじアンのいづみなどの貧乳娘をこよなく愛する田中の、
貧乳属性オタによる、貧乳娘の為の、貧乳キャラコスチュームであった。まさに渾身の一作。
―――もっとも、着用している人物こそ『娘』ではないのであるが。


カズフサは、そんな高坂をしげしげと眺めながら、隣の朽木にボソボソと呟く。
(……な、なあ、クッチー。このコーサカ君だったらオレ、ちんちん付いててもイケるかもしれん!!)
(だからアナタはなんでそんな! イヤしかし、コレは確かに付いてるモン付いててもイケそーな……)
朽木も高坂の全身をまじまじと見つめながらそう答える。

そのまま高坂を眺め続ける二人であったが、やがて自己の欲求に忠実すぎる29歳児が無遠慮に口を開いた。
「コーサカクンよ、そのスカートの下って……どうなっているんダネ?」

高坂はちょっと思案する表情を浮かべたが、黒い超ミニのスカートに軽く手をかけると
「………………見ますか?」と、答えた。


          「「  是 非 と も ! ! 」」


―――その高坂の言葉に、アフタヌーンが誇る二人の変態が、まったく同じセリフで超反応する。


「ダークスパッツたんの絶対領域を見る事ができるのならば、セッシャの愚息はもう! モウッ!!」叫ぶカズフサ。
「あ、ワタクシはカズフサさんと違ってそんなヨコシマな感情は抱いておりませんにょ!
女装コスプレを愛する者どうし、純粋に学術的興味を持って後学のためとしたいにゃー、などと思いまして!」わめく朽木。


「……あ、あはははー」

 ヒイていた。
 『あの』高坂が、ド変態二人の発するプレッシャーの前にヒイていた。

「そんな風に詰め寄られると、ちょっと見せづらいかなー、なーんて……」冷や汗さえ流していた。

「ナァニ減るモンじゃなし、パパっと見せればいいだけの話じゃないカネ、ハニバニ?」

「いやーワタクシもこんな事はしたくないんです! したくないん で・す・が! 
煩悩中枢がメルトダウンして頭の中がジャンルコード29な感じでアリマして!!」

 口々に好き勝手な事を喋くりつつ、じりじり、じりじりと、二人の変態が高坂へと詰め寄っていく。

「あ、あはははは……」
 高坂。
 絶体絶命。



                「ソコの人達! やめなよ!」


―――しかし、幸か不幸か、乱入してきた一人の青年の制止の声によって、状況は大きく変わる事となったのであった。


(*注5)『フリルカチューシャ』:平たく言うと「メイドが頭につけてるアレ」


「うう……西田くん、早く帰ろうよぅ」

 時間は少しさかのぼる。

 根岸と西田は、オタショップの多数入居している雑居ビルを巡回していた。
正確に言うと『シュミの買い物』の為に、アキバのあちらこちらを
フラフラする西田を、根岸が一方的に追いかけていた。
根岸は先ほどから何度も何度も西田に声をかけているのだが、西田は根岸の方を振り向こうとすらしない。

 つい先ほどまで、二人はDVDショップにいた。
DVDショップと言っても、街角のそれとは明らかに客層とジャンルが違う。
店内はイイ年した男性客で溢れかえり、いわゆる『萌え系』という奴だろうか……
……美少女キャラがポーズをキメるジャケットのアニメを真剣に吟味していた。

 その少し前にはフィギュアショップにいた。
恥部や局部もしっかり作りこまれたフィギュアが堂々と展示されており、根岸は目のやり場に困ることとなった。
そしてそんなモンに数万円の値がついていると言うのは、根岸の理解をはるかに超えていた。

 更にその前には同人本屋にいた。
その『更にその前』まで、根岸は『エロパロ同人』と、言うモノの存在そのものを知らなかった。
女性キャラがあられもない姿を晒している本が棚一杯にびっしりと並べられていた。
アニメや漫画にうとい根岸でさえ知ってるような、マガヅンやジャプン系の女性キャラさえいた。

 ショックだった。
 少年少女が純粋に楽しんでいるであろうその作品を元に過激な性的妄想を行い、
それを漫画にしてしまうという人種がいると言う事実が何よりショックだった。


 そして根岸が、この街が、秋葉原の街が『こんな店ばっかり』であるという事実に気づくまでにそれほど時間はかからなかった。


「……ねえ、早く帰らないと社長に怒られちゃうよ?」

 そして今、ボンレスハムのようにぐるんぐるんに縛られた少女のポスターの前で、根岸は再び西田に声をかける。
 正直、こんなおかしな街からは早く帰りたいのだが、西田から目を離すとどこに行くかわからないし、
何をしでかすか判ったモンじゃ無い。
 だが、自分ひとりだけ先に帰るわけにも行かない、西田が行方知れずになった場合
『社長』の叱責を受けるのは根岸自身なのだ。

 そんな根岸のセリフを聞いているのかいないのか、西田はお構い無しに歩き続けていたが、
とある建物の前に来ると「ここだ」と、ポツリ言い、遂には足を止めた。

 メッセ山王。秋葉原店別館。この建物はそう呼ばれている。
 エロゲーイベントのメッカであり、体験版配布、原画師サイン会、開発者との質疑応答などなどなど、
ありとあらゆるタイプのイベントが行なわれ、エロゲオタの消費意欲を扇動し続けている。
本日ココではエロゲ業界をリードするブランド『プシュケ』の販促イベントが行なわれる予定なのだ。

 もっとも、今日のソレは開発者にとっては残念な事にオタの注目度はあまり高くない。
人気作のイベントならば、溢れんばかりに人がいるのだが、イベント開始直前になっても15名ほどが行列を作るのみ。
 混雑対応の店員も、今日はそれほど殺気だってはいない。
 そして西田が行列の後ろにつくと、根岸もやむなくそれに続いた。

 ―――だが、そこでの出来事は『一般人』の根岸には到底理解しがたいモノであった。

 人目気にせず「ブルマが!」「スパッツが!」と大声で属性論争を競い合わせる者。
 半裸の――いや、ほぼ全裸の女子キャラが描かれた特大ポスターを広げだす者。
 そして、ノートパソコンでHなゲームを路上で堂々とプレイし始めるもの。
「お兄ちゃん……ダメだよぅっ!」と、言う幼女の叫び声が十分聞こえるほどの大音量だ。

 トドメに西田に至っては、エロゲーのノベライズを読み始めた。しかも音読。
「うふん くすぐったいだめよ もうすぐままがかえってくるんだから と まーがれっと は いったのだが ぼぶはごういんに―――」


 そう、注目度が高くないだけに、集まったのはかえって『濃い』オタクばかりだったのだ。

                  「 も う ヤ ダ ッ !」

 気づけば、根岸は顔を紅潮させ、周りのオタクたちがビクッとするくらいの大音声で叫んでいた。
並んでいた時間はわずか数分ながら、その数分で、もはやガマンの限界を超えていた。
何より、一緒に並ぶ事で彼等と『同じ人種』と思われることに耐えられなかった。

「西田くんなんてライブに遅れて社長に怒られちゃえばいいんだッ!」
 どっしり腰を構えてエロ小説を読みふける西田にそう吐き捨てると、根岸は当てもなく駆け出した。
その怒りは、西田個人に向けられた者なのか、はたまたアキバ全体に向けられたものなのか。

 根岸は駆ける。
 駆ける。
 駆ける。

     おかしい、おかしいよ、みんな!
     どうして、アニメなのに、マンガなのに、いやらしいことをするんだよ! 
     小さい女の子まで、いじめちゃ、かわいそうじゃないか!

 もはや根岸には秋葉原という街の存在そのものが、耐えがたい物となりつつあった。
表通りを避け、人目から、オタクから逃れるように、裏道へ、路地へと根岸は走っていく。

 ―――その路地で、根岸は聞いてしまった。見てしまった。


          「「  是 非 と も ! ! 」」



 その場所が、その時間が。
 根岸の、そして朽木とカズフサと更には高坂の……いや、アキバ史に残る伝説を築く運命の分岐点であったのだ。
 根岸は聞いた。二人の『いかにもオタクっぽい』連中が「是非とも」と、大声を張り上げるのを。
 根岸は見た。メイドのような奇妙な格好をした『少女』がそのオタクどもに絡まれる現場を。

 自分が叫んでどうにかなると思ったわけではない。
 自分に止められると思ったわけでもない。

 ただ、今の気分では許せなかった。この街と、それに関わる奴等が許せなかった。
―――それに、何より暴漢に絡まれる『少女』が相川とダブって見えたと言うのもある。(*注6)

 だから叫んだ、だから止めようとした。馬面のオタクに。やけに筋肉質のオタクに。


          「ソコの人達! やめなよ!」 と。



(*注6)『相川』:根岸の彼女(のような者)。でもヤったかヤって無いかで言うと、まだヤって無い。


「……ハァ?」馬面のオタクが根岸に振り向いた。
「ンン~~?」筋肉質のオタクも根岸に振り向いた。
「…………?」メイド風な姿の『少女』も首だけを動かして根岸を見た。

 もちろん彼等は朽木&カズフサのアフタヌーン変態コンビであり、そして彼等の餌食となりつつある高坂であった。

 カズフサは横目で根岸の方を見ると、クイッとメガネを押し上げながらこう言った。
「クフウ……なんだね、そこのキミィ? オレタチに何か意見でもあるというのカネ?」

「や、やめろって……いったん……です」

 勢いで『止めろ!』と言って見たものの、根岸は既に後悔しはじめていた。
オタク達は二人とも背が高く、そのうち一人はありえないほどの筋肉量の持ち主だ。
単純な腕力勝負では、とてもかないそうに無い。

「止めろと申されましても困りますにゃー。『スカートの中を見せる』と、
言ったのは、こちらの方が先に提案してきた話でアリマスぞ?」

 『こちらの方』と言いながら、朽木は高坂を指差す。

 指差された高坂は「あはははは……」と苦笑いするものの、否定も肯定もしない。
朽木の言葉は事実であるが『うん』と言うには空気が悪い。そんな場を誤魔化す為の笑いであった。

 しかし、その高坂の態度を、根岸は『嫌がっている』と解釈した。
良く見れば、困っている顔も大変かわいらしい。
「やめてくださいよ。その女性(ひと)嫌がってるじゃないですか!」
今度は場に慣れてきたせいか、多少は大きな声をだす事が出来た。


その言葉を聞いたカズフサはズズイと前に出ると、筋肉を誇示するポージングを決めながらこう言った。
「アァン? ……電車男きどりかァ、ゴボウ君? 絡まれッ子一人助けるくらいでフラグが立つなら誰も苦労はせんわ!」
なぜか目には涙を浮かべていた。何か嫌なトラウマでもあったのだろうか。

 ここでカズフサと朽木の発する空気から解き放たれたせいか、ようやく高坂が口を開いた。
「……あの、大丈夫ですから。本当に大丈夫ですから。……それに、ボクが、その……『見せれば』済む話ですから」

 その言葉に、根岸はドキッとした。
自分の事を『ボク』と言う女の子は始めて見たが、思いのほかにハートにヒットしてしまった。
コレがいわゆる『萌える』と言う感情であろうか?
―――それに、正直、根岸自身も『見たい』とさえ思ってしまったのだ。
なんのかんのと言ってもやはり根岸もオトコノコである。

「おおっ! やっと覚悟完了でアリマスな!!」「待ちかねてイタヨ、ハニバニ!」そして、口々に期待の言葉を叫ぶ変態二人。
 高坂は諦めたような顔で再びスカートに手をかけると、ためらいがちに、それを上げていった。少しづつ。少しづつ。

「みっ・せっ・ろっ!」カズフサが煽り。
「ハイ、みっ・せっ・ろっ!」朽木がそれに合わせた。
 変態ズのテンションは上がる一方であり、呼吸までもがピタリあっていた。

―――ダメだ。こんなことしちゃダメだ。
―――見ちゃだめだ、見ちゃだめだ、見ちゃだめだ。

 そして根岸は葛藤の極みにあった。見たい。けど見てはいけない。見てしまってはこの変態たちと同類なのだ。

―――ううう、ダメだ、ダメなんだよぅ。
―――女の子がそんな、はしたない事しちゃイケないんだよぅ。

「にげてーーーーーっ!!!」
ついには葛藤に耐え切れなくなったのか、気づけば、根岸は叫んでいた。叫びながらカズフサの背中に飛び掛っていた。


「何をするかコゾウ!!」張り付いてきた根岸を振りほどかんと、カズフサは必死で身体をゆする。
 張り付きつつ根岸は更に叫んだ「君! 逃げて! 僕がコイツを押さえている間に逃げてーーーッ!!」

「……え、でも」あまりに突然の出来事に、流石の高坂も困惑するしかない。

「にゃにゃにゃ、にゃんですかにょー?!」朽木に至っては興奮のあまり、もはや日本語になっていない。

「ふんぬっ!!」「にげてー!!」
「オルァッ!!」「にげてー!!」
「そおぃっ!!」「にげてー!!」

 しがみつく根岸と、振りほどかんとするカズフサ。
ある意味一進一退の攻防が続いていたが、やはり基礎腕力が違いすぎる。
 40秒もたたないうちに、己の首をつかんだ根岸の手を引き剥がすと、
カズフサはゴミでも捨てるかのように、根岸を路上に放り投げた。

「ぎゃわんっ!」したたかに頭をぶつけたのか、悲鳴を上げる根岸。
力尽きたのか、目をつむりぐったりとしている。

そんな根岸を見下ろしながら、カズフサは勝利宣言する。
「クックックッ……モヤシ君にしては良くやったと思うが、ドオやらオレの敵ではなか…………って、ええ?!」
なぜか、余裕ぶっこいていた筈のカズフサの顔がみるみる青ざめ始めた。

「…………え!?」同じく、それを見た高坂もが硬直する。

「にょ?! にょにょにょにょにょにょにょにょにょ~~~?!」朽木に至っては興奮のあまり、もはや人間の言葉ですらない。

―――見れば、倒れた根岸の頭部付近から、どくどくと、赤い、赤い液体が多量に流れ出していた。
流れ出す赤い液体は、みるみるうちに根岸の服を染め、身体を染め、アスファルトに赤い液だまりを生み出した。


「血ッ……血だァァぁぁぁぁぁぁっ!!」
 流石のカズフサもこの光景にはビビって叫んだ。

「どーするんですかにょ、カズフサさん?! ヘタすりゃ死んでるナリよ、コレは!」
 やっと日本語が喋れる程度に落ち着いた朽木が、カズフサに詰め寄る。

「え? どーするって、その……」
「あ、ワタクシ知りませんからにょ。かんけーありませんからにょ。やったのはカズフサさんですからにょ」
「てめぇ、クッチー! オレ一人に全責任を押し付けるつもりと言うのカネ?!」
「いやほら、暴力アピールをしたのもカズフサさん。ポイとほおり投げたのもカズフサさんじゃ、アーリマせんか!」
「……え、だって、その、抱きついてきたの、コイツからだし」

「しりまセーン、ワタクシ無関係デース」
朽木は最後にそう言い捨てると、カズフサからも、倒れる根岸からも目をそらした。

 この世の全てに見捨てられたカズフサは、アワアワと慌てふためいたり、
指をくわえてみたり、根岸や周囲を見回したりしていたが、
突然「ボ、ボクもう、おうちかえゆーーー!!」と、叫ぶと、あさっての方向に向かってダッシュした。
 罪を犯してしまった成人男性とはとても思えない、責任感の足りなさすぎる29歳児丸出しの行動であった。

「ちょっ……カズフサさん、マジでどーすんですかコレ?!」
 おいていかれた朽木は、根岸を見ればいいのか、カズフサを追いかければいいのか判断に迷い、マゴマゴするばかりである。

―――かたや、醜く責任を押し付けあう変態二人とは違って、高坂は迅速に行動に移っていた。

「大丈夫ですか?!」まずは声をかけ、意識があることを確かめる。
「う、う~ん」声に反応したのか、倒れた根岸はうめき声をあげた。

 良かった、意識はあるようだ。しかしこの出血では……とりあえず止血か?
それとも無理には動かさず、救急隊が来るまで待った方が良いのだろうか?
そうだ、救急隊だ、まずは呼ばなければ。

「朽木君! 救急車を呼んで!」朽木に向かって高坂は叫ぶ。
「きゅっ、きゅーきゅーしゃでアリマスか?! えーと、117,117……」違う。それは時報だ。

その時。
「服が……濡れちゃったよぅ」
回復しつつあるのか、倒れたままの根岸が口を開いた。

「あ、喋らないほうが! かなり出血してるんです!」そんな根岸に注意を促がす高坂。

しかし、聞こえているのかいないのか、根岸はかまわず喋り続ける。
「ヒプノタイズで……相川さんにみたてて貰った奴なのに……」(*注7)
「じっとしててください! すぐに救急車がきます!」とにかく、高坂は根岸を落ち着かせようと声をかける。

だが、それも意に介さず根岸は決定的な一言を口にした。
「……それに、割れちゃったよぅ。おかーさんが送ってくれたトマトジュース」


「……は?」「……へ?」
 それを聞いた高坂と朽木の眼が点になる。

 高坂はぴくぴくと鼻を動かすと、周囲の臭いを嗅ぎ分けた。
 血液の鉄臭さとは全然違う、爽やかさすら感じるこの香りは……
「……トマトだね」

 朽木もまた、赤い水溜りに指を突っこむと、ためらいもなくその指をベロリと舐めた。
「……トマトでアリマスな」
 どうやら両親に『道に落ちていたものを不用意に口にしちゃいけません』と言う教育を受けなかったらしい。

 つまり、路上に溢れるこの赤い液体は。
「トマトジュースではアーリマせんか?!」わかりきったことをイチイチ口に出す朽木。


 そうとわかれば一安心である、高坂も、朽木も、内心ホッと胸を撫で下ろしていた。
だが、油断はならない。ビンを割ったのであれば、その破片で何らかの外傷を負っているかもしれない。
そう考えた高坂は、根岸の頭部を診るためにしゃがみこんだ。


―――――そう、しゃがみこんでしまったのだ。

 超ミニのスカートをはいているのに。

 倒れた成人男性の頭部の前なのに。

 ホッとしたがゆえの油断もあった。

 スカートを押さえて隠す事など考えも付かなかった。



  「な、なんだそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 そして根岸は吼えた。吼えると同時にバネ仕掛けの人形であるかのように起き上がった。
背にはトマトジュースの入っていたバッグがあり、そこからボタボタと赤い液体がこぼれ落ちた。

 「なんだそりゃ! なんだそりゃ! なんだそりゃ! なんだそりゃぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 見た。根岸はその眼でしかと見た。高坂のスカートの『中身』を。
 そこにはスパッツに包まれた形のいい腿と、根岸の常識ではあってはならない『モノ』があった。
根岸は両手で顔を抑え、今見たものを否定するがごとくブンブンと頭を振る。
 轟く感情に翻弄されたせいか、足元を赤い水溜りにすくわれ、滑って転んで、またもや赤いしぶきを舞い上げた。

「あの……まだ動かない方が良いですよ。頭ぶつけたみたいですし」
 再び赤い水溜りに全身を浸からせた根岸を助けおこそうとして、高坂は根岸に手を伸ばす。

 しかし根岸は差し出されたその手を殴りつけるかのごとく、払いのけると
「俺に触るなぁっ! このオカマ野郎がぁぁぁぁぁぁっ!!!」と、叫び、自力で立ち上がると、凄まじい勢いで駆け出した。

 この状況でも、ドンキのビニール袋を回収する事を忘れなかったのは『社長』を恐れるが為だろう。


そして、根岸が走り去ったあとには呆然と立ち尽くす高坂と朽木だけが残された。

「アレだけ走れるならだいじょーぶでしょうナ」朽木が言うと
「アレだけ走れるなら大丈夫だろうね」と、高坂が答える。

「一体なんだったんでしょうかにょ?」朽木が聞くと
「一体なんだったんだろうね?」高坂も問い返す。

二人とも、それ以上の言葉は交わさなかった。
あまりに一気に起こった出来事のために、二人とも思考が停止していた。

〔……だいま午後2時51分30秒をお知らせしますプップップッポーンただいま午後2時51分40秒をお知らせしますプップップッポーンただい……〕
沈黙の支配する路地で、先ほど朽木がかけたケータイの時報だけが機械的に時を告げていた。

「「あ」」
 その時報が二人を我に返らせた。

「いかなきゃ」「そうでアリマスな!」
二人が向かうはメッセ山王。秋葉原店別館。

 その場所で、更なる混沌に出合う事を、二人はまだ知らない。


(*注7)『ヒプノタイズ』:代官山にあるオシャレ服屋。デザイナーのアサトヒデタカが根城にしている。(DMC設定)



―――どこをどう走ってたどり着いたものか。
気づけば、根岸はとある雑居ビルの個室トイレに潜りこみ、あふれ出る感情の奔流に、ただただ身を任せていた。




なんだこの街は! なんだこの街は!
                                    せっかくお母さんが送ってくれたモノだったのに
誰も彼もがアニメやマンガの事しか考えていない!
                                    とてもおいしいトマトジュースだったのに
しかも奴等はそれを性的妄想の材料としていやがる!
                                    お父さんが育てて、妹が絞った奴だったのに
白昼堂々とオタク野郎がコスプレの女に『脱げ』と迫り!
                                    事務所のみんなに飲んでもらおうと思ったのに
そしてその女までもがオカマ野郎だった!
                                    ジャックさんにも送ってあげるつもりだったのに
アレが許されるのは、ゆびさきミルクティーだけだ!(*注8)
                                    壊された!  あのオタク共が割ったんだ!!



                    …………グロテスクだ………この街はグロテスクだ!!
                    秋葉原と言う街の存在そのものが、もはや許せぬ!!
               SATSUGAIだ!! この街の奴等全員SATSUGAIしてくれるわーーーッ!!!



―――怒りに支配され、理性を失った根岸は、赤い汁にまみれたバックを開き、復讐への準備を始めた。

 いや……もはや根岸の肉体を操るのは『根岸崇一』と、言う男の魂ではない。
『それ』は、根岸の精神の奥底に宿る、人知をはるかに超越した存在であった。

『それ』は信者曰く、人型をした破壊と破戒の象徴。
『それ』は信者曰く、這い寄る混沌の化身の一つ。
『それ』は信者曰く、666の刻印を持つ審判の獣。
『それ』は信者曰く、パンドラの箱に最後に残った『悪』。
『それ』は信者曰く、数億の悪魔を従える地獄の軍団長。
『それ』は信者曰く、アルファにしてオメガたる存在。

 とは言え、以上はどれも俗説に過ぎず、確たる証拠など何一つ無い。
 だが、一つだけ確実にいえる事がある。

       メタル
 『それ』が音楽をもって人心を操り、狂わせる事さえ可能な真の悪魔だと言う事を!!

        そう! 彼こそがクラウザー!! ヨハネ・クラウザーII世!!

 デスメタルバンド『デトロイト・メタル・シティ』のリーダーであり、
 数々のリアルレジェンドを生み出した彼の実力は、まさに帝王のそれである。

 怒り狂うクラウザーさんを呼び起こしてしまったアキバの街は、一体どうなってしまうのであろうか?
 それは誰にもわからない。

 ただコレだけは言える。
 たった今、秋葉原の街は地獄と直結したのだ、と。

(*注8)『ゆびさきミルクティー』:DMCと同じくヤングアニマルで連載中のマンガ。
                    詳細は省くがDMCとは穴兄弟のような関係である。