※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

第十四話・テンプルナイツ 【投稿日 2006/05/10】

第801小隊シリーズ


ゴウン・・・。ゴウン・・・。
宇宙ドッグ『ビッグサイト』の艦船港にて盛大な起動音が鳴り響く。
今まさに、一機の艦船が星の海への航海に乗り出そうとしていた。
「旧式とはいえ、こんなたいそうな代物よく使わせてもらえるよな。」
艦長席の前、言ってみれば副官席のような場所にマダラメは座っていた。
彼の呟きはもっともであった。
宇宙専用とはいえ、MSを6機まで収容可能という連盟でもかなり貴重な艦船だ。
通常、小隊に支給される艦船で3機なのだから、規模の違いを伺えるだろう。
「でもさー、それだけ期待が掛かってるって事じゃん?」
何も考えていないような声を出し、ケーコがそう返す。
彼女は通信席に座り、操作をおさらいしているようである。
「でもな、妹さんよ、我々の任務は上層部からは感知されていないも同然なんだぞ。」
「妹さんって・・・。まあいいけど。でも、私たちはこれに乗ってるじゃん。」
「・・・もっともだわ。あまり考えんようにしとくか。」
そういってふんぞり返るマダラメ。右手は、動く。宇宙について早一週間が経過していた。
その間、MSのテスト、新しいメンバーとのあわせなど、色々と忙しかった。
幻痛にも悩まされていたが、今ではずいぶんと収まった。
「・・・あのオーノさんの昔馴染み、いい腕してるわ・・・。」
テストで模擬戦を行った時に、その腕に感心させられた。
(特にあのアンジェラって方・・・。あの動き、かなりの死線を潜って来たに違いない。
 スーって方は・・・。なんか不思議な動きしとったなあ・・・。あの武器、役に立つんかね?)
しかしながら、強力な仲間を得たことに間違いはない。
連盟の主力部隊は行程の半分を終える頃だ。
途中何度かの小規模の戦闘があったようだが、そこはあの第100特別部隊がいるわけだ。
あっさりとはいかずとも、潜り抜けているようだ。
「・・・さーて、そろそろかね?」
「そろそろだね。」
「うわっ!」
気付くと後ろの艦長席に大隊長の姿があった。ケーコもそちらのほうを見ながら目を丸くして驚いていた。
「い、いつの間に・・・。」
「今だよ。・・・皆準備できたみたい。出港だね。」
「・・・分かりました。ふう、宇宙・・・か。」

宇宙の海は、何も見えず、何も感じさせない。
そこには、何の感情もなく・・・。善意も悪意さえも感じさせない「無常」が漂っている。
思えば人は、なぜ宇宙に飛び立とうとしたのだろうか。
巣から飛び立つ雛鳥のように・・・。いつかは飛び立たなければならない運命だったのだろうか。
しかし、その飛び立ちが宇宙に住む人々と、地球に住む人々に溝を作り・・・。
いや、人とは溝を作らなければ生きていけないのかもしれない。
実際問題、宇宙に飛び立つ前にも、地球上で戦争はいくらでもあった。
それが・・・。更なる大規模な溝になったに過ぎない。人は、歴史から何も学んでいない。
そんなことをぼんやり考えるにいたり、
宇宙に初めて出た頃のワクワク感はもはやないことをタナカは実感していた。
「・・・クガヤマ・・・。間に合わなかったか・・・。」
この一週間でシャトルの一機でも飛んでくるだろうと思っていたのだが、来なかった。
通信はスパイ傍受される可能性があるため、強力な電波で行うことが出来ない。
そのため、地上・宇宙間の連絡は手紙などに頼らざるを得ない。
「・・・大丈夫・・・だろ。」
心配していても仕方がない。しかし、長い付き合いの三人である。
マダラメも、心配しているんだろうな、と一人整備場で考えつつ。
「タナカさん、一休みされたらどうです?」
「オーノさん・・・。すまんね。」
気付くと隣に立っていたオーノが作業をしている田中に向かって、コーヒーを差し出す。
もちろん、働いている重力は大きくないため、カップではなくチューブである。
「最近、根詰めすぎじゃありませんか?」
「んー?そうでもないよ。いつものことだって。」
そういって受け取ったコーヒーをすすりながら、答えるタナカ。
オーノは、心配そうな表情をしながらその姿を見る。
「ただ、新型機が多くて、やらなければならないことも多くてね。」
「それならいいんですが・・・。」
そういって、タナカの横に座るオーノ。
「・・・なに、もうすぐ終わるさ。それまで、頑張ればいいんだから。」
「・・・そうですね。あともう少し・・・。ですね。」
「戦争ももうすぐ終わる。そうしたら・・・軍を辞めようかと思ってるんだよね。」
「えっ・・・!」
「まあ、ずいぶん前から考えてたことではあったんだけど・・・。
 戦争が終われば、軍は縮小するだろう。そうなると、自分の好きな仕事が出来るとも限らないしね。」
そういって、タナカは少し寂しそうな顔をして宇宙を眺める。
「そうなんですか・・・。」
「・・・だからさ。一緒に来ない?」
「え・・・?」
驚きを隠せない顔をするオーノの方に顔を向けて、タナカは笑う。
「知り合いの工場が、もう使わなくなるらしくてね。そこで、整備工場でも開こうかなって・・・。」
「わ、私も行っていいんですか?」
「うん・・・。人手は多いほうがいいし・・・。その・・・。」
少し恥ずかしそうに顔を背け、少し黙る。
「・・・俺が来て欲しいってだけだから・・・。」
「タナカさん!」
そう声を上げると、オーノはタナカに抱きつく。
「絶対生きて帰りましょう!私たちだけじゃなく、皆!」
「う・・・、うん。」
オーノの大きな胸に顔をうずめながら、顔を赤らめるタナカ。
宇宙に戻ってきて良かったと思った。これで自分に決着がつけれそうだから。
「はーい、カナコ、ここー?」
そこにやってきたのはアンジェラだった。中の状況を見て、笑う。
「アラ・・・。ごめんなさいね。お楽しみ中だったかしら。」
「・・・いや、そうでもないよ、はは・・・。」
「もう、アンジェラ、何の用?」
手をタナカから離すと、アンジェラのほうに向き直る。
「ん、まあ、話し相手もいないからさ。」
「・・・ああ、そうか、まあそうだよな。」
そういって、椅子に座るよう合図を送るタナカ。
「どう?この小隊は?」
オーノの問いに、アンジェラは楽しそうに話し出した。
「いいね。特にあの隊長さん・・。いい動きしてるよ。」
アンジェラは心底楽しそうな笑顔を浮かべる。
「あの接近戦での腕前は並じゃないよ。
 コーサカやササハラも悪くないけど、腕前じゃダントツだね。」
「そう?てっきりコーサカさんの方がいいんだと思ってた。」
「彼は・・・なんていうか遊びに走りがち。満点は出せるけど平均以下の時もある。
 特に宇宙はトリッキーな動きが出来るから、色々試しちゃうんでしょうね。」
「まあ、それがコーサカの強みでもあるし、あのMSの特徴でもあるんだけどな。」
「サシ勝負なら一番強いのは隊長さんだね。うーん、しびれる~。」
そういいながら興奮した様子で体に腕を巻きつけて体を震わせる。
「ササハラさんはどう?」
「分かりやすいというか、教科書どおり。常にアベレージは出せるけど満点は出せない。
 まあ、あのシステムっての?のせいで先読みされちゃうんだけど・・・。」
「それもまたササハラのいいところだ。あいつは自分をわきまえているからな。」
「そうね、だから、隊としてはすごく良いんじゃない?
 今まで参加した事のある隊の中じゃ三本の指に入るわ。」
「アンも、スーも、溶け込めてる?」
「それは問題じゃないよ。私たちはあくまで傭兵。
 あんたたちのうまいように使ってくれればいいのさ。捨て駒としてでもね。」
その捨て駒、という響きに、顔をしかめるオーノ。
「そんなことしないわよ!」
「でもね、はっきりいえば私たちは部外者だよ。一番切り易いのは私たちでしょ。」
その言葉にタナカは苦笑いする。
「んー・・・。まあ、普通の部隊ならそうだわな。」
「?ここはそうじゃないっていうの?」
アンジェラは不思議そうな顔をする。
「ま・・・実際出撃してみれば分かるさ。」
「ふー・・・ん。ま、別にされても恨みはしないけどね。」
「アン・・・。」
不満そうなオーノの顔を見て、アンジェラは少し笑って言う。
「カナコ、私たちにとってはそれが普通だってこと。
 別にね、それでいいって訳じゃないけど、それが仕事なんだよ。」

ブーブーブーブー・・・・。
警報が鳴る。その音に、一斉に立ち上がる三人。
『敵の強襲だ。すぐにパイロットはMSへ。急げ!』
マダラメの声である。緊迫した空気が流れ出す。
「ラッキーだね。ここならすぐに乗り込める。」
「アン・・・。頑張って。誰も死んで欲しいなんて思ってないんだから。」
「カナコ・・・。OKOK。大丈夫だよ。」
そういって笑顔を作ると、すぐさま自分のMSへと向かう。
「・・・大丈夫さ。マダラメたちもいるんだ。」
「そうです・・・けど。少し、変わったかな・・。アン・・・。」
タナカとオーノはその後姿を見つめるしかなかった。
そこに、走ってきたコーサカと、ササハラ。
「タナカさん、問題ないっすよね!」
「行って来ます。」
口々にそういうと、二人ともそのまま止まらず自分の機体へ。
「おう!頑張れよ~!」
「・・・ふう、厄介なこった。おう、これから出る。」
現れたマダラメは、なにか不安そうな表情だ。
「・・・どうかしたのか?」
「ん、まあ、こんなところに現れる奴らなんてどんな奴らだよ、と思ってな。
 普通、連盟の領地に堂々と侵入してこんだろ。」
「自信の表れってことか?」
「・・・一筋縄じゃいきそうにないのは確かだわな。ま、勘だが。」
そういうと、ゲルググへと向かうマダラメ。
「・・・頑張ってください!」
そのオーノの声に、背中を見せたまま手を上げて振るマダラメ。
「あいつ・・・。珍しく緊張してるな。宇宙・・・だからか。」
「・・・かもしれませんね・・・。ってスーは?」
緊急警報に気付いていないのかと思い、あたりを見渡す。
「・・・もう、座ってるよ。」
スーのMSの方を見やると、その姿はすでにあった。
「・・・いつの間に・・・。不思議な子だね、本当に。」

「・・・見られてるでありますな・・・。」
クチキは敵機の様子を大型ディスプレイで確認しながら舵を取っていた。
睨み合いが始まってすでに30分が経過しようとしていた。
「クチキくん、油断はしないでね。」
クチキに向かって、大隊長が言葉をかける。
「分かってるであります!」
油断するなんて考え付くはずもなかった。
実際、ここまでの行程、クチキはしっかりと舵を取ってきた。
「・・・あの艦船のフォルム・・・。どこかで見た気がしたんだけど・・・。」
ケーコが頭を抑えて、考え込む。
「本当、知ってるの?」
隣に座っていたサキが、ケーコに向かって聞く。ケーコは少し考えたあと手を叩く。
「・・・そうだ!え、でもちょっと待ってよ!そんなこと!」
「な、なんなのよ!」
「・・・あれ、第13独立部隊・・・。テンプルナイツだ・・・。」
その言葉に、びくっとするクチキ、そしてサキ。
「ま、まさか・・・。」
「嘘でありますよね・・・?」
「いや・・・。まえ、仕事で・・・。見たことがあるんだ。」
第13独立部隊、通称テンプルナイツ。連盟の優秀な部隊を数多く壊滅させた悪魔の部隊。
連盟の奇跡、第100特殊部隊と数多くの死闘を繰り広げたとして有名な部隊だ。
「見間違うはずもないよ。あの、蛇の尻尾を二本にしたような形、他にあるわけがない。」
確かにディスプレイには二尾の蛇、といってもいいフォルムをした艦船が映っていた。
「・・・当たりだよ。」
そう呟く大隊長に、皆の顔から血の気が引く。ブリッジに、重い空気が流れる。
「何でそんなやつらがこんなところにいるでありますか!」
「・・・大丈夫、彼らなら。きっと切り抜けてくれる。」
いつもの表情は崩さずに、大隊長は言葉を続ける。
「・・・ミノフスキー粒子散布。彼らの邪魔にならないよう、射程からは離れて。」
「「「了解!」」」

「よし、全員準備は良いか?」
『OKOK。頑張っていきましょ、隊長さん。』
マダラメの通信に答えて、アンジェラが一番に答える。
すでに全員がノーマルスーツを着込み、準備は万端だ。
『大丈夫です。』
『同じく、です。』
『・・・大丈夫・・・。』
その言葉が出揃ったところで、マダラメはいつもの掛け声を上げた。
「よし、第801小隊出撃するぞ!全員、生きて帰るぞ!」
『生きて・・・?』
その言葉に反応するアンジェラ。
『まあ、私たちの部隊の決まり文句なんですよ。』
「隊長命令だ。守ってもらうぞ、全員な。」
ニヤリとディスプレイに映るアンジェラとスーの方を見るマダラメ。
『・・・OK。』
『・・・了解・・・。』
そう呟くアンジェラ。そしてスー。
「よし、行くぞ!」
ゴウン・・・。ゴウン・・・。
タナカがMS格納庫の外から、MSの誘導を行う。
空気が、流れ出す。宇宙への道が開けた証拠だ。
「よし、マダラメ、ゲルググ、出る!」
バシューン!!
景気のいい音と共に発射台がMSを外に押し出す。
次々と出撃するMSたち。宇宙は、彼らを包み込む。
「・・・来るぞ。気をつけろ!すでに、向こうはMSを・・・。
 いや、ありゃなんだ!!?」
マダラメが声を上げたのも仕方がない。
向こうに佇んでいたのは、まるで大きなカニの化け物・・・。
「MAってやつか!!厄介なこったぜ!」
それが二機。青いカラーと、赤いカラー。
そしてその真ん中には、騎士を思わせるフォルムをしたMS・・・ギャンがいた。
「ちぃ、ギャンかよ・・・しかも普通のとまた違うじゃねえか・・・。」
その三機が動く。早い。急速にこちら側に接近してくる。
「くそ!ギャンはコーサカ、任せた!アンジェラ、スー、俺と一緒に青いのをまずやるぞ!
 ササハラ、こっちが済むまで、赤いの牽制しとけ!」
『『『『了解!!』』』』
五機のMSはみな、自分の役目のために移動していく。
まず、スーが牽制のためにバックパックから小さなボールを・・・それでも直径2Mはあるが・・・
射出し、宇宙に浮かせる。それはまるで意思があるかのように敵に向かって突き進む。
十数個あるそのボールは、青いそのMAに向かい、ぶつかっていく。
スーの機体は、ジムをベースとしており、白を基調にピンクで彩られている。
また、体に似合わない大きなバックパックを背負っており、
そこに、多くのビットと呼ばれる小型サイコミュ(脳波制御)兵器が搭載されている。
これはNT専用試験機であり、ジャグラーと呼ばれた機体の発展機なのである。
しかし、そのビットは脳波制御システムを搭載するのが限界であった。
つまりは、ボールを投げつけてるだけのような兵器になってしまったのだ。
盛大にぶつかるボールに、少々戸惑ったのか、青いのの動きが滞る。
そこに、大きなビームが打ち込まれていく。
アンジェラだ。ある程度の距離から、ビームバズーカを撃ち込んでいる。
うまく避けた青いのだが、ボールの衝突がやはり足かせとなっているのか動けない。
アンジェラの機体は、青をベースに黄色のカラーリングをしたジム。
肩部に大きなバズーカ砲二門装備しているのが特徴で、
ジム・バズーカと呼んで過言ではなく、基本この兵装しかない。
なぜなら、ビームサーベル用であるバックパックのエネルギー射出部を、
バズーカ用に転用してしまっているからだ。接近戦では頭部バルカン以外に兵装はないのである。
「よし、いいぞ!」
そういいながら、マダラメはゲルググを駆り、青いMAへと向かう。
両手のビームナギナタを回転させ、接近する。しかし、大きなそのアームで弾かれる。
「うおっと!」
マダラメのゲルググもまた、極端な兵装をしていた。
両手のナギナタ以外に兵装がないのである。
遠距離をあまり良しとしないマダラメ用に、ライフル等の兵装はカットされていた。
その代わり、そのエネルギーをブースタ出力などに転用しているのだが。

一方、コーサカは、ギャンと五分五分の勝負をしていた。
「・・・中々やるな!」
そういいながら右手にしまっていた鎖を射出し、敵に向かって巻きつけるように動かす。
しかし、宇宙では上下の移動がたやすく、あっさり抜け出されてしまう。
「面白いな・・・。」
コーサカの駆るガンダムは、前大破されたガンダム・クラフトをベースに、
そのMk-2ともいえる機体である。宇宙用にチューンアップされている。
黒い機体のそこかしこにギミックが仕掛けられているのである。
ギャンが下方から接近してくる。ガンダムはそれに対し、右膝から白い目潰しを射出する。
ミノフスキー粒子の広がる宇宙空間では、視界が大きなファクターとなっている。
それを潰し、狙いを定め、ビームサーベルを振るうガンダムであったが、かわされてしまう。
かわしたギャンはそのまま突進し、ガンダムと切りを結ぶ。
ビームの弾けあう音が響いたように思える。実際は宇宙で音は伝わらないが。
そして、ばっとお互い距離を開ける。
「・・・中々・・・一筋縄じゃいきそうにない相手ですよ、隊長!」
そういって、高坂は少し笑みを浮かべた。

ササハラはひたすらに逃げるように動いていた。
彼のジム・コマンドは、平均的に能力が高い汎用機である。
この赤いMAを倒そうとするのならば、おそらく無理。
しかし、ただ引きつけておくだけ・・・。というのならば難しくはない。
「・・・相手が意外と単調で良かった・・・。」
相手のパイロットが直情的なのか、単調な攻撃が繰り返されている。
メガ粒子砲を放ったかと思うと、避けたところへアームで攻撃。
それをただひたすらに繰り返しているのであるが。
『・・・油断はしないほうが良いですよ?』
そういった会長の声に、少々気を引き締める。その矢先。
辺り一体を電磁波の渦が襲う。間一髪そこから逃れる。
やはり音は聞こえていないのだが、振動が伝わってくる。
「こいつは・・・。プラズマ!!なんていうもん隠してるんだよ・・。」
『やはり油断大敵でしたね・・・。』
その会長の言葉に苦笑いし、ササハラは再び牽制を開始した。

青いMAは、中々隙を見せてくれなかった。
遠距離からアンジェラとスーが牽制しながら動きを規制し、
そこにマダラメが攻撃を仕掛けるというパターンを徐々に読み始めていた。
実際、スーの攻撃は破壊力に乏しく、MAの装甲をへこますに留まっている。
また、アンジェラの攻撃も当たればダメージは免れないだろうが、そこはしっかり避けてくる。
なんとも冷静に判断を下しているのである。
「敵ながら・・・。感心するぜ・・・。」
仲間の援護も期待できず、囲まれた状況でありながらもしっかりとした判断が出来る。
戦いとは、腕や火力だけでなく、こういう精神が大きな要素なのである。
『・・・隊長さん、私が囮になるわ。うまく狙って。』
アンジェラがそう、マダラメに伝えてきた。
「ちょっとまて!そんなこと・・・!」
言うが早く、アンジェラは青いMAの接近する。
MAも、これが好機とみなしたのか、足並みが乱れた部隊へ攻撃を仕掛ける。
アンジェラのジムを、MAの両のアームが狙う。
それをかわし損ね、アンジェラは敵のアームの虜となる。
『くぅ!いまだよ、隊長さん!』
敵の接近武器はアームのみであり、ここで接近すればおそらく仕留められる。しかし。
「それではお前がやられるだろうが!」
例え、攻撃がうまくいってもMAが機能停止するよりも早くジムのコクピットは粉砕されるだろう。
『いいのさ。さっさとやっちゃってよ。』
「くっ!!」
接近するゲルググ。MAは、アームをはずすことが出来ず、そのまま動く。
しかし、二体分の重量を動かすにはパワーが足りず、接近を許す。
「うおりゃ!」
マダラメのナギナタは、アームを見事に切り落としていた。
そこに、MAがメガ粒子砲が放射しようとする。
『何を!!これじゃ共倒れだよ!』
アンジェラの悲鳴が響く。
しかし、放射される前に、MAの方向が変わる。あさっての方向へ放出されるメガ粒子砲。
スーのビットが、MAに衝撃を与え向きを変えたのだ。
「・・・生きて帰ってもらわにゃ、寝覚めが悪いからな。」

そこで、均衡していた戦いに終焉が来た。
相手の三機が急に戦闘宙域を離脱し、艦船へと帰っていく。
「何だ・・・?」
『さあ・・・。』
『・・・深追いは・・・やめときますか。』
「だな。艦船も去っていくようだし・・・。よし、帰還するぞ!」
ふぅ、と大きな溜息をついた隊長は、久々の宇宙戦が無事終わり、ほっとした。

「・・・なんであそこでMA本体を狙わなかったの?」
「だから何度も言ってるだろう。死んでもらっちゃ寝覚めが悪いってな。」
帰還したあとのMS格納庫のすぐ外、整備室にて、口論が起こっていた。
詰め寄るアンジェラに苦笑いを浮かべながらマダラメは何度も繰り返した言葉をまた述べる。
「あのままじゃ共倒れだったじゃない。」
「・・・それでも助けられそうな仲間をほっとくことは出来ねえよ。
 生きていることが一番大事だ。・・・そうだろ?」
そういって、俯くとすぐに顔を上げ、廊下の方へと向かう。
「ちょっと手が痛んできた。カスカベさんに見てもらうわぁ。」
右手を回しながら、ゆっくりと歩いていく。その姿が消えた後。
「・・・変わってるだろ?あいつ。」
タナカが、アンジェラのほうを見ながら、苦笑いする。
「変わってるというか・・・。あんな人もいるんだね、連盟軍には。」
「まあ、色々あったんだよ。情けないとか言わないでやってくれ。」
遠い目をするタナカ。しかし、アンジェラは体を震わしながら。
「最高!あんな隊長今まで会った事ないわ!気に入ったわ!」
笑顔を振りまきながら、スキップをして廊下の方へと向かう。
「・・・なんなんですか、あの人。」
「・・・・・・でも、昔はああいう感じだったんですよ。色々、アンにもあったんだろうなあ・・・。」
ササハラの苦笑い交じりの言葉に、オーノも笑顔を見せる。
「・・・みんな、生きて帰れた。よかった。」
スーの言葉に、コーサカが笑う。
「そうだね。やっぱり、生きているのが一番いい。隊長の言うとおりだ。」
少しの間のあと、皆で声を出して笑った。

「あっはっはっは。やってくれるよあの部隊。久々に楽しめた。」
一方、テンプルナイツの艦船内では、少年のような男の笑い声が響く。
「・・・アレックス大佐、笑いすぎです。」
「まあ、そういうなよホシノ。俺は今機嫌がいいんだ。
 ガンダムタイプにああいうのもいたとはね。非常に面白かった。」
そして再びクックックッと笑う。
「仲間を犠牲にしない戦い方は好感持てましたけどね。」
「おい、アーム直すの面倒じゃねえか、全く。」
「・・・すまん、ツカハラ。」
ホシノと呼ばれた青年は作業員風の眼鏡をかけた青年に声をかけた。
「でもさ、私もしかして遊ばれてた!?相手全く攻撃してこなかったんだけど!」
「・・・今気付いたのか?ネギシ。だから俺とホシノは安心して専念できたんだが。」
「ネギシさん、いくらなんでも気付くの遅すぎです。」
「・・・!!うるさい!」
バシィ!盛大なビンタがホシノを襲う。
「おいおい、ネギシ。」
「うー・・・。ならあいつ無視して二人の加勢すればよかった!」
「いや、そうしたら後ろからあのジムに狙われてましたよ。・・・気付かなくてよかったです。」
「・・・ま、本気で倒すつもりはなかったんでしょ、大佐~?」
そうネギシにいわれ、アレックスはニヤリと笑う。
「まあな。俺達はあくまでテンプルナイツ。軍の命令に従うのが目的じゃない。
 あくまで、王家の護衛。まあ、今じゃその守るべき相手もいないわけだがな。
 ちょっと恩を売るつもりで動いたが、思わぬ収穫だったよ。楽しめた。」
『大佐。『茸』、やっぱり『サン・シャ・イン』に向かってるらしいね。』
アレックスはそこに入ってきた連絡にニヤリと口の端を上げる。
「さっきの通信どおりか!ご苦労、メグロ。それが我らの最優先事項だからな。」
「ヨーコちゃーん、それじゃこのままそっちに向かうって事?」
『そうなるんじゃない?あ、それと『無敵の零式』さんが加勢にきてくれるって。』
「え、姉さんがですか!」
驚きの表情を浮かべるホシノに、アレックスの笑いは止まらない。
「よし、全速転回!最短距離を通って敵の真正面へと向かうぞ!
 これで最後だ!あの白いのとケリをつけなきゃなあ!!」

「・・・そうですか・・・。わかりました。申し訳ありませんでしたな。
 いや。ああ。頑張ってください。ああ・・・。」
通信が切れる。荒野の鬼の顔はさえない。
「まさか・・・。テンプルナイツですら退けるとは・・・。」
思ってもなかった事態。あともう一つ仕掛けているとはいえ・・・。
「どうした?じい、顔色がさえないぞ。」
横にはニヤリと口の端をゆがめたナカジマが立っていた。
「・・・なんでもありません。どうかなさいましたか?」
「フフフ・・・。心強いパートナーの誕生だ。」
ナカジマの見つめるほうに目を向けると。
そこには。
氷のように冷たい目をしたオギウエが立っていた。


次回予告

後の記録に記されない噂話がある。
地球圏において、皇国軍の一個大隊が、一日にして壊滅したというのである。
なぜそこに大隊があったのか、そして、誰が壊滅させたのか。
流れる噂、黒い悪魔の存在。
連盟がその脅威性を恐れ、隠した一つの戦いがあった。

次回、「贖罪」
お楽しみに。