言葉に出来ない 【投稿日 2006/05/05】
かなわぬ恋だと知っていた。
それでも望んでいた。
いつか彼女が自分を振り向いてくれる事を。
多分、俺は出会った時には既に、恋に落ちていたのだろう。
『どこに惚れた』なんていう話が、いかに見当違いなのかが今になってわかる。
俺の好みとは全く違う、現実(リアル)な女性。
多分、だからこそ俺は彼女に強く惹かれたのかもしれない。
数年に渡る彼女との付き合いは、実に楽しかった。
当初、彼女は俺とは、まったく違う価値観を持っていた。
水と油と言っていいだろう。
それでも、様々な出来事を通じて、俺は、彼女は変わっていった。
言うな。
言わなくてもわかってる。
彼女は、彼の、高坂の為に、変わっていった。
…そして俺は、彼女の為に、自分を変えようとした。
彼女がオタクを理解しようとしたように、俺は彼女を知りたかった。
彼女の望む男になりたかった。
彼女の隣に…いや、彼女の『恋人』になりたかった。
俺は彼女を愛していた。
彼以上に。
きっとそうだった、と信じている。
彼女が卒業して、彼女に会えなくなって、伝える事すらできなかった俺の恋は終わった。
今でも思う。もしあの時、自分の思いを伝えていたら。
彼女は、拒んだだろうか。受け入れてくれただろうか。
わかってる。
こんなことは”今更”でしかない事を。
季節が過ぎ、今俺は彼女ではない彼女と付き合っている。
俺は彼女が好きだ。
一人きりで生きていくことに、耐えられなかったから。それがきっかけだったとしても。
それでいて、俺は、彼女と彼女を比べている。
彼女の姿を。声を。心を。
それに気付く度に、俺は哀しくなる。
自分が情けなくて。
いつからだろう。
俺は嘘をつく事が上手くなった。
周りに嘘をつき、自分に嘘をつく。
今も彼女に、大して興味もない、いわゆる”話題作”について熱く語っている。
彼女が笑うたびに、俺は傷つく。
全てをぶちまけたくなる衝動を、必死に堪える。
彼女に嫌われたくなくて。
いや、それも嘘だ。
彼女に嫌われて、一人きりになることが嫌いなだけ。ただそれだけ。
昔を思い出す。
笹原と『ツルペタ』や、『ロリ』や、『幼馴染』などで熱く語り合った日々を。
俺は人生最後の日まで、俺を貫けると思っていた。
だが今の俺は、自分の都合の為に自分を変える、当時最も嫌っていた生き方をしている。
それがくやしい。
ただ、くやしい。
春日部咲さん。
俺は貴方と出会って、変わってしまいました。
そしてそんな自分を、未だに好きになれません。
それでも思います。
『貴方に会えてよかった』と。
『貴方に会えてうれしかった』と。
この想いが彼女に届く事は無いだろう。
想うだけで、言葉にできなかったのだから。
それでも俺は想い続ける。
言葉にできなかった、この想いを。
おまけ
「なあ、斑目。あんた無理してない?」
「え?いや、別に…」
「そう?実は他に好きな人がいるんじゃない?」
「…」
「図星か」
「…ゴメン。どうしても忘れられないんだ…」
「忘れなくていい」
「え?」
「あたしは今の斑目が好きなんだ。”他の人を忘れられない”斑目がね」
「…いいのか?」
「だからって自分に都合のいい想像すんなよ?あたしが言いたいのは、『忘れられないなら、忘れさせてやる』ということだからな」
「…あ~…」
「んな情けない顔するな。いいか、絶対に、忘れてしまうほど、幸せにしてやる…あたしが。約束する」
「だから覚悟しろよ、斑目晴信!」
最終更新:2006年05月10日 01:25